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UAEのOPEC離脱、サウジ中共の急落
2026年4月29日
田中 宇
UAE(アラブ首長国連邦)がOPECからの離脱を発表した。OPECは、世界最大級の産油能力を持つサウジアラビアが主導する産油国カルテルだ。UAEは2023年ごろまでサウジの子分だった。
UAEは、イスラムとアラブの盟主でもあるサウジがやれないイスラエルとの親密な関係を担当していたが、その後しだいにイスラエルに本気で取り込まれてサウジ離れを進めた。
(2010年代から米国で、台頭したリクード系と、オバマ政権=英国系との暗闘があり、サウジとUAEは、反イスラエル=英国系と親イスラエルの両方に賭ける必要があり、役割分担していた)
(United Arab Emirates quits OPEC as Iran war raises Gulf tensions)
今回のOPEC離脱は、イラン戦争を機に、UAEがサウジの子分からイスラエルの子分に鞍替えする流れを完結したという意味がある。UAEの離脱は、トランプやイスラエルが黒幕だろう。
(First Of Many? UAE Exits OPEC As Iran Chaos Triggers Nationalistic Realignment Among Producers)
UAEはOPECを離脱せず内部で反抗する手もあった。UAEは、離脱によって公然とサウジに反旗を翻した。これは、イラン戦争によって、サウジの石油輸出可能量が急減し、サウジ国際影響力が不可逆的に急落したことを示している。
サウジの力が復活しないということは、イランによるホルムズ閉鎖(もしくは中東の石油ガスの信頼性の低下)が長期化するということでもある。
(Key OPEC member to leave bloc)
ホルムズ閉鎖が今後すぐに終わっても、再閉鎖があり得るとか、イエメンのフーシ派が紅海の航行を妨害し得る状況が続く限り、サウジ(などペルシャ湾岸)の石油ガスの信頼性は蘇生しない。
(アラブ産油国の没落)
米国とイランは、交渉している感じを出しているが、実のところ入口論で揉めているだけで交渉していない。イランによるホルムズ閉鎖は続き、イランから中国への石油輸出を米軍が止めているイラン封鎖も続く。
(Collateral Damage)
イランの外相が訪露してプーチンに仲裁を頼んでも、口頭でのねぎらいを受けるだけで実質的な前進はない。プーチンは、イスラエルやトランプとこっそり結託している。
新たに出現したこのリクード覇権体制に、UAE(や印度や高市)は入っている。習近平はビビっている。人々は、この新体制に気づいてない。ホルムズは開かない。
(IRGC Leaders 'Trapped' Like 'Drowning Rats' By US Blockade, Will Soon Face Uprising Over Coming 'Gasoline Shortages Next')
イランの政権内では、好戦派で対米交渉拒否の革命防衛隊と、国会議員や外相ら対米交渉を求める現実派が対立し続けている。イラン議会で提案が発せられており、対立の存在は事実のようだ。
トランプは「イランの政権崩壊が近い」と言っている。政権内の現実派と、反政府の市民運動(モサド支援)が革命防衛隊を政権崩壊させたら、ホルムズが開くのか??
多分それはない。ホルムズが開いてペルシャ湾とサウジ原油が信頼性を取り戻す流れがあるなら、UAEは曖昧戦略を維持したままで、OPECを離脱しない。
(Iran To Send Revised Proposal To US In 'Days' As 'Tank Tops' Loom, Trump Claims Iran "Informed Us They Are In State Of Collapse")
UAEのOPEC離脱は、中共の中東覇権が終わったことをも示している。アラブの春やシリア内戦やJCPOA(イラン核問題の解決策)など、2010年代に台頭したリクード系との暗闘に英国系(オバマとか)が負けた後、英国系は多極化を容認して中共にすり寄り、国連など国際社会の中心が隠然と中国に移動し始めた。同時に、リクード系と中共の暗闘が始まった。
英国系は、中共が、政治力を強めるために党内民主主義(集団指導体制)を捨てて習近平の独裁に移行することを黙認した。習近平は、中央アジアから中東に覇権を拡大していく一帯一路の策を展開した。
(中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める)
OPECはもともと、戦後の世界経済の成長(石油消費増)が本格化した1960年代に、世界最大級の産油量を持つサウジが産油諸国(発展途上諸国)をまとめ、国際政治上の発言力を増すために作った組織だ。
1970年代には、中東戦争でアラブと敵対したイスラエルを制裁するためにOPECが石油危機を誘発したが、その後のOPEC(とサウジ)は米国側から入り込まれて傀儡化していた。
(中露が誘う中東の非米化)
ドル崩壊の具現化だった2008年のリーマン危機後、BRICSサミットが開始され、世界の多極化や非米化が始まった。
2016年に、ロシアやブラジルなど非米側の産油諸国が、もともと米国側だったサウジ主導のOPECと合流して「OPECプラス」になった。石油を消費する側も中国など非米諸国が中心になった。
2016年の「プラス化」は、OPEC(やサウジ)の「非米化」だった。同時期の2015年から、若いMbS皇太子がサウジの権力者となった。世界の(米国主導の金融バブルでなく)実体経済とエネルギーの需給体制を、中国とサウジが主導する非米型・多極型の新体制が形成され始めた。
(サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国)
中共の中東(非米側全体)に対する覇権の絶頂期は2022-23年だった。2023年3月に習近平がイランとサウジの和解を仲裁し、2023年夏にBRICSが拡大してイランとサウジとUAEがBRICSに加盟した。
エチオピアなどがBRICSに入り、アフリカの盟主が米英仏から中露にすり替わり始めた。以前から多極化を指摘していた私は、中共が作った多極型世界が長期的に続くと予測した。
(多極化の決定打になる中国とサウジの結託)
だが、そうではなかった。リクード系(イスラエル)は、トランプと談合して返り咲きを内定した後の2023年10月に、英国系が大戦終結時に定めたイスラエル封じ込め策であるパレスチナ建国を残虐な方法で抹消していくガザ戦争を開始した。
それを皮切りに、イスラエルは急速に台頭し、2024年秋、自国と隣接するシリアとレバノンにいたイラン系の勢力(ヒズボラとアサド政権)を次々と潰した。
イランは、2010年代から、英国系(オバマのJCPOA)や中共(格安原油と兵器類のバーター取引)によって、イスラエルの仇敵として強化されていた。それが2024年以降、イスラエルの急速な巻き返し、イランの退却へと逆転した。
(リクード系の覇権拡大)
その逆流の極まったところが今回のイラン戦争だ。そして気づいてみると、習近平の中共はイランを支援せず傍観したままで、パレスチナ問題への言及もなくなり、一帯一路についての喧伝もしなくなっている。
リクード系の米諜報界が黒幕と疑われる中共(人民解放軍)上層部の反逆疑惑も続き、習近平は国内政治的にも危なくなっている。
一帯一路の主力的な範囲だったカザフスタンやアゼルバイジャンに対しては、2023年以降、イスラエルに誘導されたエルドアンのトルコが影響力を拡大している。
イスラエルは、中共を押しのけて中央アジアやコーカサスに入っている。中央アジアもコーカサスも旧ソ連だが、プーチンのロシアは、イスラエルが入ってくると抵抗せずに譲歩している。
(アルメニアを捨てアゼルバイジャンと組んだイスラエル)
リクード系(米諜報界)がウクライナ戦争でロシアの優勢と英欧の自滅をもたらしてくれたので、見返りにプーチンはイスラエル覇権の拡大を容認している。
プーチンは、暗闘するイスラエルと中共の両方と仲良くしている。イランの現実派もすがってくる。トランプとも表向き対立しつつ裏で結託し、リクード覇権化の流れに乗っている。諜報界の出身であるプーチンの巧みさが存分に発揮されている。
(中東に再招待されるロシア)
対照的に習近平は、リクード系を恐れて様子見に徹しているうちに世界の流れから取り残され、気がつくとこの2-3年で覇権が急速に失われている。
2023年には、中国とサウジで世界の石油ガスを支配するかのような勢いだったのに、2026年の今では、イラン戦争によってサウジが急落し、イスラエルの子分に転向したUAEがサウジを見放してOPECから離脱する展開になっている。イランから中国への原油も止まっている。
(高市化で英国系からリクード系に転向した日本は、トランプの米国に石油ガス不足を補ってもらっている)
(日本が高市化した意味)
イスラエルは2022年から、印度、UAE、米国と経済的に組む「I2U2」を開始している。UAEと印度は、この枠組み内で協力している。
UAEは日産500万バレルの産油能力を持ち、OPEC内でサウジアラビア、イラクに次ぐ産油量になっている。
(From I2U2 To Hexagon Of Alliances: Assessing Parallels Between India And Israel)
これまでのUAEは、OPECの減産決定に従って300万バレル程度まで減産していたが、今回の離脱後はOPECと関係なく増産できるようになる。印度の石油輸入量は日産500万バレル程度なので、UAEと印度は相互依存してやっていける。
UAEの油田の大半はホルムズ海峡の内側にあるが、UAEはホルムズ海峡を迂回する国内パイプラインを持っており、ホルムズ閉鎖を回避できる(今のところ、産油能力の半分しか送れないが)。
(OPECxit: JPM, UBS React To UAE's Shock Departure From Oil Cartel)
サウジも、油田があるペルシャ湾内から紅海岸のヤンブまでの国内パイプラインがあり、ホルムズ海峡を迂回できる(こちらも産油能力の半分しか送れない)。
UAEと異なり、紅海に積み出したサウジ石油を運ぶタンカーは、紅海の入口にあるイエメン沖でフーシ派から攻撃される懸念がある。
フーシ派は、イランの傘下ということになっているが、最近はイスラエルと秘密裏に交渉している疑いがある。イスラエルは、イエメンの対岸にあるソマリランドに空軍基地を持っており、そこからフーシ派を攻撃できる。その状態をテコに、イスラエルはフーシ派を脅しつつたらし込んでいる可能性がある。
(Israel appoints first ambassador to Somaliland)
もともと、ソマリランドに空軍基地(空港)を作ってあげたのはUAEだ。イスラエルは、UAEと組んで中東の国際政治を操作している。
サウジがホルムズ海峡を避けて紅海から石油を輸出しても、イスラエルがフーシ派を動かしてタンカーに脅威を与え、サウジ石油の信頼性を再破壊できる。
サウジは、紅海から安全に石油を輸出するために、イスラエルの言いなりになるしかない。
(多極化後の中東の覇権争い)
世界の石油ガス分野は、かつての米英サウジOPEC覇権体制から、中国サウジ主導でロシアやイランも引き入れたOPECプラスの非米型・多極型の10年ほど(2013-23年あたり)を経て、今の米露印UAEなどイスラエル隠然支配(中国サウジの凋落)へと転換している。
中共主導の多極型世界は10年しか続かなかった。それとも、イスラエル隠然支配も10年で終わり、中共覇権が戻るとか、そういうことになるのか??。もしくは、イスラエルと中共が和解談合するとか。
(トランプの平和評議会はイスラエル覇権機関)
イスラエルはサウジをへこませた。それは確実性が高いが、対照的に、イスラエルがどのくらい中共をへこませているのかは、今のところよく見えない。
習近平が、イスラエルやトランプにものすごく譲歩して仲良しになってもらえば、中共はある程度の覇権を再獲得できるかもしれない。
その場合、日本が再びハシゴを外され、高市が早期に失脚し、自民党の中共傀儡派が復権することになる。かもしれない。
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