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中東全体解決の進展
2024年11月17日
田中 宇
これは「中東全体解決の試み」の続きです。
3日前に書いた、イスラエルとヒズボラ(レバノン)の停戦を軸にした中東全体解決の試みが、さらに進展している。ロシアとイランが、停戦や和解の交渉の中に招き入れられている。
イスラエルは(米国でなく)ロシアが停戦仲裁役の中心になるのが良いと考え始めている。イスラエルは、イラン、シリア、ヒズボラのイラン系3勢力を譲歩させて、停戦や安定化(冷たい和平体制の構築)を実現したい。米国はイラン・シリア・ヒズボラのすべてを敵視してきたので交渉や対話のパイプがない。対照的に、ロシアは3勢力のすべてと仲良くしてきたので、簡単に交渉の仲裁役になれる。
(Israel looks to strike deal with Russia to crush Hezbollah and bring peace to Lebanon)
(At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East)
米国は、ウクライナ戦争などでロシアを敵視している。米国とロシアが仲良く一緒に仲裁役をやるのは不可能だ。どちらかを選ぶ場合、イスラエルは米国ととても親密なので、常識的には仲裁役を米国に頼むしかない。
だが米国は、イラン系と敵対しており仲裁役に向かないし、中東覇権も衰退する一方だ。米国が失った中東覇権のかなりの部分(とくにイラン系との関係)がロシアに移っている。
イスラエルは親米だが、日独など「米傀儡」の諸国と正反対に、イスラエルが米国を傀儡化して牛耳っている。日独がロシアと親しくしたら米国から非難懲罰されるが、イスラエルは好き勝手にやれる。イスラエルは、ロシアと米国が別々に中東全体解決を仲裁するようにしたい。
イスラエルは、ロシアが米国を押しのけて中東の主な仲裁役になるようにいざなっている。イスラエルは以前から、目立たないようにしつつロシアと親密だ。
(米国に頼れずロシアと組むイスラエル)
(ロシアの中東覇権を好むイスラエル)
ドナルド・トランプは一期目に、イランを猛烈に敵視していた。トランプがイスラエルのためにイランと交渉することは考えにくかった。しかし今、トランプの側近になったイーロン・マスクが、イランの事実上の在米代表であるイラバニ国連大使と非公式に会った、という報道が出てきている。
トランプはネタニヤフに頼まれ、マスクを派遣してイラバニに会わせたのでないか。トランプは、マスクの独自な考察や発想を高く評価し、それを自政権の戦略に活かしたいと考え、マスクを各種の会合に同席させたり派遣し、見聞させて発想を抽出している。
(Elon Musk Met With Iran’s U.N. Ambassador, Iranian Officials Say)
マスクはイラバニに緊張緩和を提案し、イラバニはマスクに米政府による経済制裁の解除を条件として出したとされる。米国が制裁を解除したら、イランはヒズボラやシリアに根回ししてイスラエルとの停戦を実現しても良いという話にも思える。
その後イラン外務省が、イラバニはマスクと会っていない、報道は間違いだと全否定した。イランもトランプもイスラエルも、交渉が成立するまでは敵どうしを演じたいのだろう。
(Iranian officials deny meeting with Elon Musk)
(Iran denies envoy met with Musk)
イランは2011年からのシリア内戦に参加し、シリア経由でレバノンに兵器を送り、ヒズボラにイスラエルを攻撃させてきた。この13年間で、イランの影響力がかなり拡大した。
イスラエルは今回の猛攻撃でそれをすべて巻き戻し、ヒズボラを無力化し、レバノンとシリアをイランの傘下からアラブトルコ側に付け替えて、イランの影響圏を縮小したい。その上でイスラエルはイラン系と(冷たい)和平の関係を構築し、米覇権衰退後の中東を生き延びたい。
イスラエルは最近、米軍も巻き込んで、シリアのイラン系勢力の拠点や兵器流通路を空爆している。イスラム主義系のオルトメディアは、米イスラエルがシリア内戦を再燃させようとしていると喧伝し、私も一時はその見方を鵜呑みにした。
(シリア内戦の再燃?)
(厚顔無恥なイスラエルの成功)
実際は違っていて、イスラエルはイランの影響圏を縮小し、最終的に冷たい和平関係を構築するために、シリアのイラン系拠点を破壊している。
トランプは、自分の政権になったら米国の戦争関与を減らしていく。シリアのイラン系拠点の破壊は1月20日の大統領就任式より前に終わらせ、停戦に持ち込みたい。イスラエル軍だけでは間に合わないので、米軍も一緒になってシリアを空爆している。
シリア内戦でアサド政権を支援してきたロシア軍は、シリアに基地を置き、シリア領空内に飛んできたミサイルを迎撃する新型システムを配備している。ロシアは、米イスラエルの空爆を迎撃して阻止できるが、それをやらずに沈黙している。ロシアは(パレスチナ抹消を含む)イスラエルの計画を容認している。
(Israel Said Seeking Lebanon Ceasefire By January As 'Gift' To Trump)
イランは、シリアやレバノンでの影響力を完全に削がれるかといえば、そうでもない。政治力もあるシーア派のヒズボラは、今後もイランに忠誠心を持ち続ける。レバノンの暫定首相が最近、イランに対し、ヒズボラとイスラエルの停戦を仲裁してほしいと要請した。今後イランとイスラエルが交渉するかもしれない。
中東の敵対構造が崩れ、これまでなかった種類の交渉が始まっている。もともと中東を敵対だらけにしたのは大英帝国で、覇権維持のためスンニ対シーアなど諸国間の対立を扇動・固定化してきた。英米覇権がなくなる今後、中東の対立構造が解消されていくのは自然な流れだ。
(Lebanese leader asks Iran to help secure a ceasefire between Hezbollah and Israel)
米国はバイデン政権時代(認知症やハリス無能の問題もあり)、露イラン北など敵性諸国との対話を拒否し、傀儡の同盟諸国も敵方との話し合いを禁止されてきた。その結果、敵方の非米諸国どうしがBRICSなどで結束し、トルコ印度サウジなど、親米だが対米自立できる諸国も国益重視で非米側と協調を強め、米覇権衰退と多極化に拍車がかかった。
今後、トランプが大統領になり、非米側の首脳たちと会談する外交に大転換する可能性がある。トランプは1期目に、金正恩と会い続けたり、習近平をマーラゴに呼ぶなど劇的な首脳外交を好んだ。トランプの個性から考えて、2期目も似たようなことをやりたいはずだ。
だが、トランプは覇権放棄屋でもある。首脳外交を展開して米覇権が蘇生するのは望むところでない。
(How Trump can navigate the new multi-polar world)
首脳外交と逆の、面談拒否による覇権放棄策を早々にぶちかまされたのが、石破茂の日本だ。石破は、トランプに会談を要請して断られて呆然としているところに、習近平から会談を要請されて会い、冷えていた日中関係の立て直しを受動的に実現した。
米国から見捨てられた日本を、中国がすくい取った。まるで、トランプと習近平が裏で連絡を取り合い、日本(や韓国)を米国の傘下から押し出して中国の側に取り込んだかのような多極化策だ。
中共は、トランプの動きを把握し、自国の優勢のために使っている。日本は、わけがわからないうちに転がされている。日本と同じく米傀儡のドイツも、国力を浪費してウクライナ加担・ロシア敵視をやらされた挙げ句、無自覚なまま国家崩壊している。傀儡国は自業自得に哀れで大馬鹿だ。
親米諸国の中でも、対米自立しているイスラエルやトルコやサウジや印度は、多極化する世界の中を何とかうまく泳ぎ渡っている。
(Europe Will Draw The Short Straw In The Next Trade War)
いや実のところ、ドイツは悲惨だが、日本はそうでもない。わけがわからないうちに転がされて、結果的にいま必要な多極化対応ができている日本は(大きな力に動かされて救われる)他力本願でうまくいっている。それはそれで意外と良い。日本っぽい。
極を目指さない国、多極化に気づかない人々の幸せ。トランプと習近平という2大本尊を拝まなきゃ。南無多極遍照。世界の隅々を発展させる偉大な多極化。ありがたや。
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