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ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る

2022年4月30日  田中 宇

4月29日、ロシア政府が「金資源本位制」の導入を正式に検討していることを、大統領広報官が明らかにした。4月26日にプーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフ安保会議書記が、ロシアの新聞へのインタビューの中で、ルーブルと、金地金や資源類の価格を固定(ペッグ)する金資源本位制の導入に向けて動いていることを明らかにした。パトルシェフの発言を受けて、記者団が大統領広報官に質問し、露政府が金資源本位制の導入を検討していることが正式な話になった。パトルシェフは、ロシアだけでなく、旧ソ連諸国(EAEU)、上海協力機構、BRICSといった合計35億人が住む非米諸国が金資源本位制に移行していく可能性を指摘した。 (Putin discussing pegging the rouble to gold, Kremlin says) (Kremlin Says Russia Discusses Pegging Ruble to Gold, Commodities

ロシアが金資源本位制の導入に向けて動いていること。ロシアだけでなく非米諸国の全体が金資源本位制を採用しそうなこと。世界が米国側と非米側に分裂し、長期的に米国側は金融破綻して非米側が台頭しそうなこと。それらはウクライナ開戦以降、私が何度か書いてきたことでもある。最初は、3月中旬にクレディスイスのゾルタン・ポズサーが「ブレトンウッズ3」として、金資源本位制をうそぶく感じで予測していた。 (現物側が金融側を下克上する) (Credit Suisse Strategist Says We're Witnessing Birth of a New World Monetary Order

3月末からロシア中銀が国内銀行界から固定相場(1g5000ルーブル)で金地金を買い始め、金本位制への移行が感じられてはいたが、ドル決済から追放されたので苦肉の策だという揶揄も米国側から発せられていた。しかもその後、露中銀は固定相場を撤回して「交渉による時価での買い取り」に後退した。しかし今回、露政府が本当に金本位制を画策していることを認め、具体化への動きが再確認された。これまで非公式だった金資源本位制の導入が今回正式なものになったことは、この導入がうまくいきそうだと露政府が考えていることを感じさせる。金本位制の導入は人類にとってニクソンショック以来51年ぶりだ。 (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア

金資源本位制の具体的な仕組みはまだ発表されていないが、オルトメディアの経済分析者たちによって推測されてはいる。1バレルの原油の価格を金地金1.2gとかで固定し、これらとルーブルの間も固定相場になる(原油1バレル=地金1.2g=6000ルーブル=100ドルとか)。これらの固定相場はG20などで定期的に見直す(G20はリーマン危機時にG7に取って代わった)。 (Russia's 3-Step Program To Put The Ruble On A Gold Standard) (Russian Ruble Relaunched, Linked To Gold & Commodities

これまで世界の金や資源類(コモディティ)の価格は、ロンドンとNYシカゴなど米英の先物と現物の金融市場で決められてきた。米英の金融市場では、先物や信用取引の機能を悪用して、米英の利害に合致する形で相場が操作されてきた。たとえば米英は、ドルの究極のライバルである金地金の相場を抑圧し、1オンス2000ドル以下に幽閉している。米英は、金や資源類の価格を簡単に不正操作できる。非米諸国が金資源本位制を導入しても、金資源類の価格決定権を米英が握っている限り、米英は非米諸国が決めた固定相場制の金資源の価格を、先物などを使った不正な操作で簡単に急変させ、金資源本位制を破壊できる。金資源本位制がうまく機能するためには、米英が独占してきた金資源類の価格決定権を非米側に移さねばならない。もしくは少なくとも、米英が金資源類の相場を不正操作できる今の金融覇権体制を壊さねばならない。 (暴かれる金相場の不正操作

リーマン危機以来、米英の金融覇権体制を支えてきたのは米連銀(FRB)など中銀群のQE策(通貨の過剰発行による相場操作用の資金作り)だった。QEの資金がなくなれば、米英は金資源類の相場を不正操作できなくなる。昨年末以来、米英中銀はインフレ対策をやらざるを得なくなり、QEをやめる方向に動いている(今のインフレは供給側の原因なのでQEをやめてもおさまらないが、政治圧力としてQEをやめろと言われている)。ロシアは、米国側の中銀群がQEをやめていく時を狙ってウクライナ戦争を起こし、ロシアが中国など非米諸国を巻き込んで金資源本位制を導入していく流れを作った。今後、QE終了が米国側の金融破綻を引き起こすと、米英による金資源相場の不正操作もなくなっていく。 (金融大崩壊への道

(私の史観として言うと、米国の隠れ多極主義者たちがプーチンを誘ってウクライナ戦争を起こし、米国側と非米側が鋭く対立し、ロシアが非米諸国を金資源本位制に移行させ、その一方で米国側はQEの終了で金融破綻し、世界が米覇権体制から多極型に転換していくように仕向けた) (田中宇史観:世界帝国から多極化へ

米国側のうち、日欧の中銀群は相場を崩したくないのでQEをやめていないが、米英カナダの中銀群は、QEをやめるだけでなく、QEで買い込んだ国債などの保有量を減らすQT(資産圧縮)までやろうとしている。中銀の資産圧縮によって市場から通貨を回収し、インフレ対策にするという理屈だ。私はこれまで、米英などの中銀群が本当にQEをやめるのか怪しいと思ってきた。QEをやめたら金融崩壊が必至で、しかもQEをやめてもインフレ軽減にならないのにやめるはがずない、こっそり債券を償却して資産圧縮を演出するのでないかと考えてきた。 (金融大崩壊か不正QTか

英国とカナダの中銀はすでに昨年末あたりから、満期になった国債の償還資金で別の国債を買うロールオーバーを減らして資産を圧縮する「消極的QT」をやっている。4月25日には英中銀が「金融市場の状況が悪いので、QTを積極的にやること(償還前売却)はしばらくやらないかもしれない。消極的なQTは続ける」と表明した。これらを見ると、中銀群のQTは本物であるような感じもする。私が考える不正なQTは、秘密の償却によって得た資金を裏帳簿に回して秘密裏にQEを続ける策であり、市場の状況が悪いときにこそ「インフレ対策が最重要です(相場が下がってもQTやります)」などと言ってウソの演技をしつつ実際は不正QTで相場をテコ入れするものだからだ。 (BOE May Hold Off on U.K. Bond Sales Given Poor Market Liquidity) (Bank of Canada Hikes 50 Basis Points to 1.0%, Starts Official QT. Unofficial QT Already Shrank Assets by 15%

英国系の中銀群が不正をなQTをやっているとしたら、かなり手が込んでいる。手が込んでいたとしても、各国の議員たちが中央銀行の動きに疑問を持って調べたら不正がばれる。5月になると、米連銀もQTについて方針を出す。これから6-7月になっても、株などがある程度下落するだけで金融崩壊にならず、金相場の幽閉も続いていたら、QTはやるふりだけの不正である可能性が高くなる。そうでなければ、QE停止とQT開始で米国側は金融崩壊への道に入る。 (金融大崩壊か、裏QEへの移行か

そもそも隠れ多極主義の観点に立つなら、インフレ対策という間違った名目の政治圧力をかけて米連銀にQE終了やQTを本気でやらせて金融崩壊へと誘導し、同時期にプーチンと米国で猛烈な相互敵視を永続させるウクライナ戦争の構図を作って非米側を米国側から隔離した金資源本位制に移行させて米国発の金融崩壊があまり非米側に悪影響をもたらさないようにしておくことで、経済的に最小限の損失で多極化を実現することができる。このシナリオに立脚すると、不正QTは議員によって調べられてバレて阻止される。だから、いま起きているQE終了やQTは本物ということになる。 (権威筋や米国覇権のゾンビ化

今のタイミングで露政府が金資源本位制に移行することに自信をつけたのは、ロシアが欧州に売る天然ガスをユーロやドル建てからルーブル建てに強制的に転換させる策が成功しつつあるからだろう。欧州人が使うガスの半分はロシアからの輸入だ。欧州人はロシアのガスがないと生きていけない。4月初めにロシアがルーブル払いの強制を宣言した時は完全に拒否していた欧州が、最近しだいにルーブル払いを許容するようになってきた。ドイツもルーブル払いを受け入れた。 (EU, UK to Allow Payment for Russian Gas in Rubles Under Certain Conditions

ウクライナの隣国でロシア敵視の最前線にいるポーランドはルーブル払いを拒否し続けているが4月27日にロシアが天然ガスの送付を止めた後、ポーランドはドイツに頼み込んでロシアから輸入したガスをわけてもらっている。ポーランドは、ドイツを経由してロシアの天然ガスを輸入し続けるインチキをやっているが不十分で、国内のいくつもの地域でガスが止まり、国民が困窮している。同様にルーブル払いを拒否してロシアからガス送付を止められたブルガリアでは、経済界など国民全体が政府に対してロシア側との交渉再開を求めている。ブルガリアのガス消費の9割がロシアからの輸入だ。 (Poland still buying Russian gas) (Bulgarians want Russian gas back

ルーブル払いの強要は、ロシアが欧州を困らせるための策でなく、米国側がロシアから商品を買う時にドルやその傘下のユーロなどを使ってはならず、ルーブル払いでなければならないと米国側に強要する、米国覇権を壊すための策だ。ポーランドやブルガリアに対するガス送付の停止は戦略的な見せしめだ。プーチンは、対露貿易におけるドル使用の拒否・ドル基軸制の拒否を世界に強要している。ロシアを含む非米諸国は、相互の貿易にドルを使わないようになっている。ドル決済を好む米国側に対しては、欧州へのガス輸出を皮切りにルーブル決済を強要していく。最初に欧州へのガスを狙い撃ちしたのは、欧州が対米従属の一環で強烈なロシア敵視をしているくせにガス消費の半分をロシアに依存していて弱いからだ。欧州へのガスのルーブル決済がある程度実現したら、次はロシアが輸出する他の資源類もルーブル払いにしていくだろう。 (ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン) (ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア

ロシアが米国側に対して輸出品のルーブル決済の強要を成功させたら、それを見て中国など他の非米諸国も、自国の輸出品のドル建て決済を拒否し、自国通貨建てで決済することを米国側に求め始める。米欧日が中国から輸入する製品は、すべて人民元決済になるかもしれない。ロシアも中国も、自国を敵視してこない諸国(対米従属でない非米諸国)との貿易では、相手国通貨での決済も容認する(相手国の経済と通貨が貧弱でない場合)。非米諸国の全体で、ドルやユーロはしだいに使われなくなっていく。非ドル新体制への移行期間は2-3年ぐらいか。その間、ウクライナ戦争(の演出、誇張)がずっと続く。どこかの時点でQE終了の効果が出て米国が金融崩壊すると、ドルの基軸制が崩れて非ドル化が急進し、米国覇権が消失して米国側の結束が崩れる。いずれ日本もロシアや中国への敵視をやめて非米側に鞍替えし、中露との貿易が円建てになる。その前に日本は、米国の中国敵視強化に巻き込まれていったん破綻させられるかもしれないが、それ先取りするために、日銀のQE継続で異様な円安の進行が容認される自滅策が敢行されているのかもしれない。 (米欧との経済対決に負けない中露

ウクライナ戦争を起こしたプーチンの最大の目標は、こうした米覇権崩壊と多極化を引き起こすことにある。プーチンは、米諜報界の隠れ多極主義者(多極派)たちと、直接もしくは間接的に結託している。ウクライナが米英傀儡の国となってネオナチ極右民兵団がロシア系住民を殺している状態を解消する「非武装化、非ナチ化」もこの戦争(軍事作戦)の目標であるが、それよりはるかに巨大な副産物的な目標として、米覇権つぶしがある。米国の多極派にとって、今の展開はとても有望だ。おそらく多極派は、事前にコロナ危機を起こして米国側のQEを急拡大させ、米欧の人々がコロナに騙されたことに激怒していずれ自国の政権を転覆する下地も作ってから、プーチンを誘導して今回のウクライナ戦争を起こしている。 (世界を多極化したプーチン

露軍はプーチンの命令で、ウクライナで街を壊さないように、市民を殺さないように軍事行動している。戦後のウクライナはロシアの傘下に戻るのだから壊したくない。しかし米国側のマスコミ権威筋は、多極派(かつてイラク戦争を起こして失敗させたネオコン以来の系統の勢力)の扇動によって、ロシアがウクライナを過激に破壊して無数の戦争犯罪を起こしているという歪曲捏造の報道を繰り返し、米国側の人々を信じ込ませてロシア敵視の傀儡にさせている(コロナでもウクライナでもリベラルや左翼がコロリと騙されて頑迷に間抜けだ)。米国側では、連動して中国敵視も激化している。ロシアや中国への敵視が扇動されるほど、米国側は中露・非米側を強く経済制裁するようになり、米国側と非米側の経済的な断絶がひどくなり、資源類の大半を持っている非米側は米国側に資源を売らなくなって米国側のインフレや物不足がひどくなり、そのうちに米国側は金融破綻も引き起こして潰れていく。 (濡れ衣をかけられ続けるロシア

このような世界的な大転換は従来、何千万人もの人が死ぬ世界大戦を引き起こさないと実現できなかった。2度の大戦は英国覇権を潰すために行われた(英国が辛勝したが)。今回は戦場がウクライナだけで、数千人の市民が死ぬだけだ(今のところ約2千人。今後もあまり増えない)。世界大戦が必要な大転換が、とても効率的に進められている。米国側の人々がマスコミの歪曲捏造を軽信して露中への敵視を強めるほど、米国側が破綻する覇権転換がうまくいく。米国側の人々は、気がつかないうちに貧しくなって没落していく。自業自得だ。だから露政府は、米国側のマスコミ権威筋が過激な歪曲捏造を続けてもあまり訂正せず放置している。 (まだまだ続くロシア敵視の妄想

戦争はモルドバに波及しますよとしたり顔で言ってくる人がいるかもしれないが、モルドバはロシアと仲良くしたいのに米国側が戦争させようとしている。沿ドニエストルの人々は、ロシアと一緒になりたいと20年前から切望してきた。誇張や捏造ばかりのテレビやネットの映像を軽信してはだめだよと言っているのに、「ロシアはウクライナで街をどんどん破壊して市民をどんどん殺しているんだぞ」と言ってくる人もいる。ロシアが濡れ衣を放置しているので、軽信者にわかってもらうのは難しい。 (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?) (Moldova turns down Kiev’s suggestions on Transnistria

QEの終了によって米国の金融が大崩壊してドル基軸が喪失すると、米国側も通貨の立て直しのために金本位制を導入せざるを得なくなる。不正QTが行われず、米連銀のQE再開もない場合、早ければ今年中、遅くとも2年以内に金融崩壊が起きる(2018年に米連銀がQEをやめてQTをしたときは18か月後に金融が崩壊しかけてQEが再開された。今回は当時より市場のQE依存が強い)。金融崩壊の前に金相場が幽閉を解かれて高騰する。これまでの10年間のインフレを勘案すると金相場は1オンス2328ドルになっていなければならないと指摘されているが、まだ1900ドル台に幽閉されいている。インフレの統計値は低めに歪曲されている。幽閉を解かれると、金相場は3000-5000ドルに向かっていく。ドルが崩壊し、金相場をドル建てで考えること自体が適切でなくなる。 (Gold Remains Deeply Undervalued) (Why Won't The Fed Be Able To Shrink Its Balance Sheet?

今年初から始まったバーゼル3の金取引規制で、銀行による信用取引を使った金相場の抑圧が不可能になったはずなのに、あきらかにまだ抑圧が続いている。バーゼル3には抜け穴があるのだろう。金相場は抑圧され続けているものの、昨年までのような暴落は起こらなくなっている。インフレがひどいので現物の金地金に対する需要が大きく、しかも信用取引による相場抑圧の原資であるQEの規模が小さくなっているので下落方向の力が弱まり、2000ドルを突破できないが1900ドル以下にも下がらなくなっている。最後っ屁的なV字暴落はあるかもしれないが、高騰が近い感じがする。世界は金本位制に向かっている。 (Gold Demand Surges In First Quarter



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