<1年後の読み返し> 中国と米国覇権2021年7月17日 田中 宇国際情勢を解説する私の記事には有料版(田中宇プラス)と無料版がある。有料版の記事は、配信して1年ほど経つと、無料化してウェブサイトで誰でも読めるようにしている。先日、昨年6-7月に書いた10本を無料化した。今回は、それらの記事に書いたことが1年後の今になって読み返すとどう見えたか、を書く。予測の当たり外れ、その理由、その問題についての1年間の展開などを書いてみる。こうした試みは初めてだが、意味があるなら今後も続ける。私は2か月に一度ぐらい、古い有料記事を無料化している。今回無料化した10本は以下のとおり。 読み返しの再分析で最も意味深い部分は、コロナによって米国中心の金融システムの危機が再燃しそうだという予測についてと、米国の金融・覇権システムが崩壊への道に入っていると気づいた中国の対米自立や独自覇権の拡大策についてだ。昨年6-7月ごろはコロナ危機が始まって半年が過ぎ、対策(超愚策)として厳しい都市閉鎖が米国や欧州で行われ、世界経済の大恐慌がひどくなっていた。米国は、実体経済でコロナ恐慌が続いていたのに、金融は連銀(FRB)がQEでバブルを膨張させてコロナ危機後に暴落した株価を再上昇させており、危険なバブルの過剰膨張が始まっていた。一方、昨年1月に世界に先駆けてコロナ危機になった発祥地の中国は、発生から半年後の当時、発症拡大を抑え込み、経済を再成長させる過程に入っていた。中国は、一帯一路など自国側の経済圏の成長を守るため、バブルがひどくなって崩壊への道を進む米国のドルシステムから自立する道をたどり始めた。「急接近するドル崩壊」や「ドル崩壊への準備を強める中国」に、そのことが書いてある。 (急接近するドル崩壊) (ドル崩壊への準備を強める中国) 私は「コロナ第2波で金融危機の再燃へ」という記事も書いている。今にも金融危機が起こりそうな題名だ(笑)。しかし現実は、その後1年がすぎた今も、まだ米欧日の株価の暴落や債券金利の高騰は起きていない。現状は(表向き)危機の逆だ。株価は最高値を更新し続け、米国債金利は異様に低い。1年たっても「急接近するドル崩壊」になっておらず、私の予測は「はずれ」ている。なぜそうなっているかというと、私は、中国が非米諸国を引き連れてドル離れを早く進めていくと予測し、ドルや米国債に対する国際信用が失墜して米国側が早めに金融危機になると予測したのだが、実際の中国はドル離れをゆっくりしか進めていないし、非米側がドル離れした分は米連銀など中銀群によるQE資金で穴埋めされてきたからだ。 (コロナ第2波で金融危機の再燃へ) (金融や覇権の崩壊が加速しそう) 中銀群のQEは08年のリーマン危機に対する延命策として開始(急拡大)され、当時の金融界では「QEは数年で行き詰まるので短期的な措置だ」と考えられていた。しかし実際には、QEがドルのライバルである金地金の大幅安まで演出し、ドルが過剰発行されたら上昇するはずのユーロや円の発行者である欧日中銀もQEをやらされるなど、ドルに代わる諸通貨や金地金の上昇が抑止された。そのためQEをいくらやってもドルの信用失墜がおこらず、開始から13年たってもQEが続けられている。欧日中銀は不健全なQEをやめたがっているが、米連銀にやめさせてもらえない(英国やカナダの中銀は、そろそろとQE減額を試みている)。ドルは、先進諸国のほとんどの通貨を人質にとって無理心中する道に入っており、なかなかドル崩壊が起きない。QEは意外にしぶとい。これまで新興市場通貨だった人民元の中共がドル潰しを画策しても、すぐには成功しない。 (強まるインフレ、行き詰まるQE) (米国側が自滅する米中分離) (金融バブルを無限に拡大して試す) 私の「ドル崩壊」予測は08年のリーマン危機以来、13年間はずれ続けている。だが、はずれているのは時期的なことだけだ。ドルが崩壊への道をたどっているという構図自体は、間違っていないことが何度も確認されている。コロナ大恐慌なのにQEによって株や債券が高騰し続ける現状は「死んだ猫の踊り」であり、巨大な金融危機の潜在的な進行を物語っている。これは覇権転換の話なので何十年もかけて進む。13年間のずれは大したことでない。さらにあと何年かずれるかもしれないが、ドル崩壊、基軸通貨の多極化は必ず起きる。中共は、中国圏の国際基軸通貨としてデジタル人民元を用意している。 (中露の非ドル化) (金融の大リセット、バーゼル3) コロナ危機は、ドル崩壊や多極化を誘発・前倒しする(そのために米諜報界の多極派がWHOなどを通じて米欧に都市閉鎖の愚策をやらせ、コロナ危機を長期化し、打撃を拡大している)。1年前には「ずっと世界恐慌、いずれドル安、インフレ、金高騰、金融破綻」という記事も書いた。あれから1年間「ずっと世界恐慌」である。インフレもいよいよ米国などで激しくなってきた。金高騰はまだ起きていないが、バーゼル3の開始でこれから高騰していきそうだ。時期的な予測は当てられないが、構造的な分析は1年後も大体そのまま使える。 (ずっと世界恐慌、いずれドル安、インフレ、金高騰、金融破綻) (金相場引き下げ策の自滅的な終わり) (放置される米国のインフレ) 金融以外の面で見るべきものが多い記事は「コロナ時代の中国の6つの国際戦略」だ。この記事は、昨年6月に中国共産党が出した世界情勢に関する6か条の予測と対策について書いている。「米国は今後も中国を敵視するので、中国は米国の覇権下から離脱していく必要がある」「新型コロナの世界的な経済停止が続くので、中国製品の輸出先の中心を米欧から一帯一路諸国に変えていく必要がある」「コロナは長期化する」「世界的な食糧難が起きる」「ISアルカイダが再勃興する」などが1年前の中共の予測と対策だった。1年後、これらの多くが具現化している。最近、南アフリカやキューバなど世界各地で、食糧など物価高騰に対する不満から暴動が起きている。 (コロナ時代の中国の6つの国際戦略) ("It's A War Zone" - South Africa To Deploy 25,000 Troops As Country On Brink Of Civil War) 6か条の中で「ISアルカイダの再勃興」だけは起きていない。ISカイダを中東で涵養してきた米国(米軍、米諜報界、イスラエル系)は、アフガニスタンに続いてイラクからも撤兵しようとしており、イスラエルも弱体化している。中露イランは中東の安定を望んでおり、中東を不安定化するISカイダの存在を認めない。これからISカイダが再勃興する可能性は低い(再勃興を試みても、中国の同盟国である露イラン側に潰される)。当時の米諜報界(多極派)が、中国を覇権拡大の方向にがんばらせるために、中国側に「ISカイダが再勃興する」とニセ情報を伝えていたのかもしれない。 (US Denies Troop Withdrawal Was Discussed in Iraq) (US transfers 3 huge logistic bases from Qatar to Jordan – gesture to Iran) (China Mega Investment Deal With Iran Blows U.S. Out of the Picture) 「コロナ時代の中国の6つの国際戦略」で、私は中共が出した6か条について踏み込んで分析したが、その中には「トランプが再選されたら中国敵視や米中分離を加速して中共6か条に沿った展開になるが、バイデンが当選したら中国と和解するので違う展開になる。トランプが再選されそうだ」という感じの「はずれ」的な分析がある。トランプでなくバイデンが大統領になったが、それは選挙不正の結果だった可能性が最近、アリゾナ州などでの再調査で高まっている。この部分は、これから秋にかけて「はずれ」でなくなっていきそうだ。 (Georgia County Ballot Images Prompt Speculation Of "Provable Fraud") (Georgia Has Proof of Somebody Admitting to Running Ballots Through Numerous Times) 私の真の「はずれ」は「バイデンが政権をとったら中国と和解する」の部分だ。バイデンは、トランプが放棄しかけた米国の覇権を回収・再生する必要があり、それには大国になった中国と和解して中国(やその仲間であるロシア)に米覇権維持の手伝いをしてもらうことが必須だと、米国の権威ある人々もバイデンが就任するまで言っていた。だが、その後の実際のバイデン政権は、トランプの中国敵視や米中分離の策をそっくり受け継いでいる。バイデン政権は、今年3月のアラスカでの米中外相会談など、中国を意図的に怒らせて対米自立や多極化の方に押しやることまでやっている。バイデンが中国(中露)を敵視したことで、米国がこれから覇権崩壊していくことが確定した。結局のところ、バイデン政権にも隠れ多極主義者が入り込んでいて(米社会を無意味に分裂させている民主党左派が怪しい)中国が米国と和解したがらないよう、濡れ衣的な敵視策を続けている感じだ。 (中国に世界を非米化させる) (覇権国に戻らない米国) 今回無料化した1年前の記事群には、イスラエルやトルコなど中東情勢のこともあるが、それらについては時間があるときに書きたい。
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