コロナ危機は世界大戦の代わり2021年11月2日 田中 宇コロナ危機は、世界大戦の代替物として意図的に悪化・長期化されているのでないか。これは、コロナ危機の早期から私がつらつらと思ってきたことだ。コロナ危機は、既存の米国(米欧)覇権の崩壊と、中露の台頭、世界の覇権体制の多極化を引き起こしている。コロナ危機の他に、QEやりすぎによるドル崩壊や、テロ戦争や強制民主化の失敗による米国の信用失墜、地球温暖化対策による欧米経済の自滅などが重なって、米覇権崩壊と多極化が起きている。そして私から見ると、2度の世界大戦も、無意味に発生・長期化して繰り返されたものでなく、それまで世界を一極支配してきた英国の覇権を壊して多極化するために長期化・繰り返されたものだ。 (コロナ、QE、流通崩壊、エネルギー高騰、食糧難・・・多重危機の意味) (欧米の自滅と多極化を招く温暖化対策) 各国政府は新型コロナの発生以来、感染対策の名目で人々の行動を制限し、世界中の人々が経済社会政治の全面で窮乏生活を強いられている。この状況と範囲の広さは世界大戦下と似ている。政府の命令に従わない人は、戦時に「売国奴」と呼ばれて弾圧され、コロナ下では「ウイルスを撒き散らす人」とみなされて弾圧されている。命令に従う人々は「不服従者は弾圧・処罰されて当然だ」と思っている。それらの点もコロナと大戦で同じだ。コロナ危機が「風邪並みの病気を大変な伝染病と誇張することで作った有事体制」で、それが「欧米を経済政治の両面で縮小し、中露など非米諸国を相対的に強化して覇権を転換・多極化する謀略」だとしたら、コロナ危機は世界大戦の代替物である。いま世界大戦をしたら核戦争になって人類滅亡なのでやれない。戦争の代わりにコロナ危機を起こして覇権転換・多極化が進められている。多極化は、世界が均衡した方が経済成長が持続するという資本の論理に後押しされている。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ) (First time in history that the ineffectiveness of a medicine is being blamed on those who haven’t taken it) 2度の大戦の主軸は、高い技術力を生かして欧州で台頭した新興大国のドイツが、旧来の覇権国である英国を倒して覇権を奪おうとする覇権争奪戦である。当時、工業など世界のパワーの中心は欧州であり、欧州の覇権は世界の覇権だった。ドイツが英国を打ち負かすと、覇権国が英国からドイツに交代して世界の一極支配が続くことになる。このシナリオだと、いずれドイツより強い工業国が出てきた時に、ドイツとその国が次の世界大戦を引き起こしてしまう。このような一極体制でなく、諸大国がうまく均衡した多極型の世界を作った方が安定すると米国(米英)の資本家は考えた。全人類を中産階級にして消費させることが目標の「資本の論理」も多極型を希求していた。米資本家たちは、第一次大戦の最中に起きたロシア革命をこっそり支援して成功させ、革命で作られたソ連が国際共産主義運動を率いて世界的な新興大国になるように仕向けた。創設直後のソ連の国際共産主義運動の立役者であるトロツキーは、ニューヨークからロシア革命に参加してソ連の外相になった。トロツキーはNY資本家のエージェントだったのだろう。世界大戦は英独の2極戦でなく、英独とソ連の3極型の覇権争奪になった。(米資本家たちはドイツにもカネを出していた) (資本の論理と帝国の論理) (覇権の起源(3)ロシアと英米) 第一次大戦はドイツが負け、中立国だった米国が欧州で外交を展開して国際連盟を作り、多極型の世界を実現しようとした。だが、英国は自国の一極支配体制にこだわっていた。国際会議における騙しのプロである英国勢が、裏で多極型世界体制の運営を隠然と妨害し、国際連盟は機能不全に陥った。それで再びドイツと英国の対立が激化して2度目の大戦が起きた。今度は米国も戦争に参加し、自ら戦勝国になる代わりに英国から覇権を譲渡してもらった上で、その覇権を多極型に転換するシナリオをとった。それで終戦とともに国際連合が作られ、5つの安保理常任理事国(P5)が均衡型で世界を運営(支配)する体制になった。しかし英国勢はしぶとく、覇権を譲渡した先の米国の上層部(諜報界・政界)に入り込み、軍事産業など(軍産複合体)を味方につけてソ連中国を敵視する冷戦体制を構築し、P5を米英仏vsソ中で敵対させた。多極型世界は再崩壊した。 (多極化の本質を考える) (新型コロナでリベラル資本主義の世界体制を壊す) 延々と書いたが、要するに、2度の世界大戦は、米国が世界の覇権構造を多極化する試みだった(大戦自体を米国が起こしたのでなく、すでに起きていた大戦を多極化のために使った)。米国の試みは英国の策略によって失敗し、米国は、英国から牛耳られつつソ連や中国の共産主義者を敵視する、多極化と正反対の単独覇権国になった。だが、その後も米国の上層部には多極化を模索する勢力(隠れ多極主義者)がいて、自国の覇権を粗末に扱い、未必の故意的に下手くそな覇権運営を過激にやって米覇権自体を崩壊させようとした。ベトナム戦争やイラク戦争が好例だ。多極化には、米国自身の覇権崩壊が必要だ。ニクソンとレーガンという、2つの共和党の隠れ多極主義の政権が冷戦を終わらせた。だが、冷戦終結後も米国と同盟諸国では英国(軍産)傀儡の勢力(マスコミなど権威筋)が強く、中露を敵視し続け、多極化を阻んだ。米国が超大国で、他の諸大国より圧倒的に強い限り多極型にならない。米国の自滅が必要だった。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ) それで米国は冷戦後、テロ戦争を起こして中東で戦争を次々にやったり、リーマン倒産で金融システムを自滅させたりした。米国の覇権はしだいに低下したが、金融システムは中央銀行のQE(造幣)で延命しているし、軍産英傘下のマスコミ権威筋は米国の覇権低下を過小評価しており、米覇権低下や多極化は潜在的でゆっくりだった。2013年に中国で多極化(中国の地域覇権国化、米中の対等化)に積極的な習近平が政権をとった(前任の胡錦涛はトウ小平の遺志を継いで中国の台頭に消極的だった)。2017年には米国で軍産敵視、同盟諸国蔑視、中国隠然強化(中国経済を対米自立させる米中分離策など)のトランプが政権をとった。これらは米覇権低下と多極化に拍車をかけたが、それは公式な話にならず潜在的な変化だった。 (中国を社会主義に戻す習近平) (インチキが席巻する金融システム) 中国が習近平政権になった後、米国側が中国に脅威感を抱くようになった。トランプ時代から米国は台湾に接近し、台湾をめぐって米中が戦争する構図が見え隠れし始めた。台湾は、第2次大戦時のポーランドのように、大戦勃発の踏み台にされうる。米中が戦争すると、NATOや豪州が米国側で参戦し、ロシアは中国側で参戦する。中国が台頭すると米国から覇権(の一部)を奪う展開になるので、米中戦争はそれを阻止するための戦争だ。規模的にも、覇権争奪の意味でも、米中戦争は第3次世界大戦である。 (Taiwan Is Not About China) (Officials Look to Dial Back Biden's Taiwan Comments) しかし人類は、米中戦争を起こすことができない。核戦争になって人類が滅亡するからだ。2度の大戦の時はまだ核兵器がなかったが、今は違う。核兵器を持った国は他国から(国境紛争の小競り合いでない)本気の戦争を仕掛けられない。そもそも、国連P5の5大国だけが核兵器を持てる戦後のNPT体制は、5大国が相互に戦えないようにする多極・均衡型の世界体制を作るためのものだった(P5体制の強化のため、米ソが英仏中に核兵器の製造技術を与えた)。覇権転換を引き起こすには、覇権を喪失する側(今回は米欧)が経済的に大打撃を受けて瓦解することが必要で、以前は戦争でそれをやったが、今後はそれができない。ここで大戦の代替物とししてのコロナ危機が必要になる。 (コロナ大恐慌を長引かせる意味) (「大リセット=新常態=新しい生活様式」のからくり) コロナ危機は、欧米や豪州などアングロサクソンとNATO諸国の経済を長期に破壊している半面、中露など非米諸国や、中国の傘下に入った日韓などはあまり打撃を受けていない。欧米では財政の肥大化とQEへの負担増加、インフレの悪化が起きており、コロナは経済的な米覇権崩壊と多極化を加速している。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機) 欧米ではコロナ危機のインチキな構図に気づく人がしだいに増え、反政府的なポピュリズムの運動として広がっている。欧米ではコロナの詐欺的な抑圧体制に従順な「従コロ」の人々と、コロナの詐欺に気づいて反政府的な態度を強める「反コロ」の人々が対立する「従コロvs反コロ」の分裂構造が社会と政界を席巻していく。欧米の覇権を運営してきたエスタブ権威筋やマスコミは「従コロ」の側だ。コロナのインチキが少しずつ露呈し続けると、マスコミ権威筋がそれを妄想として無視し続けても、インチキに気づいて反コロに転じる市民が増える。いずれ、従コロに立脚する欧米のエスタブ・覇権運営勢力は民主的に権力を喪失し、欧米は覇権運営を放棄するようになる。 (Paradigm Shift: Aussie Cop Quits, Refuses to Enforce COVID Tyranny) (Vax Fight is On and Not Stopping) 米国ではコロナのワクチンを危険なものと思う人が増え、各種の労働組合や諸団体がワクチン接種の義務化に反対し始めている。労組などはこれまで民主党支持だったが、米民主党は「従コロ」なので支持されなくなり、労組などはトランプの共和党への支持に鞍替えする傾向だ。2024年の次期大統領選でトランプが返り咲き、覇権放棄や2020年の選挙不正の暴露をやり、軍産エスタブ側との対立が再燃し、米国でエスタブが政権転覆されて覇権運営どころでなくなっていく可能性が増している。トランプ自身はまだコロナワクチンを肯定しているが、トランプが復活する流れは欧米での「反コロ」と覇権放棄のポピュリズムの勃興を象徴している。 (NYC Firefighters Union Tells Members To Defy Vaccine Mandate; NYPD Union Loses Bid To Halt) (Trump Vax Mistake, Vax Doesn’t Work, Fragile Economy Warning) 戦後の米英覇権は、米英の諜報界が世界各国に入り込んで各国の政治を操作するのが特徴の一つだった。反政府運動を金銭や戦略頭脳で支援して政権転覆したり、情報リークを使ってマスコミ経由で世論を動かしたり。中国やロシアも標的にされてきた。中国では、中共の独裁に反対する草の根運動を香港から米英諜報界が支援してきた。トウ小平から胡錦涛まで、中国国内の移動や通信はかなり自由だった。米英諜報界は、インドの亡命政府を経由してチベットの反共運動を支援していたし、中東のアルカイダ経由で新疆ウイグル反共運動を支援していた(アルカイダISは米諜報界の傀儡)。 (アルカイダは諜報機関の作りもの) だが、これらの中国(やロシアなど非米諸国)への諜報的な介入は、コロナ危機の発生とともに国際的な人的交流が止まって不可能になった。中国ではその前から習近平が中国国内と外からの通信への監視を強めており、米英諜報界が中国の反政府運動を扇動して中共を弱体化するのは無理になった。中国は、自国製の通信監視システムを他の非米諸国にも輸出し、米英は諜報分野でも「新世界大戦」に勝てなくなった。米英諜報界からの支援扇動がなければ、中国の反政府運動はとても弱い。コロナ危機の長期化によって、欧米は「従コロvs反コロ」の対立・分裂がひどくなり、従コロのエスタブ覇権運営勢力(2大政党の両方)の政権が反コロのポピュリズムによって転覆・下野させられて覇権運営できなくなる。対照的に中国では、エスタブ覇権勢力である中共を下から攻撃する市民運動が(後ろ盾の米英諜報界がいないので)育たないまま中共の独裁体制が維持・強化される。中国だけでなく、露イランなど他の非米諸国も同じ傾向だ。プーチンもますます元気で、覇権の動向について興味深い発言を放出し続けている。 (コロナ危機による国際ネットワークの解体) 諜報界の動きは見えにくい。表向き、米英豪日印の中国包囲網が活発に動いているように見えるが、実のところ米英の対中諜報活動は機能不全に陥ったままだ。日本の自民党政権は安倍晋三以来「隠れ親中国」「米中両属」の方針をこっそり続け、中国と対立する気が全くない。岸田新政権も、中共から満足だと表明されているので隠れ親中の安倍路線だとわかる。日本では、野党とマスコミが「従コロ」である半面、自民党は安倍晋三以来、コロナのインチキへの加担をなるべくやらずに無視して過ごす「無視コロ」だ。 (中国覇権下に移る日韓) (China and Japan should ‘properly handle sensitive issues’, Xi tells Kishida in first phone call) 野党や左翼、マスコミは「コロナ対策をもっとやれ」と自民党政権を非難してきたが、日本人もだんだんコロナのインチキを(理性でなく本能、大脳でなく小脳で)感じるようになり、野党左翼マスコミの間違い・間抜けさを肌で感じている。野党は支持が減って先日の衆院選挙で負けた。マスコミも部数や視聴者が減る傾向だ。日本人はノンポリ(政治をいやがる現実主義)なので「反コロ」が少ないが「無視コロ」が増えている。日本は先の大戦で覇権動向を読めず惨敗したが、今回の「代替大戦」ではノンポリに徹し、米国より中国が「長いもの」になったら中国に巻かれる従属先変更をやって、隠然とうまく対応している。豪州や独仏なども、中国との経済関係を切ってしまう中国敵視と、馬鹿げた「従コロ独裁」の国策をしだいに続けられなくなっていく。 (コロナ帝国と日本) 20世紀の世界大戦は「世界政府」的な国際連盟や国際連合を、作って壊してまた作る動きでもあった。しかし今の「代替大戦」では国際連合が潰されず、むしろ主役・主戦場として重要な存在になっている。国連は冷戦時代に米ソ対立のあおりで機能不全で、冷戦後も覇権国の米国が国連を嫌悪し続けたので機能不全が続いた。しかしこの20年ほど、米国が捨てた国連を中国やロシアが拾って非米側の国際政治の道具に仕立ててきた。今や国連は中国が主導する非米諸国のものになっている。そのため、コロナ対策の世界的な主導役が国連のWHOになった時、コロナ対策の真の主導役は国連WHOを牛耳る中国になった。中国はWHOを通じて、豪州やNATOなど中国敵視の諸国に厳しく無茶・無意味なコロナ対策をやらせ、経済的・国際政治的な自滅に追い込んでいる。 (トランプが捨てた国連を拾って乗っ取る中国) (コロナ危機の意図(2)) コロナ危機が世界大戦の代替物であると考えた場合、この危機はいつどんな形で終わっていくのだろうか。コロナ危機が終わる時期として考えられるのは、覇権転換・多極化が逆戻りできない形で山を越えた後だ。欧米のインフレがひどくなり、QEが限界に達してドルや米国債の崩壊になった後とか。2024年の米大統領選でトランプが返り咲いて政権に戻って覇権や同盟体の放棄をどんどん進めた後とか。2024年末までとしても、あと3年もある。それまでマスク義務やワクチン追加接種などコロナのインチキが続くのか。途方もないが、先の大戦のように無数の人がどんどん殺されて行くよりましだ(コロナの統計上の死者は実のところ、ほぼ全員が他の持病や老衰による死者であり、コロナ自体は死者を増やしていない)。 (コロナ危機の意図(1)) 20世紀の世界大戦では、戦時中に連合国側が枢軸国側を非難するために発した誇張されたプロパガンダが、そのまま敗戦した枢軸国の「戦争犯罪の史実」として永久に定着する「インチキの恒久化」が行われた。今に続く戦後の連合国=米英覇権と国連=世界的な権威筋の「正しさ」の土台にの「インチキの恒久化」が存在している。そのため、インチキをインチキだと認めることが永久にできない。ウソをつき通すしかない。この仕掛けをコロナ危機に適用すると、今回の覇権転換も「コロナのインチキ」を土台としており、「新たな戦勝国」である中露側はコロナをインチキだと永久に認められないことになる。 (ホロコーストをめぐる戦い) 米欧のポピュリストがコロナのインチキを指摘し続けても、それが世界的に「公式な事実」になることはなく、コロナのウソが永久につき通される。今後もずっと「コロナは風邪だ」という発言が「ガス室はなかった」と言うのと同じになる。私自身も「頭のおかしな人」のままで終わる。そもそも「権威」とは、エスタブ側のウソをうまく言える人々の間で継承されてきたものだ。権威と正反対の「頭のおかしな人」の方が、抑制なしに分析できて良い。
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