中国の意図的なバブル崩壊2017年5月31日 田中 宇5月24日、米欧の債券格付け機関ムーディーズが、約30年ぶりに中国の長期国債を格下げした。中国は日本と同格のA1になった。金融の悪化、負債の増加、経済減速が格下げの理由とされている。中国の政府と企業の負債総額は対GDP比で、2008年の149%から13年の213%へと増加し、借金漬けの不健全な事態になっていることが嫌気された(格付けの先行き見通しは、悪化傾向から安定的に改善されたが)。 (Yuan Tumbles As Moody's Downgrades China To A1, Warns On Worsening Debt Outlook) 人類史上最大規模の金融バブル崩壊が起こりそうだとか、90年代の日本のようなバブル崩壊とその後の「失われた20年」が中国でも起きるいう見方、中国の国債破綻にまで発展するのかという問いまで発せられている(発展しそうもないとの結論だが)。 (Why China’s Financial Plumbing Is Getting Clogged) (The Next Global Financial Crisis: A Chinese Sovereign Debt Default?) (Is China’s economy turning Japanese?) 中国経済が借金漬けのバブル状態であるのは確かだ。今年に入り、銀行間金利の高騰や、金融機関の破綻、株価の急落など、バブル崩壊と考えられる事態が起きている。高金利の投資信託的な金融商品(理財商品)が、リーマン危機の元凶となった07年の不動産担保債券の破綻と似たシステム破綻を引き起こすのでないかとも懸念されている。中国政府自身、昨秋来、負債が多すぎることが問題だと表明している。 (The Greatest Financial Bubble in History) (China’s Credit Excess Is Unlike Anything The World Has Ever Seen) (Why China's Rise Is Built on Debt) だが同時に言えるのは、中国で起きているバブル崩壊的な事態が、中国政府の政策として行われており、政府が積極的にバブルを潰そうとしている結果として、バブルが崩壊していることだ。政府が金融を救済しようとしているのにバブルが崩壊している事態なら非常に危険だが、政府がバブルを潰そうと動いた結果、バブルが潰れているなら、意図した政策の具現化にすぎず、大して危険でない。ちょうど1年前の昨年5月に配信した記事「金融バブル闘う習近平」にも書いたが、中国政府は、放置するとどんどん膨らんでしまうバブルを積極的に潰す、かなり荒っぽい政策を展開している。 (金融バブル闘う習近平) (China Central Bank Admits It Has A Debt Problem, Warns No Easy Solution) 習近平は、副首相だった2010年、共産党内の経済専門家に90年代の日本のバブル崩壊の歴史を調査させ、中国でも、かつての日本のようなバブル崩壊と失われた20年の事態になりかねないので、早めに金融バブルを潰してしまった方が良いという結論に達した。中国政府による国内金融バブル潰しの政策は、習近平が最高権力者になった後の15年から本格化し、株価の暴落や金利の上昇を意図的に引き起こしている。 (Is China’s economy turning Japanese?) ▼バブル崩壊は中国より米国の方がずっと危ない 中国では、政府がいくらバブルを潰しても、抜け穴探しが行われ、規制を乗り越えてバブル状態が再燃する。最近規制が強化された抜け穴の一つは保険業界だ。中国当局は以前から、国内の銀行が帳簿外で融資を増やして儲けている中国版「影の銀行システム」の拡大を潰そうとしてきた。中国の保険業界は、系列の銀行の「影の銀行システム」の別働隊として投機的なハイリスクの金融商品を売ってきたが、当局は昨年来、この手の行為を禁止するようになった。習近平は昨年来、中国政府の4つの金融監督機関のうちの3つのトップを更迭し、金融界のためにこっそりお目こぼしする人物でなく、習近平の言うことを聞いて業界に厳しくする人々と交代させている。4大銀行や政府投資機関のトップも交代させられている。 (China Shakes Up Financial Regulators in Scramble for Stability) 中国政府は昨年来、米連銀の利上げに合わせて自国も利上げすることで、人民元の対ドル為替相場を維持するとともに、中国企業が金融機関から資金を借りにくい金利高の態勢を作り、負債総額を減らそうとしている。銀行間の融資市場の流動性を意図的に低下させた結果、金利が上昇し、銀行が銀行間市場で調達した資金を一般企業に融資しても逆ざやになって儲からなくなり、地方の中小銀行が破綻したりした。中国政府は、金融システムわざと壊している。先進諸国でこんな事態になったら、それこそ大変な金融危機であるが、中国では当局が実際の「死人(破綻銀行)」を出すぐらいまで過激にやらないとバブル潰しの効果があがらない。 (China’s Credit Slowdown Poses a Threat to Global Growth) ("This Is Probably Just The Beginning" - Chinese Banks Are In Big Trouble) (On The Edge Of An "Uncontrollable Liquidity Event") 中国の大都市の住宅市況は、昨年来の当局による融資規制の強化にもかかわらず、高騰し続けた。中国の住宅市場は、高騰(バブル膨張)と下落(バブル崩壊)を繰り返しているが、その大きな要因は、供給を統制できる地方政府が高騰を引き起こして政府幹部や息のかかった企業が儲けるためだ。今春まで18カ月、相場が上がり続けたが、すでに書いた中央政府の金融引締め策により、何とかやや沈静化している。今後、中国住宅市場のバブル崩壊があるかもしれないが、それで二度と回復しないのでなく、その後もバブルの再燃圧力が続く。 (China’s Increasing Debt Level and Real Estate Bubble) (What Bubble? How China Stays In Control Of Its Wild Housing Market) 米国や日本にとって中国は「敵性国」なので、米日のマスコミは、今にも中国が二度と蘇生しないバブル崩壊に見舞われそうだと書きたがる。だが、中国のバブル膨張と崩壊は、共産党の上層部や地方幹部が儲けるために続けられている観が強い。リーマン危機後、社債市場に対する民間需要が大幅減少したままの状態(代わりに米日欧の中央銀行群が債券を買い支え、社債市場の形だけの延命)が続いている米国と、状況が根本的に違う。 (バブルでドルを延命させる) 習近平は、バブルの操作を通じて党幹部が不正に儲ける腐敗構造を終わらせる(=国家体制の近代化の)ためにバブル潰しをやっていると考えられる。ムーディーズは中国を格下げしたが、同時に今後の見通しを、悪化傾向から安定的に好転させた。このことからは、習近平のバブル潰しが山を越えて成功しつつあると、ムーディーズが判断しているようにも見える。 (China’s Downgrade: It’s Not Just About the Government) 中国も米国も金融バブルであることは同じだが、中身が違う。中国の金融界の資金源は、30兆ドルにのぼる国民の預金であり、それがハイリスクな融資に回って不動産や株式からビットコインまでの金融バブルにつながっている。バブル崩壊によって失われるのは、国民の貯蓄だ。国民が納得しなければ暴動になるかもしれないが、うまく納得させれば、国家的な破綻に至らない。 対照的に米国の金融バブルの崩壊(リーマン危機)は、債券金融システムそのものに対する信頼を喪失させている。崩壊した債券金融システムは、米日欧の中央銀行群によるQE(増刷した通貨による債券買い支え)によって延命し、バブルが再膨張している。いずれ次のバブル崩壊が起きると、それは中央銀行の信用失墜(中央銀行に金融システムの救済役を期待できない状態)につながる。これは、国家的な財政破綻(国債金利高騰など)につながりうる。中国より米日欧の金融バブルの方が、はるかに危険だ。 (バブルをいつまで延命できるか) 中国では、外貨準備の減少も起きている。中国政府は、人民元の対ドル為替の低下を食い止めるため、外貨準備を取り崩して元買いドル売りをしている。中国の経済規模から考えて3兆ドルの外貨準備が必要なのに、今年2月には準備高が3兆ドルを割ってしまい、危険だと報じられた。 (China Exerts More Control Over Its Currency With Tweak to Yuan Fix) だがこれも、見方を変えて、いずれ日欧中銀のQEが限界に達して支えきれなくなった米国の債券金融システムが再崩壊して米国債などドル建て債券の価値が失われることを恐れた中国政府が、意図的に外貨準備(=ドル建て債券)の保有高を減らしているのだとすれば、話が変わってくる。危険なのは、外貨準備を減らしている中国でなく、いずれQEで支えきれなくなる米国の金融システムと、米国の再崩壊の前兆として、その前にQEの限界露呈で破綻しかねない日銀などの方になる。 (米国と心中したい日本のQE拡大) ("Red Flags" Suggest China Credit Event Is "Closer Than It Appears")
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