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コロナ大恐慌を長引かせる意味

2020年5月28日   田中 宇

世界的に新型コロナウイルスの感染防止策としての都市閉鎖や経済全停止が一段落し、各国で経済のごく一部に再開されたり、外出禁止が少し解除されたりしている。日本でも5月26日までに全国で非常事態宣言が解除されたし、米国では5月20日までに全米50州のすべてで何らかの閉鎖解除と経済再開の策が始まった。欧州でも同様な流れだ。これで、コロナ危機が世界的に終わっていく流れが加速していきそうな感じが、報道や政府発表で醸成されている。株価だけを見ると、これから世界経済がV字型に回復していきそうな勢いだ。 (All 50 States Have Now Taken Steps to Reopen

しかし実のところ、これからの世界経済は、V字型の急回復でなく、なかなか回復しないL字型の水平部分の低空飛行だ。各国とも、いま再開されつつあるのは経済全体のごく一部だ。社会的にも、機能の閉鎖が解除されたのはごく一部だけだ。先進諸国の全体で、人口密度が低い田舎の多くは再開されたが、経済の中心である都会は再開が後回しだ。都市閉鎖によって感染者の増加を減らす策は一時しのぎでしかなく、各国とも、コロナ危機の最終解決である集団免疫には程遠い状態だ。これから小さな感染再拡大が何度も続き、そのたびに都市閉鎖・経済停止が再拡大されたり、社会と経済の再開策が止まる。世界的に社会と経済の再開が遅い大恐慌の状態が、これからずっと続く。マスコミは、希望が拡大するかのような報道を続けるかもしれないが、実際には持ちこたえられなくなった企業の倒産がこれから増え続ける。これまでよりこれからの方が、現実的な不況感が世界的に強まっていく。悪い事態はまだ序の口だ。 (Some Americans fear their jobs will be lost forever) (The Economic "Reopening" Is A Fake Out

各国とも、経済の破綻が表面化するのはこれからだ。各国の経済停止は3月からなので、6月に入ると大不況の状態が3カ月を越える。多くの企業でこれから非常用の備蓄資金が底をつき、経費が賄えなくなって倒産していく。家計も同様だ。すでに先進諸国の実質的な失業率は20%前後だが、そこからさらに失業者が増える。多くの人が、仕事を再開できる望みが失われ、恒久失業者に転落していく。世界的に5-10億人の中産階級が貧困層に転落していく。その悪影響はコロナ自体の感染拡大の悪影響よりはるかに大きくなる。 (Leaked Pentagon memo warns coronavirus pandemic could last until summer 2021: report

政府が外出禁止や非常事態宣言が解除しても、多くの人は、コロナに対するマスコミや政府の過度な恐怖戦略をすっかり信じ込んでコロナへの過大な恐怖心にとりつかれており、外出して買い物に行ったり外食したりしたくない。米国では世論調査に対し、規制が解除されても在宅し続けたいと答えている人が全体の約3割いる。残りの人々も、以前のような頻繁な外出をしなくなる。人々のトラウマ的な状態はずっと続く。政府が人々に外出を許可しても、消費の経済はなかなか回復しない。 (A Third Of Americans Will Remain In Quarantine Even If Instructed To Get Back To Normal Life And Work

米連銀(FRB)のパウエル議長は5月18日に「新型コロナのワクチンが完成するまで、米国経済の回復について不透明な状態が続く」と指摘した。「ワクチンができるまでずっと不況だ」という予測だ。パウエルは、トランプが4月に言った「18か月でワクチンを開発できる」(つまり、2021年末までにワクチン完成予定)という非現実的に早いワクチンの完成目標に立脚して「米経済の回復は2021年末までかかる」とも発言した。L字型回復の水平状態が2021年末まで続くという意味だ。ワクチンがたとえ18か月で完成したとしても、これから1年半続く水平部分で、倒産や貧困転落などの悪いことがたくさん起きると推測できる。そして実際には、ワクチンが18か月で完成することなどありえない。18か月でなく、その何倍かの時間がかかる。 (Fed’s Powell Says Economy Faces Long, Uncertain Recovery) (Jay Powell warns US recovery could take until end of 2021

WHOの学者は「新型コロナウイルスを抑え込めるまでに4-5年かかりそうだ」と言っている。ワクチン開発もしくは世界的な集団免疫の形成までに4-5年かかるという意味だろう。WHOはまた、たとえワクチンができても人類は永久に新型コロナを抑え込めず、新型コロナが人類の新たな風土病になっていく可能性もあると言っている。新型コロナのウイルスが大きく何度も変異し続けたりすると、変異のたびにウイルスに有効なワクチンもしくは集団免疫の形成に時間がかかりる。人類が今のような都市閉鎖・経済停止のコロナ対策にこだわっていると、世界経済のL字型回復の水平部分が永久に続き、永遠の大恐慌になる。ただし今のところ、新型コロナは大きな変異をしていない。各国政府やマスコミのプロパガンダは、コロナ危機をできるだけ長期化しそうな感じで報じる傾向があるので「コロナが変異しそうだ」「感染しても免疫ができないかもしれない」「治っても再感染しうる」「今年の秋から冬に感染が再拡大する」といった、不確実・思いつき的な事象を確定した事実のように報じる傾向が続いている。 (Will coronavirus end? Covid-19 may become endemic and last years) (WHO’s chief scientist offers bleak assessment of challenges ahead) (Merck chief casts doubt on coronavirus vaccine timeframe

コロナによる大恐慌は、これから何年も続きそうだ。ここまで、そう思える理由について、(1)コロナ対策として最も合理的な集団免疫策でなく、解決までに不必要に長い時間がかかる都市閉鎖策がとられているため。(2)米連銀のパウエルやWHOの学者らが、コロナ解決まで何年もかかると言っているため、という2つの項目について書いてきた。しかし、コロナ大恐慌が異様に長引きそうな理由として私が考えている最重要なものは、上記の2つでなく、これから書く3つ目だ。(3)トランプ米大統領ら、世界の長期的な経済利得を拡大させる目的で、既存の米国覇権体制を壊して多極型体制に転換しようとしている勢力(隠れ多極主義者たち)が、コロナ大恐慌をできるだけ長期化してその間のすべてのコストを米連銀のQE策(ドルの造幣)に背負わせ、米国覇権の基底にあるドルの基軸通貨性を崩壊させ、多極化を実現しようとしているから、である。 (都市閉鎖の愚策にはめられた人類

コロナ危機が多極化の目的で長期化させられることについては、これまでに何度か指摘してきた。今回は改めて深く掘り下げて再考する。まず、米覇権体制より多極型の方が世界の長期的な経済利得が拡大する、という考え方についてだ。これを間違いだと思う人が多いはずだ。「第二次大戦後の世界は、米覇権体制だったのでこれだけ成長できた。中国やロシアなどが米国と対等になる多極型の世界体制になると、覇権争いがひどくなって経済的にマイナスだ」と思う人が多いだろう。実はそうでない。この30年間の米覇権体制下の世界の経済成長は、金融債券化によって起こされたバブル膨張の部分が大きい。多極型の世界秩序を対立的な冷戦にしたのは英国の陰謀の結果であり、多極型自体は対立的でない。

戦後の世界は大半の期間、経済成長できる地域が西側(今の先進諸国)に限定されてきた。戦後の世界体制として、米国が戦時中に起案した世界体制は、国連安保理常任理事国の5大国制度(P5)に象徴される多極型の体制で、5大国が仲良く世界を統治し、ソ連や中国など東側でも経済成長が実現されるはずだった。国連P5など多極型の戦後体制を起案したのは、当時から今まで米国の中枢に居続けている米国のロックフェラー系などの勢力で、彼らは中ソに対して容共的な態度をとりつつ、米欧の技術が東側にも流れるようにして、東西両陣営の長期の経済成長を実現しようとした。

こうした多極型の世界体制の構築に対し、戦前の世界を事実上一極支配していた英国は、大きな不満を持った。産業革命から戦前までの250年間、英国は世界的な諜報網を駆使して同盟国と敵国を作り出しつつ「大英帝国を中心とする国際社会」の名のもとに、世界を支配してきた。2度の大戦は英国の世界支配体制を破壊し、大戦勝利の最大の功労者だった米国が出してきた戦後体制は、英国の国際支配力を大幅に低下させる多極型だった。英国が持っていた覇権(世界支配権)は、P5を頂点とする国連に移譲された。終戦によって起きた多極化は、覇権の機関化でもあった。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ

英国は、多極化や機関化による自国の覇権の喪失を甘受しなかった。洗練された諜報力(他国の指導層や諸国民を騙す詐欺の政治力)を駆使し、米国でソ連敵視の反共主義を扇動し、米国と中ソが国連上層部で恒久対立する冷戦構造を作り出して、P5の多極型の世界体制を破壊した。MI6など英国のすぐれた詐欺力で西側国民の多くが「冷戦はソ連のせいで起きたものであり、ソ連は極悪だ。ソ連を養護する者はソ連に洗脳されている」と思い込むようになった。冷戦体制の黒幕である英国の謀略に気づく者は今でも少ない。スターリンや毛沢東(やその信奉者たち)は、MI6に乗せられて米英を敵視したが、それは彼ら自身が、自国内での政治力には長けていたが、世界の本質を見抜けずMI6の国際詐欺に騙されてしまう田舎者だったからだ。

米国では戦後、2度の大戦で大儲けした軍事産業が縮小され冷や飯を食わされていたが、英国は彼らの指南役として米国に入り込み、冷戦を起こすことで軍事産業が再び儲かるようにした。米国の学術界やマスコミでも冷戦構造に反対する者が冷や飯を食わされ、冷戦・ソ連敵視を扇動する者が権威を得る構図が構築され、今につながる「軍産複合体」が形成された。軍産は国連を軽視・無視し、米国がソ連を倒して米国覇権を拡大する米覇権主義を採った。英国は、軍産の米国覇権主義の黒幕として機能することで英国覇権を延命させた。英国はこうした動きを諜報的にこっそりやったので、対抗する多極主義の側もこっそりになり、私が「隠れ多極主義」と呼ぶものになっていった。

冷戦を使った米英覇権主義は、世界の経済発展を西側だけに限定した。インドなど非同盟な発展途上国の多くも、経済面で米国から冷遇された。途上諸国を経済発展させると政治力を持ち、多極型への覇権転換に道を開きかねない。西側の経済発展は1970年代から限界が見え出した。戦後、日独や韓国ASEANなどが経済発展したが、それらが一段落すると世界は経済成長できなくなる。そういった限界が予測され出した1970年代に、軍産英に打ち負かされていたロックフェラー系(多極主義者)がカウンターパンチとしてニクソンとキッシンジャーのコンビを政権に就かせ、中国やソ連との和解を開始し、1980年代のレーガンとゴルビーによる冷戦終結に道を開いた。

1971年のニクソンの米大統領就任以来、現在までの50年間は、多極主義者と軍産英複合体との熾烈な暗闘が続いてきた。レーガンや、2001年からのブッシュ、今のトランプといった共和党の政権は、表向き軍産複合体や米覇権主義の味方のようなふりをしつつ、結局やったことは軍産と米国覇権を弱める多極主義的な事業(ブッシュのイラク戦争+占領の意図的な失敗など)だった。民主党政権の方が歴代、軍産傀儡色が強い。クリントンは軍産を排除して経済優先でやろうとしたが、軍産はユーゴスラビア(コソボ)やソマリアで戦争を誘発して妨害した。

暗闘は時に談合も生んだ。中ソと和解したニクソンは軍産からウォーターゲード事件を起こされて辞任させられ、ニクソンを辞任に追い込んだ新聞記者が英雄視され「(軍産の詐欺術の一部としての)輝かしい(笑)ジャーナリズム」の権威が強化された。ニクソンから頼まれて中国と和解した日本の田中角栄もロッキード事件を起こされて辞任させられ、田中を辞任に追い込んだ文芸春秋の立花隆らが(ほんとは軍産傀儡なのに)輝かしいジャーナリズムの権威として賞賛された。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ

2001年の911事件後のテロ戦争は一見、軍産が起こした米国とアルカイダ(イスラム世界)との「第2冷戦」、米単独覇権主義の復活であるが、英国から見ると、米国の覇権運営を牛耳る手綱をイスラエル(ネオコン)に奪われてしまった挙げ句、ネオコンが意図的にイラク戦争などで米覇権戦略を過激にやって失敗させて自滅させている。ネオコンは、軍産イスラエルの皮をかぶった隠れ多極主義者だったと考えられる。ネオコンやトランプの存在は、米国(多極の側)が戦後70年かけて、ようやく英国(軍産)を騙して潰せるだけの「MI6よりも有能な諜報勢力」を輩出できるまでに成長したことを示している(MI6よりCIAが優れていると言う人がいるが間違いだ。CIAは金食い虫なだけの愚鈍だ。諜報力はカネの額に比例しない)。

話を戻す。冷戦体制は崩されたが、軍産英側への譲歩として、金融面の米英覇権(ドルの基軸通貨性)は残された。ニクソンは金ドル交換停止(ニクソンショック)でいったんドルの基軸性を潰したが、その後の米英は新興(敗戦側)の先進諸国である日独に協調市場介入によって米ドルを支援させるG5やG7の組織を作り、ドルの覇権が維持された。冷戦終結と同時期の1980年代から、英国は米国に誘われて一緒に金融自由化(債券金融システムの拡大)の道を歩み出し、金融で英国経済を支えられるようになった。英米主導の金融の債券化はニクソンショックの副産物だったが、これが冷戦後の30年間にわたる債券金融バブルの膨張を生み出し、その規模は250兆ドルにまでふくらんだ。世界のDGP総額の3倍、米国のGDPの12倍だ。この巨額の資金力が、冷戦後の米英覇権の力の源泉になった。冷戦終結後、米英覇権の主力は軍事外交よりも金融になった。軍産英と多極の暗闘の主戦場も金融になった。

世界経済は、実体経済の成長に加えて、30年間で250兆ドルの金融面からの膨張の恩恵を受けた。1年あたりの平均で8兆ドルだ。今の世界の実体経済は80兆ドルの規模だから、債券金融の拡大(バブル膨張)は世界にとって毎年10%の経済成長に相当する。冷戦後の米国覇権体制のもとで世界経済の成長がずっと続いてきた、とみんな思っているが、その成長の本質は、この債券金融の10%の底上げ分だ。「多極化など不要だ」と言っている人の経済的な根拠の最大のものがこれだ。純粋な実体経済だけで見ると、新興市場に経済政治力を与える多極化が必要になる。

債券金融の拡大は、バブル膨張というより、以前は生きたお金とみなされていなかった「返済・償還前の債権や担保権を債券化して流通させたもの」であり、穏便にやっていたらバブル崩壊しにくい。だが、多極主義の側の代理を務める金融家たちが、往々にしてネオコン的な過激な強欲資本主義者として振る舞い、バブル崩壊を引き起こす。リーマン危機や2000年のITバブル崩壊がそうだった。今回のコロナ危機の対策として経済を停止したことも、意図的な愚策という点で同根だ。 (金融覇権をめぐる攻防

冷戦後、多極的な自然な動きとして、新興市場や途上諸国などの世界中に金融市場が作られ、先進諸国からからの投資資金が新興市場に流れ込んだ。これが放置されていたら、新興市場諸国が経済発展し、国際社会での政治力も増して米国の単独覇権体制を削いでいき、覇権の多極化が進みそうだった。軍産英は当然ながら、これを阻止しようとした。そのために起こされたのが1997年前後のアジア通貨危機だった。ジョージソロスなど軍産系の投機筋が為替投機の力を使い、新興諸国の諸通貨を次々と破壊した。新興市場諸国の金融活動が大幅に削がれた。アジア通貨危機に対する報復として、多極の側の金融家が引き起こしたバブル崩壊が00年のITバブル崩壊と08年のリーマン危機だった。

冷戦終結と同時期に米英で開始された金融自由化以来、肥大化し続けた米国中心の国際金融システムは、米政府がほとんど介入しない野放図な領域だった。金融システムの管理運営は米英などの金融界に任され、金融界は新興市場諸国の金融化やローン債権の債券化など、金融の領域を広げることで儲け続けた。これだけなら、金融の話は覇権運営と関係ないが、軍産系の諜報界が金融界に接近し、諜報的な情報を渡すことで金融界の儲けを増やし、儲けの一部が諜報界に入るようにして、そのカネを諜報界・軍産がテロリストや政権転覆の支援、新興市場を潰すための金融危機を起こす資金として使うなど、多極化を妨害して米覇権を強化する動きになった。軍産に対抗して、米上層部の多極の側も金融界に入り込み、できるだけ大きなバブル崩壊・金融危機を引き起こし、軍産に乗っ取られた金融界をシステムごと潰すことを狙った。多極の側も資本家の集まりであり、資本家が金儲けのシステムである債券金融システムを意図的に潰すのは反直感的で理解しにくい。だが、金融危機やバブル崩壊を引き起こすことを「システムのリセット(再起動)」であると考えれば、それは軍産に入り込まれた金融システムを、軍産を排除したシステムに変えるためのリセットであり、理解できる。 (金融を破綻させ世界システムを入れ替える

リーマン危機後、債券金融システムは、米連銀や日銀などの中央銀行群の造幣による債券買い支え(QE策)によって延命し始めた。QEは、それまで金融界が勝手に動かしてきた金融システムを、中銀群の傘下に入れて官製システムにしてしまうものであり、金融界と諜報界・軍産がこっそり結託して儲ける構図を破壊するものでもあった。QEは、中銀群の資産総額(勘定)を肥大化させ、最終的に通貨への信頼を低下させる、中銀にとって不健全な策でもある。逆に言うとQEは、世界を多極化したい勢力にとって、多極化を妨害する軍産と金融界が結託して儲ける構図を破壊し、最後には米国覇権の基底にあるドルの強さをも破壊し、世界を多極化に導く。QEは、隠れ多極主義的な策である。 (すべてのツケはQEに

米金融界はリーマン危機後、米連銀にできるだけ早くQEを減額・中止させようとした。その理由の一つは、自分たちが勝手にやれる以前の金融システムを取り戻したかったからだ。冷戦後、米金融界が構築した債券金融システムの大半はドル建てだったので、ドルの弱体化は不歓迎だった。金融界と結託する軍産も、ドルと米国覇権の維持を至上命題としていた。米連銀は、日欧中銀にQEを肩代わりさせたりして、QEからの離脱の試みを続けてきた。 (Central Banks Are Destroying What Was Left Of Free Markets

しかし今年コロナ危機が発生し、隠れ多極主義のトランプ政権は、愚策と知りつつ世界中に都市閉鎖策をやらせ、世界経済を大恐慌におとしいれた上で、その費用負担のすべてを米連銀などの中銀群がQEによってまかなう策を開始した。QEをやめる方向に動き続けていた米連銀は、一転して巨額のQEを開始させられた。それまで米連銀のためにQEを肩代わりしていた日欧の中銀群は、自国の経済を救済する必要に迫られ、米国を救済するQEは米連銀自身がやらざるを得なくなった(トランプは、その目的で安倍に圧力をかけて日本に経済停止をやらせた)。米連銀は、実体経済と金融の両方のすべての穴埋めを一手に引き受けている。最終的に米連銀はQEによって、実体経済と金融のシステム全体の総額の半分にあたる130兆ドル分を買い支えねばならなくなると予測されている。現在、米連銀の資産総額は7兆ドルだ。この水準でもリーマン後の最大規模(5兆ドル)より大きく、十分に不健全だと言われているが、130兆ドルは7兆ドルの20倍近い。 (Lockdowns failed to alter course of pandemic, JP Morgan study claims) (One Bank Sees Fed Balance Sheet Hitting $130 Trillion If Powell Buys Everything

米連銀が不良債権をいくら抱えても、世界がドル売りを強く希望しない限りドル崩壊にならない。それに米金融界はいまだに、米連銀にできるだけQEを拡大させたくない姿勢をとり、3月の暴落以来、毎週必要なQEの額が減ってきている。しかし、トランプはこの部分でも新たな一計を案じている。それは、トランプが中国敵視を強めて米中関係を悪化させ、中国が他の非米諸国を率いてドル売りや、米覇権やドル基軸性の引き倒しを画策するよう仕向けることだ。トランプは最近、中国敵視をどんどん強めているが、同盟諸国の中でさえ、米国と一緒に中国を敵視しようという国はほとんどない(豪州ぐらいだ)。日本も英独なども、中国との関係を悪くしたくない。米国は、急速に孤立している。今後の米中冷戦のなかで、中国側が国際決済の非ドル化を世界的に進めていった場合、ドルの側に立って米国を加勢してくれる国は少ない。今はまだ元安ドル高の動きだが、いずれドルが安くなり、米国のインフレ激化や、ドルの国際的な地位の喪失が起きる。 (中央銀行群はいつまでもつか

トランプは、コロナ危機の長期化による米連銀のQEの巨額化と、米中対立を激化して中国にドルを引き倒させる役をやらせることで、世界を米単独覇権から多極型に転換しようとしている。それを実現するには、コロナ危機(経済停止、国際関係の断絶)をできるだけ長引かせるのが良い。トランプは今秋の選挙で再選されるだろうから(マスコミはバイデンが優勢だと報じ、16年の前回選挙と同じ間違いを繰り返している)、トランプの2期目の終わりまであと5年ある。この5年と、WHOあたりが言っている「コロナ危機はあと5年続く」という予測が長さ的に一致しているのが興味深い。5年あれば、QEの十分な巨額化、米中の十分な対立化が進み、ドル崩壊までたどりつける可能性が強くなる。



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