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もっとひどくなる金融危機

2022年6月15日  田中 宇 

世界的にインフレが悪化し、金利が上がって株や債券の相場が下落している。米銀行界で金融機関が相互に信用しなくなる信用収縮が起きているとの指摘もある。米国は40年ぶりのひどいインフレと22年ぶりの金利上昇で、すでに金融危機の状態だ。間もなく米連銀(FRB)がインフレ対策として50-75bps(0.5-0.75%)の利上げをする。連銀は6月からQT(金融バブル膨張策QEで市場に注入した資金を回収するQEの後始末策)も開始している。だが、インフレの原因は通貨政策でなく流通網の詰まりや対露制裁なので、利上げとQTの緊縮策をやってもインフレはおさまらない。75bpsとか大胆な利上げは実のところ超愚策だ。米連銀は米政界から加圧されており、インフレがおさまるまで緊縮を続けると言っているので、今後もインフレの悪化が続く中で利上げとQTの緊縮策もずっと続き、不況とインフレが同時に起きるスタグフレーションが加速する。これは不必要な大失策だ。そして今後もそれが続く。株や債券は今後さらに下がる。 (Protection From A Currency Collapse) (Biggest Fed rate hike since '94 overwhelmingly expected; what next for stocks?) (Between Inflation and a Hard Place: Fed Risks Recession by Raising Interest Rates

米欧や新興市場の市民生活はインフレと物不足、食糧難がひどくなる。ウクライナをめぐる米露対立は来年にかけてずっと続くので、石油ガス穀物など資源類が世界的に高騰・不足し続ける。インフラ網の不備もひどくなって米国では今夏、大規模な停電が予測されている。今夏は世界的に「飢餓の夏」にもなる。とはいえ今夏が最悪の時期ではなく、秋以降は全般的にもっと悪くなる。その中で今年11月に米議会の中間選挙でバイデンの民主党が大敗し、両院の議会多数派を共和党に奪われ、米国は決定不能な政治的なねじれ状態になり、すでに当事者能力が低下している覇権運営が今よりもっと滞る。 (当事者能力を失う米国) (Perfect economic storm buffeting Biden

マスコミ権威筋は米国などの経済について「今はまだ不況でない」と言っているが、同時に「来年はいずれかの時点で不況になる」とも予測している。つまり権威筋から見ても、来年までの間ずっと経済や金融が悪化し続けるということだ。今すでに金融危機なのだから、来年にかけて事態はどんどん悪くなる。米国の平均株価S&P500は、現時点で最高値から22%下落した(4818から3735)。不況入りは最高値から4割の減価になるので、来年にかけて、まだあと20%近く下落する計算になる。 (Leon Cooperman Warns "Bear Market" Not Over As Recession Looms "Sometime In 2023") (Markets, Central Banks, Inflation and the Chaotic Tipping Point

日本では日銀がゼロ金利とQEの超緩和策を続けており、連銀が利上げとQTを加速している米国との乖離が広がり、そのため円安が加速して大騒動になっている。日本では利ざやがとれず苦戦してきた銀行などの資金が、金利上昇で利ざやが取れるようになった米国に流出して円安になっている。だが米国では、今のような危機の前半には「有事のドル」が買われてドル高傾向だが、これから金融危機が進んでいくと、ドルの基軸性の喪失が露呈して逆にドル安の傾向になっていく。そうなると、日銀の超緩和策を理由とした円安と、基軸性喪失のドル安の傾向が打ち消し合い、円安が進まなくなっていく。 ("I Need A Dollar") (How Quantitative Tightening Ends

すでに述べたように、緩和策をやめて緊縮策に転じてもインフレは解消されない。QEを長期間続けた後にやめると化けの皮が剥がれて金融崩壊する。米国はその道を進んでしまい、金融崩壊がこれからひどくなる。日本が同じ道をたどる必要はない。日銀もいずれQEをやめねばならず、その時は金融崩壊になるが、先に米国の金融崩壊・ドル崩壊の進行を見届けてからの方が良い。黒田総裁も自民党も、しばらくQEとゼロ金利を続けると言っており、それで良い。1ドル150-200円ぐらいの円安になるかもしれず、燃料など輸入品が高騰して国民の生活が苦しくなるが、QEゼロ金利の緩和策をやめて金融バブルを崩壊させると、そっちの方が国民生活への打撃が大きくなる。米国の超愚策を真似ず、大打撃は先延ばしするしかない。 (Gaffe or message? Kuroda remark on prices hints at BOJ’s plans) (Morgan Stanley Unloads On The Dismal State Of The US Consumer

世界的に今年はもう金融相場の改善・反騰は見込めない。良いのは金資源本位制が成功しつつあるロシアのルーブルぐらいだ。米国のQTが進むほど、QE資金が抜けていき、石油やガスの相場の抑止力が失われて高騰する。仮想通貨は潰れている。仮想通貨の以前の高騰は、QEなど債券金融側からバブル資金が注入された結果だったのだろう。仮想通貨自体が素晴らしいのでなく、仮想通貨は素晴らしいと喧伝する詐欺をやりつつ、QEのバブル資金を注入して相場をふくらませて人気の状態にしていた。QEが終わり、注入資金が枯渇して仮想通貨のバブルが崩壊している。これらのバブル崩壊のパンドラの箱が開いて化け物が全部出た後、最後まで抑止されていた金相場が上昇し始めるのかもしれない。また動きがあったら金融情勢について書く。今回は短い記事で失礼します。 (Lagarde Calls For Crypto Crackdown, Says They're "Based On Nothing") (来年までにドル崩壊) (ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る



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