コロナ、QE、流通崩壊、エネルギー高騰、食糧難・・・多重危機の意味2021年10月18日 田中 宇10月13日、ロシアのプーチン大統領が「ロシアエネルギー週間」のフォーラムで演説し「米国は、ドルや米国債を過剰発行し、世界的なインフレを引き起こし、基軸通貨としてのドルの地位を自滅させている。米国が(ロシアなど敵性の)外国にドルの使用を禁じる経済制裁を続けていることも(非米諸国のドル離れを誘発して)ドルを自滅させている」という趣旨を述べた。プーチンは、2019年やそれ以前から同様の発言を繰り返してきた。「ドルは自滅なんかしてない。プーチンは反米的な妄想を言っているだけだ」と欧米の権威筋は言い、プーチンの指摘を軽視してきた。米政府や権威筋は、各方面から自滅性を指摘されても無視して過剰造幣のQEを拡大し、インフレを放置し、ドルを経済制裁に使い続け非米諸国のドル離れを煽ってきた。 (Putin says US itself killing dollar as reserve currency by weaponizing sanctions & uncontrolled money printing, fueling inflation) (Putin Warns The World That Biden Is Deliberately Attempting To Destroy The US Dollar) 以前からQEの自滅性を指摘してきた私は、プーチンの指摘を全く正しいと考えている。ドルの自滅はまだ顕在化していないだけで、いずれ必ず自滅する。米国中心の金融システムはすでにQE中毒で離脱できないし、米国の実体経済もQEの造幣で作られた財政赤字に依存しており離脱できない。コロナ不況の経済テコ入れ策で欧米人の多くが失業手当をもらい続けているため人手不足が解消されず、米国で民主党政権の傘下で組合が強くなったことも流通網の崩壊の長期化につながっている。人手不足と流通網の崩壊に加え、10月に入って中国と米欧で急なエネルギー不足が不可解に発生し、世界的なインフレが加速している。インフレはこれから1-2年は続きそうだ。インフレが長引くほど、QEを縮小(テパリング)すべきだという要求が、米欧で中央銀行群に対して強まる。米連銀などがQEを縮小すると、株や債券が急落して金融システムの崩壊につながる。 (Here's The Truth Behind Biden's 24/7 Port Operations Pledge) (世界的なインフレと物不足の激化) QEは、リーマン危機で崩壊した金融システムを植物人間的に延命させるために始まった。本来は民間の投資家が株や債券を買って繁盛させる金融システムを、中央銀行がお金を刷って株や債券を買って蘇生しているかのように見せかけるQEは、とても不健全な政策だが、専門家やマスコミなど権威筋はそれを指摘せず無視してQEを拡大してきた。QEは当初数年で行き詰まると思われていたが、誰も不健全性を指摘せず、リーマン以前の健全な状態が戻っているかのような幻影が定着するなかで、金融システム全体がQEの資金で延命し続けて崩壊しなかつた。 (ニセ現実だらけになった世界) (金融を破綻させ世界システムを入れ替える) 金融システムは延命すれば良いというものでない。リスクや成長力が正確に判断されて金利や株価に反映され、債券や株で作られた資金が実体経済の成長にうまくつながるのが健全な金融システムだ。しかし実際は、リーマン危機で潰れた金融システムをQEで見かけだけ延命させてしまっており、金融システムは機能不全なままだ。米欧日の実体経済はリーマン危機後ほとんど成長していないのに、GDPなど経済統計を当局が不正に歪曲して成長しているかのように見せかけ、それとQEによる見せかけの金融システムの繁盛を合体させて、この10年あまりの世界経済がインチキに演じられてきた。これは巨大な不正だ。 (The Problem Is No Central Bank Can Bail Out The Physical Economy From Shortages) 世界の実体経済を成長させ続け、人類の生活を向上させていくのが、米国覇権を運営する欧米エリート(エスタブ、権威筋)の根本的な役目であり、彼らはリーマン危機まで私腹を肥やしつつもこの役割を果たしてきた。しかリーマン危機後、金融と実体経済のシステムはQEに頼って不正に運用され、見かけのインチキでない実際の経済成長は米欧日など先進諸国で実現されていない。これは欧米エリートや米国覇権のシステム的な自滅である。いずれ起きるドル崩壊がまだおきていなくても、プーチンが言うとおり欧米は自滅策をやっている。人々に幻影を見せる今のやり方で4半世紀ぐらいは延命できるかもしれないが、いずれドルや欧米の実体経済や米国覇権の崩壊が起きる。不正だから倫理的に良くないという話よりも前に、経済成長を実現しないやり方を長期に放置するのは資本の論理に反しており、欧米エリート(資本家)が望むところでない。人類全体の生活を良くして消費者の総人数を増やし、商品がどんどん売れるようにするのが産業革命以来の資本家の目標であり、資本の論理だ。QE依存は資本の論理に反する自滅行為だ。 (FOMC Minutes Confirm Tapering Begins Mid-Nov or Dec At $15BN Monthly, Several Preferred "More Rapid" Bond-Buying Cuts) 米国で覇権運営を担当する諜報界の上層部(深奥国家)では大戦後の当初から「資本と帝国の相克」があった。米国自身のエリート層(ロックフェラー家など)は資本の論理に沿って、世界で発展できる部分を最大化するために国際的な対立構造をできるだけ減らす勢力均衡型・多極型の世界体制を好む多極主義で、それがヤルタ体制からの国連安保理常任理事会の5大国制度に現れていた。大戦で米国に覇権を譲渡して延命できた英国は、米国を牛耳って覇権を隠然と維持する帝国の論理に沿って、米英仏と中ソを対立させる冷戦構造を作って多極型を破壊した。それ以来、米国の世界戦略は資本と帝国の相克が続いている(ロックフェラーとロスチャイルドの対立とも言える)。ニクソンの金ドル交換停止と米中和解で多極派(資本側)が巻き返して冷戦を終わらせ、対抗して英国側は85年からの金融自由化で米英覇権を金融化し、さらには01年に911事件を起こしてイスラム世界を敵とする「テロ戦争」の第2冷戦構造を作った。テロ戦争は、イスラエル系の好戦派のふりをした多極派のネオコンによって過激に稚拙に展開されて20年がかりで失敗した。そして、冷戦後の金融覇権体制を自滅させたのが08年のリーマン危機とその後のQEだった。 (資本の論理と帝国の論理) (米国が英国を無力化する必要性) リーマンブラザーズはうまく救済すれば倒産させる必要がなく、金融危機は軟着陸できたのに、それはなされず、むしろ金融デリバティブ(CDS)の総元締めだったAIGまで潰されかけた。当時の米金融当局の上層部には金融システムを自滅させたい多極主義者がいた。彼らは、米国が金融覇権をふり回して途上諸国にカネを貸した挙句に破綻させて返済を迫るやり方で途上諸国の発展を長期に阻害する「帝国の論理」に基づく覇権行為(ワシントンコンセンサス)をできないようにするため、リーマン危機をわざと悪化させたと考えられる。彼らは、目先の金融システムをうまく回すことよりも、長期的な資本の論理を重視した。悪どい借金取り政策や、無法な政権転覆など、米国が展開する各種の覇権行為がこれみよがしに偽善的であるのも、隠れ多極主義者の仕業と考えられる。 (米金融界が米国をつぶす) (田中宇史観:世界帝国から多極化へ) リーマン危機で米国の金融システムがいったん破綻しても、その後うまく再生策がとられていたら、米国の債券金融システム、ひいては米金融覇権は蘇生し潰れなかっただろう。だがリーマン危機後、米連銀など金融当局はQEによって金融を見かけだけ延命したが、実際に買っている資金はほとんどQEだけという死に体の状態になり、QEの終わりが米金融覇権やドルの終わりになる無残な事態になっている。QE自体が隠れ多極主義的な政策だ。米覇権が崩壊したら中国がその後の多極型世界を仕切り、これまで米英から人権外交などによって発展を阻害されてきた途上諸国が発展する資本の理論に沿った多極化のシナリオがしだいに明確になっている。資本家を倒した革命党の中国共産党が資本家のために資本の論理を進めるのは皮肉だが、以前からの現実である。 (世界資本家とコラボする習近平の中国) (米国の多極側に引っ張り上げられた中共の70年) そもそも、米欧日など先進諸国の経済成長は1970年代から鈍化しており、だからこそニクソンは資本の論理に沿って金ドル交換停止で米覇権を自滅させ、冷戦終結で多極化を進めようとした。しかしあれ以来、帝国の側はウォーターゲート事件でニクソンを始末することに始まり、何やかやで50年も米覇権を延命させてきた。ドルを潰す隠然策であるはずのQEも、いくらやっても行き詰まらず延命している。帝国の側はマスコミを通じて人類に幻影を軽信せる技能を持っている。人々がリスクを感じない仕掛けが維持されている限り、資金逃避も金融危機も起こらない。 (Now A US Govt Official Is Telling Us That Supply Chain Nightmares Could Potentially Last For "Years") 仕方がないので、隠れ多極(資本)の側が習近平の中共とこっそり組み、次のダイナミックな策として起こしたのが、2020年初めからのコロナ危機だった。新型コロナで最初に被害を受けたのは中国だったが、その後は欧米の方が長期のひどい打撃を受け、最終的にコロナ危機は中国よりも欧米、とくに米英豪などアングロサクソン諸国に大きな打撃を与えた。諜報界の隠れ多極の側と中共は共謀して国連WHOを動かし、各国政府に加圧して、新型コロナに感染してない人に感染者のレッテルを貼る偽陽性を多発するPCR検査を使って感染拡大を誇張し、世界的な危機を捏造している。アングロサクソンなど欧米諸国は、WHOに加圧されて超愚策な都市閉鎖を延々と続けて経済が自滅し、効かない(というよりコロナ自体が誇張された病気なので無意味な)ワクチン接種の義務化で人々を怒らせ、いずれ全体的なインチキが露呈すると既存のエリート支配の政治体制が崩れる。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機) (Guterres and the Great Reset: How Capitalism Became a Time Bomb) 欧米諸国は、2大政党制のどちらの党が政権をとってもエリート支配が続き、エリートたち(エスタブ)が諜報界の傀儡として米国と同盟諸国による覇権体制を運営してきた。コロナ危機が長期化すると欧米で捏造が露呈し、国民がエリート政治を信用しなくなり、諜報界の傀儡でなく覇権運営を拒否する2大政党の外側の勢力がポピュリズムを使って政権を取るようになる。米国のトランプ大統領はその最初の例だった(当選はコロナ前だが)。トランプはすでに共和党を乗っ取っており、たぶん2024年の選挙で復権してくる。コロナ危機が長引くほど、欧米は有権者の怒りによってエリート政治が崩れ、覇権や同盟国体制を運営する勢力がいなくなって機能不全になり、覇権崩壊が進む。エリート支配の崩壊でアングロサクソン諸国内の結束も失われる。国際的な人的交流が絶たれ、諜報界の英国側は身動きが取れなくなって弱体化している。コロナの超愚策は、米国の覇権崩壊と多極化を目的に、中共と多極側が欧米にやらせている。中国自身はさっさと経済回復し、コロナの策を人民管理に使って独裁を強化している。コロナは隠れ多極主義の策である。 (ワクチン強制も超愚策) (How Democracy Ends) 米国ではコロナ危機で起きた大恐慌の経済的な穴埋めを、QEで作った政府資金に頼っている。コロナはQEの負担を急増した。それてもQEは潰れずに続いている。多極側は、コロナを起こしてその経済被害をすべてQEで穴埋めする構図を作ればQEの負担が過大になってドル崩壊に至るだろうと予測したのかもしれないが、そのとおりにはならず、QEが過激に増えてもマスコミなどが危険を報じないので信用不安にならず延命し、バブル膨張が続いている。 (すべてのツケはQEに) (Supply shortages aren’t unintentional – they’re actually planned) 仕方がないので、多極側が米国覇権を潰すための次の策として最近起こしているのが、インフレ悪化とエネルギー危機だ。多極側は、あとひと押しで米覇権が潰れそうだと思っているのか、矢継ぎ早に米覇権を自滅させるためのダイナミックな策を次々と繰り出している。世界的なコンテナや貨物船の需給の逼迫が続いているが、コンテナや貨物船は中国が世界への供給を独占してきた。中共がその気になれば、今起きているコンテナや貨物船の逼迫を引き起こせる。エネルギー危機も、石炭や石油の備蓄を大量に持ち、中東の石油ガス田の利権も急増している中国が真っ先に突然の石炭石油不足に陥ったのは奇妙だ。信じる方が馬鹿だ。中共は意図的にエネルギー不足を演出している。 ("The Revenge Of The Fossil Fuels") (UK's "Chicken King" Warns: The Era Of Cheap Food Is Over) 中国はコロナの時も真っ先に打撃を受けたが、その後中国経済はどんどん復活し、結局のところコロナは中国の台頭と欧米の落ち込みを引き起こした。今起きているエネルギー危機や世界的にインフレも、初盤だけ中国がひどい目にあい、最後は欧米の弱体化や覇権崩壊と中国の台頭につながるのでないか。同じバターンが繰り返されている感じがする。中国では9月以来、不動産業の恒大集団の経営難を皮切りに金融システムが自滅的に打撃を受けている。これも中共は、恒大をなかなか救済せず、不動産業界だけでなく銀行界まで潰れてもかまわないという姿勢をとっている。こちらも中共が意図的に引き起こした危機っぽい。これから中国の金融危機が悪化して米欧に飛び火し、最後は中国よりも米欧に大きな被害を与える多極主義のパターンでないか。 (恒大破綻から中国の国家リスク上昇、世界金融危機への道) (Kraft Heinz Warns Shoppers 'Get Used To Paying More For Food') (中共は、究極の人民管理システムとして、現金を廃止して中央銀行アプリ内のデジタル人民元を通貨にして、既存の銀行口座も廃止して中銀アプリの口座に替える策を進めている。だから中共は銀行が潰れてもかまわない、むしろ銀行を汚職の濡れ衣などで潰そうとする姿勢をとっている。現金と民間銀行の口座を廃止して当局のデジタル通貨に替える究極の支配強化策は欧米でも検討され始めた。中国が今後の独裁的な国家体制の世界的な模範になり、欧米がそれについていく絶望の多極型が始まっている。次の4半世紀で具現化していきそうだ。この流れに落伍している日本はひそかに賢明だ) (通貨デジタル化の国際政治) (End Banking as We Know It?) (Gensler To Wall Street: Prepare For The "Everything" Crackdown) いまや多極化は中国のスローガンになっている。グーグルで「multipolarization」をニュース記事検索すると、人民日報や新華社など中共の英語版の社説ばかりが並ぶ。数年前までこんなことはなかった。習近平の中共は、多極化の推進を国家戦略にしている。多極型の世界機関としてBRICSやG20、上海協力機構などがある。BRICSのうち中国とロシアは仲が良く多極化を推進し、中露主導の上海機構もイランを入れてうまく機能しているが、BRICSの他の大国であるインド、ブラジル、南アフリカは中国と疎遠で、多極化に乗っていない。BRICSやG20は機能していない。しかしいずれ米国覇権が終わると、世界は多極型の体制で行くしかなくなり、諸大国の態度も変わる。 (multipolarization - Google 検索) (How the West Adopted China-Style Lockdowns) リーマン危機で崩壊した金融システム(米金融覇権)を再建させず不健全に延命させて自滅に向かわせているQE。その後QEと米国覇権が意外と長く続いているので、欧米経済を自滅させる追加策として始められたコロナ危機。コロナ恐慌を起こして穴埋めにQEを大幅増額させたのにまだQEが潰れないので、欧米経済をさらに潰す策として追加されつつある流通崩壊とインフレ、エネルギー高騰、そしてこれから起きそうな食糧難。これらの多重な危機はいずれも米国(欧米)の経済覇権を壊すための多極化策として、米諜報界の多極側と中共が共謀して引き起こしている。多重危機は、米国覇権が崩壊するまで続く。 (How long will it take to Normalise, and what will Normal look like?)
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