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エネルギー覇権を強めるロシア

2007年5月22日   田中 宇

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 5月12日、中央アジアのトルクメニスタンのカスピ海岸の町に、ロシア、トルクメニスタン、カザフスタンの大統領が集まり、トルクメニスタンの天然ガスを、カザフスタン経由でロシアに送るパイプラインの敷設・修繕事業についての覚書に調印した。トルクメニスタンでは、カスピ海の沿岸と湖底にあるガス田の新たな開発計画が展開中で、この開発をトルクメニスタンとロシアとの合弁で行い、産出するガスをカザフ・ロシア経由でヨーロッパに輸出するのが新パイプラインの目的だ。(関連記事

 今回のガス協定は、国際政治の一つの転換点になる可能性がある。トルクメニスタンの天然ガスは、埋蔵量としては世界第12位でしかないが、地理的な要因から、ロシアと欧米との争奪戦になっていた。欧米企業はアメリカ政府の支援を受け、欧米主導でトルクメニスタンのガス田を開発したい意向だった。カスピ海対岸のアゼルバイジャンからトルコを経由するロシア迂回のパイプラインで欧州に運び出す構想で、すでに今年、アゼルバイジャンからトルコまでのBTCパイプラインが完成している。(関連記事

 しかし、20年の長期契約である今回のロシア側の協定によって、欧米側がトルクメニスタンのガス田の利権を得られる可能性は大幅に減り、ガス争奪戦はロシアが優勢になった。ロシアはすでに、年間600億立方メートル前後を産出するトルクメニスタンの天然ガスのうち、年間500億立方メートルを買う契約をしている。残りの多くは南隣のイランに輸出されることになっており、欧米の取り分はほとんどない。(関連記事

 アメリカはほかに、トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタンと続くパイプラインを新設する構想も持っており、このパイプライン建設が、米軍の2001年以来のアフガン占領の隠された理由ではないかと見る人も多い(アフガニスタンのカルザイ大統領はかつて、パイプライン事業会社ユノカルの顧問だった)。ロシア側の今回の協定によって、アメリカのアフガン縦断ガスパイプライン構想の現実味も低下した。(関連記事

▼欧米とのパイプライン戦争に勝つロシア

 天然ガスは石油よりも燃焼時の二酸化炭素排出が少なく、いわゆる「地球温暖化」の防止に役立つとされ、温暖化防止策に熱心な欧州諸国は天然ガスの利用を重視している。だが欧州はロシアからの輸出に頼らざるを得ず、欧州が消費する天然ガスの4割はロシアから来ている。ロシアの影響力拡大を止めたい欧米側は、ここ数年、トルクメニスタンのガスを、ロシアを迂回して欧州に運ぶBTCや、BTCにつなぐトルコからオーストリアまでのパイプラインであるナブッコ・パイプラインなどの建設計画を進めていた。

 また、NATOの一員として親米国だったトルコは、黒海から地中海への出口であるボスポラス海峡で、ロシアのタンカーの通行を、座礁による環境破壊の危険を理由に、夜間航行禁止や、一度に航行できるタンカー数を規制し、ロシアからの石油輸出を制限した。(関連記事

 これに対しロシア側は、ナブッコ・パイプラインの通過国で事業参加国の一つであるハンガリーに対し、ナブッコから手を引いてロシア経由で欧州にガスを運ぶ事業に参加するよう、好条件を出して離脱させたり、ボスポラス海峡を迂回するブルガリアからギリシャまでのパイプライン計画を推進し、今年3月、ロシア、ブルガリア、ギリシャの3カ国で建設計画に調印したりしている。(関連記事

 欧米が構想するロシア迂回のガスパイプラインを使えば、トルクメニスタンだけでなく、世界第2位のガス埋蔵量を持つイランからのガス輸入も可能だ。トルクメニスタンからの輸入が難しくなったのを見て、ナブッコ計画の参加国であるオーストリアの大手石油ガス会社OMVは4月末、イランの巨大な南パース・ガス田(South Pars)をイラン側と共同開発する覚書を結んだ。イランと戦争しそうだったアメリカが、イラク占領の苦境を解決するため、イランとの話し合いをしそうな状況へと情勢が緩和したすきを突いての調印だった。(関連記事

▼英米のみ敵視し、中国やインドと協調するロシア

 以前の記事「プーチンの光と影」に書いたように、ロシアのプーチン大統領は就任当初から、石油と天然ガスの利権を使って、冷戦後に弱体化したロシアを再び強い大国にする戦略を進めてきた。その戦略は、最近になって結実しつつある。ロシアは世界に対する影響力を飛躍的に拡大している。

 石油ガスを使ったプーチンの覇権戦略は、ロシア一国だけで行われているわけではない。アメリカ(米英)の単独覇権体制を好まない国々、米英に敵視・包囲されている国々と、ロシアとを連携させ、「非米同盟」を強化することで、ロシアの大国化を実現している。その好例が、今回のトルクメニスタンとの天然ガス契約など、中央アジア諸国との関係に見て取れる。

 中央アジア諸国は伝統的にロシアの裏庭だったが、今のロシアは、中央アジアを自国の支配下のみに置こうとしているわけではない。中央アジアに対しては、ロシアのほか、アメリカ(米英)、中国、インド、パキスタン、イラン、トルコなどが影響力を拡大しようとしているが、このうちロシアは米英の影響力のみに対抗しており、その他の諸国とは協調する姿勢を採っている。

 中国は、ウズベキスタンからパイプラインを引いて天然ガスを買う計画を進めており、他の中央アジア諸国からも石油ガスを買っている。この中国の動きは「ロシアの利権と衝突している」と解説されているが、衝突説はおそらく間違いである。ロシアと中国、中央アジア諸国は、数年前から「上海協力機構」を作り、経済開発や安全保障で協調している。中露は、中央アジアに対する欧米勢力の勢力拡大を防ぐという点で、利害が一致している。米英勢力に漁夫の利を与えることになるので、中露が中央アジアでエネルギーの奪い合いをすることは考えにくい。(関連記事

▼イスラム諸国を味方につけて地政学的逆襲

 プーチンのエネルギー戦略は、ロシアの大国化を目指すだけでなく、エネルギー源を支配することで世界を支配してきた米英の体制を破壊することを目論んでいる。プーチンは、米英中心の「海洋勢力」が、ロシアや中国という「大陸勢力」を包囲・弱体化するという、イギリスが考案した地政学の攻略の構図を意識し、長らく包囲・弱体化させられてきた大陸勢力が結束し、エネルギーを武器にして、米英を弱体化させるという、地政学的な逆襲の戦略を採っている。

 ロシアは、欧州への天然ガス供給における占有率を上げ、欧州諸国が反ロシア的な態度をとれないようにさせて、欧州と米英との距離を広げたいと考えている。これに対して米英は、欧州を反ロシア・親米英の立場のままにさせておくため、トルクメニスタンのガスをトルコ経由で欧州に運び、エネルギーを使ったロシアの対欧州戦略に風穴を開けようとした。トルクメニスタンとロシアとの協約は、この風穴を埋めてしまう意味がある。(関連記事

 プーチンが巧妙なのは、テロ戦争やイラク占領の失敗によって米英がアラブ諸国などイスラム世界から嫌われていることをしり目に、ロシア国内のイスラム教徒に対する待遇を改善し、ロシア軍がイスラム教徒を弾圧してきたチェチェン紛争でも融和策をとって、イスラム世界から「ロシアはアメリカよりましだ」と思われていることだ。プーチンはたびたび中東を歴訪し、パレスチナ問題に対してもアラブ寄りの立場をとり、サウジアラビアなどアラブ産油国との関係を強化している。(関連記事その1その2

 その上でプーチンは、アラブ諸国や中国、ベネズエラなどの非米的な国々を連合して、エネルギーに関する新たな国際カルテル(談合組織)を作り、石油と天然ガスの世界的な利権を米英から剥奪し、非米諸国カルテルの利権にしようとしている。(関連記事

▼公開市場は米英支配の道具

 エネルギーの国際カルテルとしては、すでに石油に関するOPECがある。OPECは、産油国が談合して生産調整を行って需給バランスを動かし、米英の石油市場での国際石油価格を変動させて、産油国の政治力を行使する組織だ。これに対し、プーチンが構想した新カルテルは、公開された国際市場を使わず、石油や天然ガスの産出国と消費国との2国間の長期契約について、あらかじめ契約内容のガイドラインや価格帯を、産出国と消費国の両方が参加する非欧米諸国のカルテルで議論して決めようとしている。

 このような仕掛けを作る理由の一つは、天然ガスについて毎日相場を発表している国際市場がまだ存在しないから、ということだが、理由はそれだけではない。現存する石油の国際市場として有力なのはロンドンとニューヨークだが、これらの相場は米英の投機筋によって動かされる部分が大きく、OPECが相場を動かそうとしても、米英政府の意を受けた投機筋は、それを相殺する動きを起こせる。国際市場を作り、相場を動かす技能は、米英が世界最高なので、今後天然ガスについて国際市場ができたら、それは事実上、米英の支配下に置かれることになる。米英以外の勢力が対抗的に国際市場を作っても潰される。

 だからプーチンは、むしろ天然ガスの取引の現状を生かすかたちで、国際市場を作らず、2国間の長期の相対契約の集合体を非公式に国際管理する天然ガスのカルテルを作り始めている。新カルテルは、米英によるエネルギー支配体制を壊すという目的との関係から、カルテルを作ったという発表をせず、こっそりと形成され、目立たないように動いている。ロシアと米英は、エネルギー覇権をめぐる暗闘に入っている。

 新カルテルの存在が欧米マスコミで騒がれ出したのは、カルテルの加盟国であるイランの最高指導者ハメネイ師が、アメリカに攻撃されそうになった今年1月、アメリカに対抗できる天然ガスのカルテルを作る、と宣言したからだった。この表明に対し、真の首謀者であるロシアのプーチンは「面白いアイデアだが、ガスにカルテルは必要ない」とうそぶき、火消しをした。(関連記事その1その2

▼中国インドを引き込んで新カルテル強化

 天然ガス産出が多い国は、ロシアのほか、イラン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、インドネシア、ベネズエラなど、イスラム諸国を中心に米英から敵視されがちな国が多く、非米同盟として結束しやすい。ロシア、中央アジア、中近東の国々を合わせると、世界のガス埋蔵量の7割以上を占める。欧米側では、アメリカ、イギリス、ノルウェー、オランダ、オーストラリアなどがガス産出国だが、埋蔵量は多くない。(関連記事

 新カルテルの構想は、2001年から存在している天然ガス産出国の会合である「ガス輸出国フォーラム」(GECF)などの場を借りて、非公式に協議されている。今年4月にカタールで開かれたGECFでは、カルテルが誘導すべき価格帯についての検討を開始することを決めた。中南米ではすでに、ベネズエラやボリビアを中心に、産出国と消費国が参加して域内のガスカルテルが作られている。この中南米カルテルと、ロシアが中央アジア諸国と結束しつつある地域カルテルをつなげ、そこにイランやカタール、アルジェリアなどが加わって、新カルテルの中核が作られている。

 新カルテルは、すでにヨーロッパ市場をロシアとアルジェリアで分割する談合を行ったとも指摘されている。ロシア勢は、アルジェリア勢が強いスペイン市場には参入しない代わりに、アルジェリア勢は、ロシア勢が強いドイツ市場には参入しないといった談合である。(関連記事

 新カルテルがOPECと異なる点は、OPECが産油国のみの談合体だったのに対し、新カルテルの談合には中国やインドといった非欧米の消費国が参加している点である。OPECに対しては、大口の消費国が結束して対抗し、OPEC以外の産油国からの石油輸入を増やしたりすることでカルテル潰しができた。だが新カルテルでは、欧米諸国が結束してカルテルを潰そうとしても、カルテルの側は中国やインドにガスを売ればいいだけなので困らない。(関連記事

 この点でも、新カルテルは欧米中心の世界体制を壊そうとする政治的な画策である。イランは世界第2位のガス埋蔵国であり、アメリカがイランを空爆しないことが確定したら、その直後から、イラン・パキスタン・インド間と、イラン・トルコ・欧州間のガスパイプラインの構想が前進し、新カルテルのメカニズムを使ったイランのガス売り込みが開始されるだろう。欧州は、ガスをロシアとイランのどちらから買うにしても、カルテルと敵対できなくなる。米英は、欧州への天然ガス供給の問題を、経済問題ではなく軍事・安保問題として扱い、NATOの会議で議論している。(関連記事

▼原子力にも手を伸ばす

 ロシアにとってこのカルテル構想は「ロシア革命」「国際共産主義運動」以来の、国際政治分野での発明物であるともいえる。新カルテルの構想は、天然ガスで成功したら石油でも行われ、新カルテルはOPECと並行した国際メカニズムになるかもしれない。

 このカルテルの動きは、以前の記事「反米諸国に移る石油利権」で紹介した、新セブン・シスターズの話とつながっている。新シスターズの国々はすべて、プーチンが首謀する新カルテルの主要なメンバーである。あの記事を書いた今年3月の時点では、私はまだ、石油ガスの利権が欧米から非米諸国に移りつつある状況を認識していなかったが、その後2カ月たって、新カルテルとしての非米同盟が世界的、総合的に、急速に立ち上がっているのが感じられるようになった。あの記事で紹介した「世界の石油ガス利権のうち米英勢が握り続けるのは1割以下」というFT紙の指摘は、すでに十分あり得る話である。

 ロシアのエネルギー戦略としてもう一つ目立つのは、原子力発電の分野である。冷戦時代の核開発を継承するロシアは、原子力発電の核燃料を作るウラン濃縮の技術と施設を多く持っている。これを生かしてロシアは、世界中の発展途上国から核燃料を製造する工程を請け負い、途上国が比較的簡単に原子力発電を実現できるようにする事業の開始を決め、先日、核施設やウラン鉱山を持つカザフスタンと共同で「国際ウラン濃縮センター」を設立した。(関連記事

 ほぼ同時期にロシアは、欧米から経済制裁を受けている東南アジアのミャンマーに対し、原子力発電所を作るための研究施設を作ることで契約を結んだ。すでにミャンマーでは、ロシアと中国の企業が、油田とガス田の開発や、パイプライン建設の契約を結んでいる。ミャンマーは、欧米に敵視されている国において、非米同盟諸国が欧米を無視してエネルギー事業を展開する最初の実例になっている。(関連記事

▼新カルテルを軽視するマスコミ

 欧米のマスコミで解説を展開している専門家の多くは、プーチンの新カルテル構想を「非現実的」とみなし「新カルテルなど作られていない」と結論づけている。米英覇権が弱体化していることから考えて、米英マスコミはもっとプーチンの新カルテル構想を危険視すべきだが、現実は逆で、意図的に軽視されている観がある。今後、新カルテルが着々と世界の石油ガス利権を欧米側から剥奪していっても、欧米や日本のマスコミでは軽視され続け、気がついたときには不可逆的に非米同盟諸国が強くなっているかもしれない。(関連記事

 アメリカ政界では昨年夏、国際問題に強い共和党上院議員のリチャード・ルガーが「ロシア、イラン、ベネズエラなどが、エネルギーを使って世界的な影響力を拡大し、アメリカに敵対する新手の戦争を起こしている。これに対抗するため、アメリカは中国やインドとのエネルギー同盟体を作るべきだ」と提唱したが、米政府から無視された。ルガーは、プーチンのエネルギー新カルテルが、中国やインドという非欧米の消費大国を巻き込んで立ち上がりつつある状況を把握し、対抗的にアメリカは中国とインドを取り込む必要があると提唱したが、その提案はまったく実現しなかった。こうした経緯から考えると、プーチンの新カルテルは現実に進んでおり、軽視するのは間違いだと感じられる。(関連記事

 ルガーは以前から「アメリカは北朝鮮と直接交渉すべきだ(中国に任せるな)」とも言っていた。アメリカの覇権を維持するには、ルガーの言ったとおりにすべきだったが、ブッシュ政権はまったく聞き入れなかった。(関連記事

▼ドイツとフランスはロシア容認

 もう一つ興味深いのは、天然ガスを使ったロシアの覇権拡大に対し、ドイツやフランスの政府が大して危機感を持っていないことである。ヨーロッパの中でもイギリスや東欧諸国は、ロシアの覇権拡大を恐れており、特にポーランドは、アメリカが事実上のロシア包囲網として構想するミサイル防衛計画の地対空ミサイル基地を誘致するなど、アメリカに頼ることでロシアと戦う姿勢を見せている。

 だが、ドイツは逆に、ポーランドを迂回してロシアの天然ガスをドイツに運ぶバルト海の海底パイプライン建設計画をロシアと合弁で推進するなど、むしろロシアが欧州で影響力を拡大することに協力している。昨年、ドイツの首相が、プーチンと仲が良かったシュレーダーから、旧東独出身の反ロシア的な傾向があるメルケルに代わったが、バルト海底パイプライン計画は続行され、独露関係は、米露や英露の関係より、はるかに友好的な状態が続いている。(関連記事

 フランスも、ドイツの姿勢に同調し、シラク前大統領は、ポーランドなど東欧諸国の反ロシア的な姿勢を批判して「東欧は重要事項に口をはさむな」とまで発言した。最近、大統領がシラクからサルコジに代わり、フランスは親米的な方針に転換するとも予測されていたが、サルコジは就任したその日にドイツを訪問するなど独仏関係を非常に重視しているので、ドイツと協調する親露的な路線をやめるとは考えにくい。(関連記事

 独仏、特にドイツが親ロシア的な姿勢をとるのは、ドイツがロシアと敵対してしまうと、米英が誘発した米ソ冷戦によって欧州が分断・弱体化させられていた時代に逆戻りしかねないからだろう。冷戦より前の第二次大戦でも、ヒットラーがイギリスの計略に引っかかって1939年にポーランドに侵攻し、ロシアと敵対してしまったために惨敗している。ドイツにとって真に警戒すべきは、東欧に覇権を拡大したいロシアの野望ではなく、欧州大陸を永続的に分断・弱体化させておきたいイギリスの策略である。

 アメリカの中枢には、米英同盟を重視して冷戦的な反ロシア戦略を続けたい米英中心主義の勢力のほかに、1989年の冷戦終結と東西ドイツの統合を推進し、ドイツや欧州大陸諸国を強化したレーガン、パパブッシュ政権のような多極主義的な勢力がおり、イギリスとは事情が異なる。今のブッシュ政権も、イギリスのブレア首相の諸提案を最後まで聞かず、覇権の自滅的縮小を引き起こしたことから、多極主義勢力の政権だと思われる。

▼米英同盟の希薄化とロシアの台頭

 アメリカは、ポーランドとチェコに長距離ミサイルを迎撃する地対空ミサイルの基地を置く計画を進めたが、これはむしろロシアを怒らせ、より反米的なエネルギーの新カルテル作りを進めることにしかつながっていない。(関連記事

 最近では、チェコとポーランドはアメリカに「ミサイル防衛の施設を置かせてあげる見返りに、日米安保条約のような、有事にアメリカがチェコやポーランドを守ってくれる条約を結んでほしい」と要求し始めた。これはアメリカが同意できない要求である。しかも米議会は5月初め、軍事費増を嫌って、東欧への迎撃ミサイル配備に必要な予算を否決してしまった。アメリカの計画は頓挫しかねない状況だ。(関連記事その1その2

 イギリスでは6月末に首相がブレアからブラウンに交代し、その後のイギリスはこれまでのように何が何でもアメリカに追随する姿勢はとらなくなると予測される。イラクからのイギリス軍が早期に撤退する構想も報じられている。米当局者は英軍の早期撤退説を否定しているが、今後もし米英同盟が希薄化した場合、米英とロシアとの対立は、さらにロシアに優勢になり、60年続いた米英中心の世界体制は、終わりに近づくことになる。(関連記事その1その2



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