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クルドとイスラム国のやらせ戦争

2014年8月19日   田中 宇

 8月3日、国家を自称するイスラム過激派の組織「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」が、イラク北西部の町シンジャルを襲撃し、住んでいた4−8万人のヤズディ人(ヤズィーディー教徒)を追い出した。ISISは、他のイスラム原理主義者(タクフィリ、ワッハビ)らと同様、コーラン(クルアーン、神託書)とハディース(預言者ムハンマドの言動を記録した文書)に書いてあること以外の教えを盛り込んでいるイスラム教の宗派を邪教とみなし、コーランとハディースのみに立脚する厳格なスンニ派に改宗するか、さもなくば皆殺しにする(と脅す)過激策をとっている。ヤズディ人の信仰は、イスラム発祥以前にあった拝火教やスーフィなど古い信仰とイスラム教が混じった、広義のシーア派の一派である。ヤズディが崇拝する孔雀の天使は、神に逆らう存在(堕天使、悪魔)であるとして、ヤズディはスンニ派から敵視されてきた。 (Who are the Yazidis and why are they being persecuted in Iraq?) (Sinjar massacre From Wikipedia

 米軍がフセイン政権を潰した後、イラク西部のスンニ派地域では、反米ゲリラ戦を強める中でイスラム原理主義が席巻し、ヤズディ人を邪教の信者とみなして攻撃する傾向を強めた。その極致がISISの登場で、ISISはヤズディ人だけでなく、キリスト教徒、シーア派イスラム教徒など、厳格なスンニ派以外の信仰者をすべて改宗させるか殺す(と脅す)策略を、インターネットなどを(米欧風に)活用して世界に向かって積極的に宣伝しつつ、展開した。ISISがシンジャルで、多数のヤズディ人を殺し、女性たちを強姦したり、人々を生き埋めにしたとか、数万人が水も食料も持たずに町の背後の山岳地帯に逃げ込んで瀕死状態だ、などと米欧マスコミが大々的に報じた。間髪おかず、米国の議員や国際NGOなどが「軍の部隊を派遣してヤズディ人を助けろ」「空軍を派遣してISISを空爆しろ」と騒ぎ出した。 (Exclusive: Iraq says Islamic State killed 500 Yazidis, buried some victims alive) (Lindsey Graham predicts an `American city in flames' if Obama doesn't go to war in Iraq

 8月9日には、米空軍がISISの拠点を空爆し、米軍が2年半ぶりにイラクで戦闘した(ISISがヤズディ人を追い詰めているとされる地域での空爆でなく、クルド軍とISISが戦っている地域での、クルド軍を支援するための空爆だった)。米軍機は、ヤズディ人が避難しているとされる山岳地帯に飛び、空から水や食料が入った袋を投下した。8月13日には、18人の米軍特殊部隊が、ヤズディ人が避難しているとされる、シンジャルの山岳地帯に着陸し、数時間滞在した。 (US attempt to aid Kurds may backfire by helping Isis

 ところが、米軍部隊が到着してみると、ヤズディ人の避難民はほとんどいなかった。山岳地帯には、数千人のヤズディ人がいたが、彼らはもとからそこに住んでいた住民であり、避難民でなかった。シンジャルの山岳地帯は、ヤズディ人にとって聖なる場所で、教会などがあり、昔から人が住んでいた。米軍より早く、シリアからクルド人の軍勢(PKK系)がやってきてヤズディ人を助けたとの報道も出てきた(ヤズディ人はクルド語が母語で「ヤズディ教徒のクルド人」とも呼ばれる)。 (Syrian Kurds, Not U.S. Military, Rescued Trapped Yazidis In Iraq) (5 Things You Probably Didn't Know About the "Exorcist"

 山岳地帯で立ち往生している数万人の避難民などそもそもおらず、ISISがシンジャルの町を攻撃してきた時に、町の住民は自動車などでシリアのクルド人地域に逃げていたのに、米国などのマスコミや政治家だけが空騒ぎしていた可能性が高まった。米軍は「ヤズディの救援活動は不要とわかった」と発表した。 (Yazidis Weren't Stranded, Pentagon Looks for Other Missions

 その後も、国際NGOなどの活動家の中には「米軍部隊は、シンジャル山の間違った斜面に着陸したのだ。数時間の滞在で何がわかる? まだヤズディの避難民問題は全く解決してない」と叫ぶ者がいる。米国の分析者ジャスティン・レイモンドは、それを「ブルシット山には、まだ数千人の避難民がいるぞ」と揶揄し、人道主義を口実に国際介入したがる活動家が得意とするプロパガンダだと看破している。 (UN, Relief Workers Contradict Obama: Yazidi Crisis Far from Over) (Iraq: The `Humanitarian Catastrophe' That Petered Out by Justin Raimondo

 この一連の騒動で最も得をしたのは、イラクのクルド人の自治政府だ。クルドは今回の件を機に、初めて米政府から軍事支援を受けるようになった。それまで米国は、イラク国家の統合性を重視し、イラク政府に対してのみ軍事支援し、クルドに軍事支援していなかった。建前上、米国がイラク政府に支援した武器の一部がクルド軍(ペシュメガ)に渡されることになっていたが、クルド人が勝手に石油を掘って輸出するので、イラク政府はクルド自治政府を敵視し、武器を渡さなかった。 (US Bypassing Iraqi Govt, Sending Arms Directly to Iraqi Kurds

 ヤズディ避難民が世界的に騒がれていたのと並行して、8月7日、クルド自治区の中心都市アルビルの近くで、ISISとクルド軍が初めて戦闘し、短時間でクルド軍が敗退した。それまでクルド軍は、イラク政府軍よりも強いイラク最強の軍勢とされ、ISISもクルド軍との戦闘を避けていた。意外なことに、ISISの攻撃に対してクルド軍はすぐに敗退し、クルドの首都アルビルがISISの攻撃にさらされそうになった。アルビル市民は驚き、多数が着の身着のままで避難し始めた。アルビルには、米国の領事館もある。米政界では、アルビルの「ベンガジ化」の懸念が叫ばれだした(リビアのベンガジはイスラム主義の地元勢力に攻撃されて陥落し、米領事館も襲撃され焼き討ちされた)。 (Why can't Islamic State be stopped? Analysts say it's better armed, better organized

 アルビルには、クルド地域の油田を開発しにきた米欧の石油会社の事務所がたくさんある。米欧の石油利権が危機にさらされているとして、石油産業や軍産複合体から、オバマ政権に「アルビル郊外のISISを空爆しろ」という大きな圧力がかかった。前政権がはまり込んだイラク占領の泥沼から苦労してようやく11年に撤退したオバマは、イラクを空爆したくなかったが、クルド軍敗北の事態に直面し、ISISを空爆せざるを得なくなった。オバマがイラクから無理やり撤退したことに大きな不満を持っていた軍産複合体は、イラク再空爆に大喜びした。 (As Obama Launches Another Iraq Assault, Here Is An Undercover Look Inside ISIS

 イラクを2年半ぶりに再空爆したオバマ政権は、この軍事作戦に名前をつけていない。米軍は、過去の作戦をデータベース化しやすいよう、第二次大戦後のすべての軍事作戦に独自の名前をつけてきた。米軍の軍事作戦に名前をつけないのは、今回が戦後初めてだ。異例の名無し状態は、イラクへの再空爆・再侵攻をやりたくないオバマの意思の反映に見える。 (In A Break With 70 Years Of US Military Practice, The American Operation In Iraq Doesn't Have A Name Yet

 クルド人は、イスラエルの力を借りて、米政界でロビー活動をしてきた。イスラエルは、アラブ人に対抗する勢力として、クルドにてこ入れしてきた。ロビー活動が功を奏し、米軍がクルドを守るためにISISを空爆し、米政府が直接クルドに武器支援するようになった。こうした点と、8月7日の戦闘で、クルド軍が意外に簡単にISISに対して敗退したことを合わせて考えると、クルド軍はわざとISISに対して敗退し、それを機に石油産業や軍産複合体が米政府に圧力をかけ、嫌がるオバマを再空爆せざるを得ない状況に追いやったと推測できる。 (Why The US Had To Rescue The Peshmerga With Airstrikes In Iraq) (Kurds use well-oiled lobbying to plead for help in Washington

 6月10日、ISISがイラク北部の大都市モスルを占領し、同時にクルド軍がもう一つの大都市キルクークを占領した後、ISISとクルドの間に、国境画定と不戦の秘密協定が結ばれた。クルド政府高官が、それを示唆する発言をしていた。今回、ISISとクルドは戦闘したが、クルドが国際政治上の目的で意図的に敗退したと考えられるので、こんご戦闘が再発しても大したことにならないと予測される。 (ISIS And The Coming Escalation In Iraq

 今後、ISISによる好戦的な動きが長引くほど、米欧は、クルドの戦略的な位置を重視し、クルドに対する軍事支援を続け、クルドが独立に向かうことが容認される状況になる。イラク政府は、クルドばかり支援するなと米国に苦情を言っているが、聞いてもらえない。 (As US Escalates in Northern Iraq, Baghdad Feels Left Out

 すでに書いたように、シンジャルでISISに追われるヤズディ人を、米軍より先に、シリアのクルド人の軍勢が助けたという話が報じられているが、シリアのクルド人の軍勢は、米欧やトルコがテロ組織に指定しているPKK(クルド労働者党)の系列の民兵(ゲリラ勢力)だ。PKKは以前、トルコでクルド人の分離独立運動の武装闘争(テロ)をやっていたのでテロ組織に指定されたが、今ではヤズディ人を助けたり、ISISに奪われたユーフラテス川のダムの奪還作戦に参加したりして「善玉」としての活躍が喧伝されている。PKKに対するテロ組織指定を解除せよという主張が、在米クルド勢力から出されている。ISISという「悪」との戦いの構図を活用し、イラク再戦争を画策する軍産複合体に助けられ、クルド人が統合と国家独立に向けて動いている。 (PKK `terrorists' crucial to fight against Isis) (The ISIS Islamic Terrorists are Supported by the US, Israel and Saudi Arabia

 ここまで、クルドが善でISISが悪、イスラエルや軍産がクルドを支援している構図を書いたが、話はここで終わらない。イスラエルや軍産複合体は、クルドだけでなく、ISISをも支援している。ISISは、イスラエルや軍産が発案した組織だ、といった指摘まである。根拠はいくつかある。その一つは、米国のCIAや軍が、ヨルダン北部の基地で、2012年からISISを含むシリア反政府組織の兵隊に軍事訓練を施していたことだ。今でも、ヨルダンでの訓練は続けられている。ヨルダン北部からイスラエル占領下のゴラン高原を通って、ISIS占領下のシリア国内に、訓練された兵隊や武器が搬入されている。シリア側のゴラン高原の95%の土地は、ISISなど反政府勢力が占領している。米軍やCIAやイスラエルは、ISISを裏から支援している。 (Israel and ISIL allies: Syrian envoy) (Crisis In Israel As ISIS Takes Control Of Golan Heights On Syrian Side

 米軍などがISISの創設を手伝ったとされるもう一つの根拠は、ISISの指導者であるバグダディと、彼の側近の4人の司令官のうち3人が、イラクで米軍が運営する監獄に何年も拘束されていたことだ。拘束前には穏健な人物だったバグダディは、釈放後、過激なイスラム原理主義の主張を言い出すようになり、米軍傘下のイラク政府軍の弱点を見事に突いて連勝するISISを作った。米軍がイラク軍に与えた兵器や軍備の何割かを奪い、ISISは強くなった。イラクのどこに兵器が備蓄してあるか最もよく知っているのは米軍だ。米軍がバグダディらを育てたのなら、どこの倉庫を襲撃すれば高度な武器があるかを彼らに教えたのも米軍だろう。 (Islamic State Is US Covert Intelligence Operation - Law Professor) (Washington Opened The Gates Of Hell In Iraq: Now Come The Furies

 オランダ司法省の高官(Yasmina Haifi)は、イスラエルがイスラム教のイメージを悪化させるために残虐行為を連発するISISを作ったと、オランダの新聞に語っている。米諜報機関NSAから大量の諜報情報を持ち逃げして世界にばら撒いているエドワード・スノーデンは「ISISのバグダディは、モサドとCIAとMI6が育てたエージェントだ」「イスラエルは、ISISとイランを戦わせ、スンニとシーアの両方を消耗させて弱体化する策のためにISISを作った」と言っている。 (ISIS Leader Abu Bakr Al Baghdadi Trained by Israeli Mossad, NSA Documents Reveal) (Order Out of Chaos: The Global Elites Plan for a "Middle Eastern Union"

 イスラエルのネタニヤフ首相は、公式な発言として「イスラエルや米国は、ISISとイランとの戦いを傍観し、両者が弱体化するのを待つべきだ」と述べている。イランの軍事諜報機関(革命防衛隊)の幹部も「ISISは、イスラム教のイメージを悪化させる目的で、敵方(米イスラエル)のシンクタンクによって考案された組織だ」と述べている。米国には「ISISは、イラクを永久に混乱させるための米軍の道具だ」と言っている教授もいる。 (Netanyahu suggests pinning ISIS against Iran) ('ISIL sired to wipe out Islamic identity'

 ISISを空爆した米軍は「空爆してもISISの勢いは衰えない。ISISは空爆で潰せない。今後もISISの伸張は続くだろう」と発表している。ISISは米軍が育てた組織なのだから、空爆も致命傷を与えない「やらせ」の範囲でやってます、ということなのだろう。 (Pentagon: US Airstrikes Won't Stop ISIS Momentum

 ISISは、組織の歴史が不明確で、指導者の姿が見えず、組織も明らかでない。ハマスやヒズボラ、ムスリム同胞団など、他のイスラム主義の組織は、創設の歴史が明確で、指導者の姿や言動が見え、上層部の内紛も見えたりして、人間くさい組織だ。対照的にISISは、人間くさくない。CIAが作った組織であるアルカイダも、同様に人間くさくない。ISISは、軍産イスラエル複合体によって作られた可能性が高い。この点を踏まえて、今の中東をどう見るか、イランとの関係はどうなのかなど、すでに長くなったので続きは次回に書く。

【続く】



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