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金融大崩壊か、裏QEへの移行か

2022年1月23日  田中 宇 

米国ナスダックのIT株など、米国株が下落を続けている。最高値から10%以上の値下がりすると「下落相場」に入るが、ナスダックは先週この領域に入って続落している。ナスダック指数の構造は、上昇して最高値を更新していた昨年からインチキなものだった。ナスダック市場には約5500銘柄が上場し、昨年4-12月には全体(総合指数)として値上がり傾向だったが、この時期の上昇総額の51%が、アップル、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ、グーグルという人気ハイテク5社の上昇によるものだった。残りの全銘柄のうち約4割は、同時期(昨年4-12月)にむしろ50%以上の大幅な値下がりをした。有名な銘柄にだけQE資金などが入って高騰し、これが指数を引き上げて最高値になるトリックが行われてきたが。QEの謀略が相手にしないそれ以外の銘柄の多くは買われず、現実の景気悪化に押されてむしろ大幅下落していた。 ("Massive Meltdown": 40% Of Nasdaq Companies Are Down More Than Half From Their Highs) (Goldman Rings The Alarm On Collapsing Market Breadth: 51% Of All Market Gains Since April Are From Just 5 Stocks

昨年のナスダックの上昇は、指数を上げる目的でハイテク5社にQE資金を流し込むという不自然・不正なものだった。インチキな上昇は、昨年末に米連銀がQEの縮小を開始したことで終わった。ナスダックは、5名柄を含めて下落傾向に入った。ナスダック銘柄であるITなどハイテク企業は、負債に依存して事業を回しているので金利動向に敏感で、利上げ傾向に入ると株価が下がる。また、少数の銘柄で指数をつり上げる手口は、各地で昔から常用されており、ナスダックだけの話でない。米国のもうひとつの証券取引所で、約3600銘柄が上場しているNYSEでも最近、165銘柄は過去1年間の最高値である半面、334銘柄が過去1年間の最安値になっている。 (Fiscal and Monetary Cliffs Have Arrived) (Markets Scream 'Panic' To Powell As 2022's Tech-Wreck Is Worst In Over 30 Years

米連銀(FRB)はリーマン危機後の09年からQEを続けており、その総額は8兆ドルになる。このQE資金を呼び水として100兆ドル以上の金融バブル膨張が誘発され、株や債券を押し上げてきた。米国(や欧日)の株高はQEに全面依存してきた。だが昨年からの米国でのインフレ激化により、連銀はQEをやめることを余儀なくされ、それが株価の下落を引き起こしている。QEとゼロ金利で通貨を過剰発行したのでインフレが激化したと思われがちだが、実は違う。インフレの原因は、米中の港湾の積み下ろし作業の遅延や、コロナとその救済金が引き起こした米国の人手不足など、QEと直接関係ない「供給側」の諸要因だ。連銀がQEをやめて利上げしてもインフレはおさまらない。今年中はインフレが悪化し続け、連銀のせいでないのに連銀のせいにされ続け、連銀はQEをやめていかざるを得ず、QEに依存してきた株価は下落していく。 (QEをやめさせる) (Nasdaq falls 1% Wednesday to close in correction territory, off 10% from its November record

米国では今年、インフレがCPIで今の7%から10%以上まで悪化していく見通しになっている。米当局は、CPIの対象品目などを操作してインフレ率を低く見せようとしてきたといわれ、1970-80年代と同じ条件で今のCPIを測定すると前年同期比15%のインフレになるという。米国は1970-80年代にひどいインフレになったが、その時の最高値は13.5%で、今はそれよりひどいインフレになっている。流通網の崩壊などからみて米国のインフレが今後さらに悪化することが必至で、米国のインフレは史上最悪の状態になっていく。米国では、インフレだけでなく物不足や人手不足、略奪暴動など社会崩壊が加速し、ドルの基軸性を支える覇権が低下している。 (Peter Schiff: This Bubble Economy Is Going To Burst) (Rand Paul Releases Damning Report On Rising Inflation: ‘It’s Only Going To Get Worse’

米国はウクライナ政府をけしかけ、ウクライナ東部のロシア系住民を殺させてロシアを怒らせている。これがひどくなると、ロシアがウクライナ東部に軍事介入しうる。米軍は直接出ていかないので米露の世界大戦にはらない。だがロシアは報復に、サウジなどと組んで原油の国際価格を100ドル超へと高騰させ、米国のインフレを悪化させる。不人気が加速しているバイデン米大統領は人気取りのため、米国の最低賃金を11ドルから15ドルへと引き上げるが、これもインフレを加速する。米国のインフレはもっとひどくなる。 (Biden Caps Off First Year In Office By Raising Federal Minimum Wage To $15) (Here it comes: Food prices set to skyrocket throughout 2022 as rising costs hit small-to-medium-sized farms

米連銀はインフレ対策として利上げとQE減額を実施しようとしている。連銀は、コロナ危機開始直後に始めたゼロ金利政策(FF金利0.25%)をやめて金融引き締めに転じ、今年中に短期金利を0.25%ずつ4-8回利上げし、FF金利を1-2%前後まで引き上げていくと予測されている。また連銀は、毎月1200億ドルずつ造幣して債券などを買い支えていたQEを減額して7月ごろにゼロにして、その後は逆に手持ちの債券などを売って連銀の勘定(バランスシート)を縮小していくQT(量的引き締め)に転じる予定だ。現在9兆ドル近くまで肥大化している米連銀の勘定を、6兆ドルぐらいまで縮小して正常化していく。連銀は、米政界から「QEやゼロ金利という緩和策がインフレをひどくしている。早くやめろ」と圧力をかけられ、利上げやQE減額を余儀なくされている。 (Treasury Yields Spike After Jamie Dimon Forecasts "Six Or Seven" Rate Hikes In 2022) (One Bank Predicts $3 Trillion In Quantitative Tightening Coming

すでに述べたように、利上げをしてもインフレ抑止にならない。それなのに利上げが予定され、先行的に長期金利(米国債10年もの金利など)が上がっている。これにはたぶん裏の理由がある。短期金利が上がると連動して長期金利も上がり、長短金利差や、国債とジャンク債の金利差(リスクプレミアム)も拡大し、利ざやで儲けている銀行界は増益傾向になる。リーマン危機後のゼロ金利策で儲けを失って窮乏してきた米欧日の銀行は、金利上昇の開始でひと息つける。米連銀は短期金利(FF)を2%ぐらいまで、長期金利(10年米国債)を3%ぐらいまで上げるつもりかもしれないが、それ以上の大幅な上昇は望んでいないだろう。「インフレが8-10%なのだから、金利はそれ以上の高さにせねばならない。2%では全く足りない」と米連銀は批判されているが、そもそもインフレの原因は低金利でないのだから利上げは無意味だ。利上げはインフレ対策でなく、銀行救済のためだ。 (World's Largest Asset Manager: Central Banks Are Trapped As They Can't Fight Supply-Driven Inflation) (QE減額は本当かも) (QE減額はウソっぽい

利上げと並ぶ米連銀の今後の策であるQE減額・連銀勘定の縮小策の方は、なぜやらねばならないのか疑問が大きい。QEが不健全なのは確かだ。QE資金で注入して株や債券の相場をつり上げるQEバブル策が不正であるのも確かだ。しかしこの四半世紀、911からコロナまで、米国がやっている戦略的なことの多くが不正や不健全、人道犯罪である。米国(米欧)は極悪をやりながらマスコミなどを使って善悪概念を歪曲してごまかしてきた。QEバブル策は不健全・不正だが、マスコミや金融専門家のほぼ全員が別のウソを言いまくるので、人々は騙されて何も思わず、いくらQEバブル策を続けてもバブル崩壊の暴落が起きない。このまま、あと10年ぐらい、連銀勘定が20兆ドルぐらいになるまで株や債券の高値を維持できそうだ。 (What Spooked Markets So Badly In Today's Fed Minutes?) (Peter Schiff: The Fed Can't Do What It's Saying It Will Do

QEをやめてもインフレはおさまらないのだから、その理由でやめる必要はない。米政界などには、QEがインフレの原因だと勝手に(わざと)勘違いしてQEやめろと連銀に加圧する勢力がいるが、QEをやめて金融崩壊して困るのは米政界などエスタブ連中だ。なぜ今のタイミングでQE中止の自滅策をやらねばならないのか。不可解だ。いつもの自己流で考えるなら「米国の政界など上層部には米国の覇権を自滅させたい隠れ多極主義の勢力がいて、彼らが連銀に間違った加圧をしてQEをやめさせて金融破綻やドル崩壊を起こそうとしている」という話になる。しかし、本当にそうなのか。私自身にも確信や確証がない。少なくとも、別の構図を探してみる分析作業の継続が必要だ。 (Von Greyerz: Coming Market Madness Could Take 70 Years To Recover From

そして、別の構図として私の頭に浮かんでくるのが「米連銀は、不健全なQEを隠すための何らかの『裏QE』のやり口を考案し、そちらに移行しつつあるので表の公式なQEをやめつつあるのでないか」というものだ。QEは米連銀(など米欧日の中銀群)の帳簿・勘定(バランスシート)に掲載される公式な政策だが、QEと同じ資金注入の効果を持つ何らかの「裏QE」を帳簿外でこっそりやれないものか。米連銀は簿外の活動も含めて毎週発表しているが、それにも載らない「隠れ簿外」の行為が必要だ。もし、金融界の最上層部など連銀の「お仲間」以外の一般人たちに気づかれずに裏QEをやれるなら、そちらに移行することで表のQEをやめていける。連銀の勘定・資産総額も、不健全とされる今の9兆ドルから、昔の少ない水準に戻していく「不正な健全化」をやれる。誰も気づかないなら「不正」でない。 (The experts are finally grasping the real reason for inflation. Now, it’s time to act.) (コロナ、QE、流通崩壊、エネルギー高騰、食糧難・・・多重危機の意味) (世界的なインフレと物不足の激化

そんな完全犯罪的な隠れ簿外を、何兆ドルもの規模でやっていけるものなのか。わからない。しかしコロナ危機では、ほとんど効かず自然免疫破壊の巨大な薬害(のおそれ)でしかないインチキなmRNAワクチンを、何億人もの人類がだまされて必死に予約して嬉々として打ち続けている。真相を隠した大ウソは、犯罪の規模が大きいほど平然とやれるのかもしれない。だがその一方で、最近コロナの各種のインチキがバレていく傾向になっているように、巨大なウソもいずれはバレる(もう一つの巨大なウソである911テロ事件の真相はいまだにわからないままだが)。表のQEを裏QEにすり替えることは、いずれバレた時に結局ドル崩壊や金融破綻を引き起こす。その意味で、裏QEも延命策の一つでしかない。しかしニクソンショック以来、次々と新たな延命策を続けて50年延命してきたのが米金融システムなのだから、新たな延命策は重要だ。 (Poll: Joe Biden’s Declining Economy Outpaces Raging Pandemic as Top National Concern for 2022) (Central Banks Are Increasingly Comfortable Pushing A More Hawkish Line... Until Something Pushes Back

最近、この手の金融延命のウソの「裏側化」の先例になっているのが金相場だ。金地金の市場では、銀行に対するバーゼル3の規制強化が今年の元旦に完了し、最後に残っていたロンドンでも銀行が金地金を空売りして金相場を引き下げることができなくなった。金相場を引き下げていた巨大な要因が消えたはずなので高騰しそうだが、その後も金相場が上がっていかず、依然として1オンス1850ドル前後に幽閉されている。米国や新興諸国でインフレが激化し、米覇権=ドルの基軸性のゆらぎもひどくなっている。相場の抑止がなければ金が高騰して当然だ。それが起きないのは、隠れた抑止策が残っているからだと推察できる。 (金相場引き下げ策の自滅的な終わり) (金融の大リセット、バーゼル3

銀行以外の筋を経由して空売りが続いているのか。新たな裏側の金相場抑止策の中身はわからない。相場がある程度上がるたびに引き下げが発動されている日々の相場の感じからみて、裏の金抑止策がこっそり隆々と機能している観がある。株や債券やドルの方が劇的に下がるまで、金相場の幽閉がまだまだ続きそうだ。QEが裏QEにすり替わり、株や債券やドルの相場が今後もまだ持つなら、金地金はずっと上がらず幽閉され続ける。逆に、裏QEが存在せず、QEが代替なしに終わっていくと、今の株価の下落傾向が今後さらにひどくなり、今年じゅうに全面的な金融崩壊に発展し、ドルの基軸性が劇的に下がり、金相場も高騰する。どちらになるのか注目していく。 (Davos Is Making The Central Bank Case For Gold) (Hedge Funds Are Driving Price Action In The Gold Market



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