リクード系の覇権拡大
2026年1月2日
田中 宇
この記事は「トランプ化で激動した2025年」の続きです。
私が見るところ、米トランプ政権の本質(黒幕)は「隠れ多極派とリクード系の連立政権」だ。戦後の英米覇権を動かす米諜報界は、もともとロックフェラー家など多極派が運営するはずだったが、戦後の多極型世界の基本となる国連P5を作った後、米諜報界の創設を手伝った英国系(米国より古い英諜報界)に冷戦を起こされて諜報界(覇権運営権)を乗っ取られた。
多極派は潜伏を余儀なくされて「隠れ」になった(用語類は私の自作)。隠れ多極派は50年かけて英国系を出し抜きつつ冷戦構造を解体したが、その後も英国系は、イスラム世界を敵に仕立てて第2冷戦(文明の衝突、テロ戦争)を誘発して、英国系が支配できる冷戦型の世界体制を復活しようとした。
これに対抗するため隠れ多極派は、英国より古い「諜報の元祖」であるユダヤ人の中のイスラエル右派(リクード系)を誘い、多極派とリクード系が協力して英国系を潰す策を始めた。もともと英諜報界もロスチャイルド家などユダヤ人たちが構築したもので、これは諜報のプロであるユダヤ人どうしの暗闘だった。
英国系は、イスラム敵視の構図を作る際、イスラエル(労働党系)を騙してオスロ合意でパレスチナ国家を新設・内包させて自滅に追い込もうとしていた。
リクード系(米国から「帰国」して西岸に入植したユダヤ人が中心)は、オスロ合意の構図を破壊する過程で米国の多極派に誘われ、イスラエルの立て直し(パレスチナ抹消。ナクバの完遂)だけでなく、リクード系が米諜報界に殴り込みをかけて英国系を潰し、多極派が望む覇権の多極化までやってしまうことにした。多極派がイスラエルを頑張らせ、英国系と英米単独覇権を潰した。
多極派は昔から英国系の策略である冷戦構造の構築に協力するふりをして、それを過激に稚拙に推進して自滅的に失敗させ、冷戦構造や米覇権の崩壊と多極化につなげる策略をやってきた。ベトナム戦争が失敗してニクソン訪中と米中和解につなげたのが一例だ。多極派は「覇権自滅屋」だった。
リクード系はネオコンやタカ派として米中枢に入り込み、多極派の手口を踏襲し、英国系が企図していたイスラム世界との第2冷戦の策略を、過激に稚拙に進める策として911テロ事件を起こし、そこからイラク侵攻につなげ、失敗が最初から見えていたイラク占領を推進して予定通り自滅的な失敗を起こした。
911テロ事件は謎が多い。リクード系が過激に稚拙にやらかした諜報界による自作自演の事件を、覇権自滅を防ぎたい英国系が必死で証拠隠滅してもみ消したので、謎だらけで、真相究明も口だけになった。英国系から見ると、リクード系(入植者)は悪質な「いたずらっ子」「悪ガキ」だった。入植者たちは今でも、パレスチナ人を面白半分になぶり殺しにして虐殺し続けている。
911事件後、イスラム世界が敵に仕立てられて「永遠のテロ戦争」が始まったが、それは稚拙な策の連続になり、米国の覇権や信用を自滅的に低下させるだけになった。同盟諸国やマスコミ(いずれも英国系の傀儡)が米覇権の低下や稚拙さを徹底的に無視したので、覇権低下は意外に少なかった。
911からブッシュ政権(共和党)の終わり(2008年)までに、米諜報界はおおむねリクード系に乗っ取られた。次のオバマ政権(民主党)は英国系で、諜報界からリクード系を追い出して米覇権を立て直そうとしたが失敗した。
(軍産複合体と闘うオバマ)
オバマの次のトランプは、あとになるほどゴリゴリのリクード系になった。トランプの一期目(2017-20年)は、それほどリクード傀儡でなかった。トランプが英国系(民主党やマスコミ)から妨害敵視された最大の点は、対露和解・ロシア敵視の解消であり、英国系はトランプがロシアのスパイだという濡れ衣の「ロシアゲート」をでっち上げた。
初期のトランプは、リクード系というよりもむしろ、ニクソンやレーガンを踏襲する隠れ多極派だった。
トランプが推進した「アブラハム合意」は、イスラエルが最低限のパレスチナ国家の運営に協力したら、サウジアラビアなどアラブとイスラムの諸国がイスラエルと和解して国交正常化する「二国式」の構想で、リクードと対立するイスラエル中道系のオルメルトの案の焼き直しだ。
リクードの永年大統領(王様)であるネタニヤフは、トランプとの(表向きの)関係を、アブラハム合意を拒否するところから始めている。
トランプは多極派が担ぎ出し、2期目になってリクード系がトランプを傀儡化して乗っ取る動きを強めた感じだ。
(没原稿:パレスチナ和平の蘇生)
トランプは2020年の大統領選で、民主党に郵送投票制度を悪用した選挙不正をやられて不正に落選させられている。不正に当選して大統領になったバイデンは、認知症を隠しつつ、予定通りみたいな感じで失策の連続になった。
2024年の大統領選では、バイデンの認知症を暴露して引きずり下ろし、明らかに無能なカマラ・ハリス副大統領を大統領候補にすげ替え、トランプ返り咲きの可能性を高めるかのような奇妙なクーデター的な動きもあった。
これらはいずれも、米諜報界が推進もしくは承認しないと起こらない。諜報界を握るリクード系(と多極派)は、トランプを4年間下野させ、英国系のバイデンを大統領にして失策続きの4年間にして、2025年から改めてトランプを返り咲かせる展開を企図して具現化した観がある。
(トランプ返り咲きの周辺<1>)
私はこれまでこの展開の意図を、多極派やリクード系が、トランプでなく英国系(バイデン)にウクライナ開戦をやらせるためでないかと推測してきた。ウクライナ戦争は、米国が英欧を率いてロシアと長期対立し、米英欧側が自滅していく構造になっている。ロシアと仲良くしたいトランプに、露敵視のウクライナ開戦をやらせるのは困難だ。
露敵視の英国系に開戦をやらせ、その後トランプを返り咲かせて米国だけ対露和解し、英国系の英欧が露敵視に取り残されて自滅していく展開にするため、トランプを1回休ませたのでないかと私は考えてきた。
この見方は今でも私の中で有効だ。しかし今回、それに加えて、リクード系がトランプを自分たちの傀儡にするために1回休ませたのでないかという推論が私の中で出てきた。
1期目(2017-2020年)のトランプは、リベラル派、グローバリズム(リベラル派エリートによる世界支配)、地球温暖化問題(人為説軽信派)、マスコミなど、英国系の覇権勢力に宣戦布告して戦っていた。トランプの1期目の就任演説を見ると、その傾向がよくわかる。
(トランプ革命の檄文としての就任演説)
トランプは、2期目(2025年からの1年間)も英国系の覇権勢力との戦いを続けたが、それとは別に新たに、イスラエルが意図的な巨大戦争犯罪であるガザ戦争を続けつつ、中東からコーカサス、中央アジアにかけての広大な地域で、イスラエル覇権を拡大する動きが始まった。
世界は、単独覇権を持っていた英国系が瓦解して多極型に転換したが、イスラエルは多極型世界の中で、少し前までロシアや中国の影響圏だったコーカサスや中央アジアで、露中を押しのけて影響力を拡大している。
(イスラエルの覇権拡大)
イスラエル(リクード系)は、露中を敵視していない。イスラエルは、英国系の単独覇権の運営体だった米諜報界を乗っ取ったが、英国系の露中敵視の冷戦体制や包囲網(=単独覇権体制)を継承してはいない。
リクード系は、多極化(多極型世界の形成)を阻止していない。むしろ(諜報界を乗っ取らせてくれた多極派との約束を守って)多極化の推進役であり続けているが、それとは別に、多極型世界におけるイスラエルの地域覇権を拡大し、これまで露中だけが覇権を持っていた領域に「俺も入れろ」と割り込んでいる。
(中東への関与を下げたロシア)
リクード系は、イスラエルが表向き「敵」のような関係性を維持しているトルコを代理勢力として使い、トルコがアゼルバイジャンやカザフスタンなど、コーカサスから中央アジアにかけてのトルコ系の諸国をテコ入れして地域覇権を拡大する動きに背乗りして後押ししている。
トルコ(エルドアン)は、リクード系が後押ししてくれていることを自覚している。トルコとイスラエルは罵倒し合っているが、これは目くらまし的な演技だろう。アゼルバイジャンからトルコを通ってイスラエルに石油ガスが送られる流れは止められていない。
リクード系はまたUAEなどアラブ諸国による、北アフリカなどでの地域覇権の動きも後押ししている。
(ユーラシアの真ん中で世界の流れをとらえる)
リクード系は、露中の覇権領域(影響圏)に侵入しているが、露中はなすがままにされている。アゼルバイジャンは、ロシアと喧嘩してイスラエル(トルコ)の傘下に移ったが、その動きが一段落した後、ロシア(プーチン)はアゼルバイジャン(アリエフ)と仲直りしている。
カザフスタン(など中央アジア4カ国。トルクメニスタンは鎖国的なので微妙)は911以来、上海協力機構で露中の共同覇権下に入ったが、最近イスラエルやトルコとのつながりを深め、アブラハム合意にも入った。
しかし、ロシアも中国も不満らしきものを表明していない。中共は最近、パレスチナ問題へのこだわりを示さなくなった。中露は、多極型世界を破壊阻止しないかたちのイスラエルの覇権拡大を容認している。
説明が長くなったが、リクード系は、返り咲き前のトランプに対して「イスラエルの覇権拡大とパレスチナ抹消に協力してくれたら、政権の再獲得に協力する」と持ちかけ、トランプの了承を得て2023年夏ぐらいに秘密協定(トランプが好きな「ディール」)を結んだと考えられる。
協定締結後、イスラエルはハマスを誘発してガザ戦争を起こし、巨大な人道犯罪に仕立てつつ、長期的なパレスチナ抹消を加速した。
2024年末のトランプ当選後、イスラエルはレバノンのヒズボラを攻撃して潰し、傀儡勢力のアルカイダ系にシリアのアサド政権を転覆させた。シリアとレバノンという、英国がイスラエルの拡大を阻止するためにサイクス・ピコ協定でフランスにやられたふりをして手放した領域が、109年ぶりにイスラエルの傘下に入れられた。
米大統領選挙前の2024年7月には、トランプが狙撃されたが無傷で終わる事件もあった。これも、リクード系が支配する米諜報界が、トランプの人気を高めるために行った演技で「ディール」の一部だったと考えられる。
(トランプへの銃撃)
リクード系は、今後の多極型世界でどのように動いていくのか??。彼らは米諜報界とトランプ政権を握っているので、非常に強い国際政治力(覇権)を持っている。その気になれば、英国に替わってイスラエルが世界的な単独覇権を持つことすら視野に入る(ガザで巨大な人道犯罪をやったので、英国系の覇権維持策だった人道主義は使えず、むしろ人道主義そのものがリクード系によって破壊されたが)。
リクード系が世界単独覇権を目指しているのなら、ロシアや中共がもっと反対するはずだ。露中がリクード系(イスラエル)の覇権拡大を容認しているのだから、リクード系は多極型世界を尊重する(もしくは、尊重するふりをして露中を騙しているとか)。
リクード系が、露中の近傍である中央アジアやコーカサスに覇権を拡大したのは、多極型世界を尊重しつつも、中露を監視し続ける策であると考えられる。
従来の地政学の考え方は「ユーラシア中央部を制する者が世界を制する」だが、カザフスタンなど中央アジアやコーカサスは、まさにユーラシア中央部だ。911以来、ユーラシア中央部は中露の覇権下だったが、今後は中露とリクード系の共同覇権下になる。
地政学の考え方に沿って、リクード系はユーラシア中央部に進出したとも考えられる。
リクード系の力は米諜報界に依存している。米諜報界の力は、ドルや米国債・米金融バブルの維持に依存している。米国がバブル崩壊したら、米諜報界もリクード系も崩壊する。
リクード系の覇権拡大策は、米金融バブル(株や債券の高値)が、最近始まったFRBの隠然QEなどによって今後もずっと維持されることを示唆している(同時に、多極型世界の象徴的な富である金地金の価格上昇も続く)。
トランプは、リクード系の傀儡になり続けてくれる人を後継者にするだろう。JDバンスが次の大統領になる感じが増している。バンスはリクード傀儡になることを了承したということだろう。
(米連銀のQE再開)
リクード系が中露を監視し続ける策を持っているなら、日本が昨秋、高市政権になり、トランプに支援されつつ、中共との対立を強め、英国系である官僚独裁体制やその傘下のマスコミやリベラル派を駆逐する動きを始めたことも、リクード系が日本を押し立てて中露監視(特に中共監視役)に仕立てようとしている策に見える。
リクード系は多極型世界の形成に協力しているので、日本を対米従属(英国系による支配体制)のままにしておかず、高市が中共との対立を利用して、日本の上層部に巣食ってきた英国系(官僚独裁機構、マスコミ権威筋、リベラル派)を追い出し、トランプの後押しで核武装までやらせ、対米自立させていくのかもしれない。
核武装は、自動的に対米自立になるが、同時に、多極型世界における「極」になる道を進める。
(高市を助ける習近平)
リクード系は、カザフスタンと日本という、中国の西と東の近隣に影響力を行使し、中国への監視体制を作ろうとしている。そのように見える。印度も中国に隣接しており、リクード系と仲が良い。
中共は、リクード系による覇権拡大に抵抗するのをほとんどやめている。多極型世界の形成に協力しているのだから良いと考えているのかもしれない。米諜報界とトランプ政権を握るリクード系はとても強力なので、現実主義な中共は対立を避けたいのかもしれない。
そのような中共は、リクード系が日本を核武装させて、中国と並ぶ「極」に仕立てることを容認しているように見える。中共は、英国系(国民会議派)からリクード系(モディ)に転じた印度とも関係改善している。
(日本を多極型世界に引き入れるトランプ)
日本は、高市が政権をとって台湾問題に首を突っ込んで中共に喧嘩を売った。中共は、積極的に売られた喧嘩を買い、日本で高市の人気が強まることをこっそり支援している。日中対立が強まるほど、官僚機構やマスコミやリベラルなど英傀儡たちの力がざまみろ的に弱まる。
日本外務省など官僚機構は、トランプの米国が覇権放棄したので日本を対中従属に転換させようとしてきたが、中共はそんな官僚機構を自滅させている。微視的・小役人的には不可解だが、巨視的には納得がいく。
トランプもリクード系も中共も、高市の日本が日中対立を利用して核武装(対米自立)して多極型世界における極になっていくことを隠然と支援している。
(日本も韓国も核武装しそう)
日本はリクード系の国になっていく。英米傀儡だった戦後には見えなかった風景が見えてくる。
日本は長期国債の金利が上昇し、財政破綻が見えてきているが、これも、危機感がひどくなった方が「最後の手段」である核武装が容認されやすくなることを考えると、意図的な危機感醸成かもしれないと感じられてくる。
パキスタンも北朝鮮もイスラエルも、危機感満載の追い詰められた状況下で核武装している。
核武装に抵抗がある人が多いだろうが、さらに大きな視点で見ると、これは日本にとって「良いこと」である。英国系から洗脳されきっているリベラル派や新聞愛読者には、何を言っても理解不能だろうけど。
「やるべきでない」といくら叫んでも、現実は変わらない。叫びたければ叫べばいいけど。私を攻撃して憂さ晴らしとか?。あーいやだ。
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