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左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国

2022年5月26日  田中 宇 

電気自動車製造業のテスラなどを経営する米国の実業家・大富豪であるイーロン・マスクが、ネット大企業・SNSの一つであるツイッターを買収することを試み、今年の初めから騒動が続いている。マスクは、ツイッターが行ってきた言論の統制や検閲・弾圧が不正であることを見抜き、買収して言論の自由を回復するんだと言っている。新型コロナや地球温暖化人為説、ウクライナ戦争(歪曲的な露中敵視)、CRT(米左翼による白人逆差別運動)など覚醒運動、米違法移民問題、ジェンダー運動のふりをして社会を混乱させる政治運動などに関して、ツイッターが言論の検閲統制や弾圧、歪曲への誘導をやってきたのは事実だ。マスクがツイッターを買収して言論自由を回復するなら、それは「良いこと」だ。 (Disinformation Operative Who Attacked Elon Musk’s Push for “Free Speech” Caught Red-Handed in Secret Influence Operation) (Leftists Hate Free Speech Because They Fear Dissent, Not "Disinformation"

しかし、マスクによる買収の試みに対し、オバマ前大統領、ヒラリー・クリントン、ビル・ゲイツ、ジョージ・ソロスらの系統の政治組織が猛反対し、阻止行動や攻撃や誹謗を展開している。マスクを攻撃・誹謗しているのは全て米民主党の勢力だ。彼らは、米国の左翼勢力でもある。このほか、米国と諜報界を共有している英国カナダEUなどの政府から資金援助されている左翼系組織もマスクを非難している。5月初め、それらの26の団体が連名で、マスクのツイッター買収への反対を表明した。こうした動きから読み取れることは、左翼に乗っ取られている米民主党の諸勢力が、ツイッター(やフェイスブック、グーグルなどネット大企業群と、その背後にいる米諜報界)による言論の統制や弾圧、歪曲誘導の体制を構築・維持しており、米民主党系諸勢力はマスクがツイッターを買収してこの支配体制に風穴が開くのを阻止したがっている、ということだ。 (Bill Gates paid millions to derail Elon Musk’s plans) (Bill Gates warns that Elon Musk could make misinformation on Twitter WORSE after his $44BN acquisition) (George Soros, Clinton and Obama staffers and European governments are behind anti-Musk campaign

米諜報界は、遅くとも2012年ごろからネット大企業群に入り込んで傘下に入れ、ネット大企業と諜報界との一体化を進めてきた。米諜報界は、昔からマスコミに入り込んで傘下に入れて言論の統制や歪曲をやってきたが、それと同じ支配手法をSNSやネット検索結果に対しても拡大し、人類が送受信したメッセージや画像類を自由に米諜報界が盗み見できるようにもなっている。米諜報界はネット大企業群を通じて、盗み見だけでなくSNSの言論統制、人類の洗脳もやっている。新型コロナに関しては、人類のほとんどがインチキな情報で洗脳されてしまった。洗脳されてる方が格好良いと思っている(実は自ら「人間の屑」になり下がった)若者(や老人)があふれている。 (覇権過激派にとりつかれたグーグル) (Elon Musk's Twitter Detractors Were Subsidized With Millions In Taxpayer Dollars

2017年にトランプが米大統領になって共和党を席巻しつつ諜報界に喧嘩を売り潰しにかかったため、米諜報界は民主党と合体する傾向を加速した。それ以前から米国のマスコミとネット大企業は民主党の左派と結託しており、諜報界と民主党とマスコミSNSが「左派連合」を組んでトランプに反撃した。トランプは対抗して共和党をエリート支配に対抗する草の根風の右派ポピュリズム政党に変質させ、共和党にいたブッシュ系のエリート軍産勢力(米諜報界と結託していた)を一掃した。米国覇権を運営する諜報界が2大政党の両方を牛耳っていた戦後の体制は終わり、諜報界は左派・民主党だけと結託するようになった。諜報界の下にいたマスコミ権威筋やエリート軍産・深奥国家(DS)も、民主党の勢力になった。 (Elon Musk says he's wading into politics to stop the 'woke mind virus' from destroying civilization) (Intellectualism is dying in the West

共和党は、マスコミ権威筋エリートDSを敵視する右派ポピュリスト(大衆主義)の「トランプ党」になった(左派は平等体制への社会改造を標榜、右派はそれを歪曲破壊と拒否して保守を標榜。左派は国際主義・米覇権主義、右派は米国第一主義)。米国の覇権維持の要諦だった2大政党制(米諜報界エリート権威筋が2大政党の両方を支配する2党独裁制)は壊れた(第3政党は出てこないので、その意味では壊れておらず構造転換しただけ)。米国は、左派覇権主義と右派ポピュリズムがやらせでなく本気で対決する体制に転換した。トランプは2020年の大統領選で再選されそうだったので、諜報界と民主党、マスコミ権威筋が結託し、コロナ対策を口実に拡大した郵送投票制度を悪用して選挙不正をやり、トランプ敗北・バイデン勝利に結果を歪曲した。トランプはツイッターのアカウントを削除された。共和党は、議会両院でも少数派に転落させられた。 ("The Real President Is Whoever Controls The Teleprompter": Musk Delivers Scathing Criticism Of Biden) (Ron Paul: Who's Afraid Of Elon Musk?

ツイッターなどSNSで言論が統制・歪曲されていると冒頭に書いた新型コロナ、地球温暖化、露中敵視、CRT、米違法移民、似非ジェンダー問題は米国で、いずれも左派覇権主義・民主党が言論統制や歪曲・運動推進に積極的で、右派ポピュリズム・共和党は歪曲に気づいて反対している(露中敵視は共和党も反対してない)。左派は自分たちの歪曲された(似非)運動を「覚醒運動」と呼んでいるが、それが歪曲な似非・妄想だと気づいている右派の方が、実は覚醒している。だがSNSやマスコミでは右派の言論の方が妄想扱いされている。覚醒は妄想で、妄想が覚醒だというジョージ・オーウェル1984型になっている。米国だけでなく、日欧など同盟諸国でも、マスコミ権威筋は米覇権の傘下にあるので、コロナや温暖化や露中敵視に関して米国の左派覇権主義と同様の「覚醒という名の妄想」に入り込んでいる(左翼も)。 (Get Ready To Be Muzzled: The Coming War On So-Called 'Hate Speech') (Make Twitter Great Again

コロナも温暖化も露中敵視も、もともとは米国覇権を強化する策略だった観がある。コロナは、米諜報界が資金援助していた武漢研究所でウイルス漏洩を誘発して中国経済を潰そうとした策っぽい。温暖化対策は、先進諸国が新興諸国から今後の発展の一部をピンはねしようとする策として始まった。覇権強化策なら、米諜報界がマスコミ権威筋を動員して展開するのは納得できる。だがいずれの話も、やっていくうちに当初と正反対の、米国と同盟諸国が経済的に自滅して世界が多極化する構図になってしまっている。 (Musk Says Twitter "Deal Cannot Move Forward" Until Bot Clarity) ("I Am Indeed Out For Blood": Musk Says 2016 Hillary Tweet 'Absolutely' Disinformation, Asks Parag To Weigh In

コロナは、欧州や豪NZなど同盟諸国が過激な都市閉鎖で経済を自滅させる話になっている(中国も最近過激な都市閉鎖をやっているが、あれは習近平の権力強化策であり意味が違う)。温暖化対策は、米欧が化石燃料使用をやめて自らエネルギー危機を引き起こす自滅策になっている(中国は口だけで実質的な温暖化対策をやらず、米欧が手放した化石燃料の利権を世界中で拾い集めている)。露中敵視は、米欧が露中との経済関係を制裁と称して自ら資源輸入を断って困窮する愚策になっている。米国の諜報界など左派覇権主義勢力は、覇権維持のためにコロナや温暖化対策をやっていたはずなのに、トランプに追い出されて共和党から民主党に移ってきた諜報界の隠れ多極主義者の旧ネオコン勢力が諜報界で優勢になり、超愚策を過激に展開して米国覇権が自滅する方向に事態を転換した。AOCやBLM、グレタ・トゥンベリ、ゼレンスキーなどはいずれも過激で稚拙で米欧自滅的あり、ネオコン系の(うっかり)傀儡だろう。 (Elon Musk quips that 'whoever thought owning the libs would be cheap never tried to acquire a social media company') (Iraq-Raping Neocons Are Suddenly Posing As Woke Progressives To Gain Support

ネット言論の統制や歪曲が、米国の力の低下や経済社会の混乱を悪化させている。覇権維持策のはずが、米欧の覇権を自滅させて世界を多極型に転換していく話に換骨奪胎されている。左派覇権主義による歪曲を見破っている人々の主張は「偽情報」「フェイクニュース」のレッテルを貼られて妨害・誹謗・禁止され、バイデン政権は「偽情報(とレッテル貼りした正しい主張分析)」を犯罪扱いして取り締まる政府機関(真理省)まで国土安全省内に新設した。バイデン政権を批判する言説も「偽情報」などとして取り締まりの対象になる。こうした過激で稚拙な策はまさにネオコンらしい手口だが、それは右派ポピュリストだけでなく権威筋内部からも批判・懸念を誘発し、左派覇権主義やマスコミSNSの立場を悪化・弱体化するものになっている。 (Cotton, Gabbard Warn That Government 'Ministry Of Truth' Is Only On Pause) (Biden's 'Ministry Of Truth' Tsar: Parents Concerned About Critical Race Theory Are "Disinformers"

民主党の左翼の中に入り込んだ諜報界のネオコン系・隠れ多極主義者たちが過激に稚拙にやって意図的に失敗させているせいで、米国の覇権と政権を握る左派覇権主義勢力は、自滅的なインチキや誇張の要素をいくつも抱えさせられている。コロナも温暖化もロシア敵視もCRT覚醒運動も違法移民問題も、すべてうまくいかずインチキが露呈している。これらのインチキを人々に信じ込ませておくために、米政府や諜報界は、マスコミの歪曲報道やSNSでの強い言論統制・検閲がますます必要になっている。次々に新しいインチキが加わり、エスタブ権威筋が人々を騙し続けることが難しくなり、洗脳や言論統制の維持が困難になっている。これまで「言論の自由」を最重視してきた米民主党上層部でも、黒幕のオバマ前大統領が「偽情報(実はインチキを指摘する正しい言説)の増加を抑えるためSNSでの検閲を強める必要がある」という趣旨を表明し、その1週間後に米政府の国土安全省に「バイデンの真理省」と揶揄される「偽情報統制委員会」が設立されることになった。マスコミでも、エスタブ民主党側のCNNが落ち目な半面、反エスタブ共和党側のFOXが人気を増している。 (TULSI TRUTH BOMBS: 'Biden Just a Front Man' for Obama) (Elon Musk challenges billionaires, pols funding groups attacking his Twitter buy

イーロン・マスクは、そうしたタイミングを狙ってツイッター買収の試みを開始している。ツイッター社はマスクが440億ドルで同社を買収することに同意した。しかしその後、ツイッターのアカウント全体に占めるボット(機械的に登録されたニセのアカウント)の割合が、ツイッター社が言っていた5%でなく、20%以上(マスクによると最大で90%)あることが発覚した。SNSとしてのツイッターの価値が大幅に水増しされていた可能性が高まったとして、マスクはツイッターに買収価格の値下げを要求している。そのため再交渉に時間がかかっている。マスクは、ツイッターを買収したらいったん非上場にして、自らが経営の最高責任者(CEO)に就任してSNS運営の実態を解明し、言論の自由を阻害する検閲や統制、歪曲誘導のシステムを修正していくと言っている。広告収入への依存を減らし、法人系のアカウントを有料化して収入を増やし、再上場させるとも言っている(増収の構想は投資家対策だろう)。 (Elon Musk suggests up to 90% of Twitter users are BOTS, not humans) (Tulsi Gabbard torches President Biden for 'essentially' calling millions of Americans 'terrorists

ツイッターで検閲担当の責任者をしているVijaya Gaddeは、トランプのアカウントを削除した人でもあるが、買収が近いことを知っていたのか、昨年の給料を前年比2.3倍の1700万ドル(約17億円)に設定してもらっていた。解雇されたら1250万ドルもらう契約も結んであり、強欲な人のようだ。このような人物を、マスクがどう退治していくか見ものだ。ツイッター以外の左翼系の米ネット大企業群には、この手の腐敗っぽい人々がたくさんいる。左翼は独裁的だし汚い。 (Twitter ‘censorship chief’ Gadde in tears, risks losing her $17 million salary after Musk takeover) (Elon Musk Expected to Axe Twitter’s Censorship Team, Become CEO After He Takes Full Control

マスクのツイッター買収は、左派覇権主義の側から非難攻撃されているが、マスク自身、もともと左派覇権主義の側の人だ。彼は、これまでほとんど民主党に投票してきたと言っている。マスクが立ち上げた電気自動車メーカーのテスラは、左派覇権主義が推進してきた地球温暖化対策の流れに乗って大成功した。テスラは、自動車の売り上げよりも米欧政府からもらう温暖化対策補助金で儲けてきた。マスクは、左派覇権主義のインチキを知りつつ便乗して大金持ちになった。しかし彼は今、ツイッター買収を試みて左派覇権主義に喧嘩を売っている。マスクは、自分のツイッター買収を非難・阻止してきた左翼や民主党を非難するようになり、これからは共和党に投票すると宣言している。マスクは今回、左派権威主義から右派ポピュリズムに転向した。 (Red-pilled Elon Musk has plenty of reasons to be fed up with the Democrats) (Elon Musk - I will be voting Republican in 2022…

マスクは、実業家であると同時に、SNSなどでの格闘技的な論争が大好きだ。巨大な敵に喧嘩を売って果たし合いを挑んで勝てるなら、義侠心がうずうずしてやり甲斐が大きい。米諜報界や民主党、ネット大企業マスコミ軍産エスタブDSといった左派覇権主義の勢力はまさに巨悪であるが、隠れ多極主義者に入り込まれて自滅的に弱体化している。今が潰しどきだ。マスクは、超大金持ちのポピュリスト政治活動家のハイリスクな一種の「遊び」としてツイッター買収を画策し、巨悪な諜報界など左翼覇権主義の勢力に喧嘩を売ったのだろう。2016年以来のトランプの政治活動も、同様のハイリスクな遊びであると感じられる。事業家として大成功し、やりたいことは大体やった。巨悪と果たし合いをする正義の活動家をやることぐらいしか、もうスリリングなことはない。うまくいけば世界的な巨悪を潰せる。負けたら破産・投獄・殺害されかねないが、ハイリスクなほどやりがいもある。そんな感じだ。 (Elon 'Mad As Hell' Musk Just Blew Up 2022) (Elon Musk says the far left ‘hates everyone, themselves included’

マスクがツイッターを買収したら、敵は米国内の左翼覇権主義者たちだけでない。英国やEU、カナダといった諜報界を米国と共有している諸国も、マスクを潰すための新法を用意して待っている。英国やEUは、マスクが買収するツイッターを標的にして、「偽情報」の流布を取り締まらないSNSから罰金を取ったり接続をブロックしたりできる新法を作った。これまでのようにロシアやコロナや温暖化や覚醒運動や米違法移民などについてエスタブ権威筋が流すインチキ情報に疑問を呈する正当な書き込みを「偽情報」として取り締まり続けるなら、ツイッターは合法なSNSだが、新たな経営者となったマスクが、正当な書き込みを正当だとみなして取り締まらず容認すると、ツイッターは違法なSNSとして、英国やEUの当局から罰金を取られたりアクセスをブロックされたりする(英EUのこの新法の米国版が、国土安全省への「真理省」設置だ)。 (Twitter takeover: EU and UK warn Elon Musk must comply or face sanctions) (Britain’s new Censor’s Charter will make whoever owns Twitter an irrelevance

英国やEUの方が間違っているのだが、この問題を報道・解説(という名の歪曲)するマスコミもインチキに加担する側なのでマスクのツイッター運営についてボロクソに非難中傷し、多くの人がそれを軽信してしまう。マスクのツイッター買収は、すでに失敗させられつつあるともいえる。マスクとしてはハイリスクなほど闘争心も湧くだろうから、何らかの奇策で対抗するかもしれない。EU当局はマスクに対し「以前の電気自動車の時と同じように(インチキに逆らうのでなく便乗して)やればうまくいくのに。わかってるだろ」と言っている。 (Elon Musk says he'd prefer a 'less divisive candidate' in 2024, but says 'Trump should be restored to Twitter') (Biden’s “Minster of Truth” Nina Jankowicz Participated in Secret NATO-Funded Cabal to Subvert Western Democracies Using Disinformation as Cover

マスクのツイッター買収は、2016年からのトランプの政治進出と趣旨が似ているように感じる。2人とも実業家として大成功した後、諜報界エスタブ権威筋に対して喧嘩を売る右派ポピュリストとして政治活動を開始した。NY出身のトランプも昔は民主党支持だった。2人とも、左派覇権主義と戦う右派ポピュリズムの活動家だ(マスクは多分政治家にならない)。だが2人は今のところ共闘していない。意図的に離れている。マスクは、ツイッターを買収したらトランプのアカウントを復活するので戻ってきてほしいと表明したが、トランプは何も答えていない。トランプは、マスクのツイッター買収額が高すぎて間抜けだという感じのことを言っている。マスクは、トランプのような強すぎる候補者でない方が共和党にとって良いはずだと批判っぽいことを言っている。相互に、まだ共闘しない方がお互いの戦いのために良いと思っているかのようだ。 (Trump Says There's "No Way" Musk Will Buy Twitter Owing To Large Number Of "Bots Or Spam Accounts"

そもそも的に書くと、ツイッター自体、たいしたものではない。今でこそ言論の自由を守るSNSみたいな感じで称賛されているが、2006年に登場したころは、イランなど中東諸国で反政府市民運動を扇動して政権転覆を引き起こす「うわさ拡散ツール」としてうってつけだと、ネオコンやイスラエル系の勢力に称賛されていた。政権に関する根拠が薄い悪いうわさを広めておいて、最初の発信者が誰だったのかわからないように最初のツイートを削除できるようになっている点が、政権転覆屋たちに好感されていた。近年いくつもインチキを抱えさせられている左派覇権運営筋は、そうしたツイッターのうわさ拡散機能を抑制するために検閲強化を強要してきた。マスクは、そこに乱入してきている。 (The Subtleties of Anti-Russia Leftist Rhetoric

まだ書こうとしていたことはあるような気がするが、すぐに出てこないので、思い出したら続きを書く。マスクのツイッター買収はまだ実現しておらず、先が長い話だ。



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