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プーチン択捉訪問から深読みする世界
2026年8月17日
田中 宇
8月12日、ロシア極東を訪問中のプーチン大統領が北方領土の択捉島を初めて訪問した。プーチンはこの日、まずサハリンに行き、沖合で軍事演習中のロシア海軍の太平洋艦隊の旗艦に乗り込んだ。艦上で軍幹部らと会合し、そのまま旗艦で択捉島を訪問した(着岸できる小型の警備艇に乗り換えて上陸)。
(Pacific Fleet drills)
プーチンは択捉訪問前、艦上での会合で演説し、以下のような趣旨を述べた。
NATOの露敵視の影響が極東にも波及しており、日本が露敵視を強めている。新たな兵器(米国製ミサイル発射システムのタイフォンなど)が配備され、今年の防衛白書でロシアを初めて主な脅威の一つに据えた。
ロシアは日本に何の脅威も与えていないし、何も要求していないのに、日本は勝手にロシアを脅威とみなして敵視し、領土を返せと間違った主張を続けている。千島列島がロシア領になることは、大戦時の国際文書(ヤルタ協定やポツダム宣言)に明記されている。
安倍晋三の時、日露は大いに接近したのに、今の日本は再び態度を悪化している。ロシアは何も変わっていない。日本が態度を変えたのだ。
(Exercises of the Pacific Fleet)
日本が軍事的・政治的な主導役になり、アジアの親米諸国が露中敵視を強めている。日本など米国側が敵視を強めているのだから、ロシアは太平洋艦隊の強化が必要だ。
EUは最近、露敵視(原油輸出禁止の対露経済制裁)の一環で(欧州沖などで)ロシアの船(タンカー。AISを切って航行する影の船団)を拿捕し、石油を強奪している。この海賊的な動きが今後、極東に波及する可能性がある(日韓などが露のタンカーを拿捕するかも)。
(米国側の諸国が国際航路で)露商船の航行を妨害する動きもある。それらに備えて、太平洋艦隊が露商船を護衛し、必要に応じて対抗(ロシアが米国側商船の違法性を指摘して拿捕)できる体制を強化せねばならない。
(Putin Lamented The Worsening Of Russian-Japanese Relations)
このようなプーチンの演説を見ると、彼の択捉訪問は、露敵視を強める日本(など米国側)に対する抗議行動であり、日本の露敵視強化を黙認せず対抗する姿勢を日本側に示す意図があったと考えられる。
「せっかく仲良くなれそうだったのに、何だよ。安倍の弟子だった高市に期待してたのにがっかり」みたいな失望感も見える。
米国はヤルタ会議でソ連の対日参戦を得るために、戦勝したら千島列島をソ連が領有して良いと認めた。戦後のサンフランシスコ平和条約で、日本は千島列島を放棄している。北方領土問題は、この「千島列島」に択捉と国後が含まれているのかどうか、という議論だ。
(歯舞と色丹は、日ソ共同宣言の線に沿って、いずれ日本が択捉と国後を放棄したら返ってくる)
サンフランシスコ平和条約の締結の翌月(1951年10月)、衆議院の平和条約・日米安保条約特別委員会の場で、当時の外務省の西村熊雄条約局長が、日本が放棄した千島列島に択捉と国後が含まれていると答えている。
戦前には、千島列島のうち、択捉と国後の「南千島」は日本人が多く住んでいたが、その北側の得撫島以北の「北千島」は日本人とロシア人が混住していた。南千島は日本色が強いが、条約で「千島列島」という場合には南千島も含まれる。西村局長の認識はまっとうだった。
だが、日本政府の主張はその後転換した。米国(英傀儡化後)は、ソ連を恒久敵視する冷戦体制を強め、対米従属になった日本にも、ソ連と恒久対立するネタを作らせた。北方領土問題は、格好のネタだった。日本は70年以上ゴネている。
戦後の日ソ和平交渉で、日本がソ連の提案を飲んで歯舞色丹だけの返還(択捉国後の放棄)で妥結しようとしたところ、当時の米国のダレス国務長官が「日本が4島返還に固執しないなら、米国は沖縄を返還しない」と恫喝し、日ソの和解を阻止した。
歴代の米政府は最近のトランプ政権も含め、北方領土に関する日本の主張を支持すると言っている。ならば米国は、ロシアに対し「択捉と国後はヤルタで決めた千島列島に含まれないので日本に返してやれ」と求めたかといえば、そんなことは全くない。
昔も今も、択捉と国後は地理的に千島列島の一部だ。それに、ヤルタ会議は多極派の戦略、ダレスの恫喝は英国系の冷戦戦略なので、相互に矛盾して当然だ。
トランプは、英国系を潰したいリクード系だ。プーチンとこっそり仲良くしており、隠れ多極派的でもある。プーチンもリクード系で、英国系を潰すためのウクライナ戦争の構図に乗っている。
トランプは英国系と暗闘するリクード系でプーチンとも隠然マブダチなのに、英国系が日本にやらせてきた露敵視な4島返還固執策を継承している。おかしくないか?。
トランプが高市に「歯舞色丹だけで手打ちしろ」と求め、日露を和解させて米露日で仲良くやれば良いのに、現実は全く違う。なぜか。
(世界はイスラエル覇権体制になった)
実のところ、トランプは日本に、北方領土問題を使ったロシア敵視を維持させ、台湾問題を使った中共敵視や、北朝鮮敵視と合わせ、敵対関係を扇動し、それをテコにしつつ日本が軍事的・安保的に米国依存を弱めてもやっていけるように軍事拡大させている。
日本も韓国も、中国とは経済関係があるので一定以上対立できない。ロシアなら経済関係が資源貿易に限定されているし、冷戦構造の残滓で関係を深めていない。ロシアとは、敵対を煽りやすい。
日本や韓国が対米従属なまま米国が抜けると、日韓は中共の属国になって生き延びようとする。それだと中共が強くなりすぎる。リクード系としては、米国が抜ける前に、日本や韓国を軍事的に自立した国にしておきたい。
手っ取り早い方法は、敵を作り、それに対処するためという理屈で日韓に軍拡させ、自立させていくことだ。
トランプはその線に沿って昨年から中共やロシアとの敵対を扇動し、日本や韓国に軍拡させ、日韓や日比の軍事連携を強化させている。
(東アジアだけ戦争にならない理由)
日本は高市化して以降、トランプの求めに応じてフィリピンとの安保関係を強化し、台湾とグアム島の間にある2本の列島線に挟まれた海域を影響圏として構築し始めている。
いずれはインドネシアもその中に入るかもしれない。すでに米国はインドネシアとの安保関係を強化しており、いずれそれを日本に肩代わりさせる。豪州も、英国系の力がさらに弱まったら、この枠内に入る。
西太平洋に日本の影響圏を作って米国が手を引くのは、トランプの米国が、かつての英国系による世界単独覇権体制を解体していく作業の一環だ。
(日本の地域覇権「日豪亜」への道再び)
ロシアや中共や北朝鮮は、米国が西太平洋から抜けていく際に残される日本などを強化するための一時的な敵役として使われている。米国が抜けてうまく自立できたら、日本は現実的な外交路線に戻る。
日本は台湾を取り戻そうとはしない。台湾は中国の一部だ。いずれ中共の傘下に入る。だがその前に、米国は台湾問題を使って日本を強化し、西太平洋の主導役を肩代わりさせたい。
習近平の中共は、そのことを知っている。中共は、米国や日本が台湾の独立を支援するのは許さない、と叫びつつ、中共が日本の脅威になって、日本がそれをテコに軍事安保的に拡大して、西太平洋で米国の安保体制を肩代わりしていくことを黙認している。
(日本が高市化した意味)
日本を安保的に強化しないまま、米国が米州主義を優先して西太平洋から退潮していくと、日本は中共の傘下に入ってしまう。高市化する前に日本は、外務省や自民党がそれを模索していた。それだと中国が強くなりすぎる。
強大な中国がBRICSなど非米側を率いて米国側を押しのけ、国連や英国系の人道主義覇権体制を中共が継承する展開が、一昨年ぐらいまであり得た。
世界が多極型になり、英国系が力を失うと思いきやそうでなく、中共主導の多極型覇権の中にいつの間にか英国系がこっそり入り込んでいた。
その展開を潰すため、英国系と暗闘してきたリクード系が、中共の上層部で反乱を醸成して習近平を脅して覇権放棄させるとともに、日本を高市化して台頭させ、中国のライバルに仕立てる策略を開始した。
(Japan Will Play A Much Greater Role In Advancing The American Agenda In Asia)
そして今、イラン戦争も予定通りホルムズ閉鎖の長期化で膠着して一段落し、好戦策による覇権構造の転換が、再び東アジアに戻ってきた。中国だけでなくロシアも敵視して、日本のテコ入れが展開している。それに対してプーチンが警告した。それが、8月12日の択捉島と太平洋艦隊への訪問だった。
警告したと言っても、本質的にプーチンはトランプの敵ではなく、隠然とした味方だ。高市はトランプの子飼いであり、安倍晋三の流れをくんでいる。プーチンは、安倍晋三を高く評価している。
プーチンは、高市に期待していた/いるはずだ。高市は、安倍の遺志を継いでロシアと和解するかと思いきや、むしろ露敵視を強めている。プーチンは、高市に失望しているのでないか。
しかし、さらに掘り下げて考えると、そうでもないかもと思えてくる。プーチンは元KGBで諜報界の人だ。英国系とリクード系の暗闘も察知し、リクード系の誘いを受けて、英国系を潰すウクライナ戦争を開戦し、人道犯罪者の濡れ衣を着せられたまま、じわじわと勝っていく「偽悪戦略」を展開してきた。
イスラエルのリクード系は、ウクライナ戦争のプーチンから学んで、2023年のガザ戦争の巨大な人道犯罪を意図的にやる戦略を思いついたのでないかと思えるほどだ。もしくは、ガザ戦争をやる前にプーチンに偽悪戦略をやらせて様子を見たとか。
(プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類)
プーチンは、地政学的な成功への道が一直線でないことを知っている。だから、高市化した日本が、すぐにロシアと和解するのでなく、最初は英国系が作った従来の構図を活用し、ロシア敵視を強めて安保的に強くなり、その後いずれロシアと和解する道をたどることを理解している。
トランプも、本当はロシアと和解したいのに、それを先延ばしし、英国系が作った露敵視の構図を使って英国系の英欧を自滅させることを優先してウクライナ戦争を続けている。
プーチンは8月12日の択捉上陸前のサハリン沖の軍艦上での会合で、EUがロシアのタンカーを制裁違反で拿捕して石油を強奪していることを非難し、太平洋側でも同様のことが起きるかもしれないので、その場合は報復も考えると表明した。
日本はG7の一員として、ロシアの石油輸出の価格や量を制限する制裁を続けている。韓国もロシアを制裁している。今後、米欧からの依頼を受けた日本や韓国がロシアのタンカーを拿捕し、その報復でロシアが日韓の船舶を拿捕するなどの展開があり得る。もしそうなったら、日露の敵対は激増する。
しかし、さらに考えると、日本はサハリン2の天然ガス事業に参加し、ロシアからガスと石油を輸入している。これはG7の対露制裁の対象外として認められている。
今後もし日本がロシアのタンカーを拿捕したら、その報復でロシアはサハリンから日本へのガス(LNG)を止めるかもしれない。サハリンからのガスは日本のLNG輸入の1割を占め、発電所の燃料や都市ガスとして広範に使われている。
これを止めると、日本で電気代やガス代の高騰、停電などが起こりうる。イラン戦争で世界中がエネルギー不足な中、代替燃料を探すのは困難だ。
ロシアの船を拿捕する前に、日本側に相当の覚悟が必要だ。多分やらないだろう。サハリン2は、日本がロシアとの敵対を一定以上に強めないようにしてくれる安全弁になっている。だから残してある。
日本政府は7月末に内閣調査室を国家情報局に格上げし、諜報機関の機能を拡大している。これも安保強化策の一つだろう。
日本だけでなく、同じく対米従属の韓国やドイツでも最近、諜報機関の拡大が行われている。従来の英国系単独覇権下では、米英イスラエルだけが(実は3か国で一体の)まともな諜報機関を持っており、対米従属の諸国には実質的な諜報機関を持たせなかった。日本の内閣調査室は「資料整理係」だった
(Japan is arming for a long range fight, and China is worried)
今回、トランプが英国系の単独覇権を解体し、世界は多極型になったが、その上にリクード系が米諜報界を乗っ取って隠然と君臨する状態になっている。
リクード系は、非米側の覇権を持っていた中共を脅して覇権放棄させ、米国とロシアを傘下に入れて米露イスラエル覇権を形成している。
トランプは、同盟諸国に米国へのぶら下がりをやめさせるため、防衛費の急増や諜報機関の拡大をやらせている。背後のリクード系は、同盟諸国に諜報活動を教えつつ、成果物の諜報をコピーしてもらっていく。米国の諜報負担が減る。
同盟諸国の多くは、外務省が英国系(英傀儡)だ。日本のように為政者がリクード系になっても、その下の外交官ら官僚機構が英国系だと妨害策を続ける。その中でリクード系の諜報機関が新設されると、為政者は英国系の外交官に頼らずに外交できるようになる。
日本の場合、その前に防衛庁が防衛省に昇格した。日本外務省は、自分たちこそ(英傀儡な)諜報機関だと言って、防衛省や内閣調査室を蔑視してきた。だが今後、防衛省や国家情報局がリクード系に入れ知恵されて力をつけて高市に重用され、英傀儡の外務省は外されて失墜する。
ロシア敵視に話を戻す。最近、ロシア敵視を強めているのは日本だけでない。韓国も同様だ。北朝鮮がウクライナ戦争でロシアに味方して戦い、見返りにロシアは北朝鮮に軍事技術や石油、穀物、安全保障確約を与えて強化した。
ロシアにテコ入れされた北朝鮮は、軍事と経済の両面で、敗北や破綻の懸念がなくなった。北朝鮮はもう崩壊しない。核兵器も持っている。従来のパトロンだった中共も、朝露の結束を支持している。
(非米側の防人になった北朝鮮)
米韓はもはや北朝鮮を攻撃できない。北朝鮮は、米韓が北敵視をやめるなら韓国と和解しても良いという姿勢をとり始めている。
トランプは、1期目に北朝鮮の金正恩と繰り返し会い、米韓と北朝鮮が戦争になることを防いでいた(英国系がトランプを失敗させるため、朝鮮半島で戦争を誘発しそうだったのかも)。その後、隠然マブダチのプーチンが北朝鮮を強化し、トランプに代わって朝鮮半島の戦争を恒久的に防いだ。
ならば今すぐ南北和解できるかと言えば、そうでもない。今の状態で緊張緩和して在韓米軍が撤退すると、韓国は北朝鮮に対して弱くなりすぎる。まず韓国を、対米従属でないかたちで強化せねばならない。
韓国は最近、北朝鮮だけでなく背後にいるロシアへの敵視も強めている。韓国とロシアは昨秋まで、旅客機の直行便の再開などの和解策を話し合っていたが、いまは敵視に戻っている。
韓国はトランプの勧めでNATOに接近し、軍事産業の相互乗り入れを開始した。北朝鮮がロシアに味方して参戦したので、対抗して韓国はウクライナを支援するNATOと組むという理屈だ。
NATOは、韓国側から得た軍事技術をウクライナに流す可能性がある。そのためロシアが韓国に対して怒っている。
(Russia Expresses Alarm Over Deepening NATO-South Korea Ties)
米韓は8月17日から年次の合同軍事演習(乙支自由の盾)を開始した。今年の演習は、北朝鮮が実際にウクライナで使った無人機攻撃やGPS妨害などの軍事技術に対抗する作戦が含まれている。
昨年の、基本的な防衛態勢の強化を主軸にしたものから、今年は米韓が実際に北朝鮮と戦争し、米韓が北に侵攻することを想定した内容になっている。
北朝鮮はこの点を指摘し、激しく米韓を非難している。米韓側は、北朝鮮がロシアと結託するので対抗策を強化せざるを得ないと、ロシアを含めた脅威性を強調している。
(North Korea Rages At Upcoming US Drills: "Rehearsal For Aggressive War")
韓国は北朝鮮と戦争する気なのかと思いきや、そうでもない。8月15日の光復節の演説で、韓国の李在明大統領は、北朝鮮に対して和解と平和共存を呼びかけ、朝鮮戦争を正式に終戦させようと提案した。
韓国は、トランプの誘導に沿って、北朝鮮と実際の戦争にならないようにしつつ、米軍が抜けても軍事的に自立できる態勢を作ろうとしているようにも見える。
(South Korea proposes dialogue to end war with North)
外交で択捉国後を日本に返させることはできない。ロシア(など多くの国)は、戦争(国民の血)で奪った領土を平和裏に返さない。敗戦後、徹底洗脳されている日本人には理解不能だ。
択捉国後の南千島は千島列島の一部であり、日本はすでに千島列島を放棄している。道理的にも択捉国後は戻ってこない。
日本が軍事拡大して対米自立したら、自衛隊を択捉国後に侵攻させて軍事的に取り返すか?。やれるものならやってみろ。全滅させてやる。そういう姿勢でプーチンは択捉島に上陸したのかもしれない。すでに道東はロシアのミサイルの射程内だ。
日本は、日ソ共同宣言に立ち返り、択捉国後を放棄して歯舞色丹の返還で満足するしかない。日露が和解することによる政治経済的な利得の方が大きい。
日本人のロシア敵視は冷戦構造・英国系による洗脳だ。洗脳を取り去ると、プーチンが言う通り、ロシアは日本(や欧米)にとって脅威でないとわかる。
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