ウクライナで兵器を浪費し尽くし和平を余儀なくされる米国側2023年3月30日 田中 宇米欧は全力でウクライナを軍事支援してきたが、ウクライナは米欧から支援された兵器や弾薬を思い切り使い続けてしまい、米欧が兵器工場を全力で操業しても武器弾薬が底をつき、米欧自身の防衛力が低下して、もうウクライナを軍事支援できなくなっている。ゼレンスキーは「米欧が追加で武器弾薬を送ってこない限り、戦闘を続けられないし、ロシアに勝てない。中国の和平仲裁に乗らざるを得なくなる」と言い出し、ウクライナ戦争は武器弾薬不足から停戦状態や和平に向かう道(米覇権低下と中露の台頭)が始まっている。 (Zelensky Says No Counteroffensive Until the West Sends More Weapons) (Zelensky Invites China's Xi To Visit Ukraine As US Rebuffs 'Alternate' Peace Plan) ハンガリーやオーストリアに続いて、ブルガリアがウクライナ支援をやめて中立(隠れ親露)に転じると宣言した。欧州は内部分裂が進んでいる。独仏は国民の反政府感情が高まってゼネストが続き、欧州は政治的にも軍事的にもウクライナ戦争を続けられなくなった。フランスのマクロン大統領は間もなく中国を訪問し、習近平のウクライナ停戦案に賛成する。ブラジルはBRICS全体でウクライナ停戦和平を進めようと中国に提案している。習近平のウクライナ和平策は、意外に早く現実になっていく。まだ2年ぐらい続きそうだと思っていたウクライナ戦争が、今年中に停戦和平するかもしれない。その前にEUとNATOが機能不全に陥り、米欧金融システムとドル基軸体制=米国覇権が崩壊する。 (Bulgaria Refuses To Send Weapons To Ukraine, Joins Hungary & Austria's Neutral Stance) (France Willing To Work With China On 'Peaceful Solution' For Ukraine) ウクライナ戦争は最初から詐欺的(隠れ多極主義的)な構図を持っていた。この戦争は、米国側(米欧、NATO、G7、米国と同盟諸国)にとって、20年前のイラク戦争から続いてきた米覇権の低下傾向に歯止めをかける地政学的な一発逆転になるはずのものとして画策された。2014年に米国がウクライナの政権を転覆して米傀儡にしてから続いてきたウクライナ内戦を2021年秋から激化し、ウクライナ国内のロシア系住民たちを殺してロシア政府を怒らせてウクライナに侵攻させ、ロシアをウクライナ戦争に引きずり込んで疲弊させ、プーチン政権を崩壊に追い込んでロシアを国家破綻させて旧ソ連全体を内戦に陥らせ、ユーラシア内陸部での中露と米国側との地政学的な対立を、中露優勢から米国優勢に引き戻す。それがウクライナ開戦時の米国の目論見だった。 (Japan needs Russian energy – PM) (さらに進む覇権の多極化) マスコミは、ロシアの方から突然ウクライナに侵攻したように報じているが、これは事実でない。ゼレンスキーのウクライナを支援していた米国が、2021年秋からウクライナへの軍事テコ入れを強め、ウクライナのロシア系住民が殺されてロシア政府が怒って露系住民を守るために侵攻してくるよう仕向けた。ロシアのウクライナ侵攻は、米国がロシアを陥れて誘発したものだった。プーチンは、米国が仕掛けた罠にはまって同胞保護のためにウクライナに侵攻し、短期間でロシアが劣勢になってプーチン政権が崩壊してユーラシア地政学の大逆転・米国側勝利が具現化するはずだった。米国は、同盟諸国にそう説明していた。だが、現実はそうならなかった。 (まだまだ続くロシア敵視の妄想) (Zelensky Admits Ukraine Already Ran Out Of Ammo) プーチンは開戦前から、米国側の策略を把握していたようだ。露軍は緒戦でウクライナ上空の制空権を奪取し、それ以来現在まで優勢な状態を維持している。だが露政府は自分たちの優勢をあまり表明せず、米国側のマスコミが「ロシアは劣勢。間もなく負けて国家崩壊する」と、間違った喧伝をするのを助長した。米諜報界では、少数の専門家が報道の間違いを指摘したが簡単に無視された。 (ウソだらけのウクライナ戦争) (ロシアは意外と負けてない) 露軍は緒戦でウクライナの東半分を広く占領し、その地域に存在していた軍事施設などを破壊してから退却し、占領範囲を露系住民が多いドンバスなどだけに縮小した。露軍が退却した直後の街に入った米ウクライナ当局は、ブチャなどで露軍が退却前に地元住民を多数虐殺したとウソの話や光景をでっち上げ(戦闘で死んだ市民の遺体を虐殺被害者に見せかけた)、米国側マスコミがウソをそのまま「ロシアの戦争犯罪」と喧伝した。露政府は、これに対しても大して反論せず、戦争犯罪国の濡れ衣を着せられたままにした。 (市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア) (濡れ衣をかけられ続けるロシア) 報道や世論が勝敗の要因になる近現代の戦争は「善悪」が大事だ。米英は敵方に戦争犯罪の濡れ衣を着せて極悪のレッテルを貼り付け、敵を弱体化させて勝ち続けてきた。今回のロシアもそれをやられたが、あえてやられるままにしている。なぜなのか?。それは、善悪を歪曲されたままにして、米国側に対露経済制裁を思い切りやらせることで、世界を金融バブルの米国側と、金資源本位制の非米側に決定的に分裂させようとしたからだ。この分裂策は奏功し、いまや世界の石油ガスや穀物生産の大半を非米側が握り、米国側は資源を確保できず弱体化している。また、米国側は金融バブルが崩壊してドル覇権喪失の瀬戸際にいる。 (悪化する米欧銀行危機) (What you need to know about Russia-China relations, but were afraid to ask) 米国と同盟諸国は「極悪なロシアを許してはならない」「頑張ってウクライナを支援すれば間もなくロシアが崩壊し、地政学的に米国側が勝てる」とけしかけられ、全力でウクライナを支援し、思い切りロシアを敵視して経済制裁した。米国側の間抜けな市民運動(とくに左翼リベラル)も簡単に乗せられた。しかし、いつまでたってもロシアは負けない。むしろじわじわと勝っている。ロシア経済も好調だ。ロシアの人々は、冷戦後ずっと米英がロシアを悪く描く歪曲報道してきたことを良く知っているので、今回ロシアに貼られた極悪のレッテルについてもウソだと気づいている。プーチンの支持率は下がってない。 (ウクライナでゆるやかに敗けていく米欧) (EU自滅の行方) 米国側がウクライナに送った兵器や弾薬庫はどんどん露軍に破壊され、いくら送っても追いつかない。欧州諸国は兵器弾薬が尽きて自国の防衛もできない。欧州は石油ガスが不足して経済が悪化し、不満をつのらせた人々のデモやストライキが激化している。ロシアでなく独仏が政権転覆しそうだ。米欧はクレディスイス消滅など金融危機も拡大している。習近平はプーチンとの隠然中露同盟(孫子の兵法的)を強化し、非米側の多極型覇権体制が出現している。米国側から貼られた「ロシアは負けそうだ。極悪だ」というレッテルを放置したプーチンの「偽悪戦略」は大成功し、米国側が負けて非米側が台頭し、米単独覇権体制が多極型体制に転換している。 (European Union’s collapse not far off, says Russian security chief) (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) この展開を考案したのはプーチンでなく、米諜報界の隠れ多極派だ。彼らは2003年のイラク戦争の時も「ネオコン」としてブッシュ政権の中枢に入り込んで似たような策略をやった。ネオコンたちは、イラクが大量破壊兵器を持っていないのに持っていると濡れ衣をかけて「極悪」のレッテルを貼り、米軍がイラクに侵攻して政権転覆したらすぐ民主国家ができるというウソのシナリオを作ってマスコミに喧伝させ、2003年3月のイラク侵攻を実現した。実際は、その後の米軍イラク占領が泥沼化し、米国は覇権が低下したが、永久に傀儡(英国は黒幕)でいたい同盟諸国が見てみぬふりをしたので米覇権が維持された。ネオコンは、隠れ多極派として、米覇権を自滅・消失させようとしたのだろうが、同盟諸国が米覇権の消失を望んでいない点を十分把握しておらず誤算した。 (好戦策のふりした覇権放棄戦略) (世界を多極化したがる米国) イラク戦争の時、米覇権に代わる代替覇権体制はなかった。その点も不十分だった。だが今回は中露やBRICSがいる。911やイラク戦争の後、米覇権に代わる覇権体制が必要だと感じたのは、欧日の同盟(米傀儡)諸国でなく、イラクの次は自分たちが米国に潰されるかもしれないと恐れた中国ロシアなど非米諸国だった。彼らは英国系に植え付けらにれた相互の対立を少しずつ解消して連帯を強め、BRICSや上海協力機構など、非米的で多極型の覇権体制を作る準備を加速した(米諜報界の多極派は、BRICSや上海機構の真意をさぐろうとする米国側のマスコミやシンクタンクの動きを封じた)。そして昨年、隠れ多極派がロシアを引っ張り込んでウクライナが開戦し、米国側はロシアを思い切り経済制裁したつもりが逆に資源の枯渇や高騰による経済難に見舞われ、プーチンが構想した金資源本位制に習近平が合流して非米側の多極型体制が立ち上がった。あとは米欧が金融破綻していけば米覇権が瓦解し、多極化が完成する。 (多極化の進展と中国) (ドル崩壊への準備をするBRICS) 米国の隠れ多極派とプーチンは仲間なのか?。多分ちがう。多極派は、プーチンが事態の裏側を理解できるように情報漏洩するだけで十分だった。ウクライナ戦争は、米国の軍産複合体にとって兵器弾薬を大量消費できる天国みたいな場所であり、だから軍産の傀儡であるマスコミはウクライナ戦争の裏側に見向きもせず、隠れ多極派が歪曲した情報を積極的に喧伝した。たしかに米国側の兵器工場はフル稼働だし、防衛費も増えた。だが「天国」は一時的な現象だ。これから米覇権の崩壊が加速すると、軍産自身が乗っていた土台が崩れだす。ロシアをはめたつもりが、ロシアに潰される。ウクライナは、軍産と米覇権にとって死に場所になる。 (米欧との経済対決に負けない中) (US Officials Really, Really Want You To Know The US Is The World's "Leader")
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |