恒大破綻から中国の国家リスク上昇、世界金融危機への道2021年9月21日 田中 宇9月20日、中国の大手不動産会社である恒大集団の経営難がひどくなって利払い不能の倒産状態になったことから、香港株が暴落し、それが米国など世界中の株価暴落に発展した。恒大の破綻は前回の記事に書いたので、予測どおりの展開だ。恒大だけでなく中国の不動産業界全体、そして不動産業に資金を貸している中国の金融界全体が、信用低下や貸し倒れの急増で信用リスクが上昇し、危機になっている。これも想定の範囲内だ。恒大が引き起こす金融危機の大きな影響が中国の国内だけにとどまっている限り、大した問題でない。前回記事に書いたように、習近平は以前から中国の金融バブルを積極的に崩壊させ、中国の金持ちをへこませて貧富格差を是正することで、自分の独裁体制への大衆からの支持を増やすポピュリズム策をやってきた。今回のような中国の金融バブルの崩壊は、中共の習近平独裁を強化する。マスコミは「中国が金融崩壊すると習近平の独裁も潰れる。ざまあみろ」という感じの報道をしているが、その見方は間違っている。 (Asia's Largest Insurer Hammered As Investors Sell First, Don't Bother To Ask Questions) 恒大破綻の主な影響が中国国内にとどまっていれば問題ないが、もし中国の金融危機が米国など世界に連鎖していくと大変なことになる。米国(米欧日)は2008年のリーマン危機で崩壊した金融システムを中央銀行によるQE策(過剰造幣)によって延命させており、中国のバブル崩壊が本格的に米国などに波及すると、QEで異様に膨張した金融バブルが崩れ、米国の覇権を支えるドルや米国債の崩壊に発展しかねない。中国のバブルは習近平が積極的に潰してきたので大したものでない。共産党内の他の部分が習近平の策を無視してバブルを膨張させ儲けてきたが、それも今回の崩壊で終わる。対照的に米国側(米欧日)は中央銀行やマスコミ権威筋などが積極的にバブルの存在を隠しつつQEを延々と続けてバブルを膨張させ、株高からコロナ支援金、失業手当などのすべてをQEのバブルで支えてきた。習近平は自国のバブルを潰したいが、米国側は自分たちのバブルを潰したくない。中国のバブル崩壊は習近平を強化するが、米国側のバブル崩壊はすべてを喪失させる。 (The Big Short Michael Burry Warns China’s Evergrande Debt Crisis Potential Meltdown!) 9月17日の前回記事で、中国のバブル崩壊が米国側に波及して世界化する可能性は低い、と書いた。しかしその後、9月20日に、恒大破綻の可能性の高まりを受けて、米国など世界の多くの株価が暴落した。21日も株価は下がっている。恒大の破綻は世界に波及している。とはいえ今後、米欧日の中銀群がQEで造幣して株式市場に注入して相場を反発させれば、米国側のバブル崩壊の本格化は防げる。経済マスコミはいくらでも歪曲報道でき、多くの読者がそれを軽信する。「中国はバブル崩壊しているが、米国側は問題ない」というウソの構図を延々と続けられる。 (Bank Meltdown Is Coming To China As Evergrande Crisis Triggers Commercial Real Estate Collapse) 真の問題はそこでない。新たに起こってきた真の問題は、中国の国家信用リスク(ソブリンリスク)の上昇である。中国の国債のリスクを示すCDS(債券破綻保険の保険料率)が9月20日から高騰している。中国への経済依存度が高い韓国などのCDSも同時に高騰している。中共は金融危機を意図的に放置しそうなので、中国の金融危機は今後しばらく続く。中国の国家リスクが高い状態も今後しばらく続くことになる。これが長期化するほど、一帯一路など中国側・非米側の新興市場諸国の国家リスク、CDSが広範に上昇する事態になる。これまで新興市場諸国の国家リスクが上昇する危機は何度もあった。新興市場に投資されていた資金が流出して危機回避のために米国債に流入し、新興市場が潰れるほど米国側が安泰になる構図だった。この構図が今回も繰り返されるなら、中国が潰れて米国(米欧日)が安泰になり、米国側の中国敵視の人々が喜ぶ話になる。 (The Ultimate Contagion: China Sovereign Risk Is Starting To Blow Out) (China 5 Years CDS) しかし今、世界の製造業の最大の地域は中国だ。実体経済の消費の面でも、米国側が収縮し、中国側が拡大している。世界の実体経済は、製造も消費も中国側が大きくなっている。米国側は金融バブルによって大きく見えているだけだ。世界経済は、金融面が米国側、実体面が中国側に分離する「米中分離」の状態になっている。以前は、中国など新興市場が資金面で米国側に依存しており、新興市場のCDSが上昇して米国側から投資されていた資金が逃げ出すと、新興市場の経済が破綻してしまっていた。新興市場諸国は、米国側から高利回りの資金を借りざるを得なかった。だが今は違う。中国がお金持ちになり、新興市場諸国にお金を貸している。中国は米欧から金を借りる必要が減っている。中国自身のCDSが高騰しても、それは中国が米国側から金を借りる際のリスクの高騰だ。中国が自前の資金を一帯一路など新興市場諸国に金を貸すときは今後も低利でやれる。金融面でも米中分離が進んでいる。 (What could an Evergrande debt default mean for China and beyond?) 中国の金融バブルの崩壊を習近平が放置して長期化するほど、世界経済の半分を占める実体経済の部分がへこんだ状態になる。これは、米国側の実体経済を担当する企業の経営不振をひどくする。恒大破綻の懸念から世界の株が暴落した9月20日、米国で下落が大きかった株の銘柄は、キャタピラーやボーイングといった実体経済側の影響を受けやすい企業や、中国市場で儲けてきた企業群だった。中国の金融崩壊は、世界の実体経済をへこませ、米国側の金融バブルを維持するためのQEの負担を増大させる。中国の金融崩壊が米国など世界に波及する可能性が高まっている。コロナ危機は中国を潰すはずが米欧を潰している。これが最初からの習近平の意図であるとしたらどうだろう。習近平は今回の金融危機でも、中国が自滅するふりをして米欧のQEバブルを潰す流れを作ろうとしている可能性がある。 (Futures Slide, Europe Tumbles As Evergrande Contagion Shockwave Goes Global)
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