潰されていくドイツ2022年8月23日 田中 宇米国が起こしたウクライナ戦争は「敵」であるはずのロシアを潰さず、逆に台頭させている。そして「味方」であるはずのドイツなどEU諸国と、ウクライナを自滅させて潰している。最大の要因は、石油ガスなど資源類の貿易だ。ロシアは米国側に制裁されても石油ガスを中印など非米側に輸出できる。逆にドイツなどEUは冷戦後ずっと経済発展をロシアからのガス輸入に依存しており、輸入が止まると致命的だ。 (ドイツの失敗) (自滅させられた欧州) 気体の天然ガスをパイプラインで消費地に送ることは、LNG(液化天然ガス)や石油などに比べて安いエネルギーであり、冷戦後のドイツはロシアからウクライナ経由や北海海底ノルドストリームなどのパイプラインで送られてくる安い天然ガスを使った工業で経済成長してきた。だがウクライナ開戦後、ドイツやEUは、米同盟国としてロシアとの経済関係をすべて断絶する対露制裁を義務づけられ、ロシアからの天然ガス供給は平時の20%に減った。今後さらに減ってゼロになるとEU当局が予測している。ドイツやEUの経済は破綻し、市民の暖房費や電気料金が高騰し、貧困層の生活苦がひどくなっている。ドイツなどでは石油ガスのさらなる高騰が予測されるため、今冬の暖房用に樹木の薪を集め出す人が増えている。他人の土地の枯れ木や薪を盗む事件も頻発している。事態は先祖返りしている。 (Germany’s business model is broken) (Gas shortages, freezing temperatures, firewood hoarding: Just how bad could things get this winter?) ウクライナ戦争は、ロシアの優勢で今後もずっと続く。劣勢なウクライナ政府が敗北を認めてロシアと和解するなら、米国側は対露制裁をやめてロシアからドイツへの天然ガス送付も再開しうる。だが米国は、傀儡であるウクライナが、ゲリラ戦やテロリスト的な戦法も併用しつつずっと戦争を続けるよう誘導している。ウクライナ側は最近、ロシア国内でのの破壊工作(クリミア無人機攻撃)、テロ(ダリア・ドギナ爆殺)などの非正規戦法を強めている。ウクライナ戦争は今後もずっと続く。ドイツの経済相(Robert Habeck)は最近「安いロシアのガスに依存してきたドイツの成長モデルは二度と戻らない」と宣言した。エネルギー価格が高騰したままになりそうなので、これまでドイツで操業していた工場群が国外に逃げ出している。ドイツでは電力やガスの料金がこの2か月で2倍、2年間で6倍になっている。 (Germany's Habeck: Germany's Russia-dependent energy model isn't coming back) (Germany Risks a Factory Exodus as Energy Prices Bite Hard) ウクライナに勝つ見込みがあるなら、エネルギー危機が続いてもウクライナが勝つまで我慢する戦法もあり得る。だが、ウクライナが勝つ見込みはない。戦況の逆転にはNATO軍の参戦が必要だが、それをすると人類破滅の米露核戦争になる。現実的には今後、ロシアがウクライナの東部と南部を占領して住民投票などをやって分離独立とロシアへの併合を促進していき、残ったウクライナ西部はポーランドの傘下に入って国家機能を何とか維持し続ける。ウクライナ政府は、移住してきたポーランド人に自国民と同等の権利を与えている。ウクライナ人のかなりの部分(3割ぐらい?)がすでに、ゼレンスキー政権の弾圧政治と戦争を嫌がって欧州やロシアに移住してしまっている。その穴埋めとしてポーランド人が招き入れられている。ポーランドは、ウクライナを併合して大きくなってドイツに対抗したいのだろう。 (Poland takes the first step towards turning Ukraine into a Polish colony) (Kiev Selling Off Country, Prioritizing Poland in This 'Business Project') ウクライナは、東西に分割された状態で、大した戦闘がなくても何年も戦争状態を続けそうだ。米国は対露制裁をやめない。ドイツも、対米従属を国是とする限り対露制裁に参加せざるを得ず、ロシアから石油ガス資源類を輸入できない。ドイツ経済は破綻した状態がずっと続く。冗談じゃない!。今すぐロシアからのガス輸入を再開するしかないぞ。ドイツ政界の有力政治家(副議長。Wolfgang Kubicki)は最近、そんな風に提案した。それは、経済的に正しいのだが、国際政治的には許されない。ドイツは対米従属をやめられないので対露和解できない。ドイツなど欧州は、ロシア以外の国々からの石油ガス輸入を急増できれば良いが、それはうまくいっても数年かかる。しかも、サウジアラビアなど他の石油ガス産出国は、表向き米欧との親しさを保ちつつ、こっそり非米化してロシアの味方になっており、欧米への輸出を増やしたがらない。 (Top German politician makes Nord Stream 2 plea) (複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ) ドイツは反原発運動のせいで原発をどんどん停止しており、原発を止めるのを延期して稼働を続ければエネルギー危機を緩和できる。だが、それすらも国内政治の対立の中で簡単にやれない状況だ。ドイツなど欧州諸国は今冬、エネルギーや食糧が欠乏し、貧困層の間から凍死者ゃ餓死者がたくさん出てきそうな感じになっている。英国も、今冬の凍死者と餓死者が予測されている。独英など欧州諸国は、ウクライナ戦争の戦場になっていないしロシアと直接戦争しているわけでもないが、資源不足によって産業と国民生活が機能不全に陥って破綻しており、まるで対露参戦して戦場になっているかのような状態だ。 (Germany Denies WSJ Report Of Climate-Change Flip-Flop Over Nuclear Plants) (London's Mayor Warns Millions of Brits Won't Be Able to Afford 'Heating and Eating' This Winter) ウクライナ戦争によって経済が破綻している独英など欧州諸国と対照的に、ロシアは参戦国なのに経済的な打撃をあまり受けておらず、国民生活も破壊されていない。むしろ開戦以来の石油ガス価格の高騰により、国家経済の中心である石油ガスの利益が急増し、露政府は大儲けしている。外貨準備も急増している。中国インドなど非米的な諸国はロシアの資源を旺盛に買ってくれるし、イランやサウジなど産油国もロシアに協力して石油ガスの国際価格を高止まりさせてくれている。 (制裁されるほど強くなるロシア非米側の金資源本位制) 「善悪」の面でも、米国側のマスコミ権威筋はロシアを歪曲的に極悪に描き続けているが、実のところウクライナ政府を傀儡化してロシア系住民を殺し続け、ロシアに脅威を与え続けてきたのは米国(米英)であり、ウクライナ戦争で極悪なのは米ウクライナの方だ。露軍による「虐殺」も、米国側によるプロパガンダであり、米国側の多くの人が間違いに気づかず延々と軽信している。 (濡れ衣をかけられ続けるロシア) (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) なぜこんなことになっているのか。大きな原因の一つは、独英EU日など同盟諸国に、政策決定に必要な状況の全体像や予測などの情報を供給する米諜報界(隠れ多極派)が、意図的に大間違いの情報を発信し続けているからだ。米国は諜報界だけでなくバイデン政権も多極派に乗っ取られており、開戦直前にロシアが侵攻しそうだと察知してそう発表したのに、ロシアに警告して開戦を食い止めることをしなかった。そのくせ米国は、ロシアが開戦したら、過激で稚拙な対露全面経済制裁を開始し、ドイツなど欧州がロシアを制裁して資源輸入を長いこと止めたら経済破綻するとわかっていながら、欧州にも厳しい対露制裁を強要した。 (すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国) (ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧) 開戦後、米諜報界は、ウクライナでの露軍の作戦が失敗しているのでロシアは自滅し、短期間でウクライナが勝利して戦争が終わる、という全くウソの分析を流し続けた。独英など欧州各国の上層部が、このウソをどの程度信じていたか不明だが、素人の私ですら、開戦の数日後には露軍の優勢を把握していた。欧州各国はロシア・ウクライナに対する独自の諜報網も持っており、露軍の優勢とウクライナ側の不利、米諜報界のウソを見破っていた可能性が高い。だが、欧州各国は国是が対米従属であり、米国の覇権運営を担当する諜報界の見立てや命令、忠告をウソ扱いして拒否することは政治的に不可能だ。米国側の各国は、政府マスコミ財界などエスタブ全体が米諜報界の傀儡だから、情報が間違いだと感じても鵜呑みにせざるを得ない。 (ロシアは意外と負けていない) (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英) ドイツなど欧州のエスタブたちの中に、このままではダメだ、停戦や対露和解をしてロシアからの石油ガス資源類の輸入を再開しないと欧州は破綻してしまうという危機感が強まっている。だが、それを公式に表明するエリートは少ない。開戦後、米諜報界とその傘下のウクライナ政府が流す歪曲ウソ情報によって「ロシアは戦争犯罪国」「極悪なロシアを許すな」という間違った善悪観が米国側で席巻・固定化しており、対露和解を提唱する者は「非国民」扱いされ、受け入れられない。ドイツの「極右」政党AfDなど、エスタブの外にいる勢力は「ウクライナ政府はロシアと和解して中立国家になるべきだった」と正しいことを言っているが、AfDは(今のところ)野党なので国家的な決定に結びつかない。 (Head of German parliamentary party names West’s ‘mistake’ in Ukraine) (ウソだらけのウクライナ戦争) エスタブ以外の庶民は全欧州的に、石油ガス高騰、経済破綻による失業など、生活苦がひどくなっている。ネット上では、エスタブ系マスコミ以外の情報発信者たちが極右とか陰謀論者とレッテル貼りされつつ、米諜報界(深奥国家)やマスコミのロシア敵視の間違いを指摘する情報も流れており、庶民はしだいにマスコミの間違いに気づき、政府エスタブが歪曲情報に基づいて対露制裁しているのが悪いんだと理解し、政府批判を強めるようになっている。ドイツ政府は、物価高騰に不満をつのらせて反政府運動に参加する人々を「国家の敵」と呼び始めている。まるでナチスの再来だ。以前のコロナ危機で都市閉鎖やワクチン強要などの超愚策に反対していた人が、今回のウクライナ戦争でも政府や米国のウソに気づいて反政府運動している。彼らは「覚醒」(左翼リベラルがいうインチキな覚醒運動でなく真の)しているのだが、軽信者たちから、国家の敵・陰謀論者・極右呼ばわりされている。 (German Official Trashes Cost Of Living Protesters As "Enemies Of The State") (悪いのは米国とウクライナ政府) (左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国) 正しいことを指摘する人々を非国民・国家の敵扱いするドイツなどの政府は、すでに破綻に向かっている。ショルツ独首相の支持率は、史上最低を更新し続けている。ゼレンスキーは犯罪者で、プーチンの方が正しいと、世界の庶民のしだいに多くが気づき、ネットの言論はそっちに向かっている。ドイツではいずれ選挙でAfDなどのエスタブ外の政党が政権を握るようになる。そうなると、ドイツは対米従属をやめて対露和解し、ロシアからの石油ガスの輸入を再開できるかもしれない。そこまで行くのに何年かかるかわからないが。 (Russia gains ground in information war against Ukraine) (German chancellor’s ratings hit new low) 東欧や南欧など欧州の周辺諸国は、世界有数のドイツの経済力を頼りにしてEUに加盟したいと考えてきた。だがドイツは今、ロシアからの安いガスを絶たれて経済破綻しつつある。周辺諸国はドイツに頼れなくなっていく。ドイツの経済崩壊が進むと、EUの求心力も失われて解体しかねない。 (Why The EU Could End Within A Year) ("We're Facing The Biggest Crisis The Country Has Ever Had") 米国は11月の中間選挙で「草の根化・非エスタブ化」した共和党が議会多数派を握り、覇権を放棄していく。米国は、同盟諸国の安全を保障しなくなる。共和党のランド・ポール上院議員は「同盟国が戦争を仕掛けられたら自動的に米国が参戦して助けねばならないというNATOの5条は、米国の国権をないがしろにしており憲法違反だ。米国はNATOを離脱すべきだ」という思考を持っている。2024年に大統領に返り咲きそうなトランプも似たような考え方だ。 (Rand Paul: "Senate Just Rejected My Attempt To Reaffirm The Constitution") (Donald Trump’s hold on the Republican party is unquestionable) 米国は覇権を放棄していく。ドイツなど同盟諸国が、ウクライナ戦争で自滅しても対米従属を維持するのは馬鹿げたことになっている。同盟諸国は、対米自立を余儀なくされていく。この流れは、米諜報界を握る隠れ多極派が、米覇権を壊すため意図的に作っているものだ。米国覇権は、対米従属の同盟諸国によって支えられている部分が大きいので、多極派は同盟体制を破壊している。ウクライナ戦争は、ドイツなどEUが対米従属をやめるまで続く。米国の覇権を牛耳っていた英国も潰れていく。NATOやEUは機能不全が進み、解体していく。ウクライナ戦争の前には、新型コロナも超愚策によって欧州や豪加など同盟諸国の経済を破壊したが、あれも多極派による米覇権自滅策だったと考えられる。 (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化) (ひどくなる大リセット系の嫌がらせ) 米同盟諸国の中でも、独英などに比べて日本はあまり自滅させられていない。日本政府はサハリン2の天然ガス利権を維持し、日本のロシアからの天然ガス(LNG)輸入は損なわれていない。米国は日本に厳しい対露経済制裁を強要せず、寛容な姿勢をとってくれている。ドイツがロシアからの天然ガス輸入停止を米国から強要され、経済を自滅させられているのと対照的だ。ペロシの訪台など米中対立も激化しているが、日本は中国と良い関係を何とか保持している。これまた米国は、日本に中国敵視を強要してこない(日本のマスコミとその軽信者たちは、くそみたいなことばかり言ってるが)。 (安倍元首相殺害の深層 その2) (中国と戦争しますか?) 日本だけでなく韓国も、中露敵視を米国から強要されていない。米国に中露敵視を強要されたら、日韓は中長期的に経済自滅だったが、米国は独英などにだけ自滅を強要し、日韓には強要してこない。コロナの時も、独英豪加など欧州系の同盟諸国は、都市閉鎖など経済を自滅させる超愚策を延々とやらされたが、日本は都市閉鎖もワクチン強制もやらずにお目こぼしされている。 (確定する日本の隠然非米化) (コロナ帝国と日本) なぜ米国(諜報界多極派)は、独英など欧州系の同盟諸国だけ潰して、日本や韓国は放置・黙認しているのか。一つの理由は、独英豪加などが米国覇権の下支え役を主体的に担っているのと対照的に、日韓は米国覇権に従属しているだけの色彩が強く、多極派の米覇権潰しの対象外だからだろう。また多極派は、目標である米覇権解体と中露台頭・覇権多極化を達成するため、中国の台頭に協力しうる日韓を経済破綻させない戦略なのだろう。 (Germany has abandoned decades of balancing both Russia and US, how long will it survive on its new path?) (中国に非米化を加速させ米覇権衰退を早めたペロシ訪台) もし日本が本気で中国を敵視していたら、米国(多極派)は、コロナでもウクライナ戦争でも台湾危機でも、日本にも独仏などと同様、経済自滅の策をやれと強要してきていただろう。中露を敵視せず日本を米中両属に導いた安倍晋三は正しかった。安倍の路線を継承して親中親露を目立たないように保っている岸田も正しい。マスコミとその軽信者の方が、自民党の親中路線を攻撃することで、日本を自滅させようとする大間違いをやっている。
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