悪化する米欧銀行危機2023年3月25日 田中 宇米欧で銀行危機が悪化している。3月9日に米シリコンバレー銀行(SVB)が預金流出の急増から破綻して始まった今回の銀行危機は、米国のいくつかの中小銀行とクレディスイス(CS)に波及した。インフレ対策と称する(効かない)米連銀の連続的な利上げによって、銀行預金の金利が魅力的でなくなり、預金流出が加速した。連銀が特別な資金(BTFP)を作って中小銀行に融資して預金流出を穴埋めし、銀行破綻の連鎖を止めたかに見えた。金融バブルに投資しすぎて経営悪化から破綻に瀕したクレディスイスも、同じスイスのUBSに吸収合併されて倒産を免れた。だが、銀行危機は終わっていない。3月24日には、預金流出が欧州最大手のドイツ銀行に波及し、同行の株価が9%近く暴落した。米国の中小銀行群の危機も続き、24日に米当局が緊急会議を開いた。 (リーマン以上の危機の瀬戸際) (Financial Stability Oversight Council Releases 'Nothingburger' Statement) (European stocks fall as Deutsche Bank sparks another bank rout) 連銀は、銀行危機緩和よりもインフレ対策を重視して3月22日に25bps(0.25%)の利上げを決めた。実のところ今の銀行危機は、連銀が昨年から連続的に利上げした超愚策の結果として起きている。銀行危機の収束を優先するなら今週の利上げをやめるべきだった。連銀はそうせず、インフレ対策を優先した。利上げによって米国債の金利が上がり、銀行預金の魅力がますます低下していく。来週も米銀行界の状況が悪化するだろう。その一方で、連銀が利上げしてもインフレはおさまらない。もともと今の米国のインフレは流通網の詰まりとウクライナ戦争が原因であり、通貨政策の失敗で起きたものでない。だから利上げしてもインフレは沈静化せず、さらなる利上げが必要になり、銀行危機がひどくなって連銀が資金注入しても止まらなくなる。連銀の超愚策な利上げが銀行を潰している。 (Futures Tumble, Treasuries And Rate Cut Odds Soar Amid Panic That Deutsche Bank Is The Next To Go) (Central Banks Decided To Continue Their Fight Against Inflation Despite The Banking Crisis) 連銀は昨春から、利上げとともにQT(資産のスリム化)も続けてきた。QTは、QE(債券買い支え)によって過剰発行したドルを市場から吸い上げる策で、これもインフレ対策として行われているが、すでに述べたように米国のインフレは過剰造幣と関係ないのでQTしてもインフレはおさまらない。連銀はこの1年で6000億ドルのQTを実施し、昨春に9兆ドルだった連銀の資産総額は8.4兆ドルまで減った。だが連銀は、今回の銀行危機(預金流出)への対策(BTFP)として、造幣して作った資金を銀行に預金して流出分を穴埋めしている。この造幣により、連銀の資産は3月9日からの2週間で4000億ドル近く再膨張した。この造幣は来週以降も続くので、1年かけて減らした資産が1ヶ月未満で元に戻ってしまいそうだ。連銀のQTは水の泡になる。スリム化は失敗した。 (Peter Schiff: More Bailouts Are Coming Down The Pike) (Fed Balance Sheet Surges By Another $100BN Amid Bank Runs As Foreign Repos Soar By Record And Cash Floods Into Reverse Repo, Money Markets) 連銀がインフレ対策として1年続けてきた利上げとQTはいずれも失敗し、インフレがおさまらないまま銀行の連鎖破綻を引き起こしている。利上げもQTも超愚策で、何もしない方がましだった。いったん失われた銀行の信用は回復しない。米国の多くの銀行が、連銀からの資金注入という生命維持装置で形だけ生きながらえている植物人間・ゾンビになっている。名門ドイツ銀行までが、預金者や投資家からゾンビとみなされている。米国の大手銀行も安泰でない。どの銀行がゾンビになるかわからないから、投資家は預金を引き出して米国債を買う。連銀の利上げで金利上昇するはずの米国債が、預金解約者の国債購入で金利低下している。 (Scholz: 'No Reason To Worry' As Deutsche Bank Bloodbath Reignites Global Bank Crisis Fears) ("We Are Headed For Another Train Wreck": Bill Ackman Blames Janet Yellen For Restarting The Bank Run) 預金は危ないが、国債は安全なのか??。揺るぎない存在だった銀行界が連鎖破綻に瀕している。すべてを救済すると約束してしまった連銀の負担が急増する。当局も安泰ではない。米政府は2月に財政赤字が法定上限を越え、へそくりでやりくりしている。7月までに議会が財政赤字上限の引き上げを決めないと、米政府が国債利払いできなくなり米国債が債務不履行になる。これまでこの手の危機が何度もあったが全て上限引き上げで対処してきた。だが今は米議会で2大政党の対立が激化しており、どうなるかわからない。預金は危ないが米国債は安全、と言えなくなっている。 (CBO Estimates US Treasury Default As Early As July) (US economy heading for ‘train wreck,’ billionaire warns) 預金も国債もダメなら何があるのか。そのような発想から金地金が買われている。1971年まで、地金はドルより上位の資産だったが、その後は下剋上され、ドル側が債券金融で作った巨額資金が金相場の信用売りに注入され続け、金相場は1980年代から40年あまり上昇を制限・抑止され続けてきた。だが今後、銀行と国債の信用がさらに低下すると、上昇抑止が解け、金相場が高騰する。中露など非米側は、すでにドルを基軸通貨と見なさなくなり、代わりに金地金を最上位の資産とみなし始めている。ドルや債券よりも、地金や石油ガス穀物など資源類を重視する「金資源本位制」を、中露が非米側を引き連れて開始している。 ("It's Getting Real": Unease Over Banking Sector Turmoil Spurs Huge Demand For Physical Precious Metals) (中露モスクワ会談の意味) 今後2-3年以内(もしくは今年中)に、今起きている銀行破綻がドル崩壊(米国債の不履行)に発展し、ドルと金地金の地位が逆転すると予測できる。地金がドルより上位の資産になると、金相場は1オンスが今の2000ドルから8000ドルに上がるという予測を金マニアが出している。この手の話はこれまでマスコミ(ドル側)から妄想扱いされてきたが、今起きている銀行破綻や、中露による非米的な多極型世界秩序の構築を見ると、ドル崩壊が時間の問題であり、ドル失墜後に金地金が最上位の資産になることも不可避だと思われる。それを妄想扱いするマスコミや金融界の方が妄想屋になる。 (The Hierarchy Of Money And The Case For $8,000 Gold)
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