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巨大な金融危機になる

2022年10月23日  田中 宇

この記事は「巨大な金融危機になりそう」の続きです。

世界最大級の銀行であるクレディスイスが、ますます危険な状態になっている。同行からの資金流出を埋めるドル資金として、10月第1週から2週連続で、スイス中銀がスワップ協定を使って米連銀からドル資金の供給を受けてきたことを前編に書いた。米国からスイスへ、10月5日には31億ドル、10月12日にはその2倍の63億ドルが注入された(1週間ごとの短期融資の繰り返し)。そのほとんどはクレディスイスの救済に使われたと考えられる(スイス中銀の監督下で、こんな巨額資金を必要とする問題事案は他にないので)。救済金の注入がこの2回で終われば、クレディスイスの危機は山を越えていく可能性があったが、逆に3回目の資金注入が増額した形で行われれば、危機は拡大して同行の破綻や国際金融システムの崩壊になりかねなかった。 (Fed Quietly Sends Record $11 Billion To Switzerland As Dollar Funding Shockwave Crushes Central Banks

そして正念場の3週目。毎週木曜日に米NY連銀が発表するドル資金スワップ情報によると、10月19日には、前週の約2倍の111億ドルをスイス中銀に注入した。これは、クレディスイスからの資金流出の事態が3週連続で悪化していることを示している。同行に対して金融市場が感じているリスクの高さ示すCDS価格(債券破綻保険料)は10月3日に史上最高値をつけた後、下落して9月末の水準まで戻っており、そのことからはクレディスイスの危機が山を越えて沈静化しつつあるように見える。マスコミは、クレディスイスがいくつかの事業を売却する経営再建をうまく進めそうだと報じている。表向き、危機は解決しているように見える。だが、スイスへのドルスワップ注入量の急増からは、むしろ逆に、資金流出が拡大してクレディスイスの危機が悪化していることが見て取れる。 (Swiss National Bank makes another big draw on Fed swap line) (Credit Suisse CDS ease, bonds rise to close in on late September levels

今のところ、米連銀がスイス中銀を経由して用意したドル資金によって、クレディスイスとの取引を解消したい人、金融商品を売りたい人は、無事に引き出し・売却をして現金を手にしている。だが今後もし、用意した資金を上回る引き出し・売却があった場合、対応しきれず債務不履行・破綻になる。米欧の金融市場は全般に、米英などの中銀群が進めている(効かない)インフレ対策としての利上げとQTにより、以前のゼロ金利QE時代のカネ余り状態から、一転して資金不足・資金コストやリスクプレミアムの上昇・流動性の危機に直面している。インフレは悪化し続けているので米連銀は今後も利上げを続け、資金不足はさらにひどくなる。 (Investors should brace: shocks are on the way) (How An Illiquid Dollar Ruins The World

クレディスイスのように中銀群からの資金供給がないと資金不足で破綻する金融機関がこれから増える。中銀群はいずれ対応しきれなくなり、大規模な金融危機になる(というか、今すでに起きている金融危機が激的に悪化する)。リーマン危機以上の債券市場の崩壊・凍結になる。このような展開になる懸念があると、イエレン米財務長官も認めている。英国はすでに国債危機で、金利上昇は今後も続くのだから、トラス首相が辞めても危機は去らない。道化師トラスは英国にとって「(EU離脱よりは小さな)国家破綻への引き金の一つ」にすぎなかった。英国の国債危機が米国の債券危機に発展するのは時間の問題だと、バンカメなど大手銀行の分析者が言っている。 (Hedge Fund CIO: "I'm Growing Extremely Concerned About The Market. We're Close To A Broad Liquidation Point For Markets") (After U.K. Market Blowout, American Officials Ask: Could It Happen Here?

金融危機の悪化をより多くの投資家が予測するようになり、危なそうなクレディスイスからの投資の引き上げが加速している。今はまだ危機がマスコミ報道されていないのに資金流出が増えている。危機が表面化したら破綻に直面し、信用不安が他の金融機関に波及し、米連銀も対応不能になる。次に何か起爆剤になるような金融のショック・破綻が起きたら、大規模な金融危機が表面化する。今は金融全体がギリギリの状態で踏みとどまっている。すでにいろんな相場が危機の様相を呈しているが、信用取引のトリックが生きているので、まだ崩壊的なすごさではない。長期米国債が4%、ジャンク債が9%台、原油は85ドル、金相場は1700ドル。次の起爆剤によって大規模な金融危機になると、これらの相場もトリックの資金が枯渇して歯止めが外れ、激的に動き出すのでないか。 (‘Fragile’ Treasury market is at risk of ‘large scale forced selling’ or surprise that leads to breakdown, BofA says

金融危機が激的に悪化すると、米連銀が利上げQTを止めて利下げQEに転換するのかどうか。転換した場合、それが効き目を持つのかどうか。連銀が転換していったん危機が緩和されても、短期間でぶり返す可能性が高い。利下げとQEは問題解決策でなく応急的な延命策にすぎないことが明らかになるからだ。それに「インフレ悪化が続いているのに利下げQEに戻るな」という政治的な非難が米連銀に浴びせられる(QEとインフレは関係ないのに)。QEゼロ金利策は最初からリーマン後の延命策だったのだが、みんな金融マスコミの詐欺報道を軽信してしまい、リーマン危機は完全に乗り越えられたと勘違いして10余年が過ぎた。 (Marx's 5th Plank: What You Need To Do As The Fed's Credibility Evaporates

米英は間違ったインフレ対策として利上げQTを続けているが、日本とEUの中央銀行はまだQEと低金利の中にいる。日本では、日銀がゼロ金利とQEを続けているので円安が加速している、円安是正のため早く利上げしろと、マスコミなどが日銀を非難している。だが、今もし日銀が利上げやQTを開始したら、英米と同様、日本国債の価値低下(金利上昇)や資金不足による金融危機が起こり、日本の破綻につながる。日本の金融危機は、米欧全体の金融危機の激化・ドル崩壊の引き金を引いてしまう。日銀は、米英の金融危機が激化してドル崩壊が起き、いずれそれらが一段落した後まで、ゼロ金利QEをやめてはならない。これから米国債が危機になると、円ドル為替もどうなるかわからない。半年か1年ぐらい様子見すべきだ。すでに10年以上QEをやっているのだから、1年ぐらい延長しても問題ない。 (Japanese FX Intervention Fails Again As Yen Plunge Continues

QE自体は不健全な延命策だが、米英がQE終了後の大崩壊を引き起こしそうな今のタイミングで、日本がQEをやめるのは大間違いだ。マスコミ権威筋は、リーマン後にQEが開始・継続されている間は何の批判もせず、むしろ頓珍漢に日銀を称賛していたのに、今になって円安是正のためQEをやめろと言い出すのは日本を潰そうとする犯罪組織・詐欺集団である。日本や米国のマスコミは、丸ごと消滅した方が人類にとって良い。ウソの情報が権威を持って流布して人々を軽信させて馬鹿げた事態が各方面で続くよりも、ウソ情報の発信を止めた方が良い。 (意外と正しい日銀の円安放置

ドルといろんな債券と米国覇権が崩壊すると、価値を体現する道具は金地金ぐらいしかなくなる。仮想通貨もあるだろうって??。金融崩壊により、各種の金融商品・債券類が小難しい理屈を駆使して人々を騙してきた詐欺だとわかって信用されなくなった後も、小難しい理屈で価値が喧伝されてきたビットコインなど仮想通貨が人々に信用されるものなのか??。大いに疑問がある。価値の体現方法の先祖返り・原始化が起こりうる。野蛮な輝き。しかし、人類が持つ金地金の大半は、他の資源類の利権と同様、すでに米欧から中露非米側に移っている。中国は、金本位制っぽいイメージをふりまりきつつ、金地金と無関係なデジタル人民元をドルに替わる基軸通貨にしようとしている。新手の詐欺かも。ドル崩壊後の金地金と通貨の関係は、米国でなく中露が決める。世界のマスコミを集めて胡錦涛を議場から連行する「毛沢東ごっこ」の逮捕劇を上演し(中国人にはショック策しか効かない)、自らの独裁権力の強さを中国人民の頭に刷り込んだ習近平が決める。 (Gold Is Migrating From West To East



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