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「田中宇の国際ニュース解説」2007年の記事一覧


これより後の記事(2008年の記事)

金融危機を悪化させる当局
 【2007年12月25日】 欧米の中央銀行による巨額の資金注入は、金融危機の根本的な解決策にならないだけでなく、通貨供給を過剰に増やし、インフレを悪化させる。EUの中央銀行が米連銀と足並みをそろえて巨額の資金注入をやり出した裏には、ドルの信用不安が悪化してユーロの為替が高騰するのを防ぐ意図が隠されている。そもそも、米連銀がサブプライム融資の拡大を黙認したのは、ローン拡大が米国民の消費を増やして景気維持に役立ち、大統領の人気を高めたからである。融資の拡大は、短期的には米経済を拡大したが、長期的には金融危機を招いた。

世界多極化:ニクソン戦略の完成
 【2007年12月18日】 国際的な資本家にとって冷戦は、市場や投資対象が大きく制限されていることを意味する。資本家は「消費者」の増加を望むが、冷戦構造は、中印露など人類の半分を「消費者」にできない状態である。資本家が「アメリカの経済発展」「今年の儲け」などの狭義の儲けだけを希求するなら、米英中心主義やドル基軸制の永続でかまわないが、世界の100年規模の経済成長を考えた場合、冷戦や米英中心体制へのこだわりは、むしろ壊すべき対象になる。

イラン問題で自滅するアメリカ
 【2007年12月12日】 ブッシュ政権は、なぜ今回のタイミングでNIEを発表したのか。私の答えは「世界多極化戦略の一環として」である。イスラエルがイランを軍事的に潰すことをあきらめ、外交での包囲網形成に切り替えた後、アメリカはこれに協力するふりをして11月末のアナポリス会議を開催し、会議を何の成果も挙げられないものとすることで、イスラエルをさらに不利にした。ブッシュ政権には外交を頼れないイスラエルは、次はロシアやEU(仏サルコジ)に仲裁役を頼むことにしたが、その矢先にアメリカはNIEを発表し、イランを無罪放免状態にして強化した。イラン封じ込めは不可能になった。

深化するドルの危機
 【2007年12月4日】 アメリカの金融危機で最も重要な点は、米金融界が1980年以来、強さの源泉として培った「あらゆる権利関係を証券化(債券化)し、経済を活性化する」という証券化の技法が破綻したことだ。7月末の危機発生以来、債券市場は機能不全、特にリスクの高い債券の市場は開店休業で、証券化の魔力は失効し、儲けの大黒柱だった債券化商品は、今や最大の損失源だ。金融危機は、今後数年間は悪影響を及ぼすだろうから、アメリカの金融の力は大幅に落ちる。アメリカでは製造業が死んでいるので、米経済から金融力が除外され、刷るだけで世界から輸入できたドルの基軸性も失われて消費力も減退したら、残るものは少ない。

集中する世界の危機
 【2007年11月27日】 世界にとっての各種の危機は、年末から来年にかけて集中的に噴出しそうなだけに、悪影響が相乗効果をもたらす。いずれの危機も、アメリカの自業自得、自滅的な失策の連続の結果として起きている。それぞれの危機が単発で発生し、個別に解決することができれば、危機を乗り越えることができただろう。多くの危機が重なって、アメリカの世界支配が崩壊に向かい、世界が多極化する事態を迎えている。

原油ドル建て表示の時代は終わる?
 【2007年11月20日】 これまで原油の国際価格は、ドル建て一本だった。そこにOPECが「GCC共通通貨建て」の価格を導入することは、ドルが戦後60年間持っていた国際決済通貨としての地位を失うことを意味する。この地位喪失は、世界各国がドルを備蓄通貨として保有してきた従来の習慣を縮小させ、各国は米国債を買ったりドル建てで対米投資したりする額を減らすことになり、ドル下落に拍車をかけ、アメリカの金融相場は下落し、米国債は買い手が減って金利が上がる。

サブプライム危機の再燃
 【2007年11月13日】 アメリカの金融危機は、サブプライム以外の高リスク債券の分野にも感染しており、優良(プライム)な住宅ローン債券、クレジットカード債権を証券化した債券、企業買収資金の債券、その他のデリバティブ商品など、金融危機が感染して含み損を拡大している分野はいくつもある。これらを合計すると、金融界全体での最終的な損失は、2500億ドルとも5000億ドルとも1兆ドルとも予測されている。

ドルは歴史的役目を終える?
 【2007年11月6日】 来年の米大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝てば、米英中心の世界体制を復活する努力が行われるかもしれない。しかし、ブッシュ政権は任期がまだ1年あまり残っており、任期末まで、米英中心体制を不可逆的に破壊する努力を続けるだろう。ブッシュ政権が望むアメリカ的な通貨体制は、ドルのほかにユーロ、中東産油国の共通通貨、東アジアの共通通貨などが並び立つ、多極的な体制である。来年にかけて、米経済は失速し、金融危機がひどくなり、ドル信用不安が加速するだろうが、ブッシュ政権は、事態の悪化を放置し続ける一方で、産油国や中国などに再度、共通通貨を作れと圧力をかけると予測される。

大戦争になる中東(4)
 【2007年10月30日】 アナポリス会議で中東和平が前進しなかった後、イスラエル軍がガザに大侵攻をかけたり、ハマスが西岸でもアッバースのファタハを倒して権力を握ったり、イスラエルに対する「インティファーダ」が再発したりすれば、イスラエルとパレスチナの間は戦争状態になる。パレスチナが戦争になると、レバノン南部に陣取る反イスラエル勢力ヒズボラがイスラエルを攻撃することを誘発する。

中国の傘下に入るミャンマー
 【2007年10月25日】 従来は世界の主導役として信頼できたアメリカが、911後、国際政治の場で「政権転覆」など無茶苦茶な言動を急に強め、5年以上経っても元に戻らないため、それまで「覇権(国際影響力)を強めるにはまだ早い」と考えていた中国政府は、覇権獲得を前倒しすることにした。その一環として中国は、国連などの場で、ミャンマーは自国の影響圏なのだから欧米は介入するなという姿勢を強めた。

イラク化しかねないミャンマー
 【2007年10月23日】もし今後、反政府運動によって軍事政権が倒され、軍の影響力を排除してスーチー政権ができたら、国内の辺境地域の少数民族がゲリラ戦による独立運動を再燃させ、ミャンマーは再び内戦になる可能性が高い。多民族国家を強権で統合している点で、ミャンマーは、サダム・フセイン政権時代のイラクに似ている。アメリカがフセイン政権を倒した後、イラクでは中央政府は弱くなり、諸派が対立し内戦状態になった。ミャンマーも、軍事政権が倒れたら、イラクのようになりかねない。

フランスの変身
 【2007年10月16日】サルコジが言葉の上で親米英路線を打ち出しているのは、アメリカの覇権衰退が目前で、もはや米英中心の世界体制が崩れつつあるからだろう。米英が世界の中心であり続けるなら、フランスは米英に楯突いてライバル役を演じるのが国際利権獲得の良策であるが、米英の覇権が崩れるなら、もうライバルを演じても意味がない。むしろ、米英が手放さざるを得なくなる利権の一部をスムーズにもらい受けるため、米英と表向き仲良くしておいた方が良い。

強いが弱いイスラエル
 【2007年10月9日】イスラエルは、思うがままにアメリカを動かせる恵まれた状態のように見える。しかし、事態を詳細に見ていくと、実は、イスラエルは恵まれた状態からほど遠い、追い詰められた苦境にあることが分かる。イスラエルは、シオニスト右派やネオコンなど、アメリカを基点とする勢力による30年がかりの作戦の結果、滅ぼされかけている。

米利下げが通貨多極化を誘発する?
 【2007年10月2日】ドル安はうまくやれば、基軸通貨としてのドルの地位を維持したまま、世界に損をさせてアメリカが得する効果を生める。円高・マルク高とドル安を政治的に決めた1985年の「プラザ合意」が良い例である。しかし9月18日の米連銀の利下げによって誘発されたドル安は、すでに世界的にインフレを引き起こしており、これはドルの基軸通貨性(アメリカの経済覇権)の喪失につながる危険を生んでいる。

ロッカビー事件・はめられたリビア
 【2007年9月25日】・・・裁判開始後、ボリエは証人として特別法廷に呼ばれ、証拠物件の基板断片の写真を見せられた。それは、焼けて炭化した基板断片だった。以前に現物を見せられた基板とは、明らかに様相がまったく異なっていた。ボリエは驚き、そのことを裁判官に告げた。だが、裁判官はそれを信じず、ボリエは証人として信用できないとして、裁判で証言が使われないことになった。信用を疑われたボリエのメボ社は、得意先から発注を止められ、倒産した。

強まるドル崩壊の懸念
 【2007年9月18日】 世界の金融専門家たちは、米連銀の利下げでドルの魅力が減り、世界の投資家のドル離れが進み、それがさらにドル下落を加速する悪循環に陥り、国債基軸通貨としてのドルの地位が崩壊することを懸念している。「ドルの崩壊(collapse)」とか「米国債は債務不履行に陥るのではないか」といった、少し前までマスコミの紙面には決して載らなかったような言い回しの記事が、最近、ダウジョーンズやヘラルドトリビューンといった大手マスコミから流されている。

テロ戦争の意図と現実
 【2007年9月11日】 国防総省などによって周到に計画されたテロ戦争は、911を誘発して開始された直後に、政権中枢のネオコンとチェイニーによって乗っ取られ、泥沼のイラク占領や、イランやロシアを敵視しすぎて強化してしまうという、重過失的な失策とすり替えられ、テロ戦争は米英イスラエルの世界支配を強化するどころか、自滅させる結果になっている。

イラン空爆話の再燃
 【2007年8月28日】 「間もなく米軍がイランを攻撃する」という話は、昨年夏にも、昨年春にも、一昨年末にも流れていた。どうも、半年ごとに「半年以内にイランを攻撃する」という話が流され、効力が失われたころに、次に話が流され続けている感じである。このような繰り返しの事態がなぜ起きているのか。

広がる信用崩壊
 【2007年8月21日】 今後、金融危機が一段落した後の世界の金融の景色がどのようなものになるのか、今はまだよく見えない。ただ、これまで世界の消費力を牽引してきたアメリカの経済は、借金や証券化といった、従来より簡単にお金を作れる手法に頼って成立しており、それが全部ではなく一部が清算されるのだとしても、清算が米経済に大打撃を与えずに終わるとは考えられない。

世界金融危機のおそれ
 【2007年8月6日】 先週から急落した高リスク債券には、企業買収の資金調達のためにアメリカの投資銀行が発行した債券がある。ゴールドマンサックス、リーマンブラザーズ、ベアースターンズといったアメリカの大手投資銀行は、買収用債権を自ら抱えねばならなくなり、企業格付けもジャンク債の一歩手前まで引き下げられた。もし今後、大手投資銀行が倒産した場合、事態は世界的な金融クラッシュへと発展するという予測も出ている。アメリカの投資銀行は、国際金融の最重要部分を握っており、その破綻は世界の金融システムに大きな衝撃を与える。

国際金融の信用収縮
 【2007年7月31日】 高リスク債市場の崩壊は、株式市場に影響を与えている。企業買収ブームは、株価を押し上げる大きな材料になってきた。最近の米英などの株式市場では、企業買収が行われるごとに株価が上がり、今後買収の対象にされそうな企業の株を買う投資家も多かった。買収が株価をつり上げ、株価が上がるので買収が次々に行われる、という循環になっていた。それを支えていたのが、高リスク高利回りの買収資金債券に対する旺盛な需要であり、その背景にあったのがリスク・プレミアムの低さ、リスク軽視の傾向だった。高リスク債市場の崩壊で、この循環が失われた。

しぶといネオコン
 【2007年7月24日】 マスコミの分析記事では「イラク占領の失敗によって、ネオコンは力を失い、ブッシュ政権や米政界では、軍事より外交による解決を好む現実派(中道派)が再び強くなった」といった見方が主流だ。だが、大統領候補のジュリアーニがネオコンを顧問団に据えたり、米政界全般で「イランを攻撃すべし」という主張が強いことを見ると、米政界は依然としてネオコンやリクード右派の影響下あると考えた方が、おそらく実態に近い。

中東和平と戦争のはざま
 【2007年7月14日】 パレスチナの情勢は全体として、しだいにハマスに有利、ファタハに不利になっている。このままだと、いずれハマスが西岸の権力も握るようになると予測される。その時点でオスロ合意体制は完全に終わり、パレスチナ人は、米英イスラエルの傀儡から、イランに支援されたイスラム主義勢力の側に転じることになる。

6者協議進展で困る日本
 【2007年7月10日】 日本が「拉致問題が解決しない限り、北朝鮮は信用できないし、支援したくない」という姿勢をとり続けていると、6者協議は日本抜きに進展し、6者協議の成功後に作られる東アジアの集団安保体制の枠組みにも、日本は入らない状態になる。日本は孤立するが、アメリカとしては、親米の日本を見捨てるわけにもいかず、日米同盟だけは維持し続けてくれるかもしれない。そのような展開を、日本政府は望んでいると思われる。

北朝鮮制裁・デルタ銀行問題の謎
 【2007年7月3日】 不可思議なのは、アメリカ政府内で、財務省がデルタ銀行問題で北朝鮮を怒らせ、6者協議を頓挫させ続けたのとまさに同時期に、国務省ではヒル次官補が、何とかして6者協議を再び進展させようと動き回り、今年1月にはベルリンで米朝の直接交渉までやって、6者協議を復活させたことである。米政府内ではこの1年半、6者協議に対し、財務省が潰す作戦を展開した一方、国務省が何とか復活させる作戦を展開していた。

世界貿易体制の失効
 【2007年6月26日】 世界経済は、従来の先進国が支配する体制から、中国、インドなどを中心とした発展途上国が強い新体制へと転換している。ドーハラウンドは、先進国が作ったWTOの世界貿易体制に途上国を組み込むための交渉だった。交渉決裂によってWTOは、いまや世界経済の半分を超えて拡大している途上国を組み入れることに失敗した。WTOは世界経済の新体制に対応できなかった。米英が「自由貿易」の旗頭のもとに世界の貿易体制を管理してきたWTOの体制は、崩壊に瀕している。

アメリカ金利上昇の悪夢
 【2007年6月22日】 これまで米国債の金利は、一時的に上昇しても、そのピークは以前の上昇時のピークより低い状況が続いてきた。だが、今年3月から6月にかけての上昇は、以前のピークより高い水準まで金利を上げている。そのため、その後、米国債金利は再び下がったものの、専門家の間では「金利の下落傾向は終わったのではないか」という懸念が残っている。今のアメリカの経済と市場は、金あまりとプレミアムの低下を受けた低金利を前提に回っており、金利が上がると、経済のいろいろな部分が破綻してしまう。

パレスチナ分裂で大戦争に近づく中東
 【2007年6月19日】 中近東のいくつもの地域で、状況は戦争の瀬戸際にある。中東におけるアメリカの覇権は、崩壊し始めている。中東でイスラエルを擁護してくれる勢力が全くない現状下で、アメリカが中東で覇権を失うことは、イスラエルにとっては国家の滅亡につながりかねない。イランのアハマディネジャド大統領は、ハマスのガザ占拠より2週間前の6月3日に「イスラエルの滅亡が近い」と発言し、欧米マスコミはこの発言をイスラエルに対する中傷であるかのように報じたが、これは中傷ではなく、戦争の黒幕の一人であるアハマディネジャドが、現実を客観的に分析した発言と受け止めるべきである。

中露の大国化、世界の多極化(2)
 【2007年6月12日】 すでに政治や軍事の分野では、ロシアと中国、中央アジア、南アジア、イランを束ねる「上海協力機構」が強化されている。上海協力機構の枠組みが経済の分野に拡大されれば、ユーラシア版WTOとして機能しうる。欧米諸国の消費力は低下し、代わりに中国やインド、中近東諸国の消費力が上がっている。製造業の面では中国が台頭しているし、エネルギーは中東とロシアにある。ユーラシア諸国は、欧米を無視した経済運営が可能になっている。

中国の大国化、世界の多極化
 【2007年6月5日】 世界経済が、消費大国としての中国を必要としているということは、もはやアメリカが中国を、軍事攻撃や謀略的な争乱醸成によって政権転覆して潰すことはあり得ないだろう、ということでもある。中国を政権転覆して潰したら、中国は大混乱になり、消費を拡大するどころではなくなる。先進国は年3%しか経済成長していないが、中国は10%の成長を続けている。この成長は世界経済にとって必要不可欠になっている。

イランの台頭を容認するアメリカ
 【2007年6月1日】 世界銀行がイラン・パキスタン・インドのパイプラインに融資することは、イスラエルの動きと真っ向から対立している。イスラエル寄りのウォルフォウィッツが総裁を続けている限り、この融資が認められることはなかっただろうが、多極化容認のゼーリックが次期総裁になれば、融資は実現する可能性が高くなる。イスラエルのイラン金融制裁強化戦略は、風穴を開けられて失敗に瀕する。

アメリカを中東から追い出すイラン
 【2007年5月29日】 最近、中東各地で起きている出来事の全体像を見ると、アメリカの融和策は、イラクやその他の中東全域におけるイランの影響力の拡大を引き起こしている。イランはアメリカの弱体化につけ込んで、アメリカをイラクから追い出し、アメリカの後ろ盾が頼りのイスラエルを潰そうとしているが、アメリカはこうしたイランの台頭を容認している。

エネルギー覇権を強めるロシア
 【2007年5月22日】 ロシアのプーチン大統領が主導している天然ガスの非公式な新カルテルは、産油国のみの談合体だったOPECと異なり、中国やインドといった非欧米の消費国が参加している。OPECに対しては、大口の消費国が結束して対抗し、OPEC以外の産油国からの石油輸入を増やたり、石油の国際相場を投機で動かしてカルテル潰しができた。だが新カルテルでは、欧米諸国が結束してカルテルを潰そうとしても、カルテルの側は中国やインドに相対取引でガスを売ればいいだけなので困らない。新カルテルは、欧米中心の世界体制を壊そうとする政治的な画策である。

ユーラシア鉄道新時代
 【2007年5月15日】 米英のナショナリズムに立って考えれば、米英中心の世界体制の永続が望ましく、ロシアのランドブリッジ構想は潰され続ける必要がある。だが、世界全体の経済発展を考えると、ロシアがランドブリッジになることは物流の効率化をもたらし、大きなプラスである。つまり、ベーリング海峡トンネルに対し、米英のナショナリストは反対だが、キャピタリスト(資本家)は賛成である。今後も米英の覇権力の低下が続いた場合、トンネル構想が実現していく可能性が高まる。

イスラエル再戦争の瀬戸際
 【2007年5月8日】 イスラエル政府内の現実派は、ガザに大攻撃をかける前に、すべきことはたくさんあると、政府内で主張した。エジプトからガザへの武器搬入の秘密トンネルを探知する技術を向上させてトンネルを潰すとか、ガザに刺客(スパイ)を放ってハマスの軍事幹部を暗殺するとか、有人戦車ではなく無人兵器を使って境界線近くのロケット砲発射施設を破壊するとかいった方法を、現実派はオルメルトに提案した。だがオルメルトは、現実派の案を却下した。

意味がなくなる日本の対米従属
 【2007年5月1日】 戦後の日本の価値観では「アメリカは日本にとって絶対的に重要な国なので、首相が訪米時に中傷・侮辱されても、気がつかないふりをして耐えた方が良い」という考え方が強く、日本のマスコミは「安倍訪米で日米同盟はますます強い絆になった」という「見ないふり」報道が目立つ。しかし、日米を取り巻く情勢を全体的に見ると、もはや日本にとってアメリカだけが絶対的に重要である時代は終わりつつある。アメリカは衰退しつつあり、世界は多極化しつつある。

世界経済の多極化とクラッシュ
 【2007年4月24日】 米経済が落ち込んで、ドルが下落したら、ドルは世界の決済通貨として使えなくなり、中近東や東アジア、中南米などは、地域の決済通貨を作ろうとするだろう。アメリカは、従来のような金融市場だけを使った国富の蓄積ができなくなる。その後のアメリカの復活は製造業などの輸出に頼るしかなくなるが、すでに米の製造業は死んでいる。米経済は2010年代に低迷しても、アメリカ人はアイデアが豊かなので、2020年代には復活するだろうが、そのころには中国やインドが台頭し、世界はすっかり多極化している。

疲弊する米軍
 【2007年4月20日】 覇権国が、外国に対する軍事支配に失敗し、撤退できなくなって軍事力を浪費することを国際政治の用語で「オーバーストレッチ」(過剰派兵)というが、アメリカはまさにこの状態に陥っている。覇権国は、他の諸国よりはるかに軍事力があるので、為政者は、侵略や占領に失敗しても「まだまだ軍事的余力があるので、もう少し頑張れば勝てるはず」と思い続け、撤退すべき時期を逃し、無限に見えた軍事力をいつの間にか使い果たしてしまう。第一次大戦前後のイギリスがこの状態になって覇権を失い、今またアメリカがこの状態になっている。

イラク石油利権をめぐる策動
 【2007年4月17日】 イラクの石油新法は昨夏、ブッシュ政権によって提案されたが、そこには最初から「イラク3分割」を加速させる意図が見え隠れしていた。3分割案は、石油をエサに、イラクのスンニ・シーア・クルドを分裂させ、相互に内戦させ、石油を出せない貧しい状態を永続させることが目的である。3分割は、欧米の石油会社の利益にはならない。「ブッシュは石油利権獲得のためにイラクを3分割するのだ」という、あちこちで見かける分析は浅薄である。

改善しそうな日中関係
 【2007年4月12日】 日本の世論は、小泉時代に扇動されたままの「反中国・反朝鮮」だが、アメリカが作った今後の枠組みの中では、日本は中国だけでなく、北朝鮮とも仲良くしなければならないことが、すでに決められている。日本人がこの多極化のシナリオに従うのがいやなら「反米・反中国」の再鎖国路線もありうるが、貿易上不利になり、貧しさに耐えねばならず、かなりの覚悟が必要だ。

全方位外交のアジア
 【2007年4月10日】 日本は戦後一貫して、アメリカ以外の国と安保協定や戦略的関係を締結することを拒み、対米従属関係を絶対視してきた。1970年代以来、米中枢の人々は、日本を全方位外交の方向に誘導しているが、日本側は一貫して消極姿勢だ。それを考えると、チェイニー副大統領は、日本を対米従属絶対視の状況から脱出させようとして、日豪を訪問し、日豪安保協定を提案したのではないかと思えてくる。日豪協定は、日本を、アジアで最も全方位外交から遠い「対米従属絶対視」の従来状況から離脱させるきっかけとなるかもしれない。

イランの英兵釈放と中東大戦争
 【2007年4月5日】 ブレアの対イラン戦略は、米イラン戦争を何とか回避しつつ、イランを譲歩させて対立を解消し、米英中心の世界体制と中東覇権を維持するというものだ。ブレアは、イランとの対立を深めたくなかったはずだ。にもかかわらず、ブレア政権は、一方的な内容の地図を示し、イランを声高に非難した。イギリスの軍と政府の上層部に、ブレアの戦略よりチェイニーの戦略を好む好戦的な勢力がいて、ブレアは彼らに間違った情報を与えられ、騙されて声高なイラン非難をしたと推測できる。だからこそ、ブレアはその後、柔軟姿勢に転換し、英兵士の早期釈放が実現した。

英兵の任務はスパイ:正しかったイランの言い分【短信】

日米同盟を揺るがす慰安婦問題
 【2007年4月3日】 ブッシュ政権は、6カ国協議がまとまるまでは日米同盟を維持するが、協議がまとまって、北朝鮮の核廃棄、南北和解、在韓米軍の撤退、東アジア集団安保体制の立ち上げなどを進展させる新段階に入った時点で、日米同盟に亀裂を入れる行為としての、日本の戦争責任問題の蒸し返しが始めたのかもしれない。6カ国協議はアメリカが東アジアを中国中心・アメリカ抜きの独自安保体制に移行させる動きであり、米朝と南北の緊張緩和が軌道に乗ったら、次は日本を対米従属から引き剥がす戦略が始まっても不思議はない。

歴史を繰り返させる人々
 【2007年3月27日】 ニクソン政権、レーガン政権、ブッシュ政権という3つの共和党政権は、いずれも隠れ多極主義を内包していた。キッシンジャーからシュルツ、チェイニー、ライス、ネオコンへの人脈の流れを見ると、3つの政権の繰り返しは偶然の産物ではなく、シナリオに沿った政権運営の結果である。3政権は、財政面でも自滅的な戦略を展開し、ニクソン政権では金本位制の崩壊という1971年の「ニクソン・ショック」が起こり、レーガン政権ではドル安・円マルク高を決めた1985年の「プラザ合意」を行っている。ブッシュ政権でも、いずれドルの大幅下落があると予測される。

反米諸国に移る石油利権
 【2007年3月20日】 FT紙によると、今や米英の石油会社は世界の石油利権を支配していない。米英のセブン・シスターズは、すでに「旧シスターズ」になってしまっており、代わりに欧米以外の国有石油会社が「新シスターズ」を結成し、世界の石油と天然ガスの利権を握るようになっているという。新しいセブン・シスターズとは、サウジアラビアのサウジアラムコ、ロシアのガスプロム、中国のCNPC(中国石油天然ガス集団)、イランのNIOC、ベネズエラのPDVSA、ブラジルのペトロブラス、マレーシアのペトロナスの7社である。

石油の国際政治
 【2007年3月13日】 考察の一つは「1973年の石油危機など、70年代から80年代初頭にかけての石油高騰は、中東で台頭したイスラエルを再び弱体化させるため、サウジアラビアなどOPECの産油国の高騰作戦をアメリカが黙認した結果、起きたのではないか」ということである。「アメリカは、石油危機を防ぎたかったのだができなかった」というのが通説だが、世界中の国々に強い影響力を持っているアメリカは、産油国どうしを対立させて石油の供給を増やして石油価格を下げることが可能である。何年も異様な高値が続くのは奇妙だ。

中東大戦争は回避されるか
 【2007年3月8日】 ブッシュ政権が、北朝鮮やロシアなどに対して行った戦略と同じ「反米勢力強化策」をイランに対しても採るなら、アメリカはイランに対する戦争をやるふりを行っているだけで、実際の戦争は回避されるかもしれない。だが、中東でこれから戦争が全く起きなくても、アメリカは中東での影響力を後退させるだろうから、イスラエルはしだいに窮地に陥る。アラブ諸国が要求している難民帰還権が施行された場合、イスラエルは国内に多くのパレスチナ人(アラブ人)を抱え「ユダヤ人のための国家」という国是が崩れる。これは、シオニストにとって絶対に防がねばならない事態だ。シオニストがこのまま戦争を誘発せず、アラブ諸国やイランの台頭を容認するとは考えにくい。

アメリカ経済の延命策の終わりとその後
 【2007年3月6日】 前回、1998年から2000年にかけて、世界的な通貨危機、新興市場投資ブームの終焉、アメリカのハイテク株バブル崩壊による株安という混乱期があった。その混乱は、01年からのアメリカの低金利による住宅市況の上昇という新たな延命策によって収束し、05年までの米経済の活況につながった。しかしその延命策も、今起きている住宅バブルの崩壊によって終わりつつある。今後、世界経済の延命策もしくは新たなシステムの導入はあり得るのか。それを考えた場合、一つの答えとして浮上しそうなのが「多極化」である。

地球温暖化の国際政治学
 【2007年2月27日】 クリントン政権の「経済グローバリゼーション」の戦略は、世界経済の発展の中心が、先進国から発展途上国に移ることを是認した上で、発展途上国の儲けの一部が米英の側に転がり込むようにする「ピンはね」の作戦だった。地球温暖化問題も、ピンはね作戦の一つである。二酸化炭素の排出が多い途上国は、先進国に金を払って排出権を買う必要がある。途上国は、先進国から新たな税金を取り立てられるようなものである。ゴアやブレアといった米英のナショナリストが、途上国から新たな税金を取り立てるために温暖化問題を誇張するのは当然だし、誇張や歪曲は、愛国心に基づいた作戦として正当化できる。

地球温暖化のエセ科学
 【2007年2月20日】 IPCCには130カ国の2500人の科学者が参加している。ほとんどの学者は、政治的に中立な立場で、純粋に科学的な根拠のみで温暖化を論じようとしている。問題はIPCCの事務局にある。事務局の中に、温暖化をことさら誇張し、二酸化炭素など人類の排出物が温暖化の原因であるという話を反論不能な「真実」にしてしまおうと画策する「政治活動家」がいて、彼らが(イギリスなどの)政治家と一緒に、議論の結果を歪曲して発表している。

北朝鮮6カ国合意と拉致問題
 【2007年2月16日】 冷戦後、北朝鮮が起こす問題は、東アジアの最大の不安定要因だった。クリントン政権までは、この問題をアメリカだけで解決しようとしていたが、ブッシュ政権は、中国を中心とする東アジア諸国が解決し、アメリカはそれに協力するという多極化戦略に転換した。この転換を受けた日本政府の対応が「拉致問題が解決されない限り、北朝鮮とは交渉不能」という状況を演出することだった。

イラク開戦前と似た感じ
 【2007年2月13日】 常識的に考えて、人間は、一度やってばれた不正行為を再びやろうとするときには、不正の手口を変えるなどして、ばれないように工夫する。だがブッシュ政権は、前回と同じ手口を繰り返し、ばれてもかまわないという感じで、イランに侵攻する口実を作っている。意識的に同じ手口を繰り返している印象を受ける。私は以前から「ブッシュ政権は、軍事・外交・財政という全ての面で、意図的に失敗し、アメリカを自滅させようとしているのではないか」と感じているが、そのパターンがまた現れている。

クルドの独立、トルコの変身
 【2007年2月9日】 クルド人がキルクークの「クルド化」を強行した場合、隣接するトルコが、イラクに侵攻してくる。トルコを支援するため、イランが北イラクに侵攻する可能性もある。アメリカはこれを開戦事由として、イランとの全面戦争に入るかもしれない。クルドの独立阻止という点では、シリアや、イラクのシーア派とスンニ派も、トルコやイランと同じ利害なので、トルコ・イラン・シリア・イラク(ゲリラ)が、クルド人・アメリカ・イスラエルと戦うという構図の大戦争があり得る。

朝鮮半島を非米化するアメリカ
 【2007年2月6日】 アメリカは中東の戦争で手一杯だから、北朝鮮の核開発問題は、空爆などの軍事で解決できない。北との和平条約の締結と引き換えに解決するしかない。和平条約が発効し、朝鮮戦争の終結が宣言されると、朝鮮戦争の休戦を維持監視するために存在していた国連軍は必要なくなり、国連軍の名目で韓国に駐留していた在韓米軍の存在意義が失われる。在韓米軍の撤退は、米韓の軍事同盟を終わらせ、韓国をアメリカの傘下から中国の傘下へと移転させ、韓国における親米右派を衰退させ、反米左派を盛り上げる。ブッシュ政権の行動からは、それでもかまわないと思っていることがうかがえる。アメリカは韓国を非米化しようとしている。

扇動されるスンニとシーアの対立
 【2007年2月1日】 イランとの戦争が始まったら、イスラム諸国の世論は「反米」に大きく振れる。その反米感情を少しでも抑止するために、アメリカは、親米アラブ諸国を「反イラン」で結束させようとしている。親米アラブ諸国のスンニ派の政府系の聖職者たちは「シーア派は異端である」といった説教を行うことで、信徒たちの心の中に「イスラム教徒としての結束」ではなく「スンニ派が、シーア派のイランを憎む構図」を作ろうとしている。

北朝鮮・イランと世界の多極化
 【2007年1月30日】 アメリカとイギリス、イスラエルの関係史を踏まえると、アメリカが世界を多極化するためには、単に中国やロシアを台頭させるだけではダメで「米英イスラエルを中心とする『正義』の諸国と、ソ連やイスラム教徒など適当な『悪』との半永久的な戦い」の世界システムを作ることで、多極体制の実現を不可能にしてきたイギリスやイスラエルを無力化することが必要だと分かる。

北朝鮮問題の解決が近い
 【2007年1月23日】 ベルリンでの米朝協議の翌日に北朝鮮が「協議は前向きで誠実だった」と言っているということは、アメリカは北朝鮮にCVID(厳格な核の破棄)を求めなかったということである。北朝鮮が満足しているということは、今後アメリカが北朝鮮の核施設を査察しても、北側は核兵器の技術をうまく隠すことができそうで、また必要になったら核兵器を作れそうだということでもある。

人権外交の終わり
 【2007年1月18日】 中国とロシアは、ミャンマー問題に関する今回の拒否権発動で「安保理では、一つの国の内部だけで起きている人権問題について、二度と決議をしない。その問題は軍事力行使の決定権を持たない人権理事会でやるべきだ」という決意を表明した。従来なら、中露の決意は、欧米日の「国際社会」の総意によって潰されただろう。しかし今、米英の覇権は失墜しつつあり、おそらく今後さらに米英中心の世界体制は崩れる。中露の拒否権発動は、まさにこの攻守逆転の中で発せられており、世界の多極化を推進する動きの一つになっている。

すでに米イラン戦争が始まっている?
 【2007年1月16日】 ペルシャ湾に空母を2隻派遣したり、イランのミサイル攻撃に対抗するかのようにサウジアラビアやイスラエルにパトリオット迎撃ミサイルが配備されたり、米軍の新司令官に上陸作戦の専門家の海軍大将が選ばれたり、ブッシュ政権のイラクに対する新戦略の多くは、実はイラン攻撃の準備なのではないかと疑われる。ブッシュは、すでに側近にイランとの戦争計画を立てさせ、秘密裏に国防総省、CIAなどに対して計画実行の命令を下したのではないか、と考えることもできる。

イスラエルがイランを核攻撃する?
 【2007年1月9日】 1月7日、イギリスの新聞サンデータイムスは「イスラエルが、戦術核兵器を使ってイランのウラン濃縮工場を破壊する計画を秘密裏に進めている」と報じた。攻撃はイスラエル空軍の爆撃機で行われる予定で、すでに2つの飛行隊が、イスラエルからイランの核施設を攻撃してイスラエルに帰還するという想定で、ジブラルタルのイギリス軍基地までの飛行訓練を実施したという。

閉じられるアメリカの核の傘
 【2007年1月4日】今後、アメリカが中東での戦争をイランに拡大し、中東の大戦争の中で軍事力と外交力を低下させた場合、アメリカは余裕がなくなり、国力を温存するためにできる限り海外から軍事力を撤退しようとする可能性が大きくなる。日本は独力で自国を守ってくれと言われる傾向が強まる。だから、今のうちから「日本は核武装すべきか」という議論が必要になる。


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