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コロナと中国

2022年12月4日  田中 宇 

習近平が独裁体制を作り上げた中国の政府は、新型コロナの感染者をゼロに抑えるためと称して強烈かつ長期間・広範囲な都市閉鎖を行う「ゼロコロナ策」を以前からやっている。都市閉鎖がコロナ対策として効果がない超愚策であることは、コロナ危機の初期から(というか、100年近く前のスペイン風邪の時から)わかっていた。中国が支配力を持っているWHOですら10月に、中国が強烈なゼロコロナ策を続けていることを公式にやんわり批判した。それなのに習近平の中共は延々とゼロコロナ策をやっている。なぜなのか。馬鹿なのか。多分そうではない。医療的には愚策と知りつつ、他の目的でやっている。人々の移動を監視・制限する都市閉鎖は、コロナ対策として超愚策だが、権力に歯向かう人々を封じ込めて無力化するには良い策だ。 (The People's Republic of China Has Become A Zero-Covid Hell

中国では近年、共産党の上層部で、独裁を強めたい習近平と、習近平より前に権力を持っていた独裁を好まないトウ小平派の集団指導体制時代の人々(リベラル派)との間で権力闘争が続いてきた。10月の共産党大会で習近平の独裁強化が決まるまで、リベラル派が習近平を弱めるための政治攻撃を仕掛けてくる可能性があった。そのため習近平傘下の中国政府は、延々とゼロコロナ策をとり続け、リベラル派の動きを監視・抑止し続けた。その甲斐あって、習近平は10月の党大会でうまいこと独裁を強化できた。 (習近平独裁強化の背景

習近平が独裁を強化したので、党大会後にゼロコロナ策が終わるかと思ったらそうでなかった。延々と続くゼロコロナ策の都市閉鎖に業を煮やした人々が11月末に、北京や上海、ウルムチなどで反対運動を開始した。運動の参加者たちは、習近平に対する不満も表明し始めた。米日などのマスコミは、都市閉鎖への反対運動が習近平の独裁への反対運動に拡大して中共の政権が転覆するのでないかと、期待を込めて喧伝し始めた。中共上層部の権力闘争に負けなかった習近平が、老百姓(庶民)の反対運動で潰れるのか??。いやいや。そもそも、なぜ党大会が終わった後になって反対運動が起きるのか?。習近平が、自分の独裁権力を固めた党大会後だから反対運動を許してやろうと思って甘い対応をした結果なのか?。 (China - Protest Instigators And Zero-Covid Policies

いろいろ考えて、私自身が最も納得した分析は以下のようなものだ。習近平の側がこの反対運動を誘発し、それに乗せられて米国の政府やマスコミ権威筋が「習近平の独裁に反対する中国の市民運動を応援しよう」と言い出したところで、習近平の側は「米欧の外国勢力が中国を潰すために人民をそそのかして反政府運動をやらせている」「反対運動の参加者は外国のスパイ・売国奴だ」「(党上層部のリベラル派を含む)親欧米の勢力は売国奴だ」という公的な世論作りを展開し、庶民から党幹部まで、習近平に楯突く全ての人々をスパイ容疑の取り締まりの対象にする気でないか。習近平は、以前に香港の市民運動を潰すために同じ手口を使っている。毛沢東が1950年代に言論の自由を強調する「百花運動」を展開して政敵をあぶり出したのと同種のたくらみでもある。 ("I'm Witnessing History In The Making", Says Protester In Shanghai) (White House "Isn't Taking A Side" On Cause Of Anti-Lockdown Protests In China

米国では、ジョージ・ソロス系で反ネオコンのシンクタンク「クインシー研究所」が「市民運動に参加する中国の人々が米国のスパイ扱いされてしまうので、米国は中国の市民運動を支持すべきでない」という趣旨の論文を11月28日に出している。12月2日には米大統領府が、中国の市民運動と中国政府のどちらかに対して支持を表明することはやらないと発表した。だが、米国のマスコミの中には、中国の市民運動を支援して習近平の政権を転覆する好機だとネオコン的に張り切ってしまうところもあり、中国の運動参加者がスパイ扱いされる素地はすでに十分ある。米諜報界は隠れ多極派に牛耳られており、好戦的なネオコンもその一味なので、中国を敵視して弱体化しようとする策は大体が中国を強化する策に転換してしまう。 (Here’s how the US shouldn’t respond to China protests) (中露を強化し続ける米国の反中露策

中国では同時期、アップルの世界のアイフォン製造の7割を下請けする台湾メーカー・フォックスコンの河南省鄭州市の工場で、厳しい隔離などのコロナ対策が行われ、賃金の引き下げなどもあって従業員たちの不満が爆発し、大規模な労働争議とコロナ対策としての厳しい封じ込めで大混乱になり、世界へのアイフォン供給がとどこおる問題も起きている。これも、おそらく習近平の側がコロナを口実に仕掛けた国際政治の謀略である。 (Protests Are Spreading In China As Backlash Grows To The Communist Nation’s Lockdowns

中国がアイフォンなど世界的な製品群の製造を下請けする「世界の工場」となり、米欧と中国が共存共栄する経済構造は、中共がトウ小平仕込みのリベラル派の集団指導体制だった時代に作られた。だからリベラル派は親欧米であり、中国が米国の下請けとして米覇権の傘下にいるのが良いと思っている。これと異なり、習近平は、崩壊しかけている米国の覇権を押し倒す役割を中国が負い、中国がロシア印度サウジ一帯一路諸国などと組んで世界の覇権構造を多極型に転換し、米国の銀行や製造業など潰してしまい、中国は純国産ブランド品を作って多極化した世界に人民元建てで売って繁栄するのが良いと考えている。コロナの混乱を誘発してアイフォン製造を止めてアップルを困らせるのは習近平の希望だ。アイフォンを買えなくなった人々は中国製のアンドロイド系スマホに乗り換えさせて苦労させるのが良い。中華スマホの値段はアイフォンの10分の1だ。 (Foxconn Riot Could Cut China iPhone Production By More Than 30%

中国だけでなく世界的に、コロナ対策のほとんどは、医療でなく政治の策略と見るべきものでもある。コロナはすでに病気として「風邪以下」になっているが、国際政治の策略としてはまだ隆々としている。それは習近平のゼロコロナだけでない。11月半ばにバリ島で開かれたG20サミットでは「次のパンデミックが起こったら世界的にワクチン旅券制度を徹底し、ワクチン旅券がないと海外に行けない体制を確立すること」が合意文に盛り込まれた。コロナでは(mRNA)ワクチンを何回打っても発症を止められず、ワクチン旅券が感染防止に役立たないことが露呈して制度は廃れている。次のパンデミックの時はワクチンが効くのか。たぶん違う。次回もワクチンは効かない。 (G20 Pushes Vaccine Passports For All Future International Travel

ワクチン旅券はパンデミックを止める医療の政策でなく、人々の国際移動を止める政治(諜報)の政策である。ワクチンは効かなくて良い。人々の国際移動を大幅に制限することで、政権転覆を目指す米英の諜報要員が中国など非米諸国に入ってこれないようにする。G20では、中国など非米諸国の力がかなり強い(G20は非米側と米国側の力が均衡している。G7は米国と傀儡諸国のみ。BRICSや上海機構は非米諸国のみ)。米国側はmRNAワクチン製造会社の政治力が強いのでワクチン旅券に賛成。非米側は政権転覆を起こしにくる米英諜報界に入り込まれにくくなるのでワクチン旅券に賛成だ。

そもそも、コロナ対策は医療的に無茶苦茶だらけなのに、医療的な超失策を政治でねじ曲げて失策でないことにしている(多くの医者がこのウソの構図に同調するくだらない「小役人」と化している)。ねじ曲げたウソの状態のまま「次のパンデミックがきたらどうすべきか」を政治的に議論している。次のパンデミックも、コロナ以上にインチキなものであることが事前に予測できる。次のパンデミックが起きたら、WHOなど国連やG20の国際機関が、新型コロナの発生時よりもすみやかに、保健や医療、国民の行動規範、経済活動、交通網運営など、感染症対策に少しでも関係している広範な分野の行政権を、各国政府から剥奪して国際機関に集中させる「コロナ覇権体制」が「パンデミック条約」などとして作られる話が進んでいる。世界的なワクチン旅券制度はその一部だ。「次のパンデミック」は表向き偶然に発生するだろうが、実際は新型コロナと同様、研究所からの意図的なウイルス漏洩など、策略として発生する。ウイルスの脅威が誇張されて喧伝される。再三のインチキなのに、ほとんどの人が何度も簡単に騙されて本気で恐れる。 (世界の国権を剥奪するコロナ新条約

国際政治的に重要なことは、パンデミック条約が作るコロナ覇権体制を誰が支配するのか、という点だ。誰がWHOや国連、G20を支配するのか。少し前まで、その答えは「米英」以外になかった。だが今は違う。WHOや国連、G20などはいずれも、米英が主導する先進諸国の主張と、中国が主導する非米諸国(途上諸国)の主張が対立して争っている。しかも、前回の記事に書いた地球温暖化問題などを見ると、中国・非米側の国際政治力が増加し、米国側の力がどんどん落ちている。何年後かに「次のパンデミック」が起きる時、WHOや国連、G20などでは中国の台頭と米国の衰退がもっと増しているに違いない。 (病気として終わっても支配として続く新型コロナ

次のパンデミック条約によって作られる「世界政府」「コロナ覇権体制」を支配するのは米国でなく中国だ。パンデミック条約は、従来の米国覇権体制のためのものでなく、現在進行中の覇権転換(多極化)によって形成されつつある中国主導の非米諸国が中心となる今後の多極型の覇権体制のためのものになる。諸国の国権を剥奪するパンデミック条約を作る動きは2020年の新型コロナ発生直後からあった。当時はまだ米英覇権が強かった(弱体化しつつつあった)ので、パンデミック条約・コロナ覇権体制づくりは米英覇権の再強化策かと思われた。パンデミック条約を作っても、中露イランなど非米諸国が米国の言いなりになるわけはないので、頓珍漢な話に思えた。 (コロナ帝国と日本

しかし、パンデミック条約やコロナ覇権を牛耳るのが中国主導の非米側になるのなら話は別だ。中国・非米側は、米英アングロサクソン諸国やEUなど、中国や非米側を敵視してきた旧覇権諸国の国権を剥奪するためにパンデミック条約を使うだろう。パンデミック条約は、米覇権を潰して多極化を推進するための策略だったことになる。習近平やプーチンが権力を握っている今後の10年間に、次のパンデミックが引き起こされ、英国や豪州カナダなど米国側の国権がWHOや国連の皮をかぶった中国に剥奪されていく(米国自身は、国権剥奪でなく内戦と金融崩壊によって衰退しそう)。パンデミック条約は独裁強化であり、人類に行動規制やワクチン強制、貧困化、言論抑圧などを強要する極悪なものだ。多極化は人権的に「悪いこと」である(米国の隠れ多極派は、相対的に米国を「極悪」に引き下げて多極化の悪を軽減するために100万人を殺すイラク戦争やシリア内戦を展開した)。半面、長期の経済的には、多極型の方が、これまで制裁・抑圧されてきた非米側を含む全世界の経済発展が可能になる。 (米諜報界の世界戦略としての新型コロナ

さらに考えるなら、パンデミック条約を作るきっかけとなった新型コロナ(武漢研究所からのウイルス漏洩)自体が、多極化推進のための策略だったのだろう。中共が自分たちの覇権拡大のために武漢研からウイルスを漏洩させたのでなく、隠れ多極派が牛耳るようになった米諜報界が、中国の覇権拡大(多極化)のために、武漢研からウイルスを漏洩させた。そう考えられる。武漢研からウイルスが漏洩した2019年には、中国の国際政治力(覇権や諜報力)が今より弱く、米国の覇権や諜報力は今より強かった。2019年の中国が、武漢でウイルスを漏洩させてそれを世界に拡散させ、WHOにパンデミック指定させて、中国の覇権拡大のために国際社会にパンデミック条約を作らせる、というシナリオを展開するのは無理だ。そんな力はなかった。多極化を進めたい米諜報界が、中国のためにこれらのシナリオを展開した。パンデミック覇権の先鞭をつけた新型コロナは、米国から中国(中共)へのプレゼントだった(皮肉でなくまっとうな意味で)。 (米中共同開発の生物兵器が漏洩して新型コロナに?) (コロナ危機による国際ネットワークの解体

国際的な人の移動を大幅に制限するワクチン旅券制度も、米英諜報界の要員が非米諸国に入り込んで傀儡市民網を作り上げて政権転覆を引き起こす策略を不可能にしたので、米諜報界の隠れ多極派が中国など非米諸国のために作ったものと思える。新型コロナ発生から3年たち、中国の覇権強化と米国の覇権衰退が進んだ。今後さらに進む。次のパンデミックが起きるころには、諜報分野でも中国が強まり米英が弱くなり、中国が非米側を引き連れて多極型の世界体制を自由にデザインして実現できるようになる。米英欧は邪魔できなくなる。邪魔したら国権をさらに剥奪されて無力化される。 (コロナ危機は世界大戦の代わり) (複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ

米英覇権衰退と中国など非米側台頭による多極化の完成には、まだあと10年ぐらいかかる。多極化に必要なドル崩壊もまだ起きてない(QT開始後18か月と考えると来秋か?)。多極化には、習近平とプーチンが権力を維持することが必要だ。習近平は10月の党大会で今後の10年の権力を確保した。独裁強化は米多極派からの要請だったのだろう。プーチンもあと10年は大丈夫だろう。2人とも10年後は80歳前後だ。それぐらいまでに多極化完成のメドをつける必要がある。多極化の完成前に中露で権力継承が必要になると不安定要素になる。米多極派は10年以内に多極化を完遂するつもりだろう。 (中国と戦争しますか?) (中国覇権下に移る日韓

トルコのエルドアンはプーチンらに協力することで自分の長期政権を確立しようとしている(米諜報界に潰されずにすむ)。もしかすると日本の安倍晋三は、習近平やプーチンを助けることで自民党政権の長期化を確立しようとして米国側(多極派でなく米覇権派)に殺されたのかもしれない(日本の官界には米覇権派の傀儡が多い)。私自身は、多極化の完成まで生きて考えて書き続けたい。 (安倍元首相殺害の深層 その2



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