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欧日で原発の復活

2021年11月21日  田中 宇 

過激な地球温暖化対策の反動で、欧州諸国と日本が、日本の311の福島原発事故後にいったんやめていた原子力発電を復活しようとしている。二酸化炭素の排出削減の達成には自然エネルギーだけでは無理で、原発の復活が必須だという理屈だ。日本政府は岸田政権になって原発を再稼働する姿勢を打ち出している。欧州でもフランスやフィンランドなどが、原発を優良な温暖化対策として認めるべきだと主張している。先進諸国が原発をやめていた間に、中国など非米諸国は原発を急増している。中国は10年以内に原発の発電量が米国を抜いて世界一になる。世界の原発の主導役は米仏日から中露に移った。米国から中国などへの覇権の移転・多極化と同じ流れだ。中国の優位や、多極型への覇権転換が不可逆になった今ごろになって、米国側の欧州や日本が止めていた原発を復活する事態になっている。欧州の反原発運動は、世界全体の原発を減らさず(欧米日が減らして中国などが増やしただけ)、米国から中露に覇権を渡す動きに加担する「うっかり多極主義」だったわけだ。それとも左翼の陰謀だったのか(笑)。 (China to overtake US as nation with biggest nuclear power capacity by 2026: research) (Japan Restarts Older Nuclear Reactors For First Time Since Fukushima

先進諸国はCOP26などの場で、地球温暖化対策として化石燃料の使用削減目標を宣言させられているが、化石燃料の代替物として奨励されている自然エネルギー(風力、太陽光など)は供給が不安定だし少量で、代替物として不十分だ。原子力発電は、二酸化炭素の排出がほとんどない(燃料製造時のみ)。原発はその点で、温暖化対策における化石燃料の代替物としてふさわしい。だが原子力は、福島やチェルノブイリに象徴される大事故時の環境破壊の甚大さや、使用済み核燃料や廃炉後の処理や管理の問題、核燃料サイクルの実現困難性、核物質の軍事転用の恐れなど、温暖化対策以外の問題がある。 (Abandoning Nuclear Power Would Be Europe’s Biggest Climate Mistake

温暖化対策(二酸化炭素削減)を求める運動をやっている左翼リベラル勢力は、原発廃止を求める反原発の勢力でもある。そのため、これまで原発は化石燃料の代替物として奨励される度合いが、自然エネルギーよりはるかに低かった。多くの環境運動家が「化石燃料も原発もダメ。自然エネルギーしかダメ」と主張してきた。だが、自然エネルギーで今の世界の総発電量の半分以上を賄うことは将来にわたって不可能で、自然エネルギーしかダメだというのはまったく非現実、もしくは人類の生活水準を強制的に大幅に下げるための世界的独裁政治体制が必要だ。コロナで構築された世界的な独裁体制を温暖化対策に拡大すれば良い、世界を医療環境共産主義体制にすれば良いと言っている左翼もいる(だから左翼はコロナや温暖化のインチキを積極的に軽信してるわけだ)。 (V4 countries reiterate support for nuclear) (英米覇権の一部である科学の権威をコロナや温暖化で自滅させる

欧州では、温暖化問題が誇張され出す前から原発反対が強かった。オーストリアは1978年に原発廃止を決めた。1986年のチェルノブイリ事故後、全欧的に原発への反対が強くなり、2011年の福島事故後、ドイツは原発の全廃を決めた(2022年末までに最後の6基を停止予定)。フランスや英国も新たな原発の建設計画をひっこめた。日本も福島後いったん国内の原発をすべて止め、そのまま全廃かと思われる流れになった。ここ数年、地球温暖化問題の誇張が激しくなり、二酸化炭素の排出削減が先進諸国に強制される事態になってきたが、それでも欧州では、二酸化炭素をほとんど発しない原発を見直して復活する動きにならなかった。 (Uranium Is Just Getting Started: Germany, Finland, France, Poland And The UK Are All Pushing For Nuclear Power) ("It Has Arrived": Uranium ETF Sees Record Inflows Amid Retail Buying Frenzy; Japan Hints At Restart Of Nuclear Power Plants

しかしその事態も、温暖化対策=排出削減への強要がさらに強まった昨年あたりから変わりだした。今年3月、EUの温暖化対策を考える専門家委員会が、原発を化石燃料の代替物とみなしてこなかったEUの姿勢を改め、原発を優良な温暖化対策として認めるべきだ(温暖化対策での原発への課税率を下げるべきだ)という結論の報告書を出した。その後、原発の燃料であるウランの価格上昇が始まった。ウランの価格は福島事故以降、低迷してきた。 (EU experts to say nuclear power qualifies for green investment label: document) (Uranium Soars After Sprott Massively Upsizes Buying Program By $1BN To $1.3BN

EU諸国は、原発に対して以前から分裂しており、独伊奥デンマーク、ポルトガル、ルクセンブルクなどは原発反対、ハンガリー、スロバキア、チェコ、ポーランドなどは原発に積極支持している。EU27か国のうち13か国に原発があり、EU全体の発電の4分の1を原発で賄っている。欧州の総発電に占める原発の比率は低下傾向だが横ばいに近い。EU内は分裂しているが、発電量から見た現実として原発はEUに不可欠なものになっている。全廃は困難で非現実的だ。先日のCOPに向けてフィンランドが、原発を優良な温暖化対策として認める案をEUに出した。 (Finland Will Lobby The EU To Give Nuclear Power "Sustainable" Status

同時期に、ロシアの天然ガスをドイツなど西欧に運ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム2」が完成し、米国がドイツなどEUに「ロシアは敵だ。ノルドストリーム2を稼働するな。認可するな」と圧力をかけた。対米従属のドイツは米国の反対を乗り越えられず、ノルドストリーム2は完成したのに未認可のまま宙に浮いた。約束違反への報復としてロシアはドイツなど欧州への天然ガス供給を巧みに減らし、欧州はガスが足りなくて高騰し、エネルギー危機に陥った。COP26を目前に、欧州では、天然ガスに替わるエネルギー源として石炭(排出的に「極悪」)がやむを得ず急に見直されたが、石炭は中国が国際的な不足を意図的に引き起こして高騰しており、欧州はガスも石炭も高くて買えない「石炭の逆襲」の事態になった。(露中が組んで欧州をエネルギー危機に陥れた)。 (コロナ、QE、流通崩壊、エネルギー高騰、食糧難・・・多重危機の意味) (世界的なインフレと物不足の激化

こんなドタバタの中でCOP26が行われたが、化石燃料をやめて自然エネルギーだけで暮らすという「妄想」がいかに非現実的か(そもそも温暖化人為説も妄想だし)、妄想の強要がいかに危険かを示すだけの結果になった。欧州では同時に、「敵国」であるロシアにエネルギー源を依存するのは安全保障上良くないという意見が強まり、二酸化炭素を出さず、化石燃料の輸入も減らせる原発の復活が必要だという話になっている。ドイツでは、来年末に閉鎖する最後の6基の原発を、閉鎖せず稼働継続した方が良いのでないかという議論になっている(ドイツ人の56%が原発に賛成)。 (Nuclear power: Are energy price hikes prompting a German rethink?) (German pro-nuclear activists make rare appearance in Berlin

EUもドイツも、原発の推進派と反対派が対立して分裂しており、重要政策を全会一致で決めたがるEUが今の原発縮小策を転換して原発を再開するのは難しい。しかし、各国への温暖化対策の強要が増している最近の流れを受けてフランスは最近、これまで止めていた原発の新設計画を再開することにした。英国も、原発を減らしていく流れをやめることにした。米国では、ビルゲイツら資本家群が新型の原発(ナトリウム炉)を、老朽化した石炭火力発電所の代替として新設しようとしている。 (Macron Confirms: France To Build New Nuclear Reactors For The First Time In Decades) (Bill Gates And Warren Buffett Team Up To Build Advanced Nuclear Plant In Wyoming

10年の縮小期を経て、分裂しつつもようやく原発の復活へと動き出しそうな欧日など米国側を尻目に、中国が主導する非米側はどんどん原発を増やしている。中国は、これからの5年間で国内に150基の原発を新設する計画を打ち出した。石油ガス石炭の火力発電所を作る計画はなく、原発だけを増やしていく計画になっている。150基という数は、全世界でこれまでの35年間に新設された数より多い。中共は、化石燃料の発電所を作らず原発だけを作る計画を、地球温暖化対策として打ち出している。だが、習近平は(ビデオ出演を断られたと口実をつけて)COP26に参加せず、プーチンのロシアとともに、人為説のインチキに付き合うのをやめた感じだ。 (China Is Planning at Least 150 New Nuclear Reactors

中露は欧米の自滅的な温暖化対策に参加するのをやめる一方で、原発の技術に関して中露の結束を強めている。原子炉など原発の技術はロシアの方が進んでおり、地政学的な各種の見返りとの交換で、ロシアは中国に原発の技術を移転している。中露は、温暖化対策から離れたところで原発の開発と建設に力を入れている。原発は、これからの多極型の世界における基幹的なエネルギー源になっていくのでないか。中国は独裁なので事故隠しも簡単だ(今年6月に広東省の台山原発での燃料棒破損の後、ハルピン工科大学の担当教授が不審な死を遂げた)。中露は、世界各地の非米諸国に原発を輸出している。中露に対抗して、共和党の軍産系シンクタンクであるナショナルインテレストは最近、中露結束による原発建設の加速に対抗するために、米同盟諸国も団結して原発を復活していかねばならない、COP26は米側結束による原発復活の好機だと主張する論文を発表している。 (China and the Importance of Civil Nuclear Energy) (Top Chinese Nuclear Expert Jumps To His Death After Power Plant Mishap

原発がこれから多極型に転換した世界でどんどん作られて技術的にも「開花」していくとして、これまで世界的な市民運動の扇動によって原発の技術の開花が阻止されてきたのだとしたら、どうだろう。「市民運動は扇動なんかされていない。原発は、本当に、とっても危険なものなんだ」という左翼様方からの「反論」がきそうだ。そう。私も前はそう思っていた。しかし一般に、先進諸国のマスコミが何かの危険性をやたらと喧伝する時、それは全幅の信頼をおけるものなのかどうか。実のところマスコミは公正でも中立でもない。歪曲に満ちている。

コロナウイルスの危険性はやたらと誇張されてきた半面、コロナワクチンが自然免疫を破壊している可能性が高まっているのに無視されている。地球が人為の化石燃料の燃焼で極度に温暖化して滅びるかのようなウソがしつこく喧伝されている。米諜報界が育てたアルカイダが本物の脅威であるという歪曲もしつこく報じられてきた。イランは核兵器開発していないし、シリア政府軍は化学兵器を使っていないのに、延々と濡れ衣がかけられている。アルカイダからコロナまで、ひどい歪曲が意図的に報じられ、戦略的に人類を軽信させてきた疑いが濃い。もっと古くはホロコーストや南京大虐殺などの「戦争犯罪」も同類だ。遺伝子組み換えの危険性もヒステリックに扇動されている感じだ。原発や放射能の危険性だけが誇張されておらず「事実」であるとは思えない。 (シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない

新型コロナウイルスは存在していた(たぶん過去形)。イスラム主義のテロリストも存在する。放射能は人体に害悪を及ぼす。遺伝子組み換え製品には未知の危険があるかもしれない。イランは遠心分離器を回している。それらはそうだ。しかし、具体的な一つずつの出来事において、報道や権威筋の説明に誇張や歪曲がないかというと、全くそうでない。この20年あまり、米英中心のマスコミの歪曲ぶりをずっと見てきた私からすると、原発や原子力の危険性も誇張されている。原発やコロナや温暖化や遺伝子組み換えの危険性の誇張は、左翼リベラルの国際ネットワーク(いざという時の諜報界の傀儡?)を使って流布され、世界中(主に先進諸国)の左翼やリベラル派たちを軽信させてきた。 (欧米の自滅と多極化を招く温暖化対策

この手の歪曲や誇張は、なぜ行われるのか。なぜ先進諸国で原発の危険性が誇張されるのか。その答えが、上で書きかけたことだ。「世界の上の方(覇権運営体。資本家。米英諜報界)は、原発の技術をこれまでの米国覇権下でどんどん開花させてしまうと、技術が米英側の所有物になってしまい、中露など非米諸国がそれを使えなくなってしまう。高く売りつけられてしまう。それを防ぐため、原発の技術開発が一定まで達したところで、ちょうど起きたチェルノブイリなどの事故を奇貨として原発の危険性を誇張して市民の反対運動を扇動し、今のように多極化がかなり進むまで欧米日での原発の開発を止めた。その間に、中国は米側の資本家から入れ知恵されて原発の開発や建設を進め、技術力を涵養した。最近、米国の覇権衰退と中国の台頭、覇権の多極化が不可逆的に進み、原発の技術でも中国が世界最先端になっていくメドがついたので、そろそろ許してやるかということで、温暖化対策を口実に、欧州や日本が原発を復活して良いことになった・・・」。私が考えたのは、こんなシナリオだ。 (日本は原子力を捨てさせられた?) (終わりゆく原子力発電

同様のことが、遺伝子組み換えについても言えるのでないかと私は思っている。遺伝子組み換えは危険のかたまりのように思われているが、上手にやれば、マイナス面を少なくしつつ作物の収量を増やせ、世界の食料問題を解決できる。原発がうまくやれば世界のエネルギー問題を解決できるのと同じだ。しかし、遺伝子組み換えを米英覇権の所有物にしてしまうと、それは非米諸国(世界の中でこれから発展する領域)の発展を阻害する形でしか使われなくなる。そこで、資本家は歪曲報道で左翼を動員し、米英傘下での遺伝子組み換えの技術開発や商品化を極悪な行為に仕立て、開発を止めた。これから米英が衰退して中国が台頭して覇権が多極化したら、遺伝子組み換えも再び開花するのでないか。先進諸国の左翼リベラルが反対しても、先進諸国自体が弱くなっているので無視される。 (Japan OKs plan to push clean energy, nuclear to cut carbon

日本は原発の開発として核燃料サイクルに力を入れたが失敗している。この失敗は、純粋に技術的な理由からでなく、覇権運営体=米諜報界が何らかのやり方で失敗させたから起きたのでないか。日本は、米国覇権がある限り米国の言いなりだから、日本が核燃料サイクルの開発に成功したら、その技術の所有者は米国覇権になる。それは資本家の望むところでない。だから失敗させた。核燃料サイクルは、そのうち中国が開発していくのでないか。トリウム炉など次世代の原子炉も同様だ。日本が手がけた大きな技術開発で、米国側からこっそり妨害されて潰されたものは意外と多そうだ。すぐ思いつくところでは、アンドロイド代替のスマホOSとしてドコモなどが開発しかけた「タイゼン」とか。米覇権傀儡として動いて儲けてきた孫正義はタイゼンの失敗を嘲笑した。 (トリウム原発の政治的意味) (Why The Carbon Hysteria Is A Huge Threat To Your Personal Freedom And Financial Wellbeing

そもそも日本は、米英の上の方が望まないことなどやりたくない。虎の尾を踏みそうだと感じると、日本の上の方から国内的に開発が妨害・停止される。日本はそんな国でしかないのだが、今回は岸田首相が原発の再開に動いている。そもそも岸田が河野をしのいで首相になれたのは、河野が原発反対なので、黒幕である安倍が河野じゃダメだと思ったからだとされている(岸田が原発の再稼働を規定事実にしてから河野にやらせるとか)。菅政権の後半には、次の首相が誰になろうが原発を再開すると言われていた。日本の原発再開は、自民党や官僚機構の独自決定でなく、米覇権の上の方から認められた(やんわり要請された)ことなのだ。 (Uranium Bull Case Strengthens As Japan Calls Nuclear "Key" To Its Decarbonization Goals

戦後の日本は「二度と覇権を求めない(アジア地域の覇権国にすらなりたくない)」という姿勢なので、米国が覇権国なら対米従属、中国が覇権国なら対中従属の「イエローキャブ」路線だ。日本と対照的にドイツは、冷戦終結時にレーガンによって欧州の地域覇権体制であるEUの主導国に仕立てられてしまったので、事情が複雑で悲惨だ。ドイツの悲劇の一つは、メルケルに長期政権をやらせたことだ。メルケルは右派だが、左派のように原発廃止を推進し、移民(中東からのなんちゃって経済難民)をどんどん受け入れた。コロナの超愚策の都市閉鎖もまじにビシバシやっている。その結果、ドイツは大惨事になって国力が低下し、EUは米国とロシアの両方にいいようにしてやられる死に体になっている。EUを多極型世界の極の一つにしようとしたレーガンの目論見は見事に妨害された。

ドイツを筆頭にEUの多くの諸国が、環境保護のふりをして原発の廃止を進めたことと、人権擁護のふりをして経済難民をどんどん受け入れたことは、ドイツとEUの国力や結束力、安保上の力を格段に低下させた。これをやったメルケルは、ドイツを永久に弱体化させておきたい英国(に操られた米軍産)の傀儡だったのだろう。同じく軍産傀儡の日本のマスコミやその軽信者たちの間でメルケルの評価がやたら高かったことも、それを思わせる。メルケルがやらなくても、左右問わず他の英軍産傀儡からドイツのトップをやる仕組みが作られていたのかもしれない。日本よりドイツの方が原発の再開も困難だろう。EUが無力な状態はまだまだ続く。 (Merkel defends nuclear power exit despite climate challenges

そもそも悪いのは、ドイツにEUを作らせて地域覇権の方向に押しやったレーガンら米国の多極主義者だったともいえる。レーガンらが余計なことをしなければ、ドイツも日本と同様、いまだに対米従属の中にいられた。いや、そうしたらいまだに欧州は英国の隠然主導下で、米国の覇権放棄も困難になっていた。米国は第一次大戦以来ずっと欧州にてこずっている。話がそれた。原発の技術は石油利権と同様、地政学的な存在だ。覇権国が原発技術の最先端を持つ。日本は多極型世界の極でない(対中従属国だ)が、ドイツ(EU、独仏)は極の一つになる。原発が多極型世界で再び開花するなら、ドイツはいずれ原発を再開する。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ



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