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ドル崩壊しそうでしないのはなぜ?
2023年7月13日
田中 宇
非米側のドル離れが進んでいる。BRICSや上海協力機構、OPEC+などの非米諸国は、貿易決済に使う通貨を、ドルから人民元など非米側の通貨に次々に切り替えている。BRICSは、自分たちの諸通貨を加重平均した金(資源)本位制の新通貨を新設して非ドル化を加速しようとしている。
世界にある石油ガスなど資源類の大半は非米側が持っており、非米側が石油ガス取引の決済通貨をドルからBRICS新通貨に切り替えたら、それは戦後のドルの基軸性を支えていた「ペトロダラー体制」(石油の貿易決済を必ずドルで決済すること)の終焉であり、ドル基軸の崩壊になる。
それを見越してか、各国の中央銀行が金地金を買い増し、外貨準備をドルやユーロから金地金に転換している。
(Russia confirms BRICS will create a gold-backed currency)
(SCO nations to abandon USD, shift to domestic currencies for financial transactions)
米連銀(FRB)はインフレ対策として利上げを繰り返してきた。利上げしてもインフレはおさまらず、連銀理事たちは今後もさらに利上げが必要だと言っている。10年もの米国債の金利が危険水域の4%を超え、その後連銀からの資金注入で4%以下に下がったが、またいつ反騰するかわからない。
今後利上げしたら米国債金利は必ず上がる。悲観的な連銀専門家は、こんな高金利を続けたら間もなく金融崩壊すると言っている。
連銀は、金利を低く抑えておくための資金源だったQE(造幣による債券買い支え)を減らす策(QT)を昨年9月から本格化した。前回連銀がQTをやった2018年には、18か月後に金利が高騰してQTをやめざるを得なくなった。今回はQT開始から現時点までで10か月経った。年内に金利上昇(債券崩壊)が起きても不思議でない。
("Almost All" Fed Members See More Rate-Hikes In 2023, See "Mild Recession" In H2)
(Fed Economists Warn Of Looming Disaster Due To High Interest Rates)
間もなく米国側の金融崩壊・ドル崩壊が起きるのか??。そうかもしれないが、そうでないかもしれない。米国の金融システムは何年も前から崩壊寸前な感じだった。昨年初めに連銀がQEをやめてQTを開始してからは、金融崩壊が「時間の問題」になった。しかし今も崩壊していない。
ウクライナ開戦後、世界経済が米国側と非米側に決定的に分離し、資源類は非米側に持っていかれ、米国側は中長期的に経済破綻を余儀なくされる。米バイデン政権は経済の米中分離も進めている。米国側は、実体経済も金融も、崩壊の過程に入っている。
(We Are Watching The Global Economy Being Re-Organized Before Our Eyes)
(ドルを犠牲にしつつバブルを延命させる)
しかし、この体制下に入った後、米国側の株価は上昇して史上最高水準になっている。実体経済が良いから株価が上がっているのではない。実体経済は悪化している。債券発行やQEで作られた資金が株価をテコ入れしている。とはいえ、金利は上昇傾向で債券発行は以前より難しい。QEも減額されている。
BRICSが金(資源)本位制の基軸通貨を作り、中銀群が金地金を買い漁っているのだから、金相場が1オンス2千ドルを大きく越えて高騰しそうなものだが、現実はそうなっていない。非米側の人民元や露ルーブルの為替は対ドルで上がるどころか逆に下がっている。
金相場は2千ドル以下の水準に押し込められている。信用取引を使い、ドル防衛のために究極のライバルである金地金の高騰を許さない抑止策がまだ行われている。
今の金融バブルは1990年代から30年も続いており、QE以外のヘソクリがあちこちに隠してありそうで、それらを使って株価や記事金、債券などの相場が歪曲されているのかもしれない。ヘソクリもいずれ尽きるが、それがいつなのかわからない。
(The Gold Standard Is Back: BRICS To Intro Gold-Backed Reserve Currency)
(Russian Central Bank explains ruble’s slide)
状況は不透明だが、その中で私としてわかっていることもある。それは、現状が「米国覇権を崩壊させて世界体制を非米化・多極化する意図的な流れ」であることだ。この流れを起こした主役は中国など非米側でなく、米国側(の隠れ多極主義者たち)だ。非米側は、米国側が作ってくれた「おいしい体制」に乗っただけだ。
たとえば、米国側の最上層部にいる勢力としてダボス会議主催者の世界経済フォーラム(WEF)があるが、彼らがやっている「大リセット」は、米国側の経済を衰退させ、中国など非米側を台頭させる効果がある。
WEFやG7は地球温暖対策として石油ガスの不使用と利権放棄を進めているが、その結果、石油ガスの利権は世界的に非米側に移転した。
(ひどくなる大リセット系の嫌がらせ)
(米国側の自滅を加速するダボス会議)
自然エネルギーは不安定で使い物にならないと最初からわかっていたが、米国側の権威筋はそれを無視して石油ガスを自然エネルギーで置き換えようとする政策を無理に進め、自分たちの経済を自滅させた。
温暖化人為説は無根拠だ。コンピューターのシミュレーションのプログラムを歪曲しただけの詐欺だ。米国側の権威筋はその詐欺を「絶対の真実」として扱い、反対論を言う人々を潰しつつ、石油ガス利権を非米側に無償譲渡し、自分たちの経済を自滅させた。地球温暖化問題は「隠れ多極化戦略」である。
ウクライナ戦争も似たような構造だ。インチキな新型コロナもそうだった。米国覇権の運営権を握っている人々は、次々に隠れ多極化戦略を進め、その結果当然ながら米国側が衰退し、非米側が台頭している。
(温暖化対策で非米化の加速)
(ロシアでなく欧州を潰してる)
米覇権の衰退と非米側の台頭、つまり覇権多極化を大幅に進める究極の現象は、ドルや米債券金融システムの崩壊である。金融の力は米覇権の根幹だ。米覇権の運営者が隠れ多極派なら、早くドル崩壊を誘発するのが良い。
しかし、彼らはもたもたしている。ドル崩壊はなかなか起きない。米金融システムは崩壊寸前の状態なのに崩壊せず延命を続けている。なぜなのか??。
以前ならここで「それは、あんたの隠れ多極主義とやらの分析が大間違いだからだよ」という野次が入った。しかしウクライナとか米中関係やコロナ対策など、近年のいろんな展開を見れば、もはや米覇権運営者が隠れ多極派であることは確定的だ。
野次を飛ばす人々の方が、頓珍漢なマスコミ権威筋のインチキ言説を軽信している間抜けだ。それは年々明確になってきた。
(来年までにドル崩壊)
(BRICS新通貨登場でどうなるか)
米中枢の勢力がヘッジファンドなどを動かせば、すぐにドル崩壊を誘発できる。米国でなく、習近平でもドル崩壊を誘発できる。しかし、米国側も習近平も、ドルを崩壊させずに延命させている。これは意図的っぽい。理由がありそうなので考えてみた。
もし今ドル崩壊が始まって米国の金融システムが全崩壊したらどうなるか。米覇権が崩壊しつつあることを前から察知していた欧州や日本などの米同盟諸国が、米覇権の根幹にある金融システムが壊れてしまったのだから仕方がない、と言い訳しつつ、中露など非米側に対する敵視をやめてすり寄り、多極型の新世界秩序の一員になろうと転換するだろう。
(田中宇史観:世界帝国から多極化へ)
この転換の何が問題か??。今はまだ、非米・多極型の新世界体制の構築が終わっておらず、途中の段階だ。この状態で米金融覇権が崩壊し、英国やフランスや豪州カナダなどが大挙して非米側に転入してきたらどうなるか。
彼らは「中露と一緒に非米型の新世界秩序の構築に協力する」と言いつつ、協力するふりをして新世界秩序がいずれ破綻・内部対立していくような仕掛けをこっそり追加するだろう。英国系の諸国は巧妙でとても汚い。
英国は、第2次大戦後に米国が作った多極型覇権体制(P5)である国際連合に協力するふりをしつつ、米英仏とソ連中国が鋭く対立していく冷戦構造を作り上げ、米国が作りたかった多極型覇権体制を破壊し、英国が米国の覇権運営を牛耳り続ける構図を作った。
英国は第1次大戦後にも、米国が作った国際連盟に協力するふりをしつつ、大国間の仲違いを誘発して国際連盟を機能不全に陥れた。国際政治の運営が未熟だった米国は、老獪な英国にしてやられ、ふくれっ面をして孤立主義の看板を掲げて閉じこもった(その裏でNY資本家たちがドイツにテコ入れして世界大戦を再発させた)。
(米国が英国を無力化する必要性)
今回は、米国が英国系に入り込まれているので、多極型の新世界秩序を構築する役目は中国に委託されている(中共はそのために集団指導体制をやめて習近平の独裁体制にした。米上層部はネオコンに支配させて自国の覇権を麻痺させ、英国を動けなくしている)。だが、新世界の構築はまだ途上だ。
今の段階で老獪な英国系をこの構築の輪の中に入れてしまうと、米国が2度の大戦後に2回も経験した「せっかく作った多極型新世界を英国に壊される」という破綻を、中国に経験させることになる。それはダメだ。
(米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化)
(世界を多極化したがる米国)
だから、米中枢も中共も、ドルを崩壊させずに延命させている。ドルと債券金融システムが上っ面だけ延命し、米金融覇権が表側だけで維持されている限り、米覇権の強さが維持されているというプロパガンダが席巻し、英国もフランスもそれを乗り越えて米国から離れることができない。マクロンは乗り越えようとして春に訪中したが、米国に抑止されて口だけで終わった。
トランプ前大統領は覇権放棄屋でNATOやG7を軽視したが、バイデン現政権は逆に、NATOやG7でウクライナ戦争や温暖化対策など米国側を自滅させる策を出し、同盟諸国にもその策の推進を強要し、自滅していく米国覇権の監獄に英欧日を閉じ込めている。
監獄に閉じ込められている限り、英国など同盟諸国は非米側に転向できない。中国やロシアは、英国系に邪魔されずに強い多極型体制を作っていける。
(ウクライナ戦争体制の恒久化)
(権威筋や米国覇権のゾンビ化)
今進んでいる非米(というより実は非英)多極型の新世界構築には、米金融覇権の延命のほかに、ウクライナ戦争の長期化や、地球温暖対策のインチキがバレないことが重要だ。
ウクライナ戦争が終わると、英欧がNATOの監獄から出て露中と再和解して多極型の新世界構築に首を突っ込んで破壊できるようになる。温暖化のインチキがバレると、米国側が非米側に渡した石油ガス利権を取り戻そうと動き出す。
先日のNATOサミットでウクライナのゼレンスキー大統領が冷遇され、欧州がウクライナを見限って戦争を終わりにするかもしれない感じが垣間見えた。これは、NATO監獄から出たい英国系の謀略かもしれない。
(In Pictures - Zelenski's Visits NATO Summit)
(多極型覇権と中国)
国連によると、ウクライナ開戦以来500日間で市民の戦死者は9千人だった。同じく米国が起こしたイラクやシリアの戦争で年に何10万人も市民が死んだのと桁が違う。ウクライナ戦争は長期化しても死者が少ない。昔は、覇権転換に何千万人も死ぬ大戦が必要だった(しかも英国に騙されて転換に失敗した)が、今回の覇権転換ではウクライナが「効率的な大戦代替」として機能している。
(Ukraine war reaches 500 days, UN laments 9,000 civilians killed)
(すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国)
中露などが進める多極型の新世界構築には、あとどれぐらいの期間が必要なのか。あと何が必要なのか。それによって、きたるべきドル崩壊や、ウクライナ戦争の終わりの時期が決まってくる。構築が秘密裏に行われているため、この分析は困難だ。
ウクライナ戦争は、ゼレンスキーがドンバスとクリミアの領有権を放棄し、中国の仲裁でロシアと仲直りすると終わる(その前に米国がゼレンスキーを殺すかもしれないが)。
BRICS共通通貨が創設・稼働したらもう大丈夫なのであれば、今秋にかけて新通貨が稼働し、ウクライナ戦争が終わりになり、ドルが崩壊するという進展があり得る。しかし、新たな覇権体制の構築がそんな簡単にできるものなのかという疑問がある。
米政界を考えると、2025年からトランプが返り咲くなら米国はまた覇権放棄に戻るので、その前にNATOやG7を監獄にして同盟諸国を米国側に縛りつける策略を用済みにせねばならない。となるとトランプ復権前にドル崩壊か?、という邪推になる。もしくは、トランプが再び民主党の選挙不正に負けるとか。
次政権がトランプ+ケネディなら米国は格好良さを取り戻すが、民主党が選挙不正やってバイデン続投の方が米国にはお似合いかもね。
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