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東アジアだけ戦争にならない理由

2026年7月18日   田中 宇

今の世界の国際政治で最重要な3つのテーマは、中東(米イスラエル=リクード系とイランの戦争)、欧露(ウクライナ戦争)、東アジア(米中関係)だ。このうち中東と欧露については、戦争を長期化する戦略がとられている。
中東ではイスラエルが、地域の単独覇権国になるため、ライバルであるサウジ(アラブ産油諸国)やイランを潰す戦争をしている。
イスラム諸国とイスラエルを恒久対立させるのは、イスラエルの台頭を防ぐための英国系の策略だった(ロスチャイルドとシオニストの百年戦争)。今回のイラン戦争は、イスラエルが英国系の策略を構図ごと打破する。
イスラエルとロスチャイルドの百年戦争

サウジ(などGCC)は表向き米国の友好国だが、イスラエルの傀儡と化した米国は、サウジを石油ガス面から潰すため、イランの防衛隊政権を延命させてホルムズ海峡の閉鎖を長期化している。
GCC諸国の油田ガス田の多くが閉鎖され、劣化を深めている。リクード系の策略が成功している。
ホルムズ開閉繰り返しで中東の油井を破壊する?

ウクライナ戦争の本質も、表向き見えている「米欧がロシアを潰す戦争」とは大違いで、リクード系が、諜報界のライバルだった英国系(英欧)を疲弊させて潰す戦争だ。
トランプとプーチンはリクード系の一味だ。トランプはNATO3.0をぶち上げ、英欧に対し、ウクライナを延々と支援する巨大な負担を押し付けている。プーチンは、ロシアがある程度やられることを容認して一進一退の状況を演出し、英欧がもっと破綻するまでとろ火の戦争を長期化していく。
ウクライナ戦争を再燃させ欧英自滅を加速するトランプ

トランプは、中東と欧露を長期戦に陥れた。ならば、残る東アジアでも、台湾海峡を戦争に陥れたりして、新たな戦争を引き起こすのでないか。
表向きの構図を軽信している人々は、世界的な構図として、米国が仇敵である中露イランを潰す3正面の戦争を描く。いずれ台湾でも戦争が始まり、日本の高市化もそのためだ、などと思っている。
だが私から見ると、表向きの構図そのものが大間違いだ。リクード系の覇権拡大という裏の構図で考えねばならない。
The Taiwan Lobby moves to put a full court press on Trump

昨年から台頭が顕在化したリクード系は、中共の上層部で習近平に対する反逆を誘発した。習近平は、突きつけられた脅しの意味を把握し、リクード系の覇権拡大を容認し、求められるまま、BRICSなど非米側世界における中共の覇権を縮小した。一帯一路も言わなくなった。
中共とロシアは、もともとイランと親しく、イランやヒズボラの兵器の多くは中露からの輸入品だった。だが中露は今年のイラン戦争に際し、イランを支援せずに見捨てている。誰もリクード系に逆らわない。
イスラエルと中国の暗闘

6月半ばから先日まで、米国はイラン制裁を解いて石油輸出を許した。しかし、開戦前に旺盛にイラン原油を買っていた中国の中小の製油所群は、今回まったくイラン原油を買わなかった。習近平は、自粛を続けている。
この原油を日本勢が買う話もあったが、その後、米イランが交戦状態に戻り、トランプがイラン制裁を再開した。もう日本勢も買わないだろう。4000万バレルの原油に買い手がつかないまま、マラッカ周辺などの近海に多数のタンカーが漂っている。
中国でなく日本がイラン原油を買う?

習近平がリクード系に楯突いていたら、今ごろ台湾海峡も戦争になっていたかもしれないが、習近平は意外に従順で、いろいろ自粛している。リクード系は満足しているのでないか。
そう思いながら米国の中国戦略に関する動きを見ていると、あるある。リクード傘下のトランプは、中国が覇権的な行動を自粛したことへの「ごほうび」的な動きを、見えるか見えないかの微妙な形ながら、あちこちでやっている。

6月に書いた記事で紹介した、5月末にシンガポールで行われたシャングリラ会議(アジア安全保障会議)がその一つだ。
この会議は近年、中共の軍幹部と、米国や日豪ASEANなど傘下諸国の軍幹部との意見交換が中心で、中共のアジア覇権の円滑化を助けていたが、中共は2年連続で国防相を出さず中堅幹部や研究職のみの出席。習近平の覇権自粛姿勢を象徴していた。
代わりに会議の中心になったのが日本や豪州で、シャングリラ会議は、中共覇権のための会議から「日豪亜」のための会議になったかのようだった。
日本の地域覇権「日豪亜」への道再び

日豪亜の中心(の一つ)は、高市化した日本だが、中共は、高市の就任直後の台湾発言以来、高市を攻撃することで日本国内の高市人気を高め、日本の高市化をこっそり支援している。
中共は、中国と米国の影響圏の間に、高市化した日本(日豪亜)が新たな極として出現することを容認・支援している。
日本が高市化した意味

日豪亜や高市化は、トランプやリクード系の差し金だ。今後の多極型世界では、米国が世界覇権を捨てて西半球(グアム以東)の国へと引っ込み、グアムと中国(台湾)の間は、これまでの米傀儡諸国でなく、しだいに対米自立していく日豪亜になる。

習近平は、日本の高市化や、日豪亜の出現を容認している。それがシャングリラ会議で示された観がある。
トランプは、こうした中共の従順さを評価し、ごほうびとして、米国と中国の軍幹部どうしが集まる会議(定例の軍事海上協議協定に基づく作業部会)をシャングリラと同時期にハワイで開催し、米国との衝突を避けたい中共の希望を満たしてやった。

シャングリラ会議には米国からヘグセス戦争長官が出席したが、ヘグセスの演説には「台湾」という言葉が一度も出てこなかった(中国の軍事や覇権の拡大は批判した)。
ヘグセスは好戦的なので、台湾についていろいろ語っても不思議でないが、そうではなかった。
米戦争省は、今年1月に発表した国家防衛戦略(NDS)でも、台湾について全く言及していない。
Remarks by Secretary of War Pete Hegseth at the 2026 Shangri-La Dialogue in Singapore

かつて米国の中国包囲網の中心政策は、米日豪印の4カ国による「クワッド」「インド太平洋」だった(もともと安倍晋三の発案で、1期目のトランプが米国の戦略として採用)。
東アジアにいる米統合軍は戦後ずっと「太平洋軍」と呼ばれていたが、2018年にインド太平洋の戦略が中心になると同時に「インド太平洋軍」に改称された。しかし今年6月16日から、この統合軍の名称は再び「太平洋軍」に戻されている。
同様の変化として、米戦争省は今春まで「インド太平洋」を地域名や戦略名として使っていたが、最近は使わなくなり、代わりに「太平洋」を使っている。シャングリラ会議のヘグセス演説も「太平洋」しか使っていない。今年1月のNDSは「インド太平洋」を多用していた。
2026 National Defense Strategy

かつてクワッド(インド太平洋)は毎年、首脳会議を開いていたが、2024年から開かれなくなった。代わりに格下の外相会議が開かれているが、外相たちは、再び首脳会議を開く決定を行えないままだ。
5月末に印度で開かれたクワッドの外相会議でも首脳会議の開催は決まらず、クワッドは終わったとか、格下げだとか、トランプが興味を失ったからだとか揶揄されている。
Quad summit uncertainty raises questions over grouping’s political momentum

米統合軍の名称変更と合わせて考えると、トランプ政権は何も説明しないまま、クワッド=インド太平洋の中国包囲網戦略をすでにやめた可能性が高い。
中国包囲網が雲散霧消するのは中共にとってうれしいはずだ。これも、リクード系に求められるままに習近平が覇権を自粛したことへの、トランプからのごほうびに見える。
No clarity on next Quad leaders summit, sparking questions about the group’s future

トランプは、クワッドの縮小版ともいえる代わりの中国包囲網を用意している。それは、高市化した日本がフィリピンを安保面で傘下に入れ始め、米日比で中国の軍事拡大や台湾侵攻に備える「第1列島線同盟」だ。
Goodbye Indo-Pacific, hello first island chain!

日本の自衛隊は、今年4-5月に開かれた米比軍事演習バリカタンに1400人が参加し、昨年が初参加だったのに、今年すでに米比に次いで多人数の勢力になっている(ほかに豪加仏NZが参加)。
フィリピンは、米国が米西戦争でスペインから奪って独立させて以来の米属国だが、近年は台頭する中国からの影響力増加とのバランスで運営されていた。今後はそこに日本が、米国から肩代わりを依頼される感じで入っていく。
The Island-Chain Allies

以前の日豪亜から、とりあえず様子見したい豪州が抜け、亜(東南アジア)のうちまずフィリピンが入る「日比」になって、2つの列島線の間に日本中心の新たな極を、米国の補助と誘導を受けながら作っていく。
この極は、これから形成されていく日韓の同盟も包含する。それらが大体できたら、中共のライバルとして機能させつつ、米国はグアム以東に撤退していける。この流れは、トランプが日本を高市化した主な目的でもある。

高市化した日本は、トランプにそそのかされて台湾問題に介入して中共と戦争になり、日本を滅ぼす、と考える人が多い。バリカタンには台湾もオブザーバー参加していた。
日比だけでなく台湾も第1列島線に接しており、新たな列島線同盟には台湾も入る、という見方も多い。
私から見るとそれらは、目くらましを軽信する間違いだ。列島線同盟は、2つの列島線の間の諸国、つまり日本とフィリピンだけだ。台湾は第1列島線の西側、つまり中国の一部である。台湾は列島線同盟に入っていない。

トランプは習近平と交渉し、中共が時間をかけて台湾を併合していく流れを米国や日本が妨害しない(目くらまし的にちょっかいは出す)と約束。その代わり、中共は日本が高市化して極になることを黙認する、そんな話をまとめたのでないか。
トランプはそれを秘密にしたまま、列島線同盟が「2本の列島線の間」でなく「第1列島線の周辺」を指すと人々に勘違いさせ、米国が日比を同盟させて台湾を取り込んで中共と戦争しそうな話にすり替えている。

多極型世界では、極にならない国は大国の属国になるしかない。日本の上層部は、米国が覇権放棄するなら中共の属国になるつもりだったようだが、リクード系は、日本を極の一つにして中共の監視役にすることを望んだ。
極になるためには、ある程度の軍事力を持たねばならない。軍事力を持つには敵対関係を扇動するのが手っ取り早い。

トランプはクワッドを雲散霧消させ、代わりに日比を作っている。クワッドは、首脳会議や合同軍事演習で結束を誇示して「中国を包囲してる感」「自由航行や民主主義を守ってる感」を喧伝・醸成するお祭り騒ぎだった。
中国包囲網策は総じて、中国を頑張らせて台頭を誘導して世界を多極化する「隠れ多極主義」でもあった。
1期目のトランプは、安倍が提案したクワッドに乗り、安倍にクワッドの主導役をやらせることで日本を極に押し上げる謀略だった。だが、当時の日本の政官界はまだ英国系の傀儡だらけで進まず、米日の英国系が安倍を殺して終わった。
安倍元首相殺害の深層

(今も日本の政官界は英傀儡だらけだが、高市がリクード系から指示されるまま隠然独裁しているので英傀儡が外されている。英傀儡はマスコミに高市の悪口を書かせることしかできない)

今の日比はお祭り騒ぎでなく、国際関係の実体的な転換を伴う。日本やフィリピン、韓国などが対米自立し、ハブ&スポーク型を脱して横のつながりが強まる。
これは中共にとって交渉相手が増え、クワッドより脅威が大きいが、リクード系が習近平を脅して覇権縮小させる策略に混ぜ込んで認めさせたと推測できる。
中共は、台湾を急いで併合したくない。国家にとって未解決な問題が残っている方が国内を統合しやすいからだ。米国に代わって日比が台湾にちょっかいを出し続けるぐらいが、中共にとってもちょうど良い。
日本に台湾支援を肩代わりさせる

豪州は、英国系の国でもあり、まだ様子見している。日比が新たな極として中共と併存できることが確認できたら、豪州やインドネシア、ベトナムなどが関心を持ち始める。
After 18 Years, Has the Quad Failed?



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