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利上げしたくない日銀

2022年12月25日  田中 宇 

12月20日、日銀が長期金利のゼロ金利策を少し修正した。ゼロ金利策自体は継続するが、これまでゼロから0.25%までの上昇を容認していたのを、今後は0.5%までの上昇を容認することにした。これを受けて、10年もの日本国債の金利が0.25%から0.4%台に上昇した。日銀は事実上ゼロ金利策を捨てて長期金利の利上げを開始した、と報じられた。 (BoJ Sparks Market Chaos With Huge 'Yield Curve Control' Adjustment

日本のマスコミ権威筋は、日銀はゼロ金利とQEを長くやりすぎたので利上げを続けるべきだとか、来年4月の黒田総の任期満了とともに日銀は利上げやQE中止をしそうだとか、岸田首相が日銀に加圧して政策転換させたに違いないとか言っている。私から見ると、いずれも間違っている。以前マスコミが「安倍晋三が殺されたのは安倍自身が悪い」と報じていたのと同質のとんでもなさだ。

中央銀行が造幣して債券や株などを買い支えるQEと、それに付随するゼロ金利策は、不健全な愚策だ。一度やり出したらやめられない。金融システムがQE中毒に陥り、QEをやめたら金利高騰(債券暴落)など金融危機を引き起こす。それは2009年に米連銀がQEを開始し、2013年から日銀にもQEを急拡大させた当初から明白だった。「QEは不健全だからやめるべきだ」とマスコミ権威筋が言うのなら、それはQE開始時に強く言うべきだった。QE開始から最近まで、マスコミ権威筋はQEを愚策だと言っていなかった(権威筋のごく一部が愚策だと正直に言っていたが黙らされた)。 (出口なきQEで金融破綻に向かう日米

日銀が7年間もQEをやって、金融システムがすっかりQE中毒になった今ごろになって、マスコミ権威筋はQEを早くやめるべきだと言い出している。QEとゼロ金利をやめたら、2年以内ぐらいに金融崩壊が起きてしまう。QEは、やり続けている間は金融崩壊が起こりにくい。やめたら金融崩壊が起きることを公式な認識とした上で、どうすれば良いかを考えていくしかない。だが日米欧とも公式な場では、そのような議論に全くなっていない。 (日銀QE破綻への道) (Kuroda-nado Not Enough To Derail US Treasury Rally, BoJ Shift Sparks Japanese Banking Bonanza

米連銀は今年初めからQEとゼロ金利策を中止し、3月から逆回しのQTと利上げを続けている。英国やカナダも米国と連動した。欧州中銀(ECB)は米国に加圧されて利上げやQE終了に動いている。これら米欧は、QEをやめたが金融危機になっていない。だが「QEやめても金融崩壊しないよ」と言うのは早すぎる。米欧とくに米連銀は今後もQTと利上げを続けるので、今後いずれかの時期に必ず金融が大崩壊する。米欧も日本も、金融システムは極度のQE中毒になっている。これまでずっとQE資金が不健全に(市場原理と無関係に)相場を押上げていたのに、マスコミ権威筋は「景気が回復している」など嘘八百を並べ、市場原理で相場が上がったかのような妄想を振りまき、多くの人がそれを軽信してきた。 (Peter Schiff: The Fed Is Still Completely Oblivious

08年のリーマン危機以降、QE以外の相場の上昇要因はほとんどない。米国は大企業の自社株買いで株が上がり付けたが、QEが債券金利を低下させ、大企業は安価に社債発行で資金を作り、自社株を買っていた。QEがなければ企業は自社株買いできなかった。米欧日の金融はQE漬けの中毒だ。今の米英のように、QEをやめてQTを続けていたら、いずれ必ず金融が大崩壊する。日本は今後しばらくQEをやめてはならない。米英が金融崩壊してから、日本がQEをどうするか決めるべきだ。米英と一緒に日本が崩壊する必要はない。みんなが死んでも自分だけ生き残ることがあり得る。みんなと一緒に死んではならない。 (意外と正しい日銀の円安放置

こういう危機的状況になっていることをマスコミ権威筋が認めて公式な議論をしていくしかないのだが、状況は全く無視され、お門違いで頓珍漢な話が流布し続けている。QE開始時にQEの愚策性を無視して報じなかったマスコミ権威筋は、安易にQEをやめたら大崩壊する今になって、QEは不健全だから早くやめるべきだと言い出している。大間違いである。マスコミは金融だけでなく、新型コロナ、ウクライナ戦争、地球温暖化などいくつもの大きなテーマで、社会を自滅に追い込む大間違いを報じ続けている。マスコミ全体が廃業した方が国民のためだ。いまさらQEのやめ方を議論しても崩壊は避けられないが、無視して進んだら、いずれ起きる金融大崩壊がひどいものになるだけだ。 (破綻が進む英米金融

日銀や日本政府の上層部は、QEをやめて利上げしたら金融崩壊することを知っている。そもそも、利上げしたら日本政府は国債の利払い金が増え、財政難がひどくなる。岸田首相が(米国でなく)自分の意志で黒田総裁に利上げしろと圧力をかけるはずがない。日銀が2013-15年にQEを急拡大してゼロ金利も始めたのは、米国からそうしろと加圧されたからだ。米連銀は2009年からQEを開始し、2013年までに連銀の資産が肥大化して不健全性が露呈していた。だから米国は日本と欧州にQEを肩代わりさせようと加圧した。当時の日銀の白川方明総裁が抵抗したので、安倍政権の日本政府は2013年春、日銀生え抜きの白川を辞めさせ、財務省で円ドル協調策を担当して米国と通じていた黒田東彦を日銀総裁に据えて、黒田がQEを急拡大した。日本は、米国の傀儡なのでQEをやらざるを得なかった。マスコミ権威筋は「我が国は米国の傀儡なので危険なQEをやらざるを得ない」と論じるべきだったのにそうせず、反対して辞めさせられた白川を誹謗中傷する大間違いをやり続けた。 (最期までQEを続ける日本) (米金融覇権の粉飾と限界

QEが超愚策であり、QEをやめたら金融崩壊することは、米国の上層部も知っている。なのになぜ米連銀は、リーマン危機への「対策」として大規模なQEを12年も続けた挙げ句、ウクライナ戦争が起きて現物(資源類)利権の大半が中露非米側に行ってしまい、米国側は金融バブルしか残らない状況が決定した今年初めという素晴らしいタイミングで、金融を自滅に向かわせるQE終了・QT開始に踏み切ったのか。まるで米国は、覇権の基盤にあるドルの信用を10年以上かけて自滅させたいと考えていたかのようだ。 (来年までにドル崩壊) (ドルはプーチンに潰されたことになる

米国の覇権を動かしている諜報界に、米覇権を壊して多極型に転換したい隠れ多極主義者たちが巣食っていることを考えると、12年間のQE継続と、今春のQTへの転換が偶然のタイミングでないことがわかる。米金融とドルの破壊へとつながるQEからQTへの転換は、インフレ激化への対策として挙行されたが、米国の流通網を破壊してインフレを激化させたのも米諜報界だ。米政府が救済し得たリーマンブラザーズを倒産させ、米金融覇権の根幹にあった債券金融システムを破壊したのも米諜報界だ。利上げしてもインフレ対策にならないのに、インフレ対策として利上げしろとマスコミに主張させ、米連銀を利上げに追い込んでいるのも、QEは危険だからやるべきでないという報道を早い段階でマスコミにさせなかったのも諜報界だ。 (もっとひどくなる金融危機) (Peter Schiff: The Game Has Changed

最近、日本だけでなく英国やカナダ、EU、シンガポールなどが、利上げやQE終了などの金融引き締め策を続けている。これらの世界的な利上げなどはインフレ対策だと「解説」されているが、インフレは物理的な流通網の詰まりとウクライナ戦争の対露資源制裁の反動によるものであり、金利や通貨発行量に関係ない。利上げしてもインフレは沈静化しない。利上げは、金融バブル崩壊や景気悪化を引き起こして経済を破綻させるだけの超愚策だ。各国の当局はそれを知っているはずだが、それでも利上げせざるを得ないのは、米国など「世界の上の方」(諜報界、国際権威筋)からの圧力があるからだろう。コロナが風邪だとわかっていても永久にパンデミック扱いし、史上最大の薬害であるワクチンを全国民に接種させねばならないのと同じ構図だ。 (BoE raises rates again as investors look towards end of hikes) (放置される米国のインフレ

なぜ米諜報界など「上の方」は全世界に自滅的な金融引き締めをやらせるのか。一つ考えられるのは、米諜報界の多極派が米国(米英)に金融引き締めをやらせて巨大なバブルを崩壊させて米覇権を破壊して世界を多極化しようとしても、日本や欧州などが自滅を嫌がってQEなど超緩和策を続けていたら、それによって作られた低金利の資金が米国に流入し、米国の金融システムと覇権を延命させてしまうから、ということだ。米覇権崩壊と多極化を進めるには、日本や欧州にも利上げやQTをやらせ、米国金融が救われる資金の移動を止める必要がある。12年間のQEと、今年のQTへの転換は、米上層部の多極派による長期的な米覇権の自滅策として展開されてきた。今の事態も、その延長と考えられる。 (世界を多極化したがる米国

米諜報界は、金融政策だけでなく、新型コロナや対ロシア制裁、温暖化対策などでも、世界を巻き込んで自滅的な策をとらせている。コロナや対露制裁、温暖化に関しては、戦後の米覇権体制を積極的に支えてきた欧州が、がっつり自滅策をやらされて米国以上に自滅している半面、中露印など非米諸国と、日本や韓国などいずれ中国の傘下に入りそうなアジア諸国は、やったふりだけで本気の自滅をやらなくて許されている。 (自滅させられた欧州) (米諜報界の世界戦略としての新型コロナ

金融政策も同様の傾向になっていくのなら、日本の政府や日銀は、利上げやQTをやれと米国から加圧されても、今回のように金利の可動幅を広げるぐらいで、それ以上の本気の自滅策をやらず、そのまま黙認され続けるシナリオがありうる。日本のマスコミ権威筋は、利上げやQTをやるべきだと日銀に加圧し続けるだろうが、日銀や政府は無視し続ける。温暖化対策や対露制裁やコロナ対策でも、日本のマスコミ権威筋は、政府に対して自滅策をやれと言い続けているが、政府は無視している。 (日本の隠然非米化

この流れが具現化すると、来年4月に総裁が交代した後も、日銀は金融引き締めをほとんどやらず、きたるべき米英の金融崩壊までQEとゼロ金利の緩和策を延命させられる。そうでない場合、日本は来年前半に金融引き締めを加速して自滅の道に入っていく。



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