米国の銀行危機はまだ序の口2023年5月6日 田中 宇米国の銀行界は、今年3月にシリコンバレー銀行(SVB)やシグニチャー銀行など3つの中規模銀行が相次いで破綻した。その連鎖で、米国のバブル金融に積極進出していた世界最大級のクレディスイスも破綻してUBSに買収された。 その後最近まで、米銀行界は意外と平穏な日々が続いてきた。先日はJPモルガンが、3月に破綻したファーストリパブリック銀行の資産を買収し、破綻問題が解決したと言われた。もう危機は去ったのだと喧伝され、米銀行株は3月危機以来17%も反騰した。 米連銀の関心事はインフレに戻り、5月4日には0.25%の利上げが行われた。 (What If The Fed Has Lost Control?) (悪化する米欧銀行危機) だが連銀が利上げしたその日、米加州の地方銀行(持株会社)であるパックウエストが、身売りや増資などの生き残り策を検討していると報じられ、破綻間近とみられた同行の株価が1日で60%近くも暴落した。 パックウエストは、3月の銀行危機噴出時すでに「次に危ない銀行群」の1つとして見られていた。同様に危ない銀行とみなされていたウエスタンアライアンスなど、他のいくつかの米地銀の株も5月4日に暴落した。 米国の銀行危機はしだいに大手の銀行へと波及している。「インフレ対策」と称する(間違った)米連銀の継続的な利上げによって債券全体の価格が下がり続け(利回り上昇は債券価値の下落)、銀行危機の再燃が今後も繰り返される。 (Troubled California Bank PacWest Craters 60% On Report It Is Seeking Buyers Or Capital Raise) (Regional Bank Crisis Spreads To Big Banks As PacWest, US Bancorp Tumble, Stocks Dump Amid Widespread Liquidations) 銀行界は、米連銀の利上げに合わせて預金金利を上げていかねばならない。米国民の48%が、銀行は潰れるかもしれないのでお金を預けるのが不安だと思っている。ますます金利で釣るしかない。 その一方で、連動して融資の金利を上げるのは難しい。借り手の企業の利払いが増えて経営難になり、返済不能で破綻しかねない。 預金金利を上げないと預金が流出して銀行が潰れてしまう。しかし、貸出金利を上げるのは困難だ。この板挟みで3月以来の銀行の連鎖破綻が起きている。 (48% Of Americans Are Worried About Their Money's Safety In US Banks, More Than During Peak Of 2008 Crisis) 矛盾を解くには、連銀が利上げをやめれば良い。米国のインフレは、物流の詰まりやウクライナ戦争など「供給側」の原因であり、利上げしてもインフレが止まらない。今のインフレに対して利上げは無意味な超愚策だ。 それなのに連銀はインフレ対策として利上げを続け、銀行界の窮地をひどくしている。大馬鹿、もしくは隠れ多極主義(米覇権潰し屋)的だ。銀行危機が再燃して当然だ。 (巨大な金融危機になる) 銀行界は、利上げを受けた預金流出で破綻することを恐れ、融資を増やさない姿勢になっている。この状態は不況を悪化させる。 米連銀は、利上げを続けると銀行破綻や不況の悪化につながることを知っている。金融界や米政界からも「不況なんだからもう利上げをやめろ」という圧力が増している。 だが米連銀は、隠れ多極派に縛られて(もしくは大馬鹿なので)利上げを継続せざるを得ない(連銀が大馬鹿なわけないけど)。 (Fed chair duped by Russian pranksters) 利上げが金融危機再燃や株暴落の引き金を引かぬよう、連銀はマスコミを使って「そろそろ利上げはやめる」とか「インフレを勘案すると0.5%以上の利上げが必要だが、景気の悪化を勘案して0.25%にした。だから不況にならない」とかいったプロパガンダを撒き散らしつつ、利上げを続けている。 相場を動かす金融界も協力し、利上げが続いて潜在的な金融危機がひどくなっても、危機が顕在化しないですんでいる。 (Fed Hikes 25bps As Expected, Signals 'Hawkish Pause'; Warns Of 'Tighter Credit Standards') 5月4日にパックウエストなど地銀株が暴落したものの、金融システムの危機には発展せず、5月5日には株価が反騰した。米国では短期金利が5.2%なのに長期金利が3.4%という、ものすごい金利逆転になっている。 これらは、金融界と当局が結託して相場を動かした結果だ。彼ら以外の資金の動きが少ない中で、彼らが望む方向でない動きは圧倒され負けてしまう。 長期金利が4-5%を超えて上がると、それは長期債券の価値の大幅下落になり、銀行など債券の保有者が破綻する。それを避けるため、連銀の利上げで短期金利が上がっても長期金利が上がらないよう金融界が資金注入し、金利逆転の状態を維持している。 (Ex-Fed Pres Kaplan Urges Powell To Pause, Warns 'Bank Pain Is Just Getting Started') 連銀によるさらなる利上げなどによって金利逆転が維持できなくなると、銀行が連鎖破綻して金融大崩壊・ドル崩壊に発展する。 金利上昇によって銀行や企業が持っている債券類の価値が下落しても、その下落が会計上の債券の評価額に反映されず含み損の状態になっている限り、赤字として計上されず、破綻に至らない。会計規則上、含み損のままで良い債券が多いので、表向き銀行は健全経営を続けている。 だが、債券類の含み損をすべて損失として計上すると、全部で4800行ある米国の銀行のうち2315行が、現時点ですでに債務超過で破綻の状態だ。スタンフォードの教授(Amit Seru)がそう言っている。 米国の銀行の半分近くが「ゾンビ状態」になっている。 (Half of America’s banks are potentially insolvent – this is how a credit crunch begins) 米国の金利が以前のようなゼロに戻るなら、銀行の含み損は消えて健全経営に戻る。しかし、もうそれはない。インフレは今後もずっと続き、利上げの傾向が続く。 世界経済は米国側と非米側に分割され、非米側はドルを忌避し、米国の債券類も買わなくなっている。 非米側の結束は強まる一方なので、金利上昇と相まって米国の債券は下落傾向が続く。米金融界は含み損が増え、倒産しやすくなる。 世界の貿易決済に占めるドルの割合は2001年に73%だったが、今は47%、そして来年には30%ぐらいに減る。ドルが使われなくなるほど、世界はドル資産の運用先だった米国の債券を買わなくなり、米国の金融と覇権が崩壊していく。 (De-Dollarization Kicks Into High Gear) 株が上がっているのだから銀行危機だと騒ぐ奴の方が馬鹿だと、金融界やマスコミは偉そうに言う。それは違う。金融界が株価を操作し、マスコミが歪曲話を喧伝して、表向き問題ないように見せているだけだ。 米金融界の状態はどんどん悪化しており、これからさらに悪化する。いずれ歪曲しきれなくなり全崩壊していく。今回の銀行危機はまだ序の口にすぎない。 (First Gradually, Then Suddenly... The Everything Collapse) 米国では、今年に入ってSVBなど3つの銀行が破綻し、3行合計の破綻した総資産額は5485億ドルだ。リーマンショックが起きた2008年には米国で25の銀行が破綻し、25行合計の破綻資産総額は3736億ドルだった。 すでに今年の銀行危機は、リーマンショックよりも大きな危機になっている。今はまだ5月だ。今年はあと7か月ある。さらに銀行が潰れていく。リーマンよりはるかに大きな危機になる。 (The Banking Collapse Of 2023 Is Now Officially Bigger Than The Banking Collapse Of 2008) 1980年代以来ドル覇権の根幹に位置していた債券金融システムが全崩壊していく。米国側の資産の大半が「紙切れ」になる。紙切れの反対側に位置し、これまで40年ずっと価格を抑止されてきた金地金ぐらいしか、資産を体現する道具(=通貨)がなくなっていく。 (The Global Decline Of Common Sense And The Growing Case For Gold)
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |