中華世界を読み解く
田中 宇
私がこれまでに書いた記事のうち、中国・台湾・香港など中華世界に関するものの一覧です。複雑に入り組んだ中華世界の実情がわかると思います。
中露の大国化、世界の多極化(2) 【2007年6月12日】 すでに政治や軍事の分野では、ロシアと中国、中央アジア、南アジア、イランを束ねる「上海協力機構」が強化されている。上海協力機構の枠組みが経済の分野に拡大されれば、ユーラシア版WTOとして機能しうる。欧米諸国の消費力は低下し、代わりに中国やインド、中近東諸国の消費力が上がっている。製造業の面では中国が台頭しているし、エネルギーは中東とロシアにある。ユーラシア諸国は、欧米を無視した経済運営が可能になっている。
中国の大国化、世界の多極化 【2007年6月5日】 世界経済が、消費大国としての中国を必要としているということは、もはやアメリカが中国を、軍事攻撃や謀略的な争乱醸成によって政権転覆して潰すことはあり得ないだろう、ということでもある。中国を政権転覆して潰したら、中国は大混乱になり、消費を拡大するどころではなくなる。先進国は年3%しか経済成長していないが、中国は10%の成長を続けている。この成長は世界経済にとって必要不可欠になっている。
改善しそうな日中関係 【2007年4月12日】 日本の世論は、小泉時代に扇動されたままの「反中国・反朝鮮」だが、アメリカが作った今後の枠組みの中では、日本は中国だけでなく、北朝鮮とも仲良くしなければならないことが、すでに決められている。日本人がこの多極化のシナリオに従うのがいやなら「反米・反中国」の再鎖国路線もありうるが、貿易上不利になり、貧しさに耐えねばならず、かなりの覚悟が必要だ。
中国の台頭と日本の未来 【2006年11月21日】 かつて、アジア・アフリカなどの多くの発展途上国にとって、日本は発展のモデルだった。世界には、欧米文明以外の文明に立脚している国が多いが、日本が、日本的なものを残したまま、欧米の技術やノウハウを取り入れて発展に成功したことは、同様に富国強兵を目指す非欧米系の国々にとってお手本だった。ところが今、多くの途上国にとって、日本をしのぐ発展のお手本になりつつある国がある。それは、中国である。
中国が北朝鮮を政権転覆する? 【2006年10月19日】 中国政府が北朝鮮に対する態度を硬化させたのは、核実験が実施されたことが最大の原因ではない。核実験は、態度硬化のきっかけでしかない。中国が北朝鮮を批判したり、政権転覆支援を示唆したりする本質的な理由はおそらく、中国が北朝鮮にアドバイスした経済開放政策が進まず、中国が目指してきた「北朝鮮を中国のような社会主義市場経済に軟着陸させていく」という目標が実現していないからである。
安倍訪中と北朝鮮の核実験 【2006年10月17日】 北朝鮮の核実験が不可避になった時点で、中国側は金正日に「中国が良いと言ってから実験を実施せよ」と命じる一方、アメリカに「核実験後の北朝鮮との交渉に中国が責任を持つから、その代わり日本の安倍に、首相になったらすぐ中国に来いと言ってほしい」と求め、かねがね中国に責任を持たせたいと思っていたアメリカは中国の提案に応じ、安倍に「もうすぐ北朝鮮が核実験するから、早く中国との関係を改善しなきゃダメだ」と強く言って訪中を実現させ、中国は北朝鮮に「安倍が中国を離れたら核実験しても良い」とゴーサインを出し、核実験は安倍が北京から離れた半日後に実施された、というのが私の仮説である。
ウォール街と中国 【2006年7月14日】 ブッシュ政権の残りの2年間で経済政策がうまく行く可能性は低いのに、財務長官への就任をポールソンが引き受けたのは、何か隠れたメリットがあるからに違いない。私が疑っているのは「ポールソンは、中国の経済発展で儲けているウォール街(アメリカの金融業界)を代表して財務長官になり、中国経済の発展を阻害しないかたちで人民元の切り上げを実現しようとしているのではないか」ということである。
中国経済の危機 【2006年6月27日】 不動産や鉄鋼、自動車、エアコンなどに対する過剰投資の状態が起きていることは、中国の経済成長の質に大きな影を落としている。ここ数年の中国の経済成長を見ると、全体としての成長率は8−10%だが、その要因の6−7割は、固定資本形成、つまりビルや道路、工場設備などを作ることによる経済成長である。ビルや工場設備への投資の中には、使われない、売れない過剰投資が多い。この過剰な部分は近い将来、確実に減少すると予測される。投資バブルの崩壊である。
日本を不幸にする中国の民主化 【2006年3月7日】 中国で共産党の独裁が崩壊しても、その後、日本にとって好都合な内部分裂した状態がずっと続くとは限らない。独裁が崩壊して民主化した後、カリスマ的な政治家が登場し、中国内部を再統合するために、極度の反日感情を扇動し、日本製品を中国市場から完全に締め出したり、日本に戦争を仕掛けるようなことをやり出したら、日本に悪影響しか及ぼさない。
新しい中国包囲網の虚実 【2005年12月8日】 日本は、中国包囲網に参加したはずが、中東で無駄金を使わされるという外交的詐欺に遭いかねない。その原因は、日本の外交を考える外務省、学者、記者などの知識人が、自分の頭で世界情勢を分析せず、アメリカの高官や学者、記者が発する言論を、絶対の真実として信じてしまうという「知的対米従属」に長く陥っているからである。権威あるアメリカ人がどのように言っているかを正確に把握することだけが重視される、悪しき「翻訳主義」である。
中国・胡錦涛の戦略 【2005年10月18日】・・・なぜ中国政府は、欧米の新聞に「中国は崩壊しそうだ」と書かれるような発表をわざわざ行うのかと思っていたら、最近その謎が解ける出来事があった。中国の胡錦涛政権が、10月中旬に開いた共産党の代表者会議(5中全会)で、これまで大都市の経済を中心に政府がテコ入れしていたのを転換し、今後は農村経済へのテコ入れを強化するという「5カ年計画」を決定したのである・・・
アジアでも米中の覇権のババ抜き 【2005年8月3日】 アメリカのライス国務長官がASEAN地域フォーラムを欠席し「東南アジアは中国やインドにあげますよ」というメッセージを発したのに対し、中国やインドは「いやいや、それはご遠慮いたします」とばかり、自分たちも逃げ出した。
短かった日中対話の春 【2005年5月24日】 4月23日のジャカルタ会談で始まった日中対話の動きは、ちょうど1カ月後の5月23日、訪日していた中国の呉儀副首相が小泉首相に会う直前に突然帰国したことで、急にしぼんでしまった。中国側の真意は、小泉の個別の発言が問題なのではなく、日本が成り行き上、中国との戦略対話をすることにしたものの、できればやりたくないと思っていることに中国側が気づき、続けても意味がないので、打ち切りにすることにしたのだと思われる。
台湾政治の逆流(2) 【2005年5月10日】 胡錦涛は、台湾という魚を、湾の中の養殖場に閉じ込めて生かしておきたい方針であると感じられる。魚が海に逃げていかないよう「反分裂国家法」という「仕切り」を作る一方、魚が最小限泳いで生きていける生け簀的な政治空間を「一中各表」の枠組みとして与えている。中国側が無理なく台湾を併合できる日がくるまで、台湾を生け捕りにしておこうという戦略である。
台湾政治の逆流 【2005年5月7日】 反分裂国家法の制定によって、台湾の世論は反中国の傾向を増すのではないか、陳水扁もその民意に乗って再び独立の方向に戻るのではないか、と一時は予測されたが、その読みは間違っていた。アメリカの後ろ盾が失われている以上、もはや台湾の指導者たちには、独立の方向に戻ることが選択肢として残されていなかった。
アメリカの衰退と日中関係 【2005年4月20日】 欧米諸国は、人民元の為替を上昇させることで中国人の国際的な購買力を高め、アメリカの2億人の購買力が飽和した分を、中国沿岸部の2億人の購買力(そしていずれは中国全土の13億人の市場)で補うことで、世界経済を回して行こうとしている。だが、日本人にはそれが見えていない。
中台関係と日本の憲法改定 【2005年3月1日】 日本政府には、中国や韓国、北朝鮮と対立しなければならない特段の事情でもあるのだろうか、と思っていたところ、国会で出てきたのが、日本国憲法改定のために必要な国民投票を行う構想であった。国民投票を成功させるには、日本周辺の脅威が大きい方が好都合だ。小泉政権は、憲法9条改定のために、周辺諸国との関係を悪化させる方向へと事態を微妙に動かしてきたのだと思われる。
上海ビジネスの世界をかいま見る 【2005年2月1日】・・・このナイトクラブには上海市政府などの中国側の役人も接待されてやって来る。上海市政府に渡りをつけたい台湾商人は、民進党に頼むとこの店に出入りする人脈から共産党のお偉方を紹介してもらえる。接待に使うお店は繁盛し、ビジネスが成功すれば共産党に賄賂が入り、民進党には献金が入る。みんなハッピー、というわけだ。
600年ぶりの中国の世界覇権 【2005年1月29日】 アメリカの多極主義者は中国を世界の覇権国の一つに持ち上げたいようだが、中国はまだ覇権国になるには早い。農村の問題や経済バブル、法治制度の未整備などがあって国内が不安定で、国内問題に注力しなければならない段階なのに、世界の事情がそれを許さない。中国政府の本音としては、アメリカが衰退した後のアジア地域の安定策について、日本に協力してもらいたいはずである。
経済発展が始まりそうな北朝鮮 【2005年1月13日】 北朝鮮の山間部などでは、飢餓状態の人がかなりいるのは事実だろうが、その一方で、都会では経済自由化の恩恵を受ける人も増えている。平壌市内では、夜遅くまで開いているレストランや商店が増え、市内を走る自家用車の数が増え、あちこちに外国製品の広告看板が立つようになった。北朝鮮経済のここ2−3年の変化は、それ以前の50年間の変化よりも大きいといわれる。韓国の統一相は、今年末までには北朝鮮の人々の間に経済市場主義の考え方が定着すると予測している。
台湾の選挙と独立 【2004年12月27日】 理想的には「台湾独立」だが、現実的には「現状維持」であるという、理想と現実を区別して考える現実主義的な意識が台湾の人々の中にあり、そのため民進党など与党緑色連合の支持者のかなりの部分が「台湾独立」を声高に掲げすぎる陳水扁と李登輝のやり方を敬遠し、12月11日の立法院選挙で投票を棄権した。これに対し、国民党の支持者は党本部から必ず投票せよと動員をかけられて従った結果、国民党が意外に健闘する結果となった。
中国による隠然とした香港支配 【2004年12月8日】 昨年夏に香港の首長である董建華・行政長官のやり方に反対する市民が50万人規模の反政府デモを繰り広げ、野党の「民主党」など民主諸派の力が強くなってから、今年9月の議会(立法会)選挙で民主党がふるわず、その半面で親中国派の「民主建港連盟」が議席を伸ばす結果に終わるまでの1年半の流れを見ると、香港社会において親中国派が巧妙に民意を取り込んでいることが感じられる。
潜水艦侵入問題と日中関係 【2004年11月19日】 日本がこれまで東シナ海における中国の侵犯行為を黙認する傾向があったのは、日本政府が中国に気兼ねしすぎていたからだ、という見方もあるが、私はむしろ、日本政府はこれまで中国を敵視する必要がなかったのが、ここに来て仮想敵を新たに設定する必要が持ち上がり、そのために中国に対する敵視が強められたのだと考える。仮想敵を必要とする原因を作ったのは、日本に対するアメリカの軍事的な関与が変化していることである。
台湾を見捨てるアメリカ 【2004年11月2日】 アメリカの次期政権は、台湾問題に対する政策を変える可能性が高い。中台の関係者は「アメリカは今後、台中双方にはっきりものを言う『双方向明晰化』の傾向を強め、中国には台湾を武力侵攻するな、台湾には独立傾向を強めるなと、従来よりはっきりした口調で要求するようになるだろう」と分析している。明晰化は台湾にとって危険であり、アメリカに見捨てられることになりかねない。
中国人民元がドルを抜く日 【2004年10月12日】 最近G7が再び人民元切り上げ圧力を中国にかけている背景には、世界経済を消費面から牽引してきたアメリカ経済の消費力がもはや限界に達しつつある状況がある。その一方で、中国の大都市では中産階級と呼べる集団が育っている。この層に世界からの輸入品を買ってもらい、アメリカに代わって消費面でも中国が世界経済の牽引役になれば良い。それには人民元を切り上げて中国人が輸入品を安く買えるようにすることが必要だ、というのがG7の考えである。
対立を演出する中国の政治 【2004年8月24日】 中国共産党は、内部での「胡錦涛・江沢民」の対立と、外部との「中国・台湾・アメリカ」という三角対立の2つを演じている。一触即発のように見える台中関係の深層には(1)アメリカは中国が求める「一つの中国」を支持し、台湾独立を許さない、(2)中国は台湾を威嚇しても良いが、実際に軍事侵攻してはならない、(3)台湾はアメリカに現状維持を守ってもらう代わりに、アメリカから武器を買わねばならない、という三者の了解事項がありそうだ。
自立を求められる日本 【2004年8月17日】 最近感じられ始めたことは、アメリカは日本にも、自国を牽制する「非米同盟」諸国の一つになってほしいと考えているのではないか、ということである。日本はアメリカのくびきから自らを解き放ち、日本らしい独自の外交戦略を実行してほしい、というのがパウエルやアーミテージの「憲法9条を捨てよ」という発言の真意ではないか。
台湾の外交攻勢とアジア 【2004年8月11日】 東南アジアと並んで、陳水扁政権の台湾は日本にも外交攻勢をかけている。日米安保体制を、中国を仮想敵とした防衛同盟として再編してもらい、米台関係の基本を定めたアメリカの「台湾関係法」と連携させることで、台湾・アメリカ・日本の3国防衛同盟へと発展させることが目標だ。日本の上層部では、戦後の繁栄の基礎となった日米安保体制を今後も維持したいという考え方が強く、台湾側はそこを狙っている。だがアメリカが中国を仮想敵と考えていないため、この考え方には無理がある。
中国の勃興と台湾 【2004年8月2日】 中国の中枢からは「武力で台湾を併合することも辞さない」といった言説がよく聞こえてくる。だが私が見るところ、中国はそんなことをできる状態にない。今の中国にとって最も大事なことは、世界における立場を強化することと、国内の政情を安定させることであるが、台湾への侵攻はその両方を破滅させかねない。
中国人民元と「アメリカ以後」 【2004年2月17日】 アメリカは、中国に対して「アジアの覇権国にしてあげるから」という交換条件をつけて、アジア諸国が躊躇した「アジア通貨バスケット」(ACB)の構想を、中国に推進させようとしているのかもしれない。中国がACBを自国通貨の相場の決定に使えば、他のアジア諸国にも同様の傾向が広まり、自然とアジアの基軸通貨はドルからACBに変わっていく。日本でも円ドル為替のみに固執する状態は変わるだろう。
柔らかくなった北京の表情 【2003年10月16日】 北京の人々の表情からはぎすぎすした感じが抜け、生活に余裕が感じられるようになった。人々が最低限の生活を強いられ政治闘争も続いた文化大革命が終わった後、経済発展の時代が始まり、人々の表情から刺々しさが抜けていったのだと思われる。今の中国は「拝金主義」だという批判があるが、北京市民の表情から読み取る限りでは、社会主義より拝金主義の方がましなのだろう。
人民元切り上げ問題にみる米中新時代 【2003年9月16日】 ブッシュ政権は9月上旬、財務長官を中国に派遣し、中国政府に人民元を切り上げるよう圧力をかけるそぶりを見せた。ところがこれは「そぶり」だけだった。ブッシュを支持するアメリカの大企業の多くは、中国を生産拠点として活用しており、人民元が安いことが儲けを増やしていたため、ブッシュに「中国に圧力をかけるな」と求めた。
北朝鮮問題で始まる東アジアの再編 【2003年9月3日】 北朝鮮の核兵器開発宣言は、戦争を誘発しなかった。むしろアメリカはその後、自ら北朝鮮と交渉することを避け、交渉の主導権を中国に与えた。中国は朝鮮半島に大きな影響力を持つことになった。中韓が協力して北朝鮮をなだめ、問題を解決できたら、中韓朝3カ国は親密な同盟体になるだろう。そのとき、アメリカは東アジアに対する影響力を失っている。北朝鮮問題を中国にやらせることは、汚れ仕事を下請けに押しつけるようなものではなく、逆にアメリカが東アジア支配から手を引く第一歩となる可能性が大きい。
静かに進むアジアの統合 【2003年7月18日】 アメリカ市場が飽和状態なら「アジアが作った工業製品をアメリカが買う。アメリカの金融商品をアジアが買う」という相互依存は将来性がない。そのためアメリカは、アジアの経済統合を認める代わりに、アジアがアメリカ市場に頼らなくても経済成長していけるようにした上、その一方で為替を今よりかなりドル安に持っていき、アメリカの製品がアジアやヨーロッパでも売れるようにしてアメリカ経済を救う、というシナリオかもしれない。
チベットは見捨てられるのか 【2003年7月1日】 チベット難民に対するネパールの政策が中国寄りになったり、インド(アメリカ)寄りになったりするのは、中国に対するアメリカの政策が揺れている結果であろう。チベット人は中国の圧政下で不幸な生活を送ってきたが、その一方で、圧政から逃れるためにはアメリカの世界支配の道具になることが必要だった。
米中関係とネオコンの行方 【2003年6月17日】 ブッシュ政権中枢の内部抗争は、ネオコンがイラク侵攻を戦勝に導いた時点で「ネオコン勝利」で終わったはずだ。だが、その後の現実は逆の方向に進んでいる。むしろパウエルら中道派は今もアメリカの外交政策を主導しているか、もしくは政権内での抗争はまだ続き、折衷的な外交政策がとられている。その一つの例が、6月1日の胡錦涛会談と、それに続くPNAC(ネオコン系シンクタンク)のブッシュ批判に表れている。
中国を混乱させる首脳人事 【2002年8月28日】 胡錦濤は、トウ( |