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米国債の金利上昇
2023年10月4日
田中 宇
世界の長期金利の大元締めである10年もの米国債の金利が急上昇している。9月初めに4.1%だったものが先週末に4.5%に上がり、10月4日には4.88%まで上がった。
10年米国債は、住宅ローンや社債などすべての長期金利の原点であり、10年米国債の金利上昇は、すべての長期金利の上昇につながる。
米国では商業不動産市場が崩壊しかけており、10月3日にはウィワークが社債の利払いをできず債務不履行(デフォルト)の破綻に向かう流れに入った。米国債の金利上昇は、とどめの一撃となって米不動産市況を崩壊させかねない。
(Ray Dalio Warns of Impending Debt Crisis in US)
(It's The Beginning Of The End Of This Whole Phony Economy)
米国債は短期債と長期債の間で激しく金利が逆転している。翌日ものFF金利が5.5%なのに、10年もの米国債が今夏まで4%だった。
長期の負債の方が高リスクなので高金利になるのが自然だが、ここ数年の米国はそれが思い切り逆転している。米連銀(FRB)と金融界が、資金をつぎ込んで10年米国債の金利上昇を抑えている。
長短金利の逆転は「不況の前兆」を示す、というのが教科書的な説明だが、実際の米国の実体経済は「前兆」どころかとっくの昔に本物のひどい不況に入っている。
(The End Of The Road For The Dollar)
(Americans Aren't Buying The "Great Economy" Narrative)
不況だと株価が暴落するはずだが、金融界は、指標銘柄に重点的に資金注入して株価をつり上げている。米連銀はQTを続けており、資金の原資が減っているが、重点注入の効率を上げて株価の高値を維持しているのだろう。
マスコミや金融専門家たちは「米国の景気は良いんだ」とウソの喧伝を続け、株価の粉飾を隠している。長短金利の逆転が「不況」に関係した話だということも語られなくなった。
(Peter Schiff: A Fork In The Road)
米当局は今年、7か月連続で、失業率の雇用統計を発表から何か月か経ってから下方修正することを繰り返している。毎月、最初は「失業が減っているので米経済は好景気です」と粉飾して発表するが、何か月か経ってから目立たないように統計を下方修正し、実は不景気であることをうまく隠している。
(Fed Isn't Making Any Progress Against Inflation)
米国は、金利も株価も統計も粉飾されている。こんな状態が何年も続いている。
米政府は「バイデノミクス」が成功して景気が良いと自慢しているが、金持ち以外の米国民はインフレと社会崩壊(覚醒運動や違法移民流入放置扇動など民主党の政策の結果)で生活が悪化し、中産階級の多くが貧困層に転落している。米国の中小企業はどんどん倒産している。
(Small Business Bankruptcies Surge In 2023, Five Reasons Why)
米国は無茶苦茶になっているが、日本など外国の人々はマスコミを軽信しているので気づかない。コロナから経済情勢、中露との対立まで、米国側の全体で、当局とマスコミ権威筋が描いた舞台上の「かきわり」を現実だと人々に思い込ませる巨大な策略が続いている。
(Why Did People Comply?)
(Warning: Reality Is Escaping Out The Back Door)
ウソつき策略の存在を指摘する人々は「ニセニュース発信者」として、無視されるか批判されるか、アングロサクソン諸国では犯罪者扱いされる。ウソが事実で、事実がウソ。世界はすっかりオーウェル1984になった。
非米諸国の指導者らは、米国側の自滅的なインチキぶりに気づいているが、放置した方が非米側の勝利発展につながるので、含み笑いしつつ黙っている(習近平は何も言わないが、プーチンは示唆するので面白い)。
(The Western World Is Now a Tyranny)
(Putin calls for global economic change)
(米欧だけでなく中国の経済も悪化しているが、中共はこれまで経済的に米国の傀儡だったのを離脱するための策として意図的に不動産などの金融バブルを崩壊させている。これからのバブル崩壊を経た後、中国・中共は強化されるが米欧は弱体化する)
(The US economic war on China)
米国は粉飾と歪曲の策が成功しているが、いずれどこかのバランスが崩れて失敗していく。今回の10年米国債の金利上昇は、そのバランス崩壊なのかもしれない。数日内に金利上昇が止まれば、崩壊が進まず粉飾のバランスが再生されることになる。
だが、いったん延命しても、米国のインフレは今後もずっと続く。利上げも繰り返され、長期金利の上昇傾向も続く。金利粉飾のバランスはいずれ不可逆に崩れ、ドルの基軸性が失われる。
(Canada Launches UN Declaration Targeting Online 'Disinformation')
(Is US Heading for New Crisis 15 Years After the 2008 Credit Crunch?)
米連銀は、利上げとQTによってインフレを収束できると言っているが大間違いだ。今のインフレは流通網など供給側に原因があり、利上げやQTで通貨発行を抑止しても効果はない。
2年前にインフレが始まった時から、それはわかっていたのだが、連銀は利上げとQTを延々と続け、案の定、効果を上げられないままだ。当初はパウエル議長自身が「インフレの原因が供給側なので利上げしても効かない」と抵抗していたのに、もっと上の方から加圧されて利上げさせられ、失策のレッテルを貼られている。
この手の「意図的な失策」は、イラク戦争や地球温暖化問題などとも共通する、米覇権を自滅させる「隠れ多極派」っぽい手法だ。インフレはずっと続き、米連銀は頓珍漢な利上げを続けさせられ、ドルと米覇権が自滅していく。
(Life In America Has Never Been More Unaffordable Than It Is Right Now)
10年米国債の金利急騰を前に、金相場が暴落した。1オンス1950ドルから1820ドルへと下がった。
これは、米国債金利が急騰してドルの崩壊感が強まると、ドルの究極のライバルである金地金が高騰しかねないので、その前に信用取引を使って金相場を暴落させておく予防策だろう。
今後、米国債金利の上昇が続くと、どこかの時点で金利上昇がドルの信用不安に発展し、金相場が反騰するのでないか。その前に金利上昇が止まれば、金相場は反騰しない。非米側は、安くなった方が金地金を買い込めるので歓迎している。
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