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敵としてイスラム国を作って戦争する米国

2014年9月24日   田中 宇

 9月23日、米国とアラブ諸国の軍隊が「イスラム国」(ISIS)の中心拠点(首都)であるシリア西部の都市ラッカなどに空爆を開始した。ISISは、異教徒の侵略者である米欧に宣戦布告し、イスラム帝国(カリフ)の再生を目標とする、イスラム主義者の一部から見ると「正統」なイスラム教徒の組織だ。この視点に立つと、アラブ諸国のISIS空爆は、同じイスラム教徒を殺してはならないという教えに反するうえ、異教徒の侵略者に追随する、イスラム教徒として許されない行為となる(ISISも「異端」として同胞を多数殺しているが)。アラブのどの国が空爆に参加しているか、米政府は当初発表しなかったが、その後、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダンなどが参加していると、米軍が発表した。 (The Arab allies helping the US fight Isis

 米国防総省は、ISISとの戦争がかなり長く続くとの予測を発表している。2−4年続くと予測する米諜報関係者もいる。予測の根拠は示されていない。米国の国防総省や、好戦派(軍産複合体系)の連邦議員たちが、ISISとの戦争の長期化を予測するのは、ISISが強いからでなく、軍産複合体がISISを裏から支援し続け、自作自演的な戦争をできるだけ長く続けたいと考えているからだろう。 (US says attacks on Isis could last years) (New US war in Syria, Iraq to last 4 yrs

 以前の記事に書いたように、ISISの司令官たちの多くは、米軍が駐留していた時期に、イラクで米軍が運営する監獄に何年か投獄され、その間に思想が過激化し、出獄後ISIS創設につながる動きを開始している。ISISの兵士たちは、米国が「穏健派」とみなした(実際には大半が過激派だった)シリア反政府勢力の兵士に混じって、ヨルダン北部で米軍から訓練を受けた。米国やサウジなどが「穏健派」のシリア反政府勢力に渡した武器のかなりの部分がISISにわたっている。イラクでは政府高官から一般市民まで「ISISは米当局の創造物だ」と思っている。 (クルドとイスラム国のやらせ戦争) (What Iraq Thinks: "It Is Obvious To Everyone That ISIS Is A Creation Of The United States And Israel"

 ISISの総兵力の規模についての米当局の概算数は、以前の1万人前後から、今では3万人まで増えている。対照的に、英国の諜報機関が概算したISISの総兵力は2−3千人だ。英国は今回の戦争で傍観者なので、英国の概算の方が正しそうだ。ISISの正体が不明であることを使って、米国ではISISの規模が誇張されている。 (Opaque structure adds to challenge of defeating Isis

 米国はブッシュ政権の時代にイラクに侵攻した。軍産複合体は、イラク占領の長期化を狙い、イラクが安定して米軍が撤退せざるを得ない状況を作らないよう、のちのISISにつながるスンニ派の過激派勢力を獄中で育成(扇動)した。次の大統領になったオバマは、イラク占領の長期化によって米政府の財政が疲弊することを懸念し、米軍の反対を押し切ってイラクから撤退した。 (ISIS Is Run By Former Iraqi Generals

 米軍がイラクやアフガニスタンから撤退すると、中東やユーラシア大陸中央部に対する米国の関与が低下し、米政府の防衛費が削られて軍産複合体の利権が減り、軍産の盟友であるイスラエルも軍事的後ろ盾を失って困窮する。そうした事態を防ぐため米軍(やCIA)は、イラクでこっそり育てた過激派に入れ知恵し、シリア反政府勢力として軍事訓練を施し、米国製の武器が詰まっているイラク軍の武器庫の襲撃方法も教え、ISISを強化して敵に仕立てたのだろう。「ISISを育てたのはCIAだ」という見方が、米反戦派やイラクで根強いが、CIAにはISISを使った自作自演的な戦争再燃に消極的な意見がある。CIAは、ヨルダンの基地などでISISなど反アサド勢力を訓練してきたが、国防総省には、その担当をCIAから奪おうとする動きがある。 (CIA Privately Skeptical About New Syria Strategy, Sources Say

 ISISは、米国の中東戦略をめぐる国防総省のオバマに対するクーデターの道具である。「オバマ自身がイラクやシリアに侵攻したいんだ」という米反戦派がいるが、たぶん間違いだ。オバマは、大統領就任から3年かけて、国防総省や好戦派議員の猛反対をはねのけて、ようやくイラクからの全軍撤退にこぎつけた。そのオバマが、今になってイラクに再侵攻したいはずがない。オバマは、米国の国力浪費を止めるため、イラクとアフガンから撤退した。対照的に軍産複合体は、浪費の中で利権を拡大するため、浪費の戦争を何とか再燃させたい。 (Anarchy In Washington: Is Anybody In Charge?

 同じことは、米当局内の好戦派が扇動して起こしたウクライナ危機で再燃したロシアとの対立についても言える。ウクライナ危機が起きなければ、今ごろ「アフガンからも撤退するし、もうNATOは要らないんじゃないか」という議論が欧州から出ていただろう。NATOは、軍産複合体が欧州に軍事費を出させるための利権組織だ。 (NATO延命策としてのウクライナ危機

 軍産複合体は、ISISとの戦いを口実に、イラクに地上軍を再派兵したい。オバマは、今回のシリア空爆に先立つ9月11日、911事件の記念日に、イラクとシリアでISISを空爆する戦争を始めると演説した。その際オバマは、空爆を行うが地上軍の派兵はしないと断言した。オバマ政権は、地上軍を派兵するとしたら、それは米国でなくアラブなど近傍の諸国になるとも表明した。 (Obama Touts `Coalition,' But US to Lead War) (Obama prepares US for `steady, relentless' war with ISIS

 オバマが911の日を選んで演説した理由は、ISISとの戦争を行う法的根拠を、01年の911事件の直後に立法された、大統領が議会の決議を経ずにテロ組織との戦争を開始することを許す法律に依拠したからだ。米国では本来、戦争開始を決定できるのが米議会(下院)だけだ。しかし議会は、与党の民主党を含めて全体に好戦的で、オバマが望まないイラクやシリアへの地上軍侵攻を決議しかねない。だからオバマは、議会を無視できる911テロ戦争の法律を持ち出し、空爆だけやろうとしている。 (Obama's ISIS War Is Not Only Illegal, It Makes George W. Bush Look Like A Constitutional Scholar) (Obama's isolation deepens over ISIS

 これに対して国防総省の高官たちは「最初から地上軍を派兵しないと宣言して戦うのは敵を利するだけだ」と反論し、制服組最高位のデンプシー統合参謀本部議長は「必要に応じて地上軍の派兵もありうる」と、オバマの演説と矛盾することを発表した。イラク撤退以来の、オバマと国防総省との対立が表面化している。折衷策として、数百人の米軍兵士がイラク政府軍の顧問団としてイラクに派遣されたが、戦闘要員ではない。 (Anarchy in Washington: Is Anybody in Charge?) (Rift widens between Obama, U.S. military over strategy to fight Islamic State

 オバマは、ISISに対する空爆に参加してくれと、欧州や中東の同盟諸国に要請したが、当初まったく参加が得られなかった。英仏独など欧州とトルコは、空爆への参加を正式に断った。軍産複合体が最初から長期化を予定している、大失敗したイラク戦争の二の舞になりそうな、米国の自作自演くさいISISとの戦争に参加するのは、どこの国でもごめんだ。 (First Germany, Now France Folds On Syrian Airstrikes) (UK, Germany reject joint strikes against ISIL in Syria

 英国では9月11日、この日のオバマ演説へのコメントとして外相が「英国は空爆に参加しない」と断言した。だがその後、オバマ政権から英首相官邸に「米英同盟がどうなっても良いのか」と怒りの電話が入ったらしく、首相が「まだ選択肢は何も除外していない」と、空爆参加もあり得る風に言い直した。しかし結局、英国は空爆に参加していない。フランスは、大手のBNPパリバ銀行が米当局から巨額の罰金をまた取られそうなので、イラク領内でのISIS空爆に参加したが、その後のシリアに対する空爆には参加していない。 (UK disarray over Syria airstrikes: Foreign Secretary says we won't join US in bombing Islamic State, then No10 says 'we don't rule anything out') (Pentagon Prepares To Unveil Syria War Plans As "Broad Coalition" Crumbles) (米国自身を危うくする経済制裁策) (France rules out air strikes in Syria

 アラブ諸国も「異教徒に率いられた同胞殺し」とそしられる空爆への参加はしたくなかっただろう。しかしアラブ諸国は、サウジもヨルダンもUAEも、兵器や軍隊の訓練を米国に全面依存している。米国から「空爆に参加しないなら、もう軍事支援しないぞ」と脅されれば、参加しますと言わざるを得ない。アラブ諸国は空爆に参加したと発表されたものの、どれだけ参加したか不明だ。アラブで最も強国なのはサウジだが、サウジ王政は軍部の反乱を恐れ、空軍を含む軍隊にほとんど訓練を施していない。 (Saudis Tip-Toe Into the War on ISIS

 アラブ諸国は空爆に参加したことで、イスラム主義化するアラブの人々から、米国の傀儡政権として批判される傾向を強める。これは軍産複合体にとって好都合だ。アラブ諸国の政権は、国民から批判されて潜在的に弱体化するほど、米軍に頼る傾向を強め、米軍は中東に居続けることができ、軍産はアラブに石油収入を使って武器を買わせる状況を続けられる。 (U.S. officials: Obama wants Arab states to airstrike Islamic State

 米議会の好戦派は、シリア反政府勢力に武器を支援してISISと戦わせろとオバマに圧力をかけている。しかし、シリア反政府勢力の主要部分は、ISISでなくアサド政権が敵だと言って、ISISと停戦協定を結んでしまった。米国がシリア反政府勢力に武器を支援すると、そのかなりの部分がISISに譲渡されていく構図ができている。米国の好戦派は、そのあたりのことを知っているはずだが、反政府勢力を武器支援すべきだと言っている。好戦派は、こっそりISISを強化することに熱心だ。 (Rand Paul: Arming Syrian Rebels Will Empower ISIS

 シリアでは、ISISとアサド政権が敵同士だ。これまでアサドを敵視してきた米国が、アサドを許して協調・軍事支援するなら、アサド政権にISISを倒させることが可能になり、最も効率的なISIS掃討策となる。米軍の元幹部の中にも、それが良いと言っている人がいる。しかし米政府は、アサド政権を転覆する方針を掲げ続けている。米政府は、今回のシリア空爆の内容を事前にアサド政権に伝えて黙認させ、アサド軍と米軍との戦争になることを防いだ。米政府にとって、アサドは敵だが戦争の相手でない。 (US, Iran, Syria should slay ISIL monster) (U.S. and Arab allies launch first strikes on fighters in Syria

 米国とISISとの戦争をできるだけ長期化したい国防総省など軍産複合体としては、アサド政権と和解しない方が戦争を長期化できるので好都合だ。しかし軍産にやられている側であるはずのオバマ自身も、アサド政権と和解しない方針を掲げている。それはなぜなのか。 (Power: Syria Rebel Training to Aid in Fight Against Assad

 その答えとして、最近の中東の動きの全体から見えてくる流れは、軍産が中東戦略を乗っ取るために起こしたISISとの戦争を、オバマが、多極化、つまりロシアやイランなどを力づけてシリアやイランの問題を任せ、彼らにISISを潰させて切り返そうとしていることだ。オバマは、シリアと直接和解するのでなく、シリアの背後にいるイランやロシアにISIS掃討を任せていく可能性がある。米政府は、ISIS掃討を目的に、イランの事実上の軍隊である革命防衛隊に対する支援を開始したと報じられている。 (Strange Bedfellows: To Fight ISIS, US Now Supports Iranian Revolutionary Guard, Other Terror Groups

 ケリー国務長官は先日、国連総会の傍らでイランのザリフ外相と会談した。そこで米国とイランは、米国が提案している核問題の解決策(ウラン濃縮用の遠心分離器の重要部品であるアルミパイプを米欧側に引き渡し、装置自体はイランが保有し続けるが、稼働できないようにする)を受け入れる代わりに、核問題を解決して米欧に経済制裁を解いてもらい(イランは自国で原発の核燃料製造のウラン濃縮ができなくても、燃料を海外から輸入できるようになる)、イランは米国の希望であるISISとの戦争に本格参入するという交換条件について話し合った。 (Kerry, Iran FM Meet on ISIS, Nuclear Talks) (US Plan: Iran Could Keep Centrifuges But Not Use Them

 シリアのアサド政権にとって、イランとロシアは数少ない後ろ盾の諸国だ。イラクのシーア派政権に最も影響力を持っているのもイランだ。一方、米国がイランに核兵器開発の濡れ衣をかけてきた問題で、最もイランの味方をしているのはロシアだ。つまり、米国がイランへの核の濡れ衣を解いてISISとの戦争に参加させることは、イランとシリアの後見人ともいえるロシアも引っぱり込み、イランとロシアに、シリアとイラクの事態を任せることを意味している。 (Why Obama's ISIS Strategy is Incoherent) (Iran, Russia call for promotion of ties

 ISIS掃討は、米国が手を引き、イラン、ロシア、シリア(アサド)に任せるのが一番うまくいく。この策が実現するとしたら、イラン核問題と、ISISとの自作自演戦争の両方がいっぺんに解決される。 (Syria is sticking point between Russia and U.S. on defeating Islamic State

 米国は、イランに対する核の濡れ衣をなかなか解かない。以前は濡れ衣をかける役を担っていたIAEA(国際原子力機関)も、最近はイランの対応を賞賛するようになっている。しかし、米政界でまだ強い影響力を持っているイスラエルが、仇敵であるイランを米国が許すことに強く反対しているため、イラン敵視が解除されない。今後すぐにイランが許される可能性は低い。米政界の好戦派は、オバマがイランを許そうとしていると警戒を強めている。 (Amano hails Iran resolve for cooperation) (Concern over US concessions as Iran seeks to leverage ISIS issue in nuke talks

 しかし今後、米政府が無策なまま、ISISとの戦争が長引くほど、米国が敵視するイラン・ロシア・アサドにISIS退治を任せるべきだという声が、国際社会で強まるだろう。国連は、ISISとの戦争にイランの参加を求めている。 (U.N. Representative Urges Iran Involvement in Iraq Situation

 オバマは昨年9月に、シリアのアサド政権が化学兵器で市民を殺害したと濡れ衣をかけてシリアを空爆しようとした挙げ句、そのやり方が稚拙すぎて米議会が了承しないとみるや、アサドを支援するロシアに問題を丸投げし、ロシアがアサド政権の化学兵器全廃を監督する新たな構図をオバマが作った。昨秋の丸投げと似たような、ISISとの戦争のイラン・ロシアへの丸投げが、いずれあるかもしれない。 (シリア空爆策の崩壊

 オバマ政権は中国に対しても、ISISとの戦争への協力を要請した。中国がテロリスト扱いしているウイグル人が、何十人かISISの兵士として参加している。米国に要請された後、中国がやったのは、ペルシャ湾のホルムズ海峡にある要衝の地バンダルアバス港に、史上初めて中国の軍艦を寄港させたことだった。オバマが要請したISIS退治への参加は、米国の覇権縮小につながりかねない、中国とイランの地政学的な結束拡大を生み出している。 (The PetroYuan Cometh: China Docks Navy Destroyer In Iran's Strait Of Hormuz Port

 また米政府は、テロ組織に指定されているレバノンのシーア派武装組織ヒズボラに、ISISと戦うための支援を開始している。ISISはシリアからレバノンに越境攻撃をかけており、それに応戦しているのがヒズボラだ。ヒズボラはイラン傘下の軍勢で、アサド政権とも親しい。米国は、親米的なレバノンの政府軍を通じてヒズボラに武器と軍事諜報を渡している。 (Report: US Sending Indirect Military Aid to Hezbollah

 ヒズボラは、レバノンの南隣のイスラエルにとって仇敵だ。米国は最近、ガザ侵攻で市民を大量殺害したイスラエルを非難し、武器輸出を停止している。イスラエルは、同盟国である自国に武器を渡さない一方で、イスラエルの脅威であるヒズボラに武器や諜報を渡すオバマ政権への警戒を強めている。イスラエル政府は「世界にとって、ISISよりイランの方がずっと脅威だ」と叫んでいる。 (Israeli Envoy: Nuclear Iran Would Be a Thousand Times Worse than ISIS

 イスラエルは、いずれオバマがイスラエルの敵であるアサドやイラン、ヒズボラを、ISIS掃討の名目で公式に許し、彼らの台頭を容認しかねないと懸念している。それに対抗するための先制攻撃なのか、米軍がシリアのISISの拠点を空爆した日、イスラエル軍は、自国の国境近くを飛んでいたシリア軍の爆撃機をどさくさ紛れに撃墜した。 (Israel Joins The Fighting, Shoots Down Syrian Warplane Which Acted In "Threatening Manner"

 イスラエル政府は「シリア軍機が脅威となる飛び方をしていたので撃墜した」と、あいまいな説明をしている。いずれ米国がアサドを許すなら、その前にアサドの爆撃機を1機でも撃墜しておこうという腹づもりだろう。ISISをめぐる、ねじまがった戦争は始まったばかりだ。



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