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トランプ式のヤルタ2.0になる世界

2026年10月12日   田中 宇

トランプ米大統領が、11月18日に中国の深圳で開かれるAPECサミットに出席することを正式決定した(9月下旬に発表)。これで、深圳APECサミットの傍らで史上初の米中露首脳会談が行われることがほぼ確定した。
ロシアのプーチン大統領は、10月8日に側近(Nikolai Patrushev)を北京に派遣し、米中露首脳会談やAPECサミットについて、主催者の中国共産党と話し合う準備会合を持った。
(Putin's Close Aide Visits China Ahead of APEC; Possibility of US-China-Russia Summit Discussed)

米中露(米中ソ)の首脳会談は史上初めてだ。1945年のヤルタ会談(ヤルタ1.0)は米英ソで行われ、中国(中華民国)が参加していない(米ソが、国連安保理体制や東欧のソ連側帰属など、戦後の世界体制を決めた)。
その前(1943年)のカイロ会談が米英中だった。複数の首脳会談を合わせて多極型(ヤルタ体制)の戦後体制を決めた。しかしその後、米国が諜報的に英国系に乗っ取られて冷戦体制が構築され、ヤルタ体制は阻止されて米英覇権へとねじ曲げられて半世紀が過ぎた。
(米露が和解していく)

ヤルタ体制を作ったのは、米国のロックフェラーなど多極型希望の勢力(隠れ多極派)だ。英国系がそれを阻止して冷戦体制に転換した。隠れ多極派が擁立したニクソンやレーガンが40年かけて冷戦体制を崩し、911事件とともに米諜報界をリクード系(イスラエル)が席巻して、25年かけて英国系を追い出した(ロスチャイルドとシオニストの暗闘)。
(世界はイスラエル覇権体制になった)

仕上げとしてリクード系が擁立したトランプが米大統領になってヤルタ2.0の構築を模索した。トランプは、イスラエル中東覇権の確立のためのイラン戦争の副産物としてイランから中国への超安値の原油輸出を止めて習近平を恫喝して非米覇権を放棄させてリクード側に引っ張り込み、2回の米中首脳会談を経て11月の米中露首脳会談を実現する。
(President Donald J. Trump Advances a Fair and Reciprocal Relationship with China While Hosting Historic State Visit)

プーチンは、トランプの1期目から米露隠然同盟に誘われて裏の親密関係を持っている。そこに今年トランプは習近平も引っ張り込んで米中露にして、トランプ式のヤルタ2.0を深圳で実現していく。これはトランプ(と背後のリクード系)の策略だ。
(米露イスラエル覇権の形成)

トランプは英国系(英欧)潰し策のため表向きロシアと敵対している。だから米中露会談は米国やロシアでやれない。中国でやるしかない。それで深圳APECサミットの傍らでやることにした。
習近平はトランプに説得されて従っている。トランプはその見返りに、イラン開戦後の石油調達に困っている習近平を助ける意味で、サウジアラビアからオマーン沖での積み替えを経て中国(や日韓印度)に原油を送る新たな経路を作ってやった。
(Increase in Hormuz oil traffic is papering over a darker reality)

深圳APECサミットは、トランプ主導の米中露首脳会談に乗っ取られた形になっている。1993年から年次で行われているAPECサミット(首脳会議)は、もともと米国覇権下(英国系)のアジア太平洋地域の経済会議で、中国と台湾、香港が別々の主体(エコノミー)として参加している。リベラル自由主義な英国系の会合なので、参加首脳たちが自由に率直な意見交換をする談義の場として「リトリート」も設けられてきた。
だが今年の深圳サミットではリトリートが行われず、毎年行われている閣僚会議も、例年の対面形式の会議でなく、オンライン会議として行われる。主催者の中共政府は、その理由について何も説明していない。
今年の深圳APECサミットは全体会合としての首脳会議と晩餐会だけになり、閣僚会議はオンライン化、リトリートは中止になった。
(China fuels tensions with partners over scaled-down APEC summit plans)

中露も参加して首脳間のリトリートを行うと、英国系の勢力(豪Nzなど)がプーチンを非難しかねないので中止するのだろう。閣僚会議も、対面形式だとロシアや中国への批判が出かねないので、別の日時でロシア不参加のオンライン形式でやるとか。
今年のAPECサミットは、本来の会議の場が最小限に縮小されることになった。その理由は、英国系リベラル主義に基づく元来のAPECサミットの機能が、リクード系の反リベラルな米中露首脳会談の成功を阻害する可能性があるからだろう。
これは英欧と対立するプーチンの意志でもあるし、リベラル側(英国系)からの批判を嫌う習近平の意志でもあるだろう。しかしそれ以上に、英国系の覇権運営を破壊したいトランプが、リベラル的な会議であるAPECの軒先を借りて母屋を乗っ取って機能不全に追いやっていると感じられる。
(APEC Summit: Can Beijing pull off a Trump-Xi-Putin meeting?)

トランプは深圳で、史上初の米中露首脳会談を行うだけでなく、会場として借りた英国系のAPECサミットの構図を破壊しようとしている。
12月にはマイアミのG20サミットにトランプと習近平が集合する(米国開催なのでプーチンは来ない)。これも、米欧(英国系)と非米側が対立して何も決められなくなっていたG20サミットを、米中で乗っ取ってリクード系に再構築するとか、そういうトランプの策略かもしれない。
トランプはいずれ、G7(G8)にプーチンを呼んで米露首脳会談をやって英欧を怒らせ、英国系のG7を破壊することもやりそうだ(前からやりたがっていた)。

深圳での米中露首脳会談は、何らかの成果を生み出すのでなく、単に3人で会うだけの「写真撮影会」になってマスコミ(英国系)から批判される可能性がある。トランプは、米中露の軍縮を提案すると言っているが、継続協議になって成果とみなされそうもない。
だが、米中露首脳会談は今後ずっと不定期に開催され続ける。ずっと継続し、世界の中心的な問題解決の場になっていく。
米中露3人の首脳のうち、プーチンと習近平は、10年後の2036年かそれ以降まで指導者であり続ける。トランプの任期は2028年までだが、その後の8年間はJDバンスなど共和党トランプ系が大統領を引き継ぐ。
(Kamala Harris’s husband ‘does not want her to run for president again’)

2028年の米大統領選は、民主党候補がカマラ・ハリスになりそうで、ハリスは決して勝てない。民主党で2番目に人気なカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムは(FBIから不正を捜査されて脅されて)ハリスが立つなら自分は立たないと言っている。民主党内でもハリスは勝てないといわれているが、有力候補はハリスしかいない。
(Federal Investigation Of Gavin Newsom Expands)
(Newsom Says He Won't Run For President In 2028 If Kamala Harris Does)

英国系である民主党が米大統領をとったら、米国が中露を批判する構図が復活し、米中露首脳会談は開かれなくなる。だが、米国は2036年までトランプ系になる。11月3日の米中間選挙で共和党が連邦議会両院の多数派を失ったとしても、この流れは変わらない。
今後10年かそれ以上、トランプが開始する米中露首脳会談が開かれ続け、世界の重要事項を決めていく。トランプ式(リクード系)のヤルタ2.0の世界体制がずっと続き、米英欧が露中を敵視・包囲する英国系の旧来の冷戦型の米覇権体制(NATOやG7やG20やAPEC)と、非米側と英国系が対立して機能不全に陥ってきた国連の機能を上書きしていく。
ヤルタ2.0の世界体制は、ウクライナと中東の戦争を終わらせていく(2つの戦争を誘発したのもリクード系だが)。
(Le Pen Seen As Most Credible Presidential Candidate As French Bonds Suffer Worst Decade Since 1803)

来年フランスがルペン化して英国系(英国のライバルを演じていた)エリート支配が終わり、ドイツも2028年までにAfDが与党になってエリート支配が終わる。独仏の極右政権は、日本の高市政権と似た感じの隠然リクード系だ。
(Germany's Political Firewall Against The AfD Party Is Crumbling)

英国自身は、数年内にスコットランドが再度の住民投票を経て分離独立していき、北アイルランドも離脱する。英国は国家解体して弱体化していく。この流れが具現化する中で、ウクライナ戦争は歴史的な役目を終えて来年か再来年(2027-28年)に終結する。米中露がそれを采配する。
(英国解体を煽るトランプ)
(各国の選挙でイスラエル覇権を強化する)

イラン戦争も、サウジのイスラエル傘下入り(アブラハム合意参加)など、イスラエル中東覇権の確立とともに終わる。ヤルタ2.0の世界体制は、イスラエルの世界覇権体制でもある。
(Saudi Arabia needs allies against the Houthis, but will it turn to Israel?)

もともと中共の非米側覇権の組織だったBRICSは、ブラジルが10月末の大統領選の決選投票でボルソナロ当選になった時点で機能低下が決定的になる。ボルソナロは、トランプやイスラエルやミレイ(アルゼンチン)と親密なリクード系であり、BRICSや国連から距離を置く。
(If Lula loses, BRICS could face its biggest political test yet)
("We Can't Be Part Of A Lost Generation": Bolsonaro Wins Four Key Party Endorsements Ahead Of Brazil Runoff)

習近平は、非米覇権をあきらざるを得ない。その代わり習近平は、今年12月のG20マイアミサミットに招待されて再び訪米してトランプと会う。習近平は、トランプやリクード系に恫喝・説得され、非米覇権を放棄してリクード系の軍門に下る代わりに、トランプに親しくされて各種の利得を得る。
(以前の非米覇権で得ていた利権よりは小さそうだが、長期的にはそうでもないかも)
(習近平訪米の意味)

「ヤルタ体制」というと、日本の「無条件降伏」と一体で語られ、米国と中共が日本を好き放題に食い荒らして分割支配するとか、世界のすべてが米中露いずれかの勢力圏に入れられる印象だ。
今回のトランプの米中露首脳会談とヤルタ2.0も、その文脈で中傷的に喧伝されている(喧伝するマスコミ権威筋・日本外務省が、ヤルタ2.0で潰されていく英国系だから)。

だが実のところヤルタ体制は、1.0のときから「世界3分割」ではなかった。ヤルタ1.0で作られた国連のP5(安保理常任理事国)体制には、英国とフランスが、英仏の植民地を引率する形で入っていた。
英仏と植民地(中近東アフリカ、アジア)、米国(とその勢力圏としての中南米)、ソ連と東欧圏、中国、敗戦国になる日独伊とその旧植民地。それで当時の世界のほぼ全域を網羅していた。
ヤルタ会談の1945年初、印度は英植民地だったし、イスラエルは建国前、サウジは独立していたが米国の保護下だった(今もだけど)。ヤルタ体制(1.0)は、日独伊の敗戦後の世界を多極型で運営するための自然な形だった。
(リクード系の覇権拡大)

今回のヤルタ2.0も、米中露3極ではない。今の世界の状況に沿って、他の諸極に関する不文律がいろいろついている。
たとえば日本は、米国(グアム島の西の沖合。第2列島線)と中国(台湾の東海岸の沖合。第1列島線)との間の海域(海洋アジア)を勢力圏として持つ。それはトランプの米国が決め、習近平も承認している。
その上で昨年、トランプ(米諜報界リクード系)の采配で日本に高市政権が作られている。高市化した日本が、2つの列島線の間の海洋アジアを勢力圏として持ち、手始めにフィリピンと安保協定を結んで勢力圏の運営を開始している。この流れは、ヤルタ2.0の付帯文書的な不文律の一つだ。
(日本の地域覇権「日豪亜」への道再び)

日本は、米国とも中国とも異なる勢力圏になるが、しばらくは安保面で米国から支援され続ける。その口実として、米国は「中国包囲網」を言い続ける。現実としての親密な米中首脳会談と、概念(目くらまし)としての米中対立が並行して存在し続ける。
中共は、自らの正統性の延命策として台湾併合をゆっくりやりたいので、台湾問題も米中や日中の対立の「だし」に使われ続ける。実際はすでに、米中日の間で話がついている。
(日本に台湾支援を肩代わりさせる)

日本のマスコミや専門家は英傀儡なので、トランプ式のヤルタ2.0を無視している。だから、日本国民は知らないままだ。リクード系は、ガザ虐殺やイラン戦争に象徴される人道犯罪を意図的にやって英傀儡の人々(リベラル派など)を激怒させ、合理的な分析や判断を失わせ、世界の転換に気づかないようにしている。
(日本が高市化した意味)

トランプは、深圳に来るついでに北朝鮮の金正恩と会いたいと考えている。そのような話が流布されている。深圳に金正恩が来るのか、平壌にトランプが行くのか、帰途に韓国に寄ってまた板門店で会うのか。
今回は、いずれも可能性が低い。だが、トランプは任期末までに金正恩と再会するだろう。そして、それが在韓米軍の撤退に結びついていく。
(Trump may propose Pyongyang summit with Kim Jong-un, says former US envoy for N. Korea)

北朝鮮は、もう崩壊しない。軍事や資源、食料の面でロシアが支援してくれる。中共も支援してくれる。トランプ系が続く米国も、北朝鮮を敵視しない。
北朝鮮は中露の勢力圏として永続する。北から韓国を侵攻することはない。北朝鮮は、今春の憲法改定で、自国が大韓民国に隣接していることを盛り込んだ。北朝鮮(と背後の露中)は、韓国側(韓日米)の条件が整いしだい、敵視を解いて韓国側と和解するつもりでいる。
(習近平の北朝鮮訪問へ)

準備が終わっていないのは、北朝鮮でなく、韓国や日本の方だ。そしてこの話も、トランプ式のヤルタ2.0の付帯文書的な不文律の一つである。
おそらく韓国は、最終的に、日本と同じ勢力圏に属する。日本が韓国を傘下に入れるとなると、昔の日韓併合の悪夢がよみがえるので、そうではなくて「日韓亜豪」の並立になる。
(豪州は、欧州で英国系が完全に無力化するまで英国系から離脱できないので、まだ日韓亜に合流しない)
(トランプが米朝和解するかも)

板門店の38度線は今後も、中露圏と、米国系の日韓亜豪圏との分界線であり続ける。だが、中露と米国はヤルタ2.0の体制下で仲良しになるので、従来のような冷戦型の軍事対立ではなくなる。
北朝鮮が経済発展できれば、北から韓国に逃亡したがる人民もいなくなり、板門店はふつうの国境線になっていく。
北朝鮮のほか、モンゴルや、中央アジアの旧ソ連諸国も、中国とロシアの共同的な勢力圏であり続ける。中露は昔のような対立をもうしたくない(対立すると英国系や日本につけ込まれる)ので、意図的に共同勢力圏の諸国を作り、うまく運営することで友好関係を維持する。
(多極世界でロシアから中国を見る)

などなど、ヤルタ2.0は「世界の3極化」でない。付帯文書的な不文律がいろいろついた「多極化」である。日本(日韓)も印度もイスラエルも、独自の勢力圏を持つ。
かつて(イラク戦争の失敗から2024年ごろまで)の多極化は、BRICSなど中共が隠然主導していた非米側が、米英覇権体制の外側で拡大し、行き詰まった英国系が中共にすり寄って世界を共同管理しようとする流れ(オバマが胡錦涛に提案して断られた米中G2とか)だった。
今の多極化は、米諜報界を乗っ取ったリクード系が、英国系を潰し(自滅させ)つつ、中共を恫喝して非米側覇権も解体し、すべてをリクード系の傘下に入れる形でトランプにヤルタ2.0の米中露首脳会談をやらせている。

英国は、大英帝国の時代に一カ国で世界を支配していた。一国でやるのは大変なので、フランスなど他の欧州諸国(列強)に植民地の一部を持たせ、列強どうしが競っているかのような形を取っていた。
第二次大戦後の覇権を英国から移譲された米国は、列強体制を世界に拡大して制度化したヤルタ体制(国連P5)を模索したが、英国に入り込まれて邪魔された。
今また、英国系から覇権(諜報運営権)を乗っ取ったイスラエルは、単独覇権でなく、トランプに米中露のヤルタ2.0を作らせ、世界を多極型で運営しようとしている。
私はこの動きについてこれまで、イスラエルが米国の隠れ多極派を尊重したと考えてきた。だがそうでなくて、単に効率的な世界運営を考えると多極型になる、という話なのかもしれない。



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