多極化の決定打になる中国とサウジの結託2023年1月6日 田中 宇
この記事は「中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める」の続きです。 昨年末からこのテーマばかり書いているが、これからの世界にとって最も重要なことは、世界の石油利権の大半を握るサウジアラビア主導のOPECとロシア(合わせてOPEC+)が、中国を盟主とする非米諸国を石油ガスの最重要な輸出先と考えるようになり、欧米など米国側諸国に石油ガスを売りたがらなくなったことだ。この構図は、昨春のウクライナ開戦で始まり、昨年末に中国の習近平がサウジを訪問し、集まった産油国などアラブ諸国の首脳たちの前で、石油ガスなど貿易の基軸の決済通貨を、これまでの米ドル(ペトロダラー体制)から人民元(ペトロ元体制)に変えようと提案したことで確定的になった。今後、米連銀のQE停止・QTと利上げの継続によって米国側の金融システムがバブル崩壊してドルの基軸性が喪失すると、ペトロダラーの終焉とペトロ元(ペトロユアン)への移行が不可逆な決定事項になる。 (The Era Of Cheap Oil Has Come To An End) 米欧は今後もずっとインフレが続くので、米連銀はQTと利上げの緊縮をやめそうな感じだけ醸しつつ、やめないでQTと利上げを続ける。緊縮をやめないのでドル崩壊はいずれ必ず起きる(早ければ今年)。ドル崩壊が不可避なので、サウジ主導のOPECは、すでに石油ガス決済の主力通貨をドルでなく人民元(など非ドル主要諸通貨と金地金の混合体制)に変えることを決めていると推測される。OPECは2019年にロシアと結託してOPEC+になったが、当時からロシアは米国に敵視されていた。OPECとロシアの結束は、昨春ウクライナ戦争で米欧がロシア敵視を急増し、ロシアと仲良くする国も敵とみなす態度を取り始めた後も続いている。サウジなどOPECは、米欧から敵視されても構わずにロシアと石油同盟を保っている。なぜなら、いずれドル崩壊によって米国側の覇権や強さは大幅に失われるので、もう米欧と仲良くする必要などないからだ。 (2022 in review: The year that broke US relations with OPEC+) 昨年末、習近平がやってきて「人民元建てで良ければ、OPECの石油ガスを中国側(一帯一路)で全部買うよ」と持ちかけた(すでに内定していることを公然化した)。これで石油ガスの売り先も決まった。もう、人権だカショギだと騒ぐ傲慢な米欧に抑圧・誹謗されても我慢して石油ガスを買ってもらう必要は全くない。ペトロダラーはすでに死に体だ。 (中露が誘う中東の非米化) 昨年末に習近平のサウジ訪問でペトロダラーからペトロ元への転換が公然化した後も、ドル建ての石油ガスの国際相場は上がっていない。むしろ下がる傾向だ。ウクライナ開戦後の夏に120ドルまで上がったWTI原油は75ドルまで下がってしまった。田中君、キミの言ったとおりに全然ならないよ、また妄想かい?・・・と性急な人々から言われそうだが、中露サウジが見ているのは短期やスポットの市場でない。世界の石油ガス貿易の多くは10-30年の長期契約だ。世界でいま使われている石油ガスのほとんどは、以前にペトロダラーの米覇権が隆々としていた時にドル建てで長期契約されたものだ。しばらくはこのままだ。 (Hedge Fund CIO: "My Best Guess Is That Something Like $300/Barrel Oil Eventually Ends This Cycle") しかし今後5-15年ぐらい経つうちに、それらの石油ガスは契約更新期に入る。欧米諸国が、以前と同じようにOPEC諸国と契約更新できると思っていると、OPEC側から、たとえば「うちの国に人権侵害のレッテルを貼るのをやめてもらえませんかね」とか「わが国のちんけな反政府団体をこっそり支援するのをやめていただけないと石油ガスを売りませんよ」などと言われる。欧米諸国が産油非米諸国に対する(インチキな)人権侵害のレッテル貼りをやめたがらずもたもたしていると「石油ガスは、めんどくさいことを言わない中国側に売ってしまいました。売り切れです」となる。などなど、米国側の諸国は中長期的に、しだいにOPECなど非米側から石油ガスを買いにくくなっていく。25年後には、ドルの基軸性が大幅に低下している。ドル建てで石油ガスを長期契約してくれる産油国は減っていく。 (Escobar: Xi Of Arabia & The PetroYuan Drive) 国際的なドルの通用性が悪くなっても、米国自身はエネルギー面であまり困らない。米国は、国内やカナダに大量の石油ガスを埋蔵し、十分自給できるからだ。カナダは経済的に米国から離反できない。米加は、今のところインチキな地球温暖化問題や短絡的な環境保護など愚策のせいで石油ガスの開発を抑制しているが、これもいずれ変わる。米国は覇権喪失後、(リベラルvs保守の内戦・内乱を乗り越えて)米州優先の孤立主義に戻って安定していく。 (Europe's Energy Crisis Is Just Getting Started) 米国側で石油ガスの入手に最も困るのは欧州だ。欧州の上層部は「隠れ多極主義」の米諜報界に入り込まれており、中露サウジ・非米諸国を敵視・服従させようとする傲慢で過激な覇権の振りかざしをやめられない。欧州と英国が自滅もしくは対米離反していくと、米国は心おきなく孤立主義・米州主義に移行して覇権を捨て、多極化を推進できる。だから米諜報界は欧州と英国に過激な策をとらせて自滅に追い込んでいる。欧州を支配しているエリート層は、自滅的だとわかっていても、ロシアを敵視してウクライナの詐欺師で人道犯罪者のゼレンスキーを支援し続けてしまう。 (Austrian Defense Minister Warns Europeans Are Unprepared For Coming Days-Long Blackouts) ウクライナ戦争の構図は、これから何年も続く可能性が高まっている。いずれ米国の覇権とドルの信用が決定的に喪失し、後ろ盾を失った欧州は、国際政治力が大幅に低下する。欧州は、非米側から石油ガスなど資源類を売ってもらえなくなってから、覇権主義の傲慢さをようやく捨てることになる。そのころには右派ポピュリストが台頭してエリート層の支配が崩れているかもしれない。その前に、欧州エリート支配層は権力にしがみつき、右派ポピュリストに「危険な反政府団体」のレッテルを貼って弾圧し、民主主義を捨てて独裁に移行していく。 (Clashes Between Kurds, Police in Paris Intensify, Police Use Stun Grenades) (Germany is now ‘total dictatorship’) すでにドイツ当局は昨年末に、国内の大したことない右翼団体が政権転覆を画策したと濡れ衣をかけて一斉検挙する大弾圧をやっている。欧州はすでに自由でもないし民主主義でもないが、マスコミは報じずに無視している。欧州人自身が気づいていなくても、非米諸国はそんな欧州をちゃんと見て、欧州の偽善を指摘するようになる。欧州では最近、違法移民の反乱もどんどん激化しており、以前の優雅な繁栄や「正しさ」は見る影もなく、衰退した地域になりつつある。石油ガス不足が欧州の衰退に拍車をかける。 (The “Coup” in Germany) (The EU's Embargo On Russian Oil Will Be A Boon For OPEC) 超愚策にとらわれている欧州と異なり、日本や韓国はもう少し現実的で、ドル崩壊まで表向きの対米従属を維持しながら、台頭する中国とこっそり親しくして、ロシアともなんとか関係を維持しつつ、将来のエネルギー源を確保している。日本では、マスコミと軽信者たちが間抜けに中露敵視を続け、サウジに対しても人権侵害の独裁国みたいな言い方をして天につばしている。だが権力を握る自民党は現実路線を堅持し、日本経済の維持に必要な中露との協調関係を保っている。日露は表向き敵対感があるが、日本が持っているサハリンのガス田の利権は失われていない。 上記は何度も書いている話だが、今年も来年もその先も、この件が人類と日本人にとって最も重要な話であり続ける。今後も何度も書くことになる。
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