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アルメニアを捨てアゼルバイジャンと組んだイスラエル
2025年1月26日
田中 宇
イスラエルが、カスピ海岸の旧ソ連なアゼルバイジャン(短縮名アゼリ)との関係を緊密化している。1991年にソ連から独立したアゼリは新生の小さな国だが、石油や天然ガスを産出するので、国際的な軍事外交経済の全面でイスラエルによって押し上げられて台頭し始めている。
押し上げ策の動機はエネルギー確保だ。イスラエルが輸入する石油の60%がアゼリからだ。アゼリは国民の9割がイスラム教徒(ほとんどシーア派)だが、イスラエルがガザでイスラム教徒を虐殺しても、石油輸出を止めずに続けている。
(Azerbaijan Signaled That It Might Be Preparing Its Own Special Operation Against Armenia)
イスラエルは石油を買う代わりに、アゼリに軍備や諜報を輸出している。米諜報界から情報取り放題で、世界最高の軍事諜報力を持つイスラエルは、アゼリが必要とする軍事情報も流している。
アゼリは強くなり、西隣のアルメニアと続けてきたナゴルノカラバフ戦争で以前の劣勢を全面的に覆して優勢になり、アルメニアを大幅に譲歩させた。
イスラエルは以前、米国がイスラム敵視のテロ戦争をやっていた時代(2001-2020年ぐらい)には今と逆に、アルメニアが、イスラム教系の国であるアゼリを戦争で譲歩させるのを支援していた。
(Baku, Yerevan close to final agreement on peace treaty - Aliyev)
(コーカサスで和平が進む意味)
当時、ナゴルノカラバフを占領するアルメニア人は、西岸を占領するユダヤ人と同じ戦略をとり、アゼリ領内に入植地を拡大していく策を採っていた。イスラエル(モサド)がやり方を教えていたと考えられる(西岸もカラバフも、米国からの帰還者=移住者が入植を主導していた)。
2022年2月のウクライナ開戦で、世界が米覇権から多極型に転換する流れが決定的になり、米単独覇権を前提にしていたテロ戦争の時代が完全に終わった。
(Azerbaijan–Israel relations - Wikipedia)
イスラエルはそれ以前、2016年からアゼリと親しくしており、ウクライナ開戦後に親密度を増した。(2016年は、シリア内戦を機に中東で、米国代わってロシアやトルコ、イランの影響力が増し、中東の北にある露トルコ・イランにはさまれたコーカサスでも動きがあった。トランプ登場も関係している)
イスラエルは、アルメニアを見捨ててアゼリ支援に鞍替えした。アルメニアは2023年、ナゴルノカラバフをアゼリ領と認めてアルメニア系の住民をアルメニア本土に移住させる劇的な策をとり、譲歩を重ねてアゼリと和解せざるを得なくなった。
カラバフで勝っていたアルメニアが、理由も不明確なまま突然に総撤退したので世界は驚いた。この裏にイスラエルの鞍替えがあったと考えられる。
(US push for Azerbaijan, Turkey to make peace with Armenia an uphill battle)
イスラエルの国際関係は幻影が多く、裏があるものばかりだ。見かけと本質が正反対だったりする。全容が見えてくると、意外とワンパターンて見抜きやすい。トルコとの関係もそうだ。
アゼリの石油は、トルコを通るパイプラインでイスラエルに輸出されている。トルコのエルドアン政権は、ガザで虐殺を続けるイスラエルを非難しているが、石油の動きを止めていない。その理由は、アゼリ人がトルコ系の民族で、アゼルバイジャンはトルコの仲間・弟分の国だからだ。
アゼリの台頭は、トルコの影響圏拡大である。トルコは、表向きイスラムの大義のために人道犯罪国イスラエルを非難しているが、裏では、弟分のアゼリをテコ入れして押し上げてくれるイスラエルを、ひそかに歓迎している。
('May Be New Beginning': What Could Come From Turkiye Severing Relations With Israel)
(こっそりイスラエルを助けるアラブやトルコ)
昨年末、アゼルバイジャン航空の旅客機がウクライナからの無人機(?)と誤認され露軍の防空システムに撃墜されたと考えられる墜落事件が起きた。プーチンは謝罪したがアリエフは激怒し、アゼリはロシアに愛想を尽かした(親欧米に転換した)、などと報じられた。
これも、台頭したアゼリが、イスラエルみたいに幻影を放ち、表裏のある強気を見せている感じが出ている。アゼリの親露は変わらない。プーチンも政治幻影の投影が得意だ。2期目のトランプも。
(Will Russia's Alleged Downing Of Azerbaijan Airlines Flight Overturn The Great Game Board In The Caucasus?)
アゼリの南にはイランがある。イランは国民の25%(2000万人?)がアゼリ民族だ(アゼルバイジャンの人口は820万)。地理的にも、アゼルバイジャン(北アゼリ)より、イランの東西アザルバイジャン州(南アゼリ)の方が広い。イラン最高指導者ハメネイはアゼリ人だ。北アゼリは、19世紀にロシア帝国がイラン(ペルシャ帝国)から奪って編入した。
2016年からイスラエルがアゼリへのテコ入れを開始した後、アゼリとイランの関係が悪化した。イスラエルはアゼリと組むことで、イランを挟み撃ちにしている。
(The Azerbaijani President Reaffirmed His Country’s Alliance With Russia)
アゼリは国土の一部として、アルメニアの向こう側のナヒチェバン自治共和国を持っている。敵国アルメニアを通れない従来の状況下で、アゼリ本土からナヒチェバンに行くには、イランを通らねばならない。
だからアゼリはイランとの関係悪化を放置できず、関係改善もやっている。イランは、米国がトランプ返り咲きの過程に入る前の2023年夏までは、シリアとレバンのを傘下に入れて強かったが、それ以降はトランプと組んだイスラエルが猛烈に台頭してイランを押しのけた。
(ヒズボラやイランの負け)
今やイランはシリアとレバノンを失い、イスラエルに譲歩して和解していかざるを得なくなっている。
露イランが米イスラエルと和解していく流れの中で、アゼリは、すでにイスラエルと事実上の同盟関係にあり、イランとも親戚関係だ。アゼリは有利な位置にいる。
イランは先日ロシアと新たな戦略協定を結んだが、これは今後の多極型世界の中で、イランがロシアと組み、米イスラエルのトランプ連合と、目くらましを発しつつ和解していく流れを示している。(プーチンは前からイスラエルと親しい)
(Turkiye Rejects Reports of Contact With Israel, Calls Claims 'Unfounded')
アゼリの有利さの最近の発露の一つは昨年、産油国なのに地球温暖化対策の国連会議(COP29。パリ条約会議)の開催国をやったことだ。
近年のCOP(など国連全体)は中国主導の非米側が握っている。非米側は、すでに世界の石油ガス利権の過半を握っており、COPなど温暖化対策を扇動するほど、さらに欧米に石油ガス利権を手放させ、非米側に利権が移転してくる。
(地球温暖化問題は超間抜け)
非米側は、温暖化対策(石油ガス削減)をやるふりだけして実際はやらない。温暖化問題は、欧米の自滅と非米側の台頭を進める隠れ多極主義の策だ。
(米国はトランプになって、この謀略構造から離脱した。トランプのパリ条約離脱は米国を救う良策。自滅するのは欧州だけ。日本はいないふり。左翼は黙っててほしい)
非米側では、産油国がCOPの主催国となることで、欧米のNGOなどが非米側に石油ガス開発をやめろと加圧してくるのを禁止している。2023年はUAEがCOP28を主催し、昨年はアゼリがやった。今年のCOP30主催国ブラジルは、非米大国だけど左翼政権なので違う方向でやりそうだが。
(Global South's Energy Rebellion At COP29 Signals A New Future)
(Contentious And 'Bitter' COP29 Summit Ends With Nearly 200 Countries Agreeing To Climate Finance Deal)
アゼリが属するコーカサス地域は、ロシア、イラン、トルコ、カスピ海、黒海にはさまれた地域で、アゼリとアルメニアとグルジア(ジョージア)という旧ソ連な3つの小国群がある。冷戦後、独立したアゼリとアルメニアは、両国の間にあるナゴルノカラバフ地域の帰属をめぐって戦争を続け、鋭く対立してきた。
もともとイスラエルは、コーカサスの中ではアルメニアと親しかった。イスラエル(ユダヤ人)とアルメニアは、古代からの関係だ。
アルメニア人もユダヤ人も、中東出身の離散民族・ディアスポラだ。アルメニアは紀元前14-5世紀に中東とコーカサスに帝国を持っていたが、帝国が衰退した後、旧版図の各地にアルメニア人が離散して住み、その国際ネットワークを使って商業を営んできた。
古くからアルメニア商人とユダヤ商人は、扱う分野を棲み分けして協調してきた。中東の中心地だったエルサレムの旧市街には、ユダヤ人地区とアルメニア人地区が並んでいる。
(Destabilization of the South Caucasus: What’s Behind the US-Armenia Strategic Partnership?)
離散民族であるアルメニア人は、ユダヤ人同様、近代の初めから米国にも移住していた。ユダヤ人は1948年にイスラエルを建国し、アラブ諸国との中東戦争に勝つために得意の諜報力を駆使して米政界に入り込み、米国を牛耳った(諜報界でロックフェラー系と組み、英国系と張り合った)。
1990年のソ連崩壊でアルメニアが建国されると、イスラエルはアルメニアを支援した。諜報力と資金を与えられた米国からのディアスポラがナゴルノカラバフに入植し、そこから首都エレバンの政界に流入してアルメニア全体を支配した。米国からの帰還組が西岸に入植して政界を牛耳ったイスラエルと同じだった。
(ナゴルノカラバフ紛争の終わり)
イスラエルが「ホロコースト」を使って国際的な政敵を潰したように、アルメニアは第一次大戦でのトルコ帝国による「アルメニア人虐殺」を使って国際的な政敵であるトルコに食ってかかった。
アルメニア人虐殺のひどさを喧伝する主導役は、米国に住むアルメニア系ディアスポラたちだ。米国でユダヤ系がアルメニア系に、ホロコースト流の政敵攻撃のやり方を手ほどきしたのだろう。
イスラエルにとって、トルコは敵でないもののライバルだった。イスラエルは、アルメニアを使ってトルコを国際的に政治攻撃させて弱める策をやっていた。(イスラエルは、トルコからの分離独立を希求するクルド人も支援していた)
(ナゴルノカラバフで米軍産が起こす戦争を終わらせる露イラン)
しかし世界が多極型に転換した今や、こうした構図は過去のものだ(入植者のイスラエル支配以外)。
イスラエルは、アラブでもイランでもない、中東内部の勢力争いから離れた産油国であるアゼリと戦略提携し、エネルギーを安定的に確保した。
アゼリの独裁的な二世(親子世襲)の大統領であるアリエフは、アルメニアをへこましてほしいとイスラエルに頼んだ。
イスラエルは、それまでアルメニアをテコ入れしていた構図を逆回しし、アルメニアの有能なパシニャン首相を加圧・手ほどきして、ナゴルノ・カラバフ戦争を、アルメニア譲歩・アゼリ勝利で終結させた。
(Armenia recognizes Palestinian state, Israel furious, summons ambassador)
アゼリからイスラエルへの安定供給には、パイプラインの通過国であるトルコの協力と、グルジアの安定も必要だ。ガザ開戦後、トルコとイスラエルの関係は悪化したように見えるが、すでに書いたように、裏から見るとそうでない。
グルジアは、ロシアがプーチンになって安定し始めた2002年以来、欧米にテコ入れされたロシア敵視の勢力と、それに対抗する親ロシアな勢力が政争し続け、不安定だった。
だが近年は、欧米傀儡で露敵視なウクライナが負けて潰れていくのを見て、グルジアでは親露勢力が強まっている。隠れ親露なトランプが米国を握った今後は、この傾向がさらに強まり、グルジアは親露で安定していく。
(Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline - Wikipedia)
(US, UK Sanction Georgia's 'Kremlin Friendly' Government)
この地域はかつてユダヤ教を信奉するハザール汗国があったとされ、歴史的にユダヤ人が多かった。欧米傀儡で露敵視な政権を作るカラー革命に、地元と米欧のユダヤ系の政治家や知識人が関与しても不思議でない。ゼレンスキーもソロスもユダヤ系だ。
だが半面、プーチンはユダヤ系を重用し、イスラエルと親しい。ユダヤ系は多くの場合、政争の両側にいる。イスラエルは、自国の都合に合わせてテコ入れする側を変えられる(だからプーチンもトランプもMbSも寄ってくる)。
(Ukraine’s Disastrous Policy Towards Donbass Taught Georgia The Importance Of Reconciliation)
(The West Is Ramping Up Its Regime Change Campaign In Georgia)
イスラエルが関与する話として、このあとイエメン、ソマリランド、サウジなどについて書こうとしていたが、長くなったのでここでいったん切って配信する。
すべてユダヤ人の謀略なのか。あんたもユダヤ陰謀論ですか。などと言われそうだが、同時に言えるのは、裏に何もないはずがないということ。裏があっても露呈しないのも確かだ。謀略があるとしたら、こんな感じだろうということを書いてみました。
(中東全体解決の進展)
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