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高市を助ける習近平

2025年11月16日   田中 宇

高市首相が11月7日、中国軍が武力行使で台湾を海上封鎖したら日本も中国と戦争せざるを得ないかも(存立危機事態になり得る)という趣旨を国会で表明した。これに対し、過激な発言で知られる中国の駐大阪総領事がインターネットで、高市を殺害する(首を斬ってやるしかない)と発信した。日本と中国の間で対立が激化した。

中国外務省は11月14日、対立激化などによって中国人が日本にいると危険な状態になっているので、中国人は日本に行くべきでないという渡航自粛の注意喚起を発した。(中国政府は、今年に入って日本で中国人が襲われる犯罪が相次いでいることも日本に行くべきでない理由として挙げたが、そんな事実はない)
中国政府の渡航自粛の勧めを受け、中国の航空各社は、日本に行こうとしていた中国人の航空券を手数料なしで払い戻す手続きを開始した。
Multiple Chinese major airlines announce free change and refund policy for flights involving Japan after travel reminder

高市は、以前から台湾支持の姿勢をとっており、中共との関係改善を急ぐ感じでない。日中間の対立は今後しばらく続く。対立が続く限り、中国人は日本に行くべきでないという中国政府の自粛要請が続く。独裁者の要請に逆らって来日する中国人は減る。
今の習近平の独裁体制の中国は、極度の監視社会になっている。中共の意に反する行動をする人民への締めつけが厳しい。漢民族(や漢化した少数民族を含む中国人全般)は自分勝手な気質が強いので、中共が独裁的な秩序維持を希求するほど、人民に対する監視を強めざるを得ない。
China Warns Citizens Against Travel To Japan Amid Serious Taiwan-Related Dust Up

トウ小平が決めた胡錦涛までの政権は、米英から敵視されぬようリベラルな非独裁を気取る集団指導体制をとっており、社会の監視を甘くし、中国人は特に経済面(金儲け)の無秩序を謳歌していた。
2013年からの習近平政権はそれを脱し、独裁強化と秩序維持を重視して監視体制を構築した。新型コロナ対策を口実に、極度の監視社会になった。中国は息苦しい社会になり、東南アジアや日本など、監視がゆるい外国の諸都市に移住する裕福層が急増した(「潤日」など)。
日本では、東京やリゾート地などの不動産が投機的に中国人に買われて高騰した。東京の分譲マンションは、ふつうの日本人が買えない超高値になっている。
中国の金持ちは、中国国内に資産を置いておくと、共産党から目をつけられて課税や没収(犯罪検挙)されかねない。だから、資産の何割かを国外に置きたがる。日本の不動産を高値買いし、あとで値崩れして損を出すリスクより、中国国内に置いて没収されるリスクの方が大きい。そもそも「商人」である漢民族は、投機で値段を釣り上げて儲けるのが民俗芸能だ。
The number of billionaires in China is at an all-time high

東京などでは、リベラルを気取る区役所や市役所が「外国人に優しい行政」を目指し、保育や教育、医療などの面で、公金を使って外国人を厚遇している。守銭奴な民族性を持つ中国人が、このおいしい状態に注目しないはずがない。日本に定住し、子育てする潤日の中国人が急増している。
日本人の若者は恋愛も結婚もしない人が増え、保育や教育の公金は日本人に対して使われない。代わりに中国人が使ってくれている。日本人の自業自得。ざまみろ。文句ないだろ。

いやいや。文句ある。日本人は、しだいにリベラルな政策が嫌いになり、中国人やその他の外国人を偏向的に厚遇する(外国人に政策を悪用されている)既存の日本のリベラル(中道系、左翼系)の政治家や役人、マスコミを敵視し、外人嫌いな右派や極右の政党を支持する傾向になっている。
その流れの末に、極右系の諸政党の人気急増、リベラルな石破政権の終わりと極右な高市政権の成立、左翼的な公明党の連立離脱などが起きている。

極右な高市は、以前から台湾支持だったので、国会で問われて「中国が台湾を攻撃したら、日本も中国と戦争する(かもしれない)」と答えた。
この当然の表明に対し、当然のごとく中共は「高市を殺してやる」と表明した。大阪総領事は、個人的見解でなく中共中央(習近平)から指示されて高市の日本に喧嘩を売った。今後しばらく日中は対立する。ここまでは自然な流れだ。

私が意外に思ったのは、この対立を受けて中共が人民に「日本は危ないから行くな」と言い出したことだ。
潤日は日本人を困らせている。中国の金持ちたちが大挙して日本に移住して不動産投機して日本人が家を買えなくなるのは、日本に対する中共の嫌がらせ策になる。

私の見立てでは、中国が文化大革命だった1960年ぐらいまでに生まれた世代は、中国人より日本人の方が優秀だが、日本がゆとり教育(米国を抜かないよう官僚機構が日本人の頭を悪くした対米従属策)をやり出す1980年以降に生まれた世代は、日本人より中国人が優秀だ。
すでにリベラルを気取る日本の大学教員の分野では、日本人より優秀な中国人が教授などの職位をどんどん占領している。潤日の中国人が産んだ子供たちは、日本人より優秀なので、日本の企業幹部も中国人に占領される。
潤日は、監視社会を嫌う中国人の自然な流れでなく、この自然な流れを使って中共が日本を乗っ取ろうとする意図的な策略だという見方もある。そのうち5000万人の中国人が日本に住んで、日本の上層部の大半が中国人になる、とか。

潤日が中共の謀略でないとしても、中国人の方が優秀だと直観している最近の(マスコミ軽信なリベラル派以外の)日本人は、中国人の流入を止めねばならないと思っている。だから高市政権ができた。多くの日本人が高市首相に、中国人(を筆頭とする外国人たち)の日本流入を止めてほしいと願っている。
しかし、流入を止めるのは難しい。もともと日本政府が外国人の入国を簡単にしたのは、2015年あたりから、G7など米英の傀儡諸国が、移民や難民の積極受け入れを集団的(半強制的)に決めたからだ。
西欧は中東から、米国は中南米からの移民が急増した。今ではもともと住んでいた国民が、移民による犯罪増加や福祉依存による負担増に苦しみ、移民受け入れを続けるリベラルエリート政党に愛想を尽かし、移民に反対する極右政党やトランプへの支持が急増した。
日本政府は、移民や難民を受け入れたくない。しかし、米英の要請(命令)に従わねばならない。そこで日本だけ、永住する移民や難民でなく、時限的な旅行者や留学生、研修生として入国させる外国人を増やすことにした。インバウンドの観光収入が日本経済を救う。そんな標語(英国系の傀儡である日本外務省やマスコミのプロパガンダ)が喧伝された。

実のところ、移民や難民の積極受け入れ策は、米覇権を運営する諜報界を牛耳った隠れ多極派(リクード系)が、既存の英国系の単独覇権体制を自滅させるため、英国系の傀儡諸国に「人道主義」などの名目で強要した政策だった。
移民を積極的に受け入れ続けた英独仏は自滅し、エリート勢力の政権党は、支持が減って政権喪失の危機に陥る中、最近になって移民受け入れを止めると言い出したが、時すでに遅しという感じだ。
旅行者としての受け入れだけでも、経済効果のプラスより、交通機関の混雑などのマイナスが大きく、多くの日本人が右傾化してリベラル敵視になり、高市政権を後押ししている。
これはリベラルが批判するところの外国人差別でない。日欧米の極右たちは、これ以上われわれの社会を壊さないでくれ、と言ってるだけだ。外国人でなくリベラル派の犯罪だ。
(リベラルも、リクード系に騙されて自滅させられた被害者ではあるが、いまだに騙されたことに気づかないのは間抜けすぎて未必の故意)
リベラル世界体制の終わり

米国は、違法移民を野放図に受け入れた民主党が弱体化し、たぶん二度と政権につけない(現時点で想像できないほど変身しない限り)。米国は、違法移民の強制送還を進める共和党極右のトランプ政権になった。
極右な高市は、自主的なトランプ傀儡政権でもある。米国がトランプ化、極右化したのだから、対米従属の日本がトランプ傀儡の極右政権になるのは当然だ。しかし、日本の外務省やマスコミ権威筋のほとんどは、いまだに英国系の傀儡だ。うまく転換できない小役人気質に陥っている。
ジャーナリズム要らない

米諜報界はリクード系になり、英国系が自滅したのだから、もう移民や旅行者を受け入れる必要はなくなった。しかし、高市が外国人の流入を止めたくても、外務省や権威筋など英傀儡の残滓があれこれ妨害して転換を阻止する。
外国人が来なくなると日本経済が破綻するというマスコミの歪曲報道も騒がしい。守銭奴な中国人の喧嘩腰の値引き要求を受け、インバウンド担当の日本人の店員たちは疲弊している。人道問題なのにマスコミは無視している。
為替を円高にすれば外国人が来なくなるが、米国(英国系からトランプまで)が望む株高のために円売りドル買いして資金供給せねばならないので無理だ。

早々と万策尽きたところに、意外な助っ人が現れた。それが習近平の中共だった。中共は今回、日本乗っ取り策の基盤となっている中国人の日本への移動を「危ないから行くな」と言って止め始めた。日本の流入する外国人の多く(最も有害な部分)を占める中国人が来なくなる。
習近平の中共は表向き、高市の日本と敵対し始めたが、実際は、中共が中国人の日本流入を止めてくれて、高市を助けている。中共は、高市を殺すぞと言いつつ、実は支援している。表と裏が真逆な中国外交。孫子の兵法。元寇以来の逆神風。
この展開はもしかすると、トランプが習近平に頼んでくれたのかもしれない。トランプと習近平が、日本外務省の抵抗を乗り越えて高市を救っている。とか。

中共は、実は日本の右傾化を歓迎しているのか??。そんなわけない、とみんな思うだろう。だが、日本が、人道主義を振りかざして中国包囲網を維持する英国系の傀儡国から、こっそり中露と親しい隠れ多極派であるトランプの傀儡国に転換するなら、それは習近平にとって望むところであるとも言える。

中共にとって、G7や英国系が日本の再台頭を防いでくれる「びんのふた」でなかったのか。日本が右傾化するほど、戦前の大東亜共栄圏みたいな思考がよみがえり、日本が中国の脅威になる。左翼リベラルの教員やマスコミに教育(洗脳)された日本人(私自身とか)も、そう思ってきた。
しかし実は、日米が中共を敵視する冷戦構造も、英国系の産物だった。日本は右傾化しても米国(トランプ)に従属している。今の日本人は、ゆとり教育で覇気を抜かれ、大東亜共栄圏の蘇生など考えもしない。対米従属以外に何もない日本でなく、一帯一路や上海機構など中共の国際戦略の方が、大東亜共栄圏に近い。
英国系の覇権運営を潰したいと考えてきた点で、習近平の中共と、トランプや高市といった極右(リクード系)は「同志」ですらある。
トランプとアジア

豪州は、台湾有事に派兵することをトランプに求められたが拒否した。台湾有事に派兵するかもと表明した高市の日本とは正反対だ。ほらみろ。日本は危険だよ・・・。
だがよく見ると豪州はまだ英国系かもしれない(豪州はトランプ対策として曖昧化している)。英国系は反トランプなので、トランプの中国敵視に同調できないと言ってるだけだ。英国系の本質は、冷戦構造=中国包囲網だ。英国系は、弱体化したので現実的な策として一時的に中国敵視を弱めただけだ。本家の英国でリベラル派が完全に潰れるまで、豪州はリベラルの残滓がある。
高市の日本はトランプ傀儡なので反英系に転じている(国内に日本外務省とかマスコミなど英国系の残党はいるが)。

習近平は国内政治的にも、英国系の覇権を許容したトウ小平が作ったリベラル派を好まない。トウ小平の策は、中国が弱かった時代の話だ。今は違う。中国は、米国並みかそれ以上に強い。
石破までの従来の自民党や、バイデンまでの米国は、中共内部のトウ小平派と結託しかねないリベラル派だった。それなら、表向き好戦的で中共敵視だけど実際は反英系で習近平と組める極右のトランプや高市の方が良い。
中東への関与を下げたロシア

英国系から覇権運営権を強奪したリクード系が、中国包囲網を居抜きで継承することはないのか。右傾化した米露印日イスラエルで新たな中国包囲網とか。
考えてみると、それはない。中国包囲網は、中共が民主主義や人権を侵害していると非難する人道主義の外交戦略が基盤だ。リクード系のイスラエルは、ガザで何十万人も殺す巨大な人道犯罪を意図的にやってしまった。リクード系は人権外交を継承できない。



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