QE減額はウソっぽい2021年12月11日 田中 宇米連銀(FRB)がインフレ対策と称し、QEを減額するテーパリングの開始を宣言してから1か月が過ぎた。QEは、ドルを増刷して債券や株を買い支える不正な金融相場のテコ入れ策だ。08年のリーマン危機で崩壊したままの米国中心の債券金融システムを蘇生したかのように見せるために開始され、2020年にコロナ危機開始で暴落した株価をテコ入れするために増額された。米欧日の株や債券のほとんどが中央銀行群のQE資金で買い支えられる状態になって久しい。米連銀がQEを減額するテーパリングの話をしただけで株価が暴落するはずだ。 (QEをやめさせる) (Stocks, Bonds, & Cryptos Crushed As Powell Threatens Accelerated Taper) 11月3日に米連銀がQE減額を決めた後、株価は逆に急騰した。これは連銀がQE減額について事前に十分な根回しをしてショックを取り除いていたからに違いないという話になり、QE減額が本格化し始める12月に暴落が起きるはずだという「12月暴落説」がオルトメディア側で流れた。(近年は金融でも他の事象でも、上からの歪曲が激しくなりすぎたのに加え、歪曲に同調せよという上からの圧力も強まって屈したマスコミは、合理的な分析や予測を流さなくなった) (Ignore the Manipulations… Another Bloodbath is Coming) (Two Reasons Why The Market Could Collapse In December) 12月に入って案の定、株価が下がり出した。長期米国債の金利も下がり、株価の暴落を恐れた投資家が、株から米国債に資金を逃避している感じがうかがえた。やはりQE減額で株価が暴落していくのだ、という感じが充満し始めた。恐怖指数のVIXも急上昇した。 (The Stock Market Bubble Has Finally Burst: The December Crash Cannot Be Stopped Anymore!) (US10Y) ところが、12月6日からの第2週に入ると株価が力強く反騰し、米国債の長期金利の下落も止まって上昇に転じた。VIXも下がった。これは、金融危機が始まっていったん急落した相場が、そのあと理由もなく大きく反騰して危機が消えてしまう「メルトアップ」の現象だった。暴落(メルトダウン)が起きるはずの時に、反対方向の高騰(メルトアップ)が起きる。分析不能な驚きだが、QE開始後の10年あまりの期間にメルトアップが無数に繰り返されてきた。人々はもう分析をやめて思考停止し、また上がるだろう、としか思わなくなった。 (Market Is "Even Crazier" Now Than During The DotCom Boom) メルトアップは要するに、危機で暴落しかかった市場に連銀(など中銀群)がQE資金を大量に注入して反騰に転じさせ、危機を消失させる(不正な)策略だ。QE資金はこっそり注入され、連銀の不正な策は露呈しない。連銀(を支配する米金融界)の傀儡であるマスコミや金融専門家は、反騰の理由がQEの不正資金であると言わず、何か別の理由を「解説」してみせる。マスコミや専門家と違う分析を言う人々は「間違った妄想を語る無知な素人」とレッテル貼りされて終わる。連銀の不正は、マスコミ権威筋の不正な情報拡散によって隠される。 (ドルを犠牲にしつつ株価を上げる) (Fed Issues Stock Market Warning As Valuations Surge) 残りの12月中に再度の株価急落が起きても、数日後にメルトアップで消されるだろう。12月暴落説は「はずれ」になりつつある。しかし、この事態の重要な本質は「12月暴落説のはずれ」でなく「減額されたはずのQE資金がいまだに潤沢に存在し、隆々としたメルトアップを実現していること」つまり「米連銀はQEを減額していると言っているが、どうやらそれはウソで、実は減額などしていない」ということだ。連銀の資産総額が縮小傾向でQEの減額を示していても、ウラの簿外でこっそり「裏QE」をやって表裏の総額が減っていないことは十分ありうる。連銀は事前に米金融界にの裏のからくりを話しておくことで、表向きのQE減額が始まっても金融界は慌てず、平然とメルトアップに協力している。 (The Fed - Factors Affecting Reserve Balances) 金融市場が主に民間の需給で動き、金融界がそれで儲けていたリーマン危機以前なら、この手のウソや不正は市場を壊すものとして金融界から反対され、やめさせられていただろう。しかし、もうそのような天然の金融市場は存在しない。市場はとっくに死んでいる。今あるのは、金融市場のふりをした連銀(など中銀群)のQE資金注入だけである。民間金融界は、そのおこぼれをもらって延命している。民間の需給に賭けて儲けようとするヘッジファンドなどは大赤字で、閉鎖や引退を余儀なくされている。民間金融界は連銀のウソに付き合っていくしかない。 (Goldman: Are We Starting To See What The "New Normal" Looks Like?) こうした巨大なウソの体制が、金融システムだけであるなら、ウソを是正しようとする動きが政界などから起きてくるかもしれない。しかし今は金融界だけでなく、インフレが悪化しているのに無視される実体経済界、コロナ危機や温暖化人為説のウソだらけな医学や学術界、人権外交やイラン核問題などのウソや濡れ衣にまみれた外交界、2020年の大統領選の不正が放置される米政界、情報独裁がひどくなるネット業界など、思いつくほとんどすべての分野で、巨大なウソの体制が、表向きウソの存在が否定されつつ平然とまかり通っている。世の中は、上の方に行くほどウソだらけだ。下の方は歪曲情報漬けで軽信させられている。米連銀がQEを縮小するふりだけして裏でこっそり満額やっていても「このぐらいみんなやってるよ。何が悪いんですか」という感じだ。コロナのウソに比べたら、ドルのウソは大したことでない、とも言える。 (The Fed Admits It Has Lost Control) それに、そもそもQEの減額によって金融システムの腐った事態を改善しようとすること自体が実現不能だ。QEは不健全だが、リーマン後の金融システムのほぼすべてがQEであり、やめられるものでない。QEをやめて、金融システムを、実体経済の成長に先行投資して儲ける民間需給主導の健全な状態に戻すとしたら、まず最初に、米国中心の金融システムの規模が今の半分とか3分の1に縮小することを容認せねばならない。いま人類(主に金持ち)が持っている金融資産(債権)の半分とか3分の2が不履行にされ、債券や、ひょっとすると紙幣までが紙切れになる。この大崩壊で、資産を最も失うのは金持ちだが、生活に最も打撃を受けるのは貧困層だ。このような巨大なバブル崩壊は、容認できるものでない。大崩壊はいずれ起きざるを得ないものであるが、できるだけ先延ばしした方が良い。そのような考えで、延命策であるQEが延々と行われている。先延ばしされるほど最終的な崩壊が大きいものになるが、そんな先のことは考えない方が良い。 (The IMF Warning Of "Economic Collapse" Should Get Headlines) 金融界や米政界では今年初めぐらいから、QEを減額せよという米連銀への圧力があった。金融の健全化と、米国で悪化するインフレへの対策としてQE減額が語られてきた。しかし、すでに述べたようにQEを減額するとまず大崩壊につながる。金融の健全化は遠い先にある目標でしかなく、現実的でない。米国のインフレも、ドル増刷と無関係な、流通網の中のボトルネックの(意図的な?)悪化によって引き起こされており、QEをやめてもインフレは止まらない。連銀へのQE減額の圧力(やインフレの意図的な悪化)は、むしろドルを自滅させようとする米諜報界の多極主義的な勢力の謀略に見える。こうした謀略の圧力に対して、米連銀は「QE減額をやったふり」の謀略で呼応したわけだ。これは、米国の覇権を潰そうとする勢力と、延命しようとする勢力との暗闘である。米連銀とドル(米金融覇権)は、今のところ暗闘に勝っている。 (It's The Taper, Stupid!) (世界的なインフレと物不足の激化) QEの長期化によって、米国などの金融バブルはどんどん肥大化し、株価は誰が見ても高すぎる状態だ。米企業の経営者たちは、自社株のバブル崩壊を予測して大量に売っている。ヘッジファンドも儲けられなくなり逃げ出している。インサイダーやヘッジファンドが売った株は、すべて個人投資家が買っていることになっている。個人投資家は馬鹿なのか??。そんなことはない。買っているのは、個人投資家のふりをしたQE資金である。人々は皆、もうすぐ株が暴落すると思っている。しかし、そう思って売られた株のすべてを米連銀がQE資金で買い、相場をメルトアップさせる。暴落は起こらない。 (Insiders Are Dumping Stocks At The Fastest Pace In History) (Hedge Funds Are Liquidating At A Furious Pace.... And Retail Investors Are Buying It All) 来年になると、米欧や途上国など各地でインフレがひどくなり、人々が生活苦にあえぎ、あちこちで暴動や略奪や貧困露呈が増える。米国は民主党による警察縮小と人種対立の扇動によって犯罪や暴力が増え、インフレやコロナの都市閉鎖と相まって経済の崩壊感が強まる。実体経済が崩壊すると株価も暴落するはずだが、そうはならず、QEによって高い株価が維持される。無茶苦茶な話だ。だが暴落は起こらない。 (Mainstream Economists Are Struggling To Hide The Incoming Economic Collapse) 今回のメルトアップは、米連銀など中銀群が、これまでの長いQEによってどこかに貯め込んだ巨額資金を放出することによって起こした可能性もある。連銀のQE減額はウソでなく本当で、メルトアップ用の資金は新たな裏QEによって作られたのでなく、以前に連銀が貯め込んだ資金が使われた、という推測だ。11月の記事はこのシナリオで書いた。この場合、以前に貯め込んだ資金が底をついたらメルトアップを起こせなくなり、暴落が現実に起きる。それまで3-6か月ぐらいだろうか。このシナリオだとドル崩壊は近い。 (QEをやめさせる) (Bill Gross Warns Investors Have Been Lulled Into "Dreamland" By Central Banks) しかし、上の方が描き出す世界の多くがウソ(幻影)である今の時代に、ドルや金融システムのあり方だけが禁欲的にウソでなく誠実に行われているのか??。コロナも民主主義も気候もウソなのに。QE減額は金融の滅亡になるとわかっているのに。連銀がやり始めたQE減額は、誠実に行われていると考えにくい。政治的圧力をかわすためのウソの演技である可能性の方が高い。最近の金融の動きから私が得た直感も、まだ隆々としたQEが続いている、というものだ(今回の記事は、この直感を受けて書いた)。どちらにしても、連銀がQE減額を誠実にやり出したのなら、来年前半のうちに暴落が起こりやすくなるので判別できる。 (Only A Banking Crisis Or Higher Rates Can Stop Inflation Now) ドルが崩壊すると、資金が金地金や仮想通貨に逃避し、金相場やビットコイン相場が上がる。金地金は「バーゼル3」の規制強化により、最後に残っていたロンドンで、銀行が信用取引を使って相場を下落させることが来年の元旦からできなくなる。ドルの究極のライバルである金地金の相場は、QE資金を先物や信用取引に入れて下落させられ、上昇が抑止されてきた。来月から抑止が不能になり、金相場が急騰していくのでないか、と言われている。 (金融の大リセット、バーゼル3) (Gold Breakout Imminent!) しかし、これもQE減額のウソのトリックと同様、バーゼル3の規制強化の網をくぐってこっそり抑止が継続され、金相場は今後もずっと1オンス2000ドル未満の領域に幽閉され続ける可能性がある。今の世界は、新型コロナの偽陽性や死因の意図的な誤診に象徴されるように、巨大なインチキがあちこちでこっそり平然と行われている。金相場の上昇抑止など朝飯前だ。バーゼル3完全発効後の1-2月に上昇しなければ、QEが力尽きるまで幽閉が続きそうだ。 (Davos Is Making The Central Bank Case For Gold) 「古臭くて野蛮」な金地金よりも、スマートな仮想通貨こそドルの代替資産だという見方(喧伝)がオルトメディア側にも流布している。今年の米覇権(ドル)の衰退感の強まりとともに、ビットコインは最高値を更新した。しかしその後は下がり、ドルを延命させたい米金融界によって1BTC=4万-6万ドルの範囲に押し込められている感がある。QEが行き詰まってドルの崩壊が起きるまで、仮想通貨も金地金も上昇抑止の力が加えられ続ける。 (Bitcoin Competes With The US Banking System) 地金という物体の価値がある金地金に比べると、仮想通貨は実体が「概念」であり、ドルや金融界の側からの(騙す目的の)資金注入によって価値を与えられており、詐欺の臭いする。かつて共産主義(という詐欺)がもてはやされたように、近年は仮想通貨や温暖化対策やゼロコロナやデリバティブがもてはやされている、と言ったら(軽信者様方から)叱られるかな。地金礼賛者も詐欺っぽいけど。 (In Low Key Move, Singapore’s Central Bank Adds 26 Tonnes To Its Gold Reserves)
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