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来年までにドル崩壊

2022年5月11日  田中 宇 

先進諸国の株価が下落傾向を続けている。米欧日とも、昨年10-12月ごろが最高値で、それ以来下がる傾向がずっと続いている。米国のジャンク債の金利も、昨年11月から上昇傾向だ。10年もの米国債も昨年末から金利が上昇している。昨年10-12月は、米英などの中央銀行群がQEの終了を決めた時だ。造幣した資金で債券などを買って相場を支える中銀群のQEは、2008年のリーマン危機以来の、米欧日の金融システムにとって唯一の相場テコ入れ策だった。中銀群のうち、日銀はQEをやめるつもりがない。欧州中銀はやめると言いいつつ続けている。だが、最大のQEをやっていた米連銀は3月にQEを停止し、6月からはQEで買い込んだ債券を手放して中銀群の資産を減らしていくQTを始める。英国やカナダは、すでにソフトなQT(国債償還金を再投資しないこと)を開始している。相場を支えてきた唯一の要素だったQE資金がなくなっていくのだから、昨年末から株安や金利高など各種の金融相場が下がっていくのは当然だ。 (ICE BofA US High Yield Index Effective Yield) (Bloodbath

これから金融相場はもっと下がる。米国などからのQE資金は新興市場にも流入していたから、QE資金の引き揚げは新興市場を含む世界的な金融危機を引き起こす。QEは不健全なので、米連銀は2014-17年にもQEをやめてQTを開始しており、その時はQT開始から14か月後の2018年末に金融崩壊が起きてQEを再開した。今回の連銀のQTは2017-18年の2倍の速度だ(年間1兆ドルずつの減少)。今の米連銀の資産総額は2018年から2倍に膨張している(4.5兆ドルから9兆ドルへ)。 (The Fed's new 'QT' plan takes shape) (Markets Are At Risk Of Another Major Deleveraging Event

コロナ危機後、連銀(など中銀群)は経済テコ入れ策としてQEを急増し、金融相場のQE依存も急拡大した。QE停止・QT開始による衝撃は、2017-18年よりかなり大きくなっている。前回はQT開始から14か月後に暴落が起きたが、今回はもっと早く起きるだろう。6月のQT開始から6-12か月以内に世界的な金融崩壊が起きるのでないか。今秋ぐらいから、かなり危険になる。株価は昨秋の最高値から50%ぐらいは下がるだろう。今すでに最高値から2-3割安いから、ここからさらに2-3割は下がる。ジャンク債の金利は、昨秋の4%台から現在7%台まで上がってきたが、今後は10%を超えて上昇していくだろう。ジャンク債金利はリーマン危機時に20%を超えたので、今後も再びそこまでいく。10年もの米国債も今の3%から、6%以上になりそうだ。米国債の金利上昇はドルの信用低下の象徴だ。 (Federal Reserve’s balance sheet to shrink by nearly $3 trillion) (Quantitative Tightening Begins June 1, Capped Initially At $47.5BN And Growing To $95BN

米国中心の国際金融システムは08年のリーマン危機で破綻した後、蘇生していない。中銀群のQEによって蘇生したように見せかけているだけだ。QEをやめてQTで元に戻すと金融危機が再燃する。リーマン危機当時、米国株S&P500指数は800台だった。今は4000だ。リーマン時まで戻るとなると、株価は5分の1になる。リーマン危機からコロナまでの12年間の実体経済の成長と、コロナ危機による経済の悪化のどちらが大きいかという感じの話でもある。リーマン危機は、世界経済が半分に減ったと言われていたが、今回はQEで支えられてきたその後の膨張分も破裂するわけだから、リーマン危機よりも巨大な金融崩壊になる。 (QEをやめさせる

QE終了とQTは、そういうすごい危機を引き起こすと最初からわかっているので、私は最近まで、米英中銀群はQTをやるふりだけして買った債券を秘密裏に償却して余った分で不正QEをやるのでないかと疑ってきた。しかし、昨年末以来ずっと金融が悪化し続け、最近は悪化が加速している。ときどき株価が反騰するが、それは下落相場によくある「死んだ猫が跳ねている」感じの範囲内で、不正QEをやっている感じが全くしない。相場は全体として順調に下落を続けている。これは、額面通りのQE終了とQT開始へと動いている感じだ。不正QEの可能性はなくなったと考える。となると、来年にかけて巨大な金融危機が起こり、ドル崩壊へと発展していくことになる。かつて英ポンドは、2度の大戦をはさんで30年かけて基軸通貨の地位を喪失し、米ドルが基軸通貨になった。そして今回ドルは、リーマン危機から15年かけて基軸通貨の地位を喪失した、という話になるのかもしれない。 (金融大崩壊への道) (Collapse Is Happening Before Our Eyes

米連銀は今のところ、3年間で3兆ドルのQTをやっていくと発表しているが、QTを進めて金融崩壊が加速したら、その時点で予定を変えてQTを止めたりQEを再開するかもしれない。そうなると2017-18年の前回と同様、いったん金融相場がバブル再膨張して持ち直す。その場合、金融危機やドル崩壊への道が少し延びる。しかし実体経済のインフレは、これからさらにひどくなる。米連銀は、QTをインフレ緩和のためにやらされている(実はインフレの原因がQEでないのでQTをやってもインフレがおさまらない)。QTの継続によって金融崩壊が起きたからといって、QTをやめてQEに戻すことは政治的にかなり難しい。 ("Americans Are Broke" - Peter Schiff Warns Fed 'Double-Speak' Has Reached A New High

米連銀にQTをやらせているのは、米中枢の隠れ多極主義的な政治勢力だ。彼らは、金融危機やドル崩壊、米覇権衰退と多極化を引き起こす目的で、米英政界を通じて中銀群にQE終了とQTを「インフレ対策」としてやれと加圧している。不正QEをやっているのなら別の説明もありうるが、不正QEをやっていないのだから、QTは米覇権の自滅策であり、隠れ多極主義による策であるという説明以外は考えにくい。彼らは、連銀が不正QEをやってドルや米覇権を延命させることを許さない。 (金融大崩壊か、裏QEへの移行か) (ロシアは中国と結束して延命し、米欧はQE終了で金融破綻

今回、英国とカナダの英国系中銀群は、躊躇しつつ進んでいる感じの米連銀よりもストレートに先んじてQE終了とQT開始に動いている。英国系は、米国覇権の黒幕として動いてきた勢力であり、米英覇権を永続させることが国家戦略だ。その彼らが、なぜ覇権の自滅にしかつながらないQE終了とQTに邁進しているのか。私は最近まで、そんなはずがないと思って不正QE説を考えてきた。だが俯瞰的に考えると、英国やカナダは最近、金融以外の政治の分野でも、コロナワクチン強要やロシア敵視、地球温暖化対策などの分野で、政策を過激に稚拙にやって自滅的に失敗する傾向を加速している。 (Calling time on QE, central bank asset cull adds new market risks

英国系は昔から、言論の自由など良質のリベラル主義を掲げて自分らは良いイメージを維持しつつ、政敵を潰すのも善悪を巧妙に操作・歪曲しつつ、相手が悪い状態に持っていくやり方で狡猾かつ巧妙、政治運営技能に長けていた。その英国系が、最近はすっかりネオコン的な、稚拙に過激にやって覇権を自滅させる方向に動いている。英国系を主導している諜報界が、米国系の隠れ多極主義・ネオコン勢力に入り込まれ、乗っ取られている感じだ(スイスの諜報要員ジャック・ボーが指摘しているのも多分このことだ)。それで英国系は、金融政策も自滅的なQE終了・QT開始に邁進している。英国系だけでなく米国も、諜報界やバイデン政権など米民主党が隠れ多極主義に乗っ取られている観が強い。乗っ取られた米英は、金融で自滅し、ウクライナ戦争でロシアなど非米側を台頭させて多極化を進めてしまっている。マスコミも麻痺しているので大事なことを何も報じない。 (ウソだらけのウクライナ戦争

米英と対照的に、日本とEUの中央銀行群はQEをやめてない。米英の中銀は多極派に乗っ取られて自滅的なQTを開始しているが、日本はその外におり、欧州もまだ何とか自立しているのでQEをやめていない。日本政府を後ろから動かしている安倍晋三は、日銀がQEを続けて円安が進んでも問題ないと言っている。円安は150円や、ひょっとすると200円を超えるかもしれないが、ドル崩壊までの一時的な話であり、QEをやめて金融崩壊するよりはましなのだろう。これから米英がQTを進めてすごい金融崩壊になっていく中で、日銀はQEを続けていた方が金融的な余力を持ち続けることができる。QEをやめて自滅するのはいつでもできる。

日本政府は、対露経済制裁についても、多極派に乗っ取られた米英G7に加圧され、ロシアからの石油輸入を止めると宣言したが、いつまでに止めるという時期的な目標を言っていない。これは、輸入停止はやりませんと言っているのと同じだ。自滅派の傀儡に成り下がっているマスコミに問われても日本政府は答えない。売国奴に対して答える必要はない。日本はサハリン2のガス田への参加も続けることにした。日露は相互に要人たちの入国禁止を発表したが、喧嘩はその程度だ。日本の対露制裁参加が「口だけ」でも、米英G7を牛耳る多極派は文句を言わない。形成されつつある多極型世界において、日本は中国の傘下に入ることが大体決まっているので、多極派は中国に配慮して日本を痛めつけない。(EU・独仏は、いずれ単独の極になる予定なので、日本とは異なるシナリオの上にいる。) (Japan comments on Russian oil ban

米国中心の国際金融は、米英のQTによってこれから崩壊が加速していく。実体経済も世界的に、ウクライナ戦争と流通網の逼迫により、石油ガス資源類や穀物など食料の高騰や物不足がひどくなり、不況とインフレが同時に起きるスタグフレーションになる(もうなっている)。途上諸国では飢餓が起きる。「正史」的には、不況の結果として金融危機が起こり、米国覇権が崩壊した、という話になるのだろうが、実際には、金融危機はQTが原因だし、インフレ物不足は諜報界が昨年から意図的に引き起こした流通逼迫が原因だ。ロシアは2月末から米欧から過激に経済制裁されているが、金本位制を採用して通貨や物価を安定させたので、最近は経済の調子がウクライナ開戦前より良くなっている。ルーブルの対ドルや対円の相場は、開戦前よりルーブル高だ。プーチンの金資源本位制はうまく機能している。米国側は崩壊し、非米側が台頭して世界は多極化している。 (現物側が金融側を下克上する) (Mystery of the rising ruble revealed

ほとんどのコモディティが高騰する中、金地金だけはまだ幽閉されている。株や債券は少しずつ相場が下がっているが、金地金は少しずつ相場が上がるのでなく、この2年間ほど、おそらくQE資金によって1オンス2000ドル以下に閉じ込められている。これは意図的なものだろう。きたるべきドル崩壊に気づいている非米諸国などの勢力が次の備蓄通貨である金地金を安く買い貯めておけるよう、米中枢の多極派が、金相場を抑止しているのかもしれない。QTが進み、金相場を抑止する資金が失われると、金相場は高騰する。金地金の現物に対する需要は、世界的にものすごく強い。 (金相場の引き下げ役を代行する中国) ("The US Destroyed Trust" Jim Rickards Says "The World Is Turning To Gold"

ドルが基軸性を喪失すると、替わりの通貨はとりあえず金地金しかない。米国政府が覇権喪失やドルの基軸性喪失を認めたら、次の基軸通貨体制を決める話が正式に始まるが、米国政府は覇権を手放したがらず、米欧のマスコミ権威筋も歪曲誇張ウソまみれが常態化しているので、ドルが実際に基軸性を喪失して国際決済にあまり使われなくなっても、その状態がなかなか人類の公式論にならないかもしない。そうなると、ドルが基軸性を喪失しているのに替わりの基軸通貨がない・決まらない事態が長引く。この場合、金地金が実質的な基軸通貨(備蓄通貨)になる。非米諸国は金地金を含む金資源本位制を採用していくが、米国側の諸国はその存在すらなかなか認めないかもしれない。 (ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア

QTが予定通りに進むと、来年の今ごろまでにドルと米覇権の崩壊が起きる。そんなに簡単にドル崩壊が起きるものなのか疑問もあり、大外れになりそうな感じもするが、米連銀のQTは間違いなく自滅策だ。ここに書いた展開以外のシナリオが考えにくい。QTを途中でやめると、ある程度の延命になる。このテーマは、表向き騒がれている他の多くの話題よりもはるかに重要なので、これからも書いていく。 (Will Israel Spoil Ties With the US by Sidelining the Dollar?



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