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イスラエル世界覇権の可能性
2026年5月3日
田中 宇
米国とイランが相互に海上封鎖を続け、ペルシャ湾岸諸国から世界への石油ガス輸出の多くが止まったままになっている。米イスラエルとイランとの戦闘は止まっているが、石油ガスは出てこない。
トランプ米大統領は、イランが十分に譲歩しない限り、イランの石油ガス輸出を阻止する海上封鎖し続けると言っている。イランは何度か和解案を出したが、トランプは不十分だと拒否している。
(Trump braces for long Hormuz blockade, IDF strikes Hezbollah launcher inside civilian building)
トランプの背後にいるイスラエル(リクード系)は、好戦的なイランの現政権(革命防衛隊)が潰れない限り終戦にしない。防衛隊は、自分たちが延命するための和解案を米国に出している。米イスラエルは永久に和解案を受け入れない。
イランは石油ガスを輸出できず、経済が悪化し続けている。人々の困窮がひどくなるだけでなく、政府も財政破綻していく。だが軍事的、経済的に弱体化しても政権そのものは潰れない。防衛隊にとって、窮乏や弱体化は、潰されるよりましだ。
米イスラエルは、イランの現政権を潰すのでなく、軍事的、経済的に弱体化してイスラエルの脅威でない状態にした上でずっと残す策略として、現状を意図的に維持しているように見える。
(Iran war cannot end with Revolutionary Guards still in control)
米イスラエルは、イランの前権力者ハメネイ師ら50人以上の重要人物をピンポイントで殺害するなど、非常に高い軍事諜報力を持っている。
イランは、すでに大型兵器のほとんどを破壊され、軍事的に弱体化していると考えられる。イランはもうイスラエルにとって脅威でない。だから、戦闘が止まっている(目くらましの報道が流布し、みんなイランがまだ強いと勘違いしている)。
(イラン強硬派政権を弱めた上で永続させる?)
ペルシャ湾の石油ガスは、世界のエネルギー需要の2-3割を満たしていた。それが急に来なくなって事態が長期化したら、世界経済が崩壊し、トランプの共和党が今秋の中間選挙で惨敗するなどの責任をとらされる。
それを避けたいトランプはホルムズ海峡を再開するため、近いうちにイランと和解するはずだ。最近まで、みんなそう考えてきた。だが、トランプは強硬姿勢を変えていない。
(ホルムズ閉鎖を放置するトランプ)
米大統領は、60日間以内なら議会に諮らず勝手に戦争して良いことになっている。イラン戦争は、5月1日に開戦から60日目を迎えた。
米議会がトランプに「釈明しろ」と言い出したが、トランプは「戦闘が止まっているので期限になってない」と突っぱね、現状を長期化する姿勢を見せている。イスラエルは米議会に対して絶大な影響力を持っており、議会は現状を容認しそうだ。
(Trump Issues Letter Rejecting Congressional Oversight For War, Citing Ceasefire Has 'Terminated' Hostilities)
トランプとイスラエルは、ホルムズ海峡の閉鎖を長期化することで、何がしたいのか??。私の仮説は「英国系と中共を押しのけたイスラエル世界覇権の確立」だ。
イスラエルは911以来の入り込みによって米諜報界を握っており、その諜報力を活用して、かつて米諜報界を握っていた英国系を衰弱させ、ウクライナ戦争で英国系を潰してくれるロシアを味方につけている。
米国の選挙も、諜報力によって結果を左右できる。民主党はお門違いな動きをさせられ、トランプの共和党は中間選挙で負けない。
(断続的に続くイラン戦争)
ペルシャ湾の石油ガスが出ないことの悪影響は、世界経済をまんべんなく潰すのでなく、イスラエルにとって不都合な諸勢力を選択的に潰していく。選択的に潰す対象は、諜報界のライバルだった英国系の英独仏EUと、放置するとイランを再支援しかねない中国だろう。
(イラン戦争は英国系潰し、グローバリズムの破断策)
ホルムズ閉鎖は日本にも打撃だが、トランプとイスラエル(リクード系)は、昨年から日本を高市化(右傾化)し、中共から恒久自立できる(中国とは別の極になる)国にしようとしている。トランプは日本への打撃を埋めるために、米国の石油ガスを日本に送っている。
日本のマスコミや官僚機構(外務省)はトランプ敵視の英傀儡なので「米国は日本に石油ガスを高く売りつけて搾取する」「米イスラエルは日本を中国と戦わせた上でハシゴを外す」と喧伝しているが、実際は逆だ。
トランプとリクード系は日本を強化する。日本は、今までのように弱いままだと中共に取り込まれて傀儡になってしまう(高市以前、日本外務省はそれを模索していた)。
(日本が高市化した意味)
従来の米覇権は英国系が支配し、対米従属の日本は英傀儡だった。英国系はリクード系やトランプに押されて弱体化したため、しだいに中共にすり寄り、英国系から頼まれた中共がイスラエルに対抗し始めた。
英国系の中共すり寄りとともに、英傀儡の日本も、外務省などを筆頭に、中共にすり寄るようになった。この傾向は昨年、トランプとリクード系に支援された高市政権の開始とともに断絶し、日本は英国系と中共の傀儡から、トランプとリクード系の傀儡に転換した。
今後、イスラエルの世界覇権が強まるとともに、日本が強化され、中共はへこまされるか、少なくとも監視対象にされる状態が続く(英国系の豪州なども監視されている)。
リクード系は、日本以外にも、ロシア、印度、トルコなどを強くする。中国包囲網が再強化され、インドネシア、ベトナム、モンゴル、カザフスタンなどが中国包囲網としてリクード系にテコ入れされる。
(トランプの平和評議会はイスラエル覇権機関)
(隠れ多極主義の影響があったこれまでの中国包囲網は、中共を自立した地域覇権国にするための隠れ親中的な強化策な面があった。イスラエルは中国を弱体化したいので、中国包囲網の性格が変わる。具体的にどうなるのか、まだ見えないが)
(イスラエルと中国の暗闘)
リクード系による英欧潰しも続く。現在、ホルムズ閉鎖によるエネルギー不足の悪影響を最も強く受けているのは(英傀儡の)ドイツだ。ドイツなど英EUの西欧諸国は、以前から自滅策である地球温暖化対策によっても、石油ガスを忌避して使い物にならない自然エネルギーへの依存を強めた。
ウクライナ戦争のロシア敵視でも、安いロシアからの石油ガス輸入を自ら止める超愚策を続けている。今回はさらに、ホルムズ閉鎖による石油ガス不足が追い打ちをかける。
ウクライナ戦争はずっと続く。英欧が完全に潰れ、独仏がAfDやルペンらの、英国系とリベラルを嫌う右派政党になるまで続く。
中国は、以前から経済が悪化しているが、今回のホルムズ閉鎖で超安価(国際相場の7分の1とか)なイラン原油が止まったため、経済悪化が加速している。
(UAEのOPEC離脱、サウジ中共の急落)
プーチンのロシアはイスラエルにとって信頼できる。プーチンは、イスラエルの覇権拡大策だったアサド転覆やアゼルバイジャン取り込みに協力した「いい子」だ。
対照的に、イスラエルにとって中共は信用できない。これから10年ぐらい監視して様子を見る。プーチンはリクード系の謀略を早期から知らされていた観がある。習近平はそうでない。
(中東に再招待されるロシア)
だが、習近平が今のようにおとなしく「いい子」にし続けていたら、リクード系は「ごほうび」として中共に朝鮮半島の和平を与えるかもしれない(ユダヤ人はとても「上から目線」だ)。
トランプは、多極化と米州主義化に沿って、在韓米軍を撤退したい(高市化した日本はしばらく面倒見る)。その流れで、韓国と北朝鮮の対立を解消しうる。
トランプがこっそり組んでいるプーチンは、北朝鮮をテコ入れして強くした(金正恩は大感謝で、露朝結束の象徴として平壌にクルスク戦線博物館を新設した)。
(非米側の防人になった北朝鮮)
(Kim Jong Un Opens Museum Commemorating Troops Killed Fighting For Russia, Blasts US 'Hegemony')
プーチンは習近平との良好に関係も維持しており、隠然対立するイスラエル(トランプ)と中共の両方とつながっている。
トランプとプーチンは習近平が協力すれば、北朝鮮と韓国を和解させられる。トランプはすでに韓国を米諜報界の諜報供給先から外し始めている。
諜報は軍事的なちからとして最も大事だ。韓国が和解に反対しても無駄だ。諜報を切られると、韓国は軍事的に弱まって北朝鮮と和解せざるを得ない。
(US limits intelligence sharing with Asian ally)
中共は米イスラエルに監視され、覇権活動を自重せざるを得ない。中共が主導していたBRICSは機能低下になる。すでに習近平は昨年のBRICSブラジルサミットを完全に欠席した。プーチンは動画でオンライン参加したが、習近平はそれすらしなかった。昨年から監視され、自重している。
イスラエル世界覇権下では、中共よりもロシア、英欧よりもロシア、英欧よりもトルコ、中共よりも日本、中共よりも印度、ブラジルよりアルゼンチンが優勢になる。
アルゼンチンの右派のミレイ大統領は、イラン戦争が一段落するとすぐイスラエルを訪問して大歓迎された。リクード系にテコ入れされたアルゼンチンはいずれ、英国が占領しているフォークランド諸島(マルビナス)を奪還し、英国に屈辱を与える。
中南米は左翼政権が潰れていく。キューバも時間の問題だ。いずれブラジルの政権も、左派のルーラから右派のボルソナロ(もしくはその弟子たち)に戻る。
(If The British Lose The Falkland Islands It Will Be Their Own Fault)
米国は(日本にもやらせつつ)台湾問題に介入して中共と対立し続ける。中共にとって台湾は「国内問題」なので外国からの介入は絶対許せないはずだが、どうするか。中共がどう反応するか、が監視点の一つになるかもしれない。
(Hormuz, Taiwan, and the Case for Australia-Japan Security Cooperation)
イスラエルもトランプも人道犯罪者のくせに、何言ってんだ。中共の方がましだ。イスラエル覇権なんてけしからん、と言いたい人は言えば良い。
言っても何も変わらない。国家群のちからが増加し、個人や市民団体のちからは低下している。
イスラエルとトランプは、意図的に人道犯罪の極悪戦略をやっている。極悪だけど強い。
国家群の為政者たちは、リクード系の政権転覆能力を知っているので黙って極悪を容認する。
(英国系からリクード系に変わる世界)
多極型世界において、中東はイスラエル、イラン、サウジアラビア、トルコの4極体制になるはずだった。イスラエルはそれを破壊し、イランを弱体化した。
イランにホルムズ閉鎖を続けさせることで、サウジは弱体化し、イスラエルの言いなりになる。サウジが盟主をつとめていたアラブ諸国は丸ごとイスラエル覇権下になったともいえる。
(イスラエルは中東4極体制で満足なのか?)
トルコは、リクード系がロシアを加圧してコーカサスと中央アジアへの影響力を減じさせ、その分がトルコのものになったので満足し、イスラエルの傘下に入った(表向きは喧嘩し続ける英仏的な関係)。
中東はイスラエル一強になった。トルコがイスラエル覇権の一部になったことを加味すると、コーカサスもイスラエル覇権下だ。かつて英国が支配していたギリシャやキプロス、スーダンなどアフリカもイスラエル覇権下になりつつある。
▼ここからは歴史
イスラエルが米諜報界を牛耳れたのは、米国のロックフェラー系などの隠れ多極主義者たち(多極派)だった。多極派は、かつて国連安保理の多極型体制を作って「覇権の機関化」を目指したが、旧覇権国の英国に冷戦を起こされて多極型を破壊され、英国系が作った米諜報界に覇権運営を奪われた。
隠れ多極派のニクソンやレーガンが冷戦体制を崩していったが、英国系は冷戦終結後も米諜報界と覇権運営を握ったまま、NATO拡大など中露敵視体制を維持し、新たにイスラム世界との新冷戦(文明の衝突)も画策した。
多極派は、文明の衝突策を逆手に取って、イスラエルの新興勢力となったリクード系(西岸ガザの入植者。多くが米国出身で諜報関係者も多い)に911事件を起こさせ、それを皮切りにリクード系が既存の英国系を追い出して米諜報界を乗っ取る動きが始まった。
911事件は、もともと英国系がやるつもりだったアフガニスタン侵攻(新冷戦としての恒久的なテロ戦争)にかぶせる形のクーデターとして起こされ、英国系のテロ戦争をリクード系が乗っ取って過激化した。
(イスラエルは、もともと英国系でリベラル派の労働党が支配していたが、米国を乗っ取ったリクード系が強くなって労働党はなくなった。今夏の選挙でリクードが負けて「右派リベラル」のベネット元首相らの新党ベヤハトが勝ったとしても、それは英国系の復活でなく、二大政党制の体裁を再生するためで、イスラエルの覇権拡大は変わらない。リクードの野党化があり得るので、私はこれまで「リクード系」と呼んでいたのを、今後は「イスラエル」に変えたり、混在することにした)
(Bennett unveils ‘Israeli Renaissance’ plan, says alliance will replace Netanyahu)
リクード系は多極派の下請けとして米諜報界を握り、イスラエルが望むサダム・フセイン潰しも兼ねたイラク戦争など、テロ戦争を過激に稚拙に進めて米覇権を浪費して自滅させる策を繰り返した。
911の半年前にロシアがプーチン政権になり、中露が国境紛争を全面解決して結束し、多極型世界の構築の第一歩となった上海協力機構を作った。
2008年には、金融面の米覇権自滅策(ドルと債券金融システムの崩壊)であるリーマン倒産も引き起こされた。中露は、ドル崩壊後の多極型世界経済を見越してBRICSサミットを開始した。(金融界が、米連銀など中央銀行群にQEをやらせたためドルは延命した)
2022年には、英国系のロシア敵視を逆手に取って、リクード系と多極派がロシア敵視のふりをして英国系を自滅させるウクライナ戦争の構図を作った。英国や独仏EUの自滅は決定的になった。
世界は米国(英国系)側と非米側に分裂した。2025年から米国はトランプが返り咲いて英国系への敵対やプーチンとの隠然結束など、米国が非米化(非英化)し始めた。非米側が世界の中心になり、その中心は多極型のBRICSを主導する中共の習近平だった。英国系を潰して世界を多極化する多極派の策略は成功した。
だが、多極化の完成は、リクード系が多極派の事業を「下請け」する911(もしくはラビン暗殺)以来の契約の満了でもあった(関係者の多くは「契約の民」だ)。
イラクだけでなくイランも無力化するのが、911以来のリクード系の条件だった。それも今回満了した。
契約満了後、リクード系が米諜報界(によって動かせる米覇権)を使って何をやるかは、リクード系の自由だった。
リクード系は、米諜報界と、返り咲かせたトランプを使って、多極型世界の均衡を破壊してイスラエルを強化し、ドル崩壊で崩れることになっていた米覇権を、米連銀(FRB)の自立性(英傀儡性)を破壊してトランプ傀儡にして裏資金を注入させることで金融面から延命している。
リクード系は、米国の諜報界だけでなく、ボロボロな米金融システムを居抜きで乗っ取って延命させ、多極型世界を認めつつ、隠然盟主だった中共をへこませて、イスラエル覇権として仕立て直そうとしている
多極派とリクード系の関係については別の見方もできる。近年、英国系が中共に背乗りして、中共が英国系の意を受けて世界を支配する体制に変質させようとしたので、多極派が対抗策として、リクード系に覇権をとらせて中共に対抗させているとか。
多極派は「中共ラブ」な人々だ。英国系に騙された毛沢東が文化大革命をやって自滅していた中共を救ったのは、ニクソンやキッシンジャーというロックフェラーが押し出した多極派だ。トウ小平は、多極派の入れ知恵を受けて中国経済の発展の基盤を作った。
中共ラブな多極派が、下請けのリクード系に世界覇権を取らせて中共潰しをやらせるはずがない・・・?。
しかし、さらに歴史を考えると、中国を経済発展させるという産業革命以来の(ユダヤ人)世界資本家の目標は、すでにおおむね達成された。中国は世界一の経済大国になった。
多極派が中共ラブだったのは、多極派が世界資本家だったからだ。しかし今、中国経済は成熟しつつあり、低成長になっている。もう良いだろ的な話になっても不思議でない。
経済発展と、覇権を持たせることは違う。中共はBRICS(今や国連まで)を率いて、多極型世界における世界覇権を持っていた。
これはもしかすると、英国系にほだされただけで、中共自身にとっても過剰な状態かもしれない。習近平は最近あっさりと覇権自粛の自重モードに入っている。
多極型世界では、それぞれの極が自立していることになっている。だが中共はここ数年、イランとサウジの和解を仲裁したり、シリアのアサドを訪中させたりして、中東諸国を中共側に引っ張り込んでいた。
イスラエルは、それが気に入らない。「中共は中東に口出しするな。中東はイスラエルのものだ」「中東に口出しするなら中共上層部を政治混乱させて破壊するぞ」と脅している。習近平は、イスラエルとの対立を避けることにした。
イスラエルは、乗っ取った米諜報界の力を使い、中東の一強状態を作っただけでなく、中共の一帯一路と重複するコーカサスから中央アジアにかけての地域にも(傘下のトルコを使って)覇権を行使し始めている。
中共の傘下に入っているパキスタンや、傘下入りしそうだったアフガニスタンに対しても、イスラエルは、印度やサウジを使って中共離れさせようとしている。
サウジは近年、中共と接近していたが、今回のイラン戦争でへこまされ、今後はイスラエルから束縛が大きくなり、中共離れしていく。イラン戦争は、イスラエルの覇権領域を拡大し、中共の覇権領域を縮小している。
このテーマは巨大で隠然としており「正史」から外れた裏読みが必須だ。読みやすく書くのが難しい。事態が急展開し続け、私は稚拙な文章を連発している。
今回も書き散らかした。繰り返しの記述も多い。今回は特にひどい。
わかりやすく説明しようとして、同じ事象について別の方向から繰り返し書いて冗長になっているが、このまま配信する。
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