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金融バブル延命の仕掛け

2024年10月10日  田中 宇 

株や債券など、米国と日欧の金融相場は、史上最高値の水準にある。実体経済の景気は良くないし、インフレもおさまらず、米欧は政治社会の混乱もひどい。欧州(ウクライナ)と中東では終わりのない戦争が続いている。中露BRICS非米側は、ドル代替の国際決済システム構築など、米国側の言うことを聞かなくなり、ドルや米国債を買わなくなっている。
不況・インフレ・非ドル化の中でバブル維持

株や債券にとって、良い話がほとんどない。それなのに、米国側の相場は史上最高水準だ。統計指標は好調だよって??。指標は粉飾されている。権威ある専門家ほど粉飾に気づかない間抜け(を演じる者たち)だ。
粉飾は「ネズミ講」と同じだ。粉飾だけでは長くバブルを維持できない。バブルの維持には巨額資金の注入が必要だ。ネズミ講と金融界の違いは、無限注入できる資金があるかどうかだ。
ひどくなる経済粉飾
金融システムの詐欺激化

2008年のリーマン危機で、米国側(というか、当時は非米側がなかったので全世界)の金融バブルが大崩壊した。1980年代に作られ、膨張し続けて米覇権を支えてきた債券金融システムが崩壊し、それ以来基本的にずっと機能不全なままだ。
リーマン後、金融システムは、米連銀(FRB)や米政府が注入する資金によって維持され、注入資金がバブルを再膨張させて今に至っている。専門家たちは「経済成長や効率化が買いを呼び、相場を押し上げている」と言い続けているが大ウソだ。
リーマン後、最初は米政府が銀行救済・金融安定策と称し、財政赤字を急増して崩壊した相場をテコ入れしたが、赤字増加は不健全だという話になり、1年ほどで終わった。
代わりに、米連銀や欧日の中銀群が追加造幣して、その資金を市場に注入(国債や社債を購入)して相場をテコ入れするQE(量的緩和策)が開始された。
すべてのツケはQEに
やがて破綻するドル

リーマン前の2008年初に1兆ドル弱だった米連銀の資産総額は、QEによって増え続け、QE終了時の2022年2月に9兆ドルに増えていた。新型コロナ対策の都市閉鎖で経済が大縮小した2020-21年に、とくに増加した。
このままQEを続けると連銀など中銀群が不健全な状態になるということで、ウクライナ開戦と同時期の2022年2月にQEが終了し、連銀などの資産総額を減らしていく(手持ちの債券を手放していく)QT(量的緊縮策)に転換した。米連銀と前後して、欧州などの中銀群もQE停止・QT開始に転じた。
2022年2月に9兆ドルだった米連銀の資産総額は、QTを1年半続けた現在7.1兆ドルまで減った。2年半のQTで1.9兆ドルを金融市場から回収した。QTは金融バブルの縮小策だ。
Federal Reserve Balance Sheet

米連銀がQEをやめてQTを開始した後、バブルが縮小し、当然ながら株も債券も値下がりした。2022年初から9月ごろにかけて、各国の平均株価は米S&P500も日経も独DAXも下落傾向になった。10年もの米国債も、金利が1.6%から4%に急騰した。
金利がこれ以上あがると危ない状態になる。2022年10月には、金融危機になりそうな感じが米欧全体に広がった。
行き詰まるFRBのQT
破綻が進む英米金融

だがこの後、金融危機にはならず、株価は反騰し始め、最近の最高値水準までおおむね上昇傾向を続けている。長期金利も、インフレの影響を受けつつ5%以下の水準を維持してきた。
米欧日の全体で、景気もインフレも社会の状態も悪いままだ。依然として、株や債券が上がりそうな状況ではない。QTも、現在までずっと続けられている。
バブルが維持できなくなって金融危機になり、相場が暴落するのが自然だ。だが、現実は違った。株価は上昇を続けて最高値の水準に到達している。
米連銀や当局は、QTで減った分を穴埋めする新たな資金源を作ったのでないか。そう考えないと、この間の株や債券のバブル膨張的な上昇は説明できない。
来年までにドル崩壊
どっちが妄想なのか?

米連銀は、帳簿に残る造幣作業であるQEに替わる資金源として、帳簿外で巨額資金を作って市場に注入しているのでないか。私は最近まで、それを疑っていた。だが、帳簿外でどのように資金を作れるのか不明であり、確たる根拠がなかった。
私は最近、もっと合理的に説明がつく別の資金源の存在に気づいた。それは、米政府の財政赤字の増加分だ。
米政府は2020-21年にコロナ対策として財政赤字を急増した。コロナ対策が終わった後、米政府は景気対策やインフレ対策などと称して、毎年の財政赤字をさらに増やしている。増加分の一部を、金融市場への資金注入に回すだけで、QTで減った資金注入を穴埋めできる。
US Budget Deficit Soars By 50% In December As Fiscal Collapse Under Biden Accelerates

コロナ前の2019年に、米政府は23兆ドルの財政赤字を作った。コロナ対策の補助金が急増した2020-21年は、27兆ドルと28兆ドルの赤字だった。そして、コロナ対策を終えた後の2022年は31兆ドル、2023年は33兆ドルの赤字だ。
年次の財政赤字は、コロナ前の2019年と比べ、2022年が8兆ドル、2023年が10兆ドルの増加だ。2年分の合計で18兆ドル。この間にQTで連銀が金融市場から吸い取った資金は2兆ドル以下だ。
U.S. National Debt by Year

財政赤字の増加分の1割を金融市場に注入するだけで、金融バブルを維持できる。15%(3兆ドル)ぐらい注入すれば、株価の最高値を更新し、債券金利や金相場の上昇も抑止し、絶好調な金融状態を演出できる。
米政府が財政赤字を増やして作った資金を金融市場に注入し、金融バブルを維持・延命する策は、銀行救済策や経済テコ入れ策と銘打って2008年のリーマン危機直後にも行われていた。
だが、その規模は銀行救済が年間2500億ドル、経済テコ入れが2400-4000億ドルだった。当時の米政府の財政赤字は年に10-15兆ドルで、今の半分以下だった。

当時の米当局は、金融バブル延命策であると正直に説明しつつ赤字予算を計上した。だから1年半後に不健全だからもうやめろと議会で言われ、QE策に替えた(QEは日銀が先にデフレ対策の名目でやっており、それを米連銀が真似た)。
今回は、金融バブル延命策として行われていない。米国の庶民生活を助ける経済対策として行われている(実際は、庶民でなく金持ちの投資家を助けている)。その規模も、今回はおそらく年間1兆ドルに達しており、リーマン直後の2-4倍の規模だ。
支出の構造が不透明で、どの分が金融相場のテコ入れ資金なのかわからないようになっている。だから公式論としては、連銀がQEをやめた後、当局系の資金は何も市場に注入されていないことになっている。そして景気は悪い。それなのに株価が史上最高値になっている。不思議でしょ。だけど、専門家やマスコミは誰も不思議がらない。
This Is What The Final Stages Of A Bubble Economy Look Like Just Before A Collapse Happens

今後も、米政府が財政赤字を減らさない限り、財政資金の一部が金融市場のテコ入れに使われ、金融バブルが維持され、株や債券の高値が続く。金融バブルの延命は、巨額投資をしている大金持ちを助ける。中産階級が納税した資金が、金持ちに流れる。貧富格差がますます広がる。
1960年以来、米政府の財政赤字は毎年増加し続けてきた。今後も増え続けることが確定的だ。株価は今後もずっと上がり続ける。今すぐ株式や関連商品を買い増すのが良いという話になる。
・・・本当にそうなのか??。私は株を買ってない。今後も買わない。バブル維持の仕掛けがいつ崩壊するかわからないからだ。
Rome Was Eternal, Until It Wasn't: Imperial Analogs Of Decay

金融バブルが崩壊すると国債金利が上昇し、米政府の国債利払い額が増加する。米国は、インフレなので米連銀が短期金利を引き上げてきたが、長期金利(米国債金利)は上昇を容認できない(利払い額を増やせない)ので、短期金利が5%で長期金利が3.5%などという、とても不自然(人為的)な金利曲線の逆転状態がずっと続いている(最近の不景気顕在化で逆転が緩和した)。
金利上昇が続き、国債利払い金が増え続けると、それだけに財政が奪われ、財政破綻に至る。そうならないよう、米当局は財政の一部を使って国債などを買い支えてバブルを延命させ、長期金利の上昇を止めている。バブル延命策の最大の目的は、株よりも債券の下落(金利上昇)防止だ。
これは、商品の売れ行きを実際よりも良く見せるため、売上金を使って自社商品を買うのと同じ不正・不健全な行為だ。民間企業の営業マンがこれをやるとクビになる。だが、米政府がやる場合は問題にならない。
金融はいつまでもつのか
米国債の金利上昇

米政府の財政赤字の累積額(米国債の発行総残高)は、2016年の15兆ドルから2024年の28兆ドルへと、8年間で倍増している。今後も、この速度で増え続ける。国債発行残高が増えるほど、金利上昇を止めるために必要な注入額も増える。
米政府はかなり腐敗している。防衛費の増加を求める軍産複合体(諜報界、ゼレンスキー、ネタニヤフ)など、たかってくる金食い虫がたくさんいる。増え続けるのは、金利上昇抑止の資金だけでない。
米国はコロナ後、高い水準のインフレが続いており(実態は発表指標よりずっと高い)、その方面からの金利上昇圧力も大きい。
IMF Calls on US to Get Its Gargantuan Debt Under Control

そして、これまで米国債を旺盛に買って低金利を支えてくれてきた中国やサウジアラビアなどの新興の金持ち諸国は非米化し、米国債やドル建て資金をほしがらず、金地金を備蓄し、自国通貨で貿易決済するようになっている。
米国債の発行は増えるが、米国債の国際需要は減っていく。米国債を無理やり買わされる日独など先進諸国は、経済が衰退して購買力が落ちていく。
世界経済を中国の傘下に付け替える

今のところ、米当局は国債金利の上昇抑止に成功している。金融バブルは維持されている。だが、国債の発行増と需要減が続く中、今後いつまでこの均衡が維持できるのか懸念がある。
米連銀が完全犯罪の簿外資金を作れるなら、それは暴露されない限り無限に造幣でき、永久に金利上昇を抑止できる。私は以前、その筋で推測していた。
だが今回、米政府の財政赤字増加分の一部が金融市場に注入されて金利抑止に使われていると考える方が謎が少ないとわかった。財政が資金源だとすると、余力は無限でなくなる。いろんな状況から考えて、米国は今後3-5年で金利上昇を抑止できなくなって金融財政が破綻しそうな感じがする。
今年のはずれ記事

米金融がいつまでもつかは、BRICSが作っている非ドル型の決済システムが、どれだけ使いやすく、どれだけ非米側がドルでなく非ドル決済を使うかによっても変わる。非ドル決済が使いにくく、非米諸国が既存のドル決済や米国債保有に頼り続けるほど、ドルと米金融は長く延命できる。
BRICS共通通貨の遅延

中国の習近平は、2013年の就任直後から、中国の金融バブルを意図的に潰す策をとり続けてきた。人々の反政府感情を抑えるため、表向きバブル延命策を連発してきたが、本質は、トウ小平以来30年続いてきた金融バブルを潰そうとしている。
中国は民主主義でないので、習近平は、バブルを潰して経済が悪化しても政権転覆されない。米国は民主主義なので、トランプもハリスもバブルを全力で延命させるつもりだ。しかし、米国の金融バブルは、次の政権の4年間が終わるころに潰れ、崩壊は今の中国よりひどくなる。
中国の意図的なバブル崩壊



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