ビルダーバーグが多極化と米欧崩壊を議論2022年6月5日 田中 宇6月2-5日に米国首都ワシントンDCで3年ぶりのビルダーバーグ会議が開かれた。米欧の政治家や高官、財界人、学者、著名記者などエリート120人を集めて世界の重要事項を議論し、米欧諸国の世界戦略の決定に影響を与える年次の秘密会議だ。大手マスコミの幹部も会員だが、議論の内容は厳秘・完全非公開だ。10年ほど前から国際市民運動に秘密主義が批判され、出席者名簿と議題一覧だけ公開するようになった。 (BILDERBERG MEETING 2022) (ビルダーバーグとグーグル) 今年の議題は12個で、大きく分けると2種類になる。1つ目は、ロシア中国と米国側の対立、地政学的転換(多極化)、ウクライナ、NATOの挑戦(ロシアに勝てない失策)、エネルギー安保、グローバル化の巻き戻し(私的に言うと非米側諸国の金資源本位制による下剋上)など、ウクライナ開戦で急に激しくなった多極化の動きの関連事項について。 (The 2022 Bilderberg Agenda: Disinformation, Deglobalization, & Disruption Of The Global Financial System) (ビルダーバーグと中国) そして2つ目は、国際金融システムの混乱(私的に言うと米連銀のQE終了QT開始によるバブル崩壊)、(米欧の)民主社会の分裂(私的に言うと米民主党体制下での社会破壊)、偽情報問題(私的に言うと米諜報界の隠れ多極主義者たちによるプロパガンダと諜報分析の意図的な発狂策)など、米国側の(意図的な)混乱らや覇権崩壊についてだ。要するにビルダーバーグは今年、多極化と米欧崩壊について議論している。 (Bilderberg reconvenes in person after two-year pandemic gap) 今年の会議は、CIAとNSCのトップなど米政府の現職や元の高官たちを呼んで話させた(釈明させた)ので、開催場所がDCになったようだ。NATOのストルテンベルグ事務総長も呼ばれて釈明させられた(彼は常連だが)。イラク戦争後のビルダーバーグ会議に、当時のラムズフェルド国防長官やネオコンたちが呼ばれ、なぜイラク戦争が占領泥沼化の失敗になっているのか釈明させられたことを思い出す。ネオコンたちはキッシンジャーらと並んでビルダーバーグの常連だった(いずれも隠れ多極主義者)。釈明も何も、ビルダーバーグの常連たちがイラク戦争をわざと失敗させて、米覇権失墜と多極化を引き起こしたのが真相なのだ。NATOを仕切るストルテンベルグも覇権自滅屋のネオコン系だから今の事態がある。 (ネオコンは中道派の別働隊だった?) ビルダーバーグはもともと欧州人主体の会議だった(欧州80人、米加40人)。イラク戦争では、米国が勝手に単独覇権主義を振り回してサダムに濡れ衣をかけて侵攻して失敗したことに、欧州のエリートたちが立腹していた。思えば、あのとき欧州人が米国に愛想を尽かして対米従属をやめていたら、約20年後の今回のウクライナ戦争による欧州の自滅的な困窮はなかった。欧州は、ネオコンの隠れ多極化の道連れにされている。というか、隠れ多極主義者たちは、欧州人主体の世界戦略決定の秘密会議を乗っ取り、自滅的な戦略をやるように仕向け、米国覇権を対米従属の欧州もろとも20年かけて壊してきた。今年のビルダーバーグ会議のテーマが多極化と米欧の崩壊であることは、多極主義者の20年の破壊工作が結実していることを感じさせる。 (中国を招いたビルダーバーグ) 今年のビルダーバーグのテーマにウクライナや露中vs米国側の対決が出てくるのは当然だが、その一方で、国際金融システムの混乱もテーマになっていることは、米金融の大崩壊が近いと考えている私にとって重要だ。ビルダーバーグの出席者でもあるゴールドマンサックスのCEOとかは、これから金融の大嵐になると公式にコメントしている。JPモルガンも、ジョージ・ソロスの投資担当者も、これから金融危機になると言っている。金融大崩壊が近づいている。 (It's "Unprecedented" - Goldman President Echoes Dimon's "Hurricane" Warning) (Soros' Money Manager Warns Recession Is "Inevitable") それらのエスタブたちは明言していないが、これから起きる金融崩壊の最大の原因は、米連銀のQE終了・QT開始である。QEは、2008年のリーマン危機で崩壊した金融システムをその後蘇生しているかのように見せている唯一最大の要因だ。米連銀がQEを終わらせ、QEで買い込んだ債券類を市場に戻す(償還、売却する)QTを進めると、どこかの時点で金融崩壊が起きる。米連銀は6月1日から予定通りQTを始めている。6月2日に発表された連銀の資産総額は1週間で216億ドル減少し、毎年1兆ドルずつ資産圧縮する計画に沿っている感じだ(今後毎月の減少幅にばらつきが出るだろうが)。連銀が前回QTを行った2017-18年には14か月QTを続けたところで金融崩壊が起こり、連銀はQTをやめてQEを再開した。今回は当時より連銀の資産総額が倍増したのでQEのテコ入れをやめる時の崩壊圧力も大きい。金融破綻まで1年以内だろう。早ければ今秋、遅くても来年秋には金融崩壊が起きるのでないか。 (来年までにドル崩壊) (Factors Affecting Reserve Balances -- June 2, 2022) (金融大崩壊への道) QTを進めてバブルのテコ入れをやめても、いろんなごまかしをやることで、しばらく金融崩壊しないようにできる。ごまかしの一つは、QTについて報道せず、投資家に懸念を感じさせないことだ。金融マスコミはQTについてほとんど書かず、利上げにばかり注目している。「9月になったら連銀が利上げをやめて下落相場も終わる」みたいな感じの(いいかげんな)予測が出回っていたりする。連銀筋がそれを否定し、利上げがずっと続く可能性が強まった。だが今後も、利上げは間もなく終わるという、相場の下落を止めるための(与太)話は出てくるだろう。 (Stocks Slammed As Fed Vice-Chair Pours Cold Water On A 'Pause') (When Will This Bear Market End?) インフレが止まらないのでバイデン政権の支持率が下げ止まらない。バイデンは最初「インフレは(石油ガスを欧米に売らない)プーチンのせいだ」と言っていたが、ロシアから欧米への石油ガス輸出を止めている張本人は対露制裁している欧米なのだから、この言い方はあまりに頓珍漢だということになった。代わりにバイデンが言っているのが、連銀に利上げ(やQT)を頑張らせてインフレを止めるという話で、バイデンは5月31日にパウエル連銀議長を呼んで加圧した(連銀の独立性を尊重すると言い訳しつつ)。実のところ、インフレの原因は流通網の詰まりや対露制裁であり、中央銀行の金利や通貨の政策のせいでない。連銀が利上げやQTを頑張ってもインフレはおさまらない。パウエルは以前それを言っていた。しかし政治家たちは、そんな話を聞きたくない。ごたくを並べていないで早く利上げやQTを進めろ。そんな圧力が連銀にかけられている。政治的理由により、連銀は利上げやQTをやめられない。 (As US Economic Data Crashes, Biden 'Invites' Powell To Oval Office) (Biden Throws Powell Under The Bus For Soaring Inflation) しかし、QTを続けているといずれ超リーマン級の巨大な金融崩壊が起きる。それは支持率を気にする政治家にとってインフレよりも大きな懸念になる。金融大崩壊が起きたら、米政界はパウエルにQTと利上げをやめてQEと利下げの緩和策に転換しろと逆方向の加圧を始めるかもしれない。QEを再開すると金融崩壊が引っ込み、金融相場は反騰する。今秋とか来秋に、そのような展開になるかもしれない(日銀や欧州中銀はQEを続けているが、それは米国がどうなるか様子を見ているのでないか)。 (Is 'Normalcy Bias' Blinding Us To The Looming Economic Storm?) (Biden Pursuing The Quickest And Least Effective Way To Fight Inflation) QEは不健全だが、どんどん拡大しても行き詰まらない。それはこれまでの14年間のQEの経験からわかっている。米連銀の資産総額は今の9兆ドルから、20兆ドルにも50兆ドルにも増やしていける。マスコミ報道はどのような歪曲もできる状態になっているので、不健全なQEをやってないふりをすれば良い。連銀の毎週の総資産額の発表もやめてしまえる。QEの実態を隠せる。そうなると米国の金融覇権は延命する。インフレはなくならないので、再び米政界から、インフレ対策としてQEをやめてQTを再開しろと言ってくる。QTを再開したら金融が再崩壊する。それの繰り返しになる。世界は、QEバブル本位制の米国側と、金資源本位制の非米側の2つの経済システムが並立し続ける。 (金融大崩壊か不正QTか) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア) 米国覇権の延命を考えると、覇権の根幹にある基軸通貨としてのドルの地位喪失につながる金融大崩壊は避けねばならず、金融崩壊が始まったらQTをやめてQEを再開するだろうという考え方になる。だが、そもそもQEとインフレは関係ないのに、米国上層部はわざと間違えてインフレ対策としてQE終了QT開始を連銀にやらせており、隠れ多極主義的だ。多極化するためには、金融が崩壊してもQTをやめず、そのままドル基軸や米国覇権の崩壊につなげた方が良い。米国上層部で、覇権を維持したい勢力と、多極化させたい勢力と、どちらが強いのかという話になる。連銀がQTを始めていることからは、多極化勢力の方が強いと感じられる。私が以前に邪推した「不正QE」も結局なかったのだから、QTを途中でやめてQEに戻るのもなさそうな感じもする。そうであるなら、これから金融が崩壊してもQEは再開されず、米国覇権は潰れていく。延命と破綻のどちらになるのか。それがこれから1年間の見どころだ。 (米露の国際経済システム間の長い対決になる) 米欧はこれから金融だけでなく実体経済も崩壊が進む。昨年からの国際流通システムの詰まりによってインフレが始まり、2月末のウクライナ開戦による劇的な対露経済制裁の開始で石油ガス石炭や穀物など資源類全般の国際価格が一気に高騰し、世界的なインフレに拍車がかかった。エネルギーや穀物など資源類の高騰は今後さらにひどくなる(金地金だけはQE資金で値上がりが抑止されているのでQTが進まないと高騰しない)。物不足も悪化する。米欧の人々の生活水準が下がり、社会の分裂や混乱に拍車がかかる。トランプや仏ルペンなど、既存のエリートが決めたシナリオに従わないポピュリスト政治家が台頭し、ビルダーバーグやダボス会議のエリートたちの決定を無視する傾向が強まる。 (Americans Will Never Forget The Historic Economic Collapse During Joe Biden's Presidency) (左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国) 加えて、これまでの米単独覇権体制が崩れ、世界が米国側と非米側に分離したことにより、米欧エリートの支配領域は、全世界から米国側だけに半減した。非米側は、プーチンや習近平やハメネイやMbSやエルドアンが勝手に決めている。そのような意味でも、世界はすでに多極化している。非米側の、新興市場や発展途上の諸国でも、インフレや物不足がひどくなっている。だが中長期的には、非米側の諸国は金資源本位制が浸透し、米国側よりもインフレの悪影響を受けにくくなると推測される。今はまだそういう兆候がないし、今後どのように変わるのか予測もつかないが。何か見えてきたら書いていく。 (米欧との経済対決に負けない中露) (11 Statistics That Expose The Reality Facing US Consumers In This Rapidly Deteriorating Economy)
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