米連銀のQE再開
2025年12月12日
田中 宇
米連銀(FRB)が、12月12日から事実上のQEを再開した。金利を適正値に誘導するため、利下げと同時に、FRBが持つ準備金と、金融市場内のドル資金の間のバランスを調整する意味で短期米国債を購入する策として行うと説明され、Reserve Management Purchases(準備金管理用の購入)と名付けられている。
リーマン危機から2022年まで断続的に続いた(日銀はまだ続けているらしい)QEも、今回の購入も、中央銀行群が造幣した資金で債券を買い支え、金利高騰(金融危機)を防ぐ救済策であるのは同じだ。
中銀群は前回も今回も、これらが(不健全な)救済策であると認めないし、今回の策はQEでないと連銀は言っている。しかし、金融市場はそれらを救済金として見ている。
(Fed says will start reserve management Treasury bill buying)
今回の債券買い支えは月額400億ドルで、いつまで続けるのか発表されていない。1年間続くと5000億ドルだ。かつてのQEは年間1兆ドルぐらいだったから、その半分だ。米連銀は、とりあえず半分の額でQEを再開したと考えることができる。
かつてのQEは、民間のジャンク債(不動産担保債券)も救済的に買っていたが、今回は(まず)米国債だけを買っている。
米連銀は、2022年春に不健全だと言われてQEをやめた後、それまでに購入した債券類を市場に売り戻して、肥大化した自己勘定を健全化するQTをやっていた。そして連銀は、そのQTを11月末に終了したばかりだった。
(Asset Purchases Begin: Fed To Buy $8.2BN In Bills Friday; Full Monthly Schedule Released)
私は今回、連銀がいきなり事実上のQEを再開するまで、連銀がこれからしばらくの間、QEもQTもやらない中立な姿勢をとり、金融システムの様子を見るのかと思っていた。だが実際はそうでなく、連銀はQTをやめてから12日後に事実上のQEを再開した。
これは要するに、最初からQEを再開するためにQTを終わりにしたのだ。世の中では「2022年以来の3年間のQTで、連銀の勘定は9兆ドルから6兆ドルに縮小し、かなり健全化された。それで、そろそろQTをやめてもいいだろうという話になった」と説明されている。
だが、実はそうでなかった。米金融システムでは、9月ごろから自動車や学資、住宅などのサブプライムローンの返済不能分が急増し、リーマンショックと同じ構造の金融危機が潜在的に再発していた。
米連銀は、銀行界に貸し出すレポ資金の注入を急増して不良債権を穴埋めし、危機の顕在化を先送りしてきた。
だが、11月になって、レポ資金の注入による穴埋めだけでは危機を隠しきれなくなり、連銀は、11月末のQT終了と12月12日からの事実上のQE再開に踏み切ったのだろう。政策の急転換ぶりから考えて、何も起きてないかのような上っ面(マスコミ報道など)と異なり、米金融システムの実際の状況は、かなり悪い。
(くすぶる米金融危機)
リーマン危機後、米国を中心とする世界の(債券)金融システムは、米連銀がQEで毎年1兆ドルずつ資金注入し続ければ、自然な需給によって蘇生し成長し続けているかのような(ニセの)姿を見せることができていた。
今回、再び年額5000億ドルから始まるQE再開で、再び人類を騙せるニセの演出ができるのだろうか。できない場合は、QEの注入額を増やせば良いとも言える。
このQE再開の策を仕切っているのはパウエル議長ら連銀自身でなく、トランプ陣営や、その背後にいて米諜報界を支配するリクード系だろう。パウエルは、トランプに加圧され、脅され続けている。
トランプやリクード系(やロックフェラー系)は、戦後ずっと英国系に乗っ取られていた米国の覇権システムを持続するつもりがなく、米覇権(ドル)を使い捨てしつつ、世界を多極型に転換していくつもりで事態を動かしている。
(突然金融危機になるかも)
彼らは、ドル覇権の永続が必須でなく、世界が多極型になり切るまでのつなぎとしてのドル延命なので、QEをどんどんやって米連銀の勘定が不健全に肥大化してもかまわない。
毎年2兆ドルずつQEをやるとして、10年後に連銀勘定は26兆ドル。不健全か??。
無根拠な温暖化人為説を軽信し、害悪とわかるはずのワクチンを嬉々として連打した人類なのだから、専門家たちが「健全だ」といえばみんな信じる。
世界各国の政府は言論統制も強めてるから反論を消すのは簡単。
今は毎週発表している連銀の勘定額も非公開にしてしまえば良い。みんなすぐ忘れる。リクード系の思い切りの良さから考えて、これから30-50年ぐらいずっとQEで金融バブルを維持できるかもしれない。ダウ20万ドルとか。
実のところ、汚いやり方でバブル膨張し続けている限り、ドルは崩壊しない。健全性とか言い出した途端に崩壊する。
(経済金融うそばっか)
米連銀のQE再開は、日本をも救済している。日本は最近、弱体化が悪化した国内金融界が日本国債を買い支えられなくなり、長期国債金利の不健全な上昇が止まらなくなっていた。日本の弱さの体現としての円安も続いていた。
しかし今回、米国で事実上のQEが再開されるとともに、その資金の一部が日本国債にも注入されてきたらしく、国債金利がやや下がり、円安も止まっている。トランプの代わりに中国敵視をやってくれている高市に対する報酬と考えられる。
(Japan’s monetary experiment reaches its limit and the unwind of years of printed money could be brutal)
以前のQE資金は、金相場の上昇抑止(信用売り)にも使われていた。かつて金相場は、上がりにくい状況にずっと置かれていた。
だが今回は、12月12日に米連銀が事実上のQEを再開すると同時に、金相場が100ドル近く反騰して1オンス4300ドルを越えた。
(Is A Backdoor Gold Standard Coming?)
これから反落する可能性もあるが、構造的に考えて、以前ロンドン(ドル覇権の黒幕である英国系)が握っていた金相場の主導権は、すでに上海(多極化・非ドル化を推進する中共)に移っている。
中共とリクード系(トランプ)はすでに手打ちしており、リクード系はドルのバブルを延命させ続け、中共は人民元の基軸通貨化を目指さない代わりに、米国側は中共が金相場を引き上げるのを妨害しないという談合になっているのかもしれない。
(金地金はもっと高くなる)
(Goldman Sees Significant Upside To Their $4900 Gold Price Forecast)
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