ドル崩壊への準備をするBRICS2023年1月29日 田中 宇中露印など非米的な地域大国群で構成するBRICSが、自分たちの貿易決済に使えるドルに替わる基軸通貨を作る話を進めている。新基軸通貨の創設が、8月のBRICSサミットの正式な議題の一つになると露政府が発表した。BRICSの全体もしくは一部(露中)がドルに替わる基軸通貨や共通通貨を作る構想は昔からある。ロシアのプーチンは、2018年のバルダイ会議でBRICS共通通貨を作って米ドルを基軸通貨の地位から落とす構想をぶち上げだ。しかし、それから5年経とうとしているが、世界の基軸通貨はドルのままだ。 (BRICS summit to discuss association’s currency - Lavrov) (Dollar Hegemony, Saudi Arabia, Oil, & Ron Paul) 昨秋には習近平がサウジアラビアを訪問し、アラブ産油国がドルでなく人民元で石油を売る計画を検討した。世界の石油貿易のほとんどがドル建てで決済されてきた「ペトロダラー制」がドルの基軸性を支えてきた。それが崩れて「ペトロ元」になったらドル基軸はおしまいだとオルトメディア(私とか)が騒いでいる。だが、サウジの通貨リヤルは、為替がドルに固定(ペグ)したままだ。人民元も為替はドルを意識しており、半分ドルペグみたいなものだ。そんな人民元がリヤルを引き連れ、ドルを蹴散らしてペトロ元だって??。百年早いぞ。また多極化の妄想ですか??、(笑)(笑)(笑)・・・。マスコミ側の人々は嘲笑している。 (Contrarian Thoughts On The Petro-Yuan And Gold-Backed Currencies) (A Dollar Collapse Is Now In Motion, Saudi Arabia Signals The End Of 'Petro' Status) たしかに、中露が米国から覇権を奪うために独自の共通通貨を作ってドルをしのぐ基軸通貨になろうとしているのなら、中露は勝てない。百年早い。だが実際は話が逆で、米国が中露を脅威とみなして敵視して潰そうとしており、その一環として米国は、ウクライナ開戦とともにロシアのドル使用を禁止し、中国のドル使用も監視していずれ制限しようとしている。米国はこの四半世紀(911以来)、覇権国としての余裕がなくなり、米国の言いなりにならない諸国に対するドル使用制限やSWIFT(ドル送金システム)からの追放などの経済制裁を頻発するようになった。中露BRICS非米諸国の全体にとって、ドルは政治面で安心して使える通貨でなくなっている。 (US Bristles As South African Ally To Host Joint Naval Drills With Russia, China) (中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める) ドルは、経済的に使いやすい通貨だが、政治的に使いにくい通貨になった。世界の諸国の中でも、日本のような対米従属国は対米自立する気がないのでドルの使いにくさを感じない。対照的に、中露などBRICSの諸国はすべて対米自立を望んでおり、近年の米国が余裕を失い、従属しない諸国に対するドル利用禁止の経済制裁を強めるほど、BRICSはドル使用をやめて自前の基軸通貨・決済通貨を持ちたいと思うようになっている。昨春のウクライナ開戦で、この傾向が一気に強まった。米覇権運営の奥の院であるCFRが発行する論文誌フォーリン・アフェアーズにも最近、米国が経済制裁を頻発しすぎるので非米諸国がドルを使いたがらなくなって米覇権が低下していると指摘する論文が載った。 (The End of the Age of Sanctions?) (Goodbye empire? US sanctions are failing in the face of multipolarity) マスコミは昨春の開戦直後から現在まで、ロシアがウクライナ戦争で負けて国家崩壊していくという予測を発し続けている。これが事実なら、米国の強さと、ロシアなどBRICS非米側の弱さがいずれ示されることになり、ドルは引き続き強い基軸通貨として世界に君臨し続け、プーチンが夢見たBRICS共通通貨は妄想に終わる。だが実際は違う。ロシアは最初から今までずっと、ウクライナ戦争で優勢が続いている。ウクライナ戦争は長期化する。米軍の幹部は最近、1年後もウクライナが続いているとの予測を出した。 (Pentagon Already Sees Ukraine War Going Well Past 2023) (Concerning the arguments for ‘total defeat’ of Russia) ウクライナ戦争が長引くほど、非米諸国はロシア支持・対米自立の方向で結束を強め、米国側と非米側の対立が決定的・恒久的になる。米国側は非米側を経済制裁し、非米側はドルを使いたがらなくなり、不便でも自前の決済通貨を持ちたいと思うようになった。BRICSが米国を倒したいからドルに対抗する基軸通貨を作るのでなく、米国が(理不尽に)非米側を敵視・制裁するので、防衛策としてBRICSが基軸通貨を作る。(米国が非米側を経済制裁しているウクライナ戦争もイラン核問題も米中対立も、米国が事実をねじ曲げ、善悪を歪曲して引き起こしている。日本のマスコミは、情報歪曲の面で対米従属している) (China Cut Treasury Holdings Again In November As World Piled Into US Stocks) (来年までにドル崩壊) ▼ドルが崩壊するので替わりの決済通貨を準備するBRICS・非米諸国 ウクライナ戦争は、非米側が、ドルや米金融システムから自立した自前の経済体制を持たねばならないと考えるようになるもう一つの状況も生み出した。それはウクライナ開戦後、世界が米国側と非米側に分断される傾向が増すとともに、石油ガスや金地金など資源類の大半が非米側に属するようになり、QE(造幣による債券買い支え)によって膨張した米国側の金融バブルが、QT(買った債券の再放出)によってバブル崩壊しかねない状態になったことだ。 (Open Madness In Global Bond Markets: Got Gold?) (もっとひどくなる金融危機) 分断加速の結果、米国側は、非米側から資源類を買いにくくなってインフレが激化した。ウクライナ戦争が長引くほど米国側のインフレがひどくなり、(的外れな)インフレ対策として利上げとQTをやめられなくなり、ドルと債券の金融バブルの崩壊が不可避になっている。非米側は、漫然とドルを決済・備蓄通貨として使い続けていると、いずれ起きるドル崩壊によって米国側と一緒に潰れてしまう。BRICSを筆頭とする非米側は、早く自前の決済・備蓄通貨のシステムを作り、ドル使用をやめねばならない。 (Brazil, Argentina Holding Talks Over Possible Common Currency) (複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ) ドルは1971年のニクソンショックで金地金との交換性を失った後、資源類の裏付けがない不換紙幣であり、米国の覇権や信用が低下したらドルや債券も終わりだ。米英はニクソンショック後の1980年代に債券金融システムを作ってドルの覇権を維持したが、近年のインフレ激化で債券の金利が上昇している。金利高騰は債券の崩壊・価値消滅だ。QEの残滓の資金を注入して金利を抑止する相場の歪曲が行われ、表向きだけ平静だが、資金注入をやめたら金利が高騰し、ドルと米覇権の根幹にある債券システムが崩壊する。すでに米覇権は「植物人間状態」「死に体」だ。米国側のマスコミはそれを報じない(報道したら金融崩壊を誘発する)。米国側の人々は無知なままだが、非米側は米国側を客観視できるのでドル崩壊が近いことを知っており、ドル崩壊の前にBRICSが非米側全体で使える自前の基軸通貨体制を作ろうとしている。 (BRICS Reserve Currency: Exploring the Pathways) (ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る) これまでドルや債券は過剰発行しても信用が下がらなかったので、米国の当局と金融界は、過剰発行で得た資金を使って金地金や石油ガスから株や債券までの各種相場を信用取引などで歪曲し、ドルや債券を実態より強く見せ、金地金や石油ガスなど資源類を実態より安く見せてきた。不換紙幣であることを逆手にとった詐欺手法で、50年近くドルと米覇権の信用が維持されてきた。資源類の価格はドルの詐欺・錬金術に隷属してきた。(大企業は、社債発行で得た資金で自社株を買って株価をつり上げ、優良企業に見せかけて債券格付けを引き上げ、低金利で安く社債が発行できるようにして、さらに社債を発行して株価と社格をつり上げる錬金術をやってきた) (Prices Will Keep Rising Despite 'Peak Inflation' Chatter, Warns Unilever CEO) (資源の非米側が金融の米国側に勝つ) だが昨年から、ウクライナ戦争による世界分断で、ドルは米国側、資源類は非米側のものになり、資源類はドルへの隷属から解放され得るようになった。資源類の価格上昇は、ウクライナ開戦前からの米国側のインフレを激化し、インフレによって金利が上昇して債券の強さが剥げ落ち、ドルの錬金術の全体が崩壊に向かっている。非米側がBRICS共通通貨を創設してドル離れすると、ドルや米国側債券への需要が減り、資源類のドル建て価格の上昇とインフレが加速し、ドルと米覇権の崩壊に拍車がかかる。サウジリヤルや人民元など非米側諸通貨のドルペグは、いずれドルが崩壊していくと自然に外れていく。ドルが自滅し、リヤルや元が生き延びる。 (Could Golden Ruble 3.0 Knock Out the U.S. Dollar?) (債券金融システムの終わり) ロシアは石油ガス金地金など資源類を多く持っている。中国も世界最大級の金地金の保有・産出国だ(米当局も表向き大量の金地金を保有しているが、多分ほとんど貸出されて現物がなく借用書の紙切れだけだ)。産油諸国の盟主であるサウジはBRICSに入りそうだ。BRICSの新通貨体制がどんなシステムになるか不確定だが、金地金や原油と連動することが構想されている。 (Buy Gold To Fund Bottom-Fishing) (Central Banks Turn To Gold As Losses Mount) 非米諸国が資源類や金地金を裏付けにしたドルに対抗する基軸通貨を作ることを、ウクライナ開戦直後に「ブレトンウッズ3」として予測した分析者ゾルタン・ポズサーは、1グラムの金地金と2バレルの原油を等価にして、それをBRICSの諸通貨を加重平均したバスケットと連動させる金資源本意制になるかもと言っている。当面は人民元がBRICSの基軸通貨を代表し、7年後にはBRICSが米欧をしのぐ世界経済の中心になるとも予測している。1グラムの金地金は現在62ドルだ。原油2バレルは160ドル。ポズサーは、金地金が今の2.5倍の価格になるのが適切だと考えていることになる。そういえば最近、金相場が反騰している。抑圧されても負けずに反発する力が以前より強い。このまま上がり続けるとは限らないが。 (Escobar: Gold-Backed Currencies To Replace US Dollar In Global South) (優勢になるロシア) (NY金相場) ドルや米国債が崩壊し、中露など非米側が金資源本位制を採用して世界経済の中心になっていく。にわかには信じがたいし、いつそうなるのか不確定だが、米連銀はインフレ対策と称して予定通りQTを続けており、いずれ金融バブルを維持する資金が足りなくなって金利高騰・債券金融システム崩壊が起きるのは不可避だ。ジョージ・ソロスの機関であるクインシー研究所も「非米諸国が世界秩序を再編している。米国はそれに気づいておらず危険だ」と書いている。多極化する瞬間が近づいている。 (The Global South is reshaping the world order. The US should take notice.) (制裁されるほど強くなるロシア非米側の金資源本位制) 今後の流れの中で、日本はどうなるのか。米国側の中央銀行群の中で、利上げを拒否してQEとゼロ金利策を維持しているのは日銀だけだ。IMFは先日、日本は利上げした方が良いと示唆した。日銀が利上げすると、米国債より先に日本国債の金利が高騰して崩壊する。IMFは、米国より先に日本を自滅させて時間稼ぎのための「人身御供」にして、既存の世界の中心である米国の金融を延命させたいのかもしれない。日銀は今のところ抵抗している。もしくは逆に、日本がQEとゼロ金利を続けて資金を供給していることが、すでにQTと利上げを進めて金欠になっている米国を穴埋めし、米国の金融崩壊を防いでいるのかもしれない。この場合、日銀が利上げすると米国が金融崩壊する。日銀に利上げさせたいIMFは、米覇権を自滅させたい隠れ多極主義・非米側の傀儡ということになる。 (利上げしたくない日銀) (This Is The "Technical Tweak" Unveiled By The BOJ Which Is Equivalent To Strengthening Policy Easing)
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