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断続的に続くイラン戦争

2026年4月10日   田中 宇

4月7日の米イランの停戦は、負けなかったイランの勝利、勝てなかった米イスラエル(というよりトランプ大統領個人)の敗北だと、マスコミなどトランプ敵視の英国系が喧伝している(RTなど露系メディアは、反米性の醸成のため米欧の左翼などが関与している)。
Why Iran looks like the real winner
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これと同じような中東関連の話を、以前にも聞いたことがある。イラク戦争後のイラン系の勢力拡大を防ぐため、イスラエルが2006年にヒズボラを潰そうとしてレバノンに侵攻したが潰せず、停戦せざるを得なくなった。
無敵なはずのイスラエルに負けなかったヒズボラは勝利したと賛美され、イスラム主義や反米反イスラエルの人々がヒズボラと指導者ナスララを英雄視する流れが始まった。
ヒズボラの勝利

あれから20年。イスラエルは何年もかけて米諜報界(世界の軍事力の頂点)を牛耳り、ヒズボラや、その上位にいるイランを潰すために断続的に攻撃し続け、一昨年からはナスララなど多数のヒズボラ指導者を空爆で殺し、ヒズボラを崩壊寸前の状況に追い込んでいる。
イスラエル(リクード系)は、米国を傀儡化し、中東で最後に残っている反イスラエル勢力であるイラン系の諸組織を潰す戦争を続けている(トルコはコーカサス覇権をもらったのでイスラエルに楯突かない)。
コーカサスをトルコに与える

イスラエルは今回の米イラン停戦前、ヒズボラからの越境攻撃を防ぐため、史上初めてレバノン南部に奥行30kmの緩衝地帯(占領地)を作った。その後米イランが停戦し、イスラエルもトランプにお願いされてヒズボラと停戦し、レバノン政府との交渉を開始した。これらはトランプに花を持たせる演出だろう。停戦前の緩衝地帯の創設と引き換えだ。
イスラエルは最近、シリアにも緩衝地帯を作っている。緩衝地帯の創設は、イスラエルがイラン系との長期戦を想定していることを示している。戦争は、イラン系が潰れるまで断続的にずっと続く。
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もともと中東各地でイランなど反イスラエル勢力の台頭を煽ったのは、米諜報界の支配権をリクード系に奪われたくなかった英国系だ。イラン戦争の本質は、英国系とリクード系の暗闘だ。その一環でトランプは、西欧諸国がイラン退治に協力しなかったことを理由に、英国などNATOへの支援をやめようとしている。
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英国系の(うっかり)傀儡が、外交官やマスコミや左翼イスラム主義者だ(私も長いこと間抜けでしたが)。彼らが「勝てなかった米イスラエルは負けたのだ」と豪語しても、それは近視眼だ。この戦争は、イラン系の全勢力が潰れる(もしくはソフト転覆で変質する)まで断続的に続く。
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イスラエルが負けるとしたら、それは米国の諜報力や軍事力が大幅に低下した場合だ。それを引き起こすのは金融崩壊だけだ。
トランプや共和党が選挙で落選しても、代わりに出てくる民主党もイスラエル傀儡以外の政策を採れない(諜報界を握られているので)。
米国の政権交代はイスラエルにとって大した問題でない。トランプも「駒」でしかない。そもそも民主党は自滅策をとらされており、トランプの人気が下がっても政権交代しにくい。
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国際世論も無視できる。習近平やプーチンはイスラエルに楯突かない。多極化はイスラエルの台頭で止まっている。英欧はウクライナで崩壊している。日本は高市化で英国系からリクード系に乗り換えた(外務省やマスコミ権威筋は英傀儡のままだけど)。
War Has Caused Lasting Damage To The Dollar System

米国が崩壊するとしたら、それは金融バブルの不可逆的な大崩壊(ドル崩壊)が起きた場合だけだ。しかし、トランプは米連銀(FRB)など中央銀行網(もともと英国系)をねじ伏せて独立を奪い、リクード系の言いなりにした。
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それ以来、中銀群からの資金注入(簿外の裏QE)で株も債券も下がらなくなり、金相場は再抑止されている。簿外資金の無限注入で、金融バブルはこれから何年も維持できる。金融危機にはならない。金相場は再上昇しない。
リクード系の台頭前、世界は多極型へと転換しており、金融バブルは崩壊しそうで、金相場も上がっていたが、その流れはすでに大きく変わっている。米国は崩壊しない。米国を傀儡化したイスラエルの覇権拡大が続く。その山場(もしくは皮切り)がイラン潰しだ。
Gold Isn’t A Hedge Anymore

イスラエルは2023年のガザ戦争開始以来、世界から嫌悪非難されつつ、巨大な人道犯罪を自国周辺のあちこちでやり続けている。みんなイスラエルが大嫌いだ。しかし、人々はしだいに人道犯罪に対して麻痺している。
イスラエルはパレスチナ人を殺し続けているが、イラン戦争開始後、パレスチナでの人道犯罪はかすんでおり、放置されている。イスラエルは「極悪」だ。しかし現実は、人道犯罪という言葉の方が、英国系の覇権とともに消えていく。
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イランはホルムズ海峡を通行制限し、世界の石油ガスの2割を止めている。イランは世界経済を人質にとっているが、トランプの米国は世界の発展に責任を持つことをやめているので動きが鈍い。
それでも今回トランプは停戦した。イランと交渉することにより、イラン政府上層部の穏健派を力づけ、好戦的な軍部である革命防衛隊と、聖職者集団の穏健派との権力闘争の行方を変えることが一つの目標と思われる。
しばらく交渉しても、ホルムズの通行制限が解除されず、防衛隊の支配力が急増した状態のイラン上層部の権力構造に変化がなければ、再度戦争に入る。
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イスラエルは、イランを潰すまで米国を引っ張って断続的に戦争を続ける。防衛隊が権力を握る限りイランも戦争をやめず、ホルムズ海峡はおそらく開かない。
世界の側は、ホルムズ海峡を経由しない、サウジ横断やUAE内陸やトルコやシリア経由のパイプラインを増設するしかない。増設には時間がかかる。
イラン戦争の終わり方

別ルートが拡充し、ホルムズ依存が下がるほど、イスラエルがイラン潰しの続きをやりやすくなる。イスラエルは、時間がかかってもイランを潰す。2003年のイラク戦争以来23年かかっている。
イランが存続するには、穏健派が防衛隊から奪い、米国と和解し、トルコのエルドアン政権のように、表向きイスラエルを非難しつつ裏で仲良くする方法がある。だが今のところ、防衛隊が権力を失う見通しはない。
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イスラエルが、傀儡のアルカイダ(HTS)を動かしてアサド政権を倒してイスラエル側の国に転換したのは、今回のホルムズ閉鎖を見越して、シリア経由のパイプラインを敷く用意だったのかもしれない。
ホルムズ閉鎖を放置するトランプ

ホルムズ閉鎖が長引くと、日本や韓国でロシアと和解して石油ガス輸入を再開しようとする動きも強まる。日本では、高市政権が親トランプ親リクードなので潜在的に親ロシアだが、その周りの官界マスコミから被洗脳な市民運動までがロシア敵視の英傀儡なので、時間がかかる。
ロシアは悪くないのに、人々の洗脳はなかなか解けない。当面は、トランプから石油ガスを売ってもらうしかない。
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