中東を反米親露に引っ張るトルコ2016年7月26日 田中 宇
7月15日のクーデター未遂事件以来、トルコは「米国敵視」と「イスラム化」への道を猛然と進んでいる。 (Turkey May Be Expelled From NATO) 前回の記事「米覇権への見切りとトルコのクーデター」に書いたが、トルコのエルドアン大統領は、米国亡命中のトルコ人イスラム指導者ギュレン師をクーデター画策の黒幕だと決めつけ、意図的に大した証拠も示さず「ギュレンをトルコに送還しろ」と米国に喧嘩を売っている。2000年までのトルコのイスラム主義と世俗主義(欧米模倣主義、ケマル主義)の対立の中で、エルドアンとギュレン運動はイスラム主義どうしで盟友関係だったが、エルドアンは世俗主義の政権を追い出して自分のAKP政権を確立した後の13年、ギュレン運動を汚職事件の犯人とみなして弾圧し始めた。それ以来エルドアンは、自分の独裁を批判する勢力をすべて「ギュレン派」とみなして逆批判する傾向だ。(ギュレン運動は、トルコの世俗主義を容認する穏健姿勢によって、世俗主義が強いトルコ軍内にも浸透した) (Issue of Gülen's extradition to top Turkey's agenda with the US) (Will Turkey-US Rift Over Gulen Destroy Alliance?) (Fethullah Gülen role in Turkey coup unverified: Commentator) 今回もエルドアンは、クーデター開始から数時間後、自分の健在を示すためイスタンブル空港に登場した時の演説で、すぐに「ギュレンのしわざだ」と宣言し、それ以来何度も米国にギュレンの送還を求めている。エルドアン政権は、以前の事件でもギュレンを犯人扱いしているが、米国にギュレンの強制送還を強く求め続けたのは、今回が初めてだ。米政府は、ギュレンがクーデターの首謀者だという納得できる証拠をトルコから受け取っていないため、捜査に協力すると言うだけで、送還に応じていない。トルコ側は、閣僚や首相が「米国もぐるだ」と言い出している。米国では、トルコのインジルリク基地に置いてある約50発の核兵器を撤去すべきだという話が出ている。 (Kerry to Turkey: Send us evidence, not allegations on Gulen) (America's Nukes Aren't Safe in Turkey Anymore) トルコ政府筋は、保守派の新聞(Yeni Safak)に「NATO軍司令官としてよくトルコに来ていた米陸軍のジョン・キャンベル元司令官(John Campbell)がクーデターの資金面の黒幕だ。彼は、トルコ人のCIAエージェントを通じて、クーデターに参加するトルコ軍兵士にカネを配布していた」とする記事を書かせた。キャンベル自身や米国防総省は、無根拠な誤報だと一蹴したが、トルコでは米国犯人説が信じられている。トルコ人の約半数はエルドアンの支持するが、彼らの多くは「米国やNATOがギュレンと組んでクーデターを起こそうとした」と思っている。トルコの政府と世論は、クーデター後「米国批判」から「米国敵視」へと、一線を越えて進んでいる。 (US Commander Campbell: The man behind the failed coup in Turkey) (Top US General: Turkish Media Report `Absurd') ▼喧嘩を売って米国の弱さを露呈させる エルドアンから喧嘩を売られているのに、米国は反撃しない。米国の上層部を支配する軍産複合体にとって、トルコはNATOの同盟国で、ロシアを南から威嚇したり、中東を支配するための軍事拠点として重要だ。エルドアンは最近、昨秋から仲が悪かったロシアと仲直りしており、米国(NATO)と組むよりロシアと組んだ方が得策と考え始めている。ここで米国がエルドアンを怒らせると、トルコは完全に反米親露の方に転換してしまう。だから米国は最近の怒るトルコに対し、はれものに触るように慎重に接している。それを見て、エルドアンはますます増長し、根拠の薄い米国犯人説をがなり立てる。根拠が薄いほど、米国の弱い立場が世界的に露呈する。 (Turkey-US: What's the problem?) (Incirlik is leverage in Turkey extradition demand) (欧米からロシアに寝返るトルコ) トルコが叫ぶ米国黒幕説やギュレン犯人説は、おそらく濡れ衣だ。だがこの「濡れ衣で他国を攻撃する」やり方は、これまで米国がイスラム諸国に対してさんざんやってきた策だ。イラクは大量破壊兵器がないのにあると非難されて侵攻された。イランは核兵器を開発していないのに開発していると非難され経済制裁された。シリアは13年夏、化学兵器を使っていないのに使ったと非難されて政権転覆されかけた。トルコは、これらの米国のやり方を真似て、イスラム諸国の一つとして、米国に同じ意地悪をやり返しているだけだ。 (シリアに化学兵器の濡れ衣をかけて侵攻する?) (集団的自衛権と米国の濡れ衣戦争) 従来は、米国が圧倒的な強国で、米国は他の諸国にどんな意地悪をしても良いが、他の諸国が米国にやり返すのは許されなかった。だが今、米国は中東支配に失敗して立場を弱め、その変化を察知した鋭いエルドアンは、米国に濡れ衣をかけて非難し、米国が反撃してこれないことを、世界に知らしめている。エルドアンはすごい。 (White House Won't Criticize Turkey for Crackdown) トルコが米国をなめてかかって喧嘩を売るのは、もはや中東において、米国に追随していても利益がなく、ロシアに擦り寄った方が安保戦略上良いからだ。トルコの南隣のシリアは、完全にロシアの影響圏になった。米国に倒されかかったアサド政権がロシアの軍事進出に救われて健在で、シリア内戦はロシアとアサドの勝利になっている。米国のアサド打倒に便乗したトルコは負け組になって馬鹿を見た。シリアは、空軍的にロシア、地上軍的にイランに助けられている。 (Failed Coup in Turkey realigns Ankara with Moscow — and saves Assad) (シリアをロシアに任せる米国) イランは、イラクやレバノンにも強い影響力を持っており、露イランの同盟体は、中東の北半分を支配している。エジプトも、軍事政権の復権後、米国に見放されてロシアに拾われ、ロシアの傘下に入っている。アフガニスタンやパキスタンは、ロシアの盟友である中国の影響が強まっている。サウジアラビアなどペルシャ湾岸産油諸国は一応まだ親米国だが、ロシアとも関係強化している。サウジは米国に対し、一昨年から、シェール石油潰しの原油安攻勢で喧嘩を売っており、親米さに疑いがある。 (米サウジ戦争としての原油安の長期化) これまで米国を牛耳ることで強さを保ってきたイスラエルですら、北隣のシリアがロシアの傘下に入った昨秋来、米国を見限ってロシアに擦り寄っている。ネタニヤフは昨秋来、5回もプーチンに会いに訪露している。先日トルコが、ロシアだけでなくイスラエルとも和解したのは、かねてからトルコと和解したいと考えていたイスラエルが、ロシアを通じて、ロシアと和解したいトルコに話をつけてもらったからだと推測できる。ロシアは、米国に頼れなくなった中東諸国どうしのお見合いまで手がけている。 (Erdogan ally: Coup attempt will tighten Israel-Turkey ties) (イスラエルがロシアに頼る?) トルコは米国に対してより先に、欧州(EU)に対し、昨夏以来の難民危機で、相手をなめてかかるかたちでの喧嘩を売っている。トルコは昨年来、EUに対し「トルコからEUへの難民流入を止めて欲しければ、巨額の援助金と、EUに行きたいトルコ人を無制限にノービザで受け入れろ。さもなくば、また難民を流入させるぞ」と、ヤクザまがいの脅しを発した。EUは、今回の米国同様、NATOの一員であるトルコを怒らせたくないので、ヤクザなトルコを非難しなかった(ノービザ入国は認めなかったが)。 (テロと難民でEUを困らせるトルコ) トルコ政府はクーデター後、クーデター参加者を死刑にするため、EUが禁じている死刑を復活することを検討している。EUは即座に「死刑を復活したらEUに加盟できなくなるわよ」と宣言したが、トルコは「英国の離脱で崩壊しかかっているEUなんか、もう誰も入りたくないぜバーカ」という感じで、EUが嫌がるからこそ死刑を復活しようとしている。 (Death penalty would bar Turkey's EU membership: Mogherini) ▼クーデターを使って親欧米派を一掃する エルドアンのすごさ(世界中の「リベラル民主主義者」と称する「リベラル欧米覇権主義者」たちから見た場合の危険さ)は、米国に喧嘩を売って米国の弱さを露呈させていることだけでない。もう一つのすごさ(危険さ)は、クーデター後、エルドアンがトルコ社会のイスラム化を扇動することで、トルコ国内から「リベラル派」「親欧米派」を一掃しようとしている点だ。 (The Crisis of Political Islam) (Secular Turks feel isolated in post-coup Turkey) 7月16日未明、クーデターが失敗した一因は、エルドアン政権が、イスタンブールやアンカラの多くのモスクに、礼拝開始告知用の拡声器を使って市民に街頭に出てクーデターに抗議せよと呼びかけさせたからだった。エルドアンを支持する無数の男たちが、未明の街頭に出て反乱軍の戦車を取り囲み、広場を反乱軍から奪い返し、クーデターを失敗させた。モスクへの連絡の手回しの良さから、エルドアン政権が事前にクーデターの発生を察知しつつ発生を容認し、イスラム主義の市民パワーが世俗主義(ギュレン派)の反乱軍を圧倒し打ち負かすシナリオを具現化させたのでないかと、欧米の分析者から勘ぐられている。 (The Attempted Coup in Turkey: Hell Hath No Fury Like a Teflon Sultan) (A very Turkish coup) ひそかに意図的に政治混乱を引き起こし、それを市民パワーで乗り越えさせ、市民を指導する形で指導者が独裁的な権力を握るシナリオは、中国で毛沢東がやった文化大革命や、イランでホメイニがやったイスラム革命を思い起こさせる。エルドアンは、毛沢東やホメイニ張りの、歴史的な陰謀系カリスマ指導者と見ることができる。クーデター騒ぎは、エルドアンのカリスマを増長させている。 (Fear an Islamist Turkey) 騒ぎの最大の受益者は、稚拙な反乱軍でなく、やられかけ(るふりをし)たエルドアンと、彼に忠誠を誓うイスラム主義の政治勢力(与党AKPの支持者群)である。騒ぎの最大の敗北者は、トルコ全体のリベラル派、親欧米派である。トルコで最もリベラルな都会だったイスタンブールでは、それまで女性の服装が欧米並みに比較的自由だったのが、クーデター騒動後、イスラム主義の男が、イスラム的な服装をしていない女性の歩行者を叱りつける場面が増えた。エルドアンを批判したり、クーデターが政府のやらせであると発言すること自体が「クーデター加担者」「売国奴(欧米のスパイ)」とみなされ、攻撃や取り締まりの対象にされている。リベラル派の言論は、一気に封殺されている。 (Is Erdogan Using the Coup to Make Turkey a Fully Islamic Country?) (Turkey Launches Investigation Of "Losers" Who Claim Coup Was A Hoax) トルコはスンニ派が多いが、山岳地帯が広く、メソポタミアの後背地であるため多様な宗派構成になっており、寛容な信仰が好まれてきた。トルコには、広義のシーア派であるアレヴィー派イスラム教徒が1千万人前後(人口の15%前後。諸説あり)住んでいる。彼らの中にもエルドアン支持者は多い。だが今回のクーデター騒ぎの後、アレヴィを正統な信仰でないとみなすスンニイスラム主義者の群衆が、イスタンブールなどで、アレヴィ派が集まって住む居住区への襲撃を試み、警官隊と衝突するなど、サウジ・アルカイダ的な狭隘な行動も起きている。 (Turkish coup d'état attempt From Wikipedia) (Alevism From Wikipedia) (イラク日記:シーア派の聖地) (変容する中東政治) このような「揺れ」はあるが、クーデター後のトルコの急速なイスラム化は全体として、トルコを欧米の一員になろうと努力してきた従来の状態から離反させ、中東世界の一員である新状態へと向かわせている。エルドアンは、親欧米的な勢力の発言権や権威を根こそぎ剥奪している。クーデター後、トルコのすべての大学の学部長、合計1577人が職を解かれ、2万人の教師が解雇された。大学など教育界は、親欧米的なリベラル派が大勢を占めてきた。このような過激な策は、長期的にトルコ人の教育水準を下げ、経済発展しにくくさせるかもしれない。欧米的なリベラル派(と称するリベラル欧米覇権主義者)たちは、そのように批判するだろう。 (Erdogan Unleashes Unprecedented Crackdown: Fires All University Deans; Suspends 21,000 Private School Teachers) しかし、リベラル欧米覇権主義が長年席巻してきた欧米や日本を見ると、経済的にも政治的にも行き詰まっている。米国の大統領選挙では「反リベラル・反知性・反エリート」の象徴のドナルド・トランプが「リベラル・知性・エリート」の象徴であるヒラリー・クリントンをしのぐ勢いで優勢になっている。米国民の多くは、リベラル覇権主義エリートたちの詭弁や腐敗、祖国破壊行為にうんざりしている。トランプは、NATOを批判的に見ている点でエルドアンの盟友だ。 (Could NATO be the next alliance to unravel?) (Trump Enrages the War Party) 知性あふれるエリート「金融専門家」たちの素晴らしい金融政策であるQEやマイナス金利が、日米欧の金融システムを根底から破壊しかけている。知性あふれる記者様たちは、QEやマイナス金利を評価する記事しか書かない。気づいてない人が多いが、米国覇権下の世界はすでに無茶苦茶である。エルドアンが全大学の学部長を解雇しても、大した話でない。むしろ、エルドアンが試みる荒治療的な欧米リベラル覇権主義からの離反は、中東の新たな方向性として注目すべきである。 (Turkey in new era after abortive military coup: Erdogan) (腐敗した中央銀行) 中国でも、独裁的な権力を持った習近平が、それまで中国の上層部でけっこう権威を持っていた欧米リベラル主義を評価する勢力(中国の経済政治社会的な欧米化を目指す勢力)の一掃を試み、リベラルを標榜してきた雑誌や言論人をどんどん無力化している。欧米や、対米従属しか視野にない日本では、これを「中国の孤立」と呼んで非難し馬鹿にしているが、馬鹿にされるべきは、米国覇権が衰退してリベラル覇権主義が無効になり始めていることに気づいていない日本などの人々の方である。 (The Death of a Liberal Chinese Magazine) ▼無駄だった百年の欧米擦り寄りを終わらせる 前回の記事でも書いたが、エルドアンの長期的な国家戦略は、トルコをオスマン帝国時代のような、中東の覇権国として再台頭させることだ。エルドアンは以前、米国の中東支配に便乗し、米国がアサド政権を倒した後のシリアにトルコの息のかかった勢力(AKPの子分的なムスリム同胞団)の政権を作るなどして、中東の覇権を拡大しようとした。だが、米国がシリア内戦への介入で失敗し、その後始末をロシアに任せ、シリアがロシアのものになってしまったため、エルドアンは対米便乗策を捨て、先日プーチンに謝罪して擦り寄った。 (With Friends Like Turkey, the U.S. Needs Russia in Syria) 加えてエルドアンは、欧米の一部になることを目指してきたトルコのこの百年の世俗リベラル主義への信奉を丸ごと破壊し、百年間使われていなかったイスラムに基づく政治社会システムを再導入する試みをやろううとしている。そのための大胆な策として、今回のクーデター騒ぎが使われている。 (Erdogan's Turkey Is the Real Turkey) トルコは、オスマン帝国が約百年前の1920年代に第一次大戦に負けて崩壊して以来、自分たちを打ち負かした欧米の一部に何とか入れてもらおうと、イスラム教を重視するそれまでの体制を「遅れたもの」と見なして捨て、国父アタチュルクが決めた世俗リベラル主義を頑張って導入してきた。だが、百年たっても欧州はトルコを仲間とみなしてくれず(米国は、トルコがソ連の近くにあるという国際政治上の利便性を重視してNATOに入れてくれたが)、トルコは百年間、間抜けな努力をしただけだった。 今のシステムを壊して百年前のシステムを復活するというと、日本なら、英国のスパイ伊藤博文から米国のスパイ安倍晋三まで続く長州藩の超長期独裁政権をぶち壊し、江戸幕府を再生するみたいなもので、想像の域を超越している。少なくとも、エルドアンがトルコの百年のリベラル体制を破壊する試みが、いかに大変かがわかる。簡単に破壊できないので、クーデター騒ぎなどを引き起こし、毛沢東ホメイニ顔負けの陰謀をやっているのだと考えられる。 エルドアンによるトルコのイスラム化が、日本における江戸幕府の復興と異なる点は、イスラムが中東北アフリカの全域を包含する政治的な宗教だという点だ。江戸幕府を復興しても鎖国するだけで国際的な広がりがないが、イスラムを使うと、トルコが中東全域に影響力を及ぼすことが視野に入り、オスマン帝国の復興というエルドアンの野心に合致する。エルドアンはトルコを、きたるべき多極型世界における極の一つに仕立てたい。多極型世界において、極となる国どうしは対等だ。対米従属など必要ない。だからエルドアンは、米国にタメぐちを使って喧嘩を売ってもかまわないと思っている。(中国も、この多極型世界の道理を使い、米国が覇権国だという理由で海洋法条約に入っていない以上、同じく覇権国である中国も海洋法の裁定を無視して良いと考えている) (逆効果になる南シナ海裁定) すでに書いたように、中東全域で、米国の覇権衰退に呼応する米国離れやロシアへの擦り寄りが見られる。トルコはもともとイランやサウジと友好関係にある。今回ロシアやイスラエルと和解し、今後アサドやエジプトを容認すると、トルコは中東のすべての国々と協調できる。ロシアと協力し、サウジとイラン、イランとイスラエルの対立を仲裁できる。長期的に、パレスチナ問題が最大の難問として残るが、トルコとロシア、イランが協力すれば、中東を安定化することができる。これは、欧米(英米)がこれまで中東を分断・内乱させて弱体化し、支配してきたのと全く逆の方向だ。欧米が奨励してきたリベラル主義では、中東は永久に安定しない。そのように仕組まれている。エルドアンの荒治療の方が、長期的に希望が持てる。 (Putin May Be Turkey's New Buddy after the Failed Coup) トルコの反米イスラム主義が期待できるもう一つの点は、アルカイダやISISといったテロリストを一掃できるかもしれない点だ。アルカイダやISISも、トルコも、一見すると、同じ反米イスラム主義に見える。だが実態は全く異なる。アルカイダやISISは、米国(米英)が作ったテロ組織だ。中東で、米英が奨励する(永久にうまくいかない)リベラル主義に反発する人々の受け皿として、アルカイダやISISが作られ、米英の諜報機関が彼らをそそのかしてテロをやらせ、ますます中東を混乱させ、欧米でもテロが頻発して人々が軍産複合体の戦争を支持するようになる。戦争するほど中東の人々が貧困になり、アルカイダやISISに入る人が増え、混乱とテロは永久に終わらず、米英軍産による支配を恒久化できる。 (露呈するISISのインチキさ) (敵としてイスラム国を作って戦争する米国) (アルカイダは諜報機関の作りもの) (イスラム国はアルカイダのブランド再編) プーチンのロシアは、この図式に気づいており、シリアでアルカイダやISISを空爆した。米国は「ロシアは穏健派を空爆している」と非難し続けたが、シリアの武装勢力には穏健派などいない。エルドアンはこれまで、米国と協調し、シリアのISISやアルカイダに武器屋食料を支援してきた。だが今後、エルドアンがプーチンと協調してシリア問題に取り組むと、それはおそらくプーチンが手がけるアルカイダISIS潰しにトルコが協力することになる。アルカイダやISISは米国の傀儡であり「悪いイスラム主義勢力」だ。中東の人々を永遠の不幸に陥れる悪いイスラム勢力を駆逐して、中東の人々を幸せにする「良いイスラム主義勢力」を中東全域で席巻させられれば、エルドアンの戦略は成功だ。 (The Oddly "Inconsistent" Event That Has Turkey Wondering If The Entire Coup Was Staged) と、ここまで書いて、エルドアンをほめすぎでないかという懸念が自分の中で出てきた。だが、もしエルドアンがトルコを多極化時代の地域覇権国に仕立てられるなら、良いイスラム主義を広めることが必須なのは確かだ。プーチンのロシアは、米国が誘導しかけたシリアの恒久内戦化(リビア化)という最悪の事態を回避し、中東を安定化する「良いこと」をやっている。プーチンは高い評価を受けるべき指導者だ。これは断言できる。それなら、プーチンと組むことにしたエルドアンも、今後、高く評価される存在になれるはずだ(習近平もトランプも)。 (NATO延命策としてのウクライナ危機) (How the failed Turkish coup helps Putin)
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