今年のはずれ記事
2023年12月31日
田中 宇
今年書いた記事群のうち、国際政治に関しては、何か月か経ってから読み直しても、間違っている感じが少ない。多極化・非米化・政治面の米覇権自滅については、何が起きてもピンとくる範囲内になっている。
理解が遅れた話は、イスラエルが2国式の完全粉砕・ナクバ(アラブ人追い出し)とシオニズムの完遂を決めてガザ戦争を始めたことぐらいだ(世の中では、いまだにガザ戦争の本質を理解している人がほとんどいないが)。
(ガザから中東大転換への発展)
当たったことは「済んだ話」だ。当たったことを自慢するより、なぜ予測がはずれたかを再分析することが大事だ。多極化や非米化に関しては、主導する当事者である露中自身が試行錯誤している。米国の隠れ多極派も、米覇権をいかにうまく自滅させるか試行錯誤し続けている。
こういう時、分析者がすべきことは、予測でなく、具現化した試行錯誤について、早く意味を洞察する(ピンとくる)ことだ。世の中の多くの人は、多極化や非米化自体を理解してないので、その分野の試行錯誤が米国と非米側の両方で行われているという図式自体、理解不能だ。
だから私は「こんなこと書いて意味あんのか」と思って筆が渋る。私の記事などを読んで多極化・非米化を理解している読者は、渋らずどんどん書いてくれと思うかもしれないが。
(多極型世界システムを考案するロシア)
今年(だけでなく昨年も一昨年も)はずれ続けているのは、米国金融の崩壊・延命に関する話だ。米覇権の大黒柱であるドルの強さが債券金融システムに依拠していること、それがリーマン危機でいったん崩壊したが米連銀(FRB)のQE(ドル大増刷)で表向き延命したことは、間違いないだろう(マスコミ的にはここから陰謀論扱いだけど)。
QEは、債券システムを延命させているのでなく、死んでいるのに生きているように見せ、ゾンビ化させている。このゾンビの動きがいつ止まるのか、債券システムの死亡がいつ顕在化するのかというのが、米国金融の崩壊・延命に関する話の要諦だ。
(金融はいつまでもつのか)
2022年春、ウクライナ開戦と同じタイミングで、米連銀がQEの停止と巻き戻し(QT。債券の買い換え=ロールオーバーの停止による造幣したドルの回収・償却)を始めた(米議会に強要された)。債券システムのゾンビ的延命を可能にしていたQEを終了・巻き戻ししたら、債券システムは延命できなくなって死亡露呈=金融崩壊するはずだ。QTを1年半もやれば金融崩壊だろう。私はそう予測した(かつて連銀がQTをした時は18か月後に金融崩壊した)。
(来年までにドル崩壊)
(巨大な金融危機になる)
しかし、QTを始めて2年が過ぎようとしているが、米金融は崩壊してない。株価は高値だ。10年米国債の金利は10月に5%を超え、いよいよ金利高騰の金融崩壊かと思ったが、その後4%以下まで下がっている。金融崩壊も、米国債金利高騰の悪夢も起きてないぞ・・・。
(Federal Reserve Balance Sheet)
(米国債の金利上昇)
だが、米国の庶民的な実体経済の現場は、明らかに悪化している。インフレと不況が同時発生するスタグフレーションになっている。金利低下は不況の反映だろうが、インフレは金利高につながるはずだから、その部分は金利を下げる方向に歪曲されている。経済はとても悪い状態だから、株高は不合理だ。株価も歪曲されている。
(米国の銀行危機はまだ序の口)
(ドル崩壊しそうでしないのはなぜ?)
債券や株の歪曲は、米連銀の資金注入によって可能になる。昨年1年間で、世界の金融市場に20兆ドルの資金が注入された(株に13兆、債券に6兆)。不況の中で巨額の資金注入ができるのは米連銀しかいない。
(Powell's Pivot Adds $20 Trillion To Global Debt/Equity Markets In 2023; 'Fiat Alternatives' Fly)
米連銀は、表向きのQT=資金引き揚げと並行して、裏でそれ以上の規模の資金注入を続けている可能性が高い。これは、米議会経由で連銀に資金引き揚げをやらせている多極派と、それを乗り越えて連銀に裏の資金注入をやらせている米覇権維持派との、米中枢の政治暗闘でもある。
連銀はどうやって裏の資金注入をやっているのか。米国では昨年3月のシリコンバレー銀行(SVB)の預金流出による破綻以来、銀行界からの預金流出が止まらず、流出分を連銀が穴埋め融資して銀行界を延命させている。
(リーマン以上の危機の瀬戸際)
(悪化する米欧銀行危機)
その穴埋め資金(Bank Term Funding Program)が、銀行経由で株や債券に流入しているのでないかと私は考え、記事の中でそう指摘したりした。だがよく見ると、この資金は連銀の勘定(バランスシート)に載っており、裏の資金でない。
(BRICS共通通貨への道)
結局、裏資金の実体は不明であり、立証できない。だが、立証できないから裏資金など存在しないとは言えない。不況でインフレなのに当局が統計を粉飾し、マスコミは粉飾を糊塗する歪曲報道を続け、連銀が裏資金で株や債券をつり上げて不調を隠している。
連銀や金融界はルール違反・巨大な不正をやっているのに隠蔽されている。同じパターンは、地球温暖化問題でも新型コロナでもウクライナ戦争でも形成されている。
(どっちが妄想なのか?)
米金融システムは、巨大な不正・粉飾をやって大崩壊を先延ばししている。米金融=ドルが強い限り、米覇権崩壊は顕在化しない。だから、米金融システムの粉飾がいつまで続けられるかは、金融に限定された話でなく、政治外交軍事を含むすべての分野における最重要の話だ。
オルトメディアでは、来年こそ金融大崩壊だといった予測もある。私も、大崩壊が近いという記事を書いた。だが、不正の手口が隠蔽されていてバレないのだから、いくらでも・いつまでも不正を拡大できる。来年の今ごろになってもまだ崩壊せず、「間もなくドル崩壊だ」みたいなことを言い続けているかもしれない。
(Expert Makes Historic Prediction for U.S. – The “Worst Ever” Failure Will Happen Next Year)
("This Is Off The Charts": Economist Claims 2024 Will Bring 'Biggest Crash Of Our Lifetime' In US)
(多極化を急ぐ)
金融以外での、今年の私の「はずれ記事」としては、欧州がフランス主導で米傀儡を離脱して非米化し、多極型世界の極の一つになっていくのでないか、という予測(というより期待)があった。結局、フランスは腰が抜けたまま、欧州は米傀儡を続けている。来年も続けるだろう。欧州に関しては「はずれ」というより「失望」「期待はずれ」になっている
(欧州を多極型世界の極の一つにする)
もう大晦日なので、来年の話は年明けに書くことにして、とりあえず配信する。
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