他の記事を読む

ずっと続くイラン戦争

2026年5月11日   田中 宇

米国とイランの停戦交渉が頓挫している。交渉は、ある程度まで進んで止まっているのでなく、何を交渉の俎上に乗せるかという入口段階で噛み合わず、交渉に入っていない。
米イスラエルは、イランの権力を握る革命防衛隊を潰すことが目標だ。イラン側が米国に譲歩して停戦交渉に応じると、イランの政権内部で現実派が発言力を強め、防衛隊を押しのけるかもしれない。防衛隊は自滅したくないので譲歩しない。
米軍による海上封鎖が続き、イランは石油ガスを輸出できず、財政破綻と経済難が進む。だが、国民の反政府運動が強まっても政権転覆できない。いつまでも交渉は進まない。
Trump throws cold water on hopes for Iran deal

イランはホルムズ海峡を閉鎖し、米国はイランを海上封鎖している。二重の封鎖により、イランとアラブ諸国が石油ガスを輸出できなくなっている。
開戦前の中東は日産3000万バレルを輸出していた。今の輸出量は3分の1に減り、サウジやUAEやイラクなどの、ホルムズ迂回のパイプラインを使った1000万バレル前後だけだ。世界の産油量(1億バレル)の2割が出せなくなっている。
World oil reserves drain at record pace

「米国は覇権国なので世界経済の成長に責任があり、トランプ大統領はさぞ困っているだろう」と思う人が多い。だが、トランプは困っていないどころか、意図的にホルムズ封鎖を長引かせる策をとっている。
ホルムズ閉鎖を放置するトランプ
計画通りのイラン戦争

たぶんホルムズ閉鎖は来年もしくはそれ以降まで続く(ウクライナ戦争も同様に続く)。サウジなどアラブ諸国は凋落する。
ホルムズを長期閉鎖するトランプの目的は、戦後ずっと米国の覇権を牛耳ってきた英国系(英国とその傀儡である独仏EUや米民主党、英欧)と、イスラエル中東覇権の邪魔になるサウジとイランを無力化することだ。
Can Tehran weaponize the Strait of Hormuz for years to come?

中東の産油量の激減により、世界の大手産油国として残っているのは米国とロシアになる。
トランプとプーチンは表向き決裂を演じているが、実は親しく、裏で連絡を取り合っている。エネルギー的に、今後の世界を率いるのは米露隠然同盟だ。
イスラエル(米諜報界を乗っ取ったリクード系)は、米露同盟の後ろにいる。英欧を自滅させロシアを強化するウクライナ戦争を起案したのも、英欧とアラブ産油国(と中共?)を弱めて米露を強めるホルムズ長期閉鎖を起案したのもリクード系だ。日本の高市化(極への引き上げ?)もリクード系の起案だ。
アラブ産油国の没落

トランプは、ウクライナ戦争を英欧に任せて米国を離脱させている。英欧はロシア敵視を続けるので、中東代替となるロシアから石油ガスを輸入できない。英欧はエネルギー不足が続き、経済がさらに縮小して弱体化が今後も進む。
ウクライナ戦争はずっと続く。プーチンが最近「ウクライナは終戦に向かっている」と言ったのは、実際と正反対の目くらましだ。
Putin believes Ukraine conflict heading towards end

これまで中東の石油ガスを旺盛に輸入していたのは日本と中国だ。高市化した日本はトランプに石油ガスをわけてもらう。中国はロシアからの輸入を増やす。
中露協調はこれまで中国が優勢だったが、しだいにロシアが有利になる。プーチンや高市はイスラエルから信用されているが、習近平は信用されていない。
UAEのOPEC離脱、サウジ中共の急落

大金持ちだったMbS皇太子のサウジを筆頭とするアラブ産油国は今後、産油量の減少に伴い、国際的な影響力を失っていく。
少し前まで、世界が多極型になったら中東はサウジ、イラン、トルコ、イスラエルの4極体制になると予測されていた。だが、今後サウジとイランは弱体化し、トルコは隠然とイスラエルの傀儡になって傘下入りし、中東(とコーカサスと北アフリカ)はイスラエル覇権になっていく。
極悪な新覇権国イスラエル
イスラエルは中東4極体制で満足なのか?

イランは、中東のイスラエル覇権が確定するまで、トランプの策略に乗って、防衛隊の政権が延命する。ホルムズ閉鎖は、来年か再来年とかまで続く。
米諜報界(CIA)が「イランは(大型)ミサイルの7割を米イスラエルに破壊されずに温存している。ミサイルの修理能力もあり、まだまだ強い」」とリークしてマスコミに書かせた。
これは、イランを実際よりも強く見せ、トランプが軍事力でイランを潰せない(ホルムズ閉鎖が長引くのは仕方がない)と世界に思い込ませるための歪曲情報だろう。
US Official Says Iran Has 70% of Pre-War Missile Stockpile and Is Assembling New Ones

この戦争の主役であるイスラエルはイランの軍事力の破壊を最優先しているので、実際はイランの大型ミサイルのほとんどが破壊され、修理も困難な状態だろう。
もし本当にまだイランが長距離ミサイルをたくさん隠し持っているのなら、イスラエルに撃ち込むはずだ。イランが勝つためには急がねばならない。二重のホルムズ封鎖が長引くほど、イランは経済的に不利になる。
実際は、イランは最近イスラエルに撃ち込んでいない。長距離ミサイルがもうないからだ。
CIA Leak: Iran Can Survive Blockade Another 3 to 4 Months, Maybe Longer

今後の中東はイラン覇権になるという、左翼イスラム主義者による記事もよく見る。左翼やイスラム主義者は、以前から米諜報界に動かされる道具だった。「イランが勝っている」という見方も、イランを強く見せるための歪曲情報だろう。
断続的に続くイラン戦争

イランとウクライナの戦争は今年中に終わらない。2つの戦争は、英欧(英国系)の弱体化を進めるために長期化されている。
かつて米覇権を握って単独覇権とリベラル主義のグローバリズムを謳歌していた英国系は、不可逆的に終焉していく。
世界は多極型に転換している。トランプは、多極型の一環で米州主義を進めている。米国と英欧は別々の存在になっていく。
When the world’s most powerful country has no war plan

米露と後ろにいるイスラエルが、世界の中心になっている。中共は、監視される微妙な位置にいる。日本は中共と対峙するために高市化された。この世界体制は「多極型」だが「イスラエル世界覇権」ともいえる。
イスラエル世界覇権の可能性

イスラエルが世界を動かすには米諜報界の力が必要だ。中共は、イスラエルがトランプを傘下に入れて米国を動かしているから、監視される状態を甘受している。
いずれ米国が金融崩壊すると、米諜報界や覇権の力も失われる。イスラエルはできるだけ長く米諜報界と米金融バブルを維持したいはずだ。
イラン戦争は英国系潰し、グローバリズムの破断策

中共は昨年から、監視され、覇権を縮小させられても抵抗しない傾向になっている。中共はイスラエルと争いたくない。イランは中共に助けてほしいが、中共は言葉による支援しかしていない。中共はイランの石油ガス施設が破壊されても看過し、利権を放棄している。
Tehran hails China’s support, but Beijing’s limits are showing

トランプは米州主義策の一環として、パナマ運河の周辺から中国企業を追い出しているし、中国に石油を輸出するなど依存していたベネズエラの政権も転覆した。中共は、トランプの米州主義を受け入れている。
トランプによる日本の高市化にも、中共は大阪総領事の過激コメントで日本人を中共敵視の高市支持に押しやるなど、隠然と協力した。
日本が高市化した意味

イスラエルは、中共の裏庭だった隣国カザフスタンなど中央アジアにも介入して影響力を増している。一帯一路の宣伝も最近は下火だ。中共は、アフリカでも自発的にエネルギーなどの利権を手放している。
中共は近年印度と和解したが、印度はイスラエルに誘われて急接近している。インドネシアもイスラエルに誘われている。中共の影響圏はこの2-3年でかなり縮小した。
イスラエル(やトランプ)は、このぐらいで満足して中共を許すのか。間もなく行われるトランプの訪中も、本質を露呈させるものになるのか怪しい。
イスラエルと中国の暗闘

イスラエルは中共に対してだけでなく、すでに仲が良いはずのロシアに対しても謀略をやり続けている。
最近、ウクライナのゼレンスキー大統領が、コーカサス(旧ソ連)のアルメニアとアゼルバイジャンを訪問して歓迎された。露政府は怒っている。
アルメニアもアゼルバイジャンも、ここ数年で、イスラエルの覇権下に入った(トルコに下請けさせた)。イスラエルは、露敵視のウクライナ戦争をコーカサスに拡大したいのか?。多分そうではない。むしろ逆だ。
Azerbaijan Risks Placing Itself On A Ukrainian-Like Collision Course With Russia
イスラエル中東覇権の隠然性

イスラエル(リクード系)は、ゼレンスキーと、アルメニアやアゼルバイジャンの両方を動かせる。イスラエルは、コーカサスが反露になってNATOに協力する流れを醸成することで、米国が抜けて英欧主導になったNATOに、頑張ればロシアを打ち負かせると思い込ませようとしている。
英欧には、ロシアと和解した方が良いと考える勢力も多いが、コーカサスのロシア敵視の演技は、英欧の和解派を弱めて強硬派を延命し、英欧を自滅的な露敵視の継続に持っていける。
実際は、コーカサスに戦争は波及しない。ウクライナでロシアの優勢が続き、英欧の自滅が加速する。
Moscow expects ‘explanations’ from Yerevan over Zelensky’s statements



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ