トランプは金融バブルを維持できるか2019年1月2日 田中 宇米国の株式市場は、18年9月末を最高値として10月から下落し、とくに12月に入って下落傾向を強め、12月19日に米連銀(FRB)が短期金利を利上げしたことを嫌気して、24日にかけて暴落となった。ダウやS&P500などの平均株価は、9月末の最高値から約20%下落した。12月の下落は、債券バブル崩壊(社債金利の上昇)が原因だ。それは以前の記事「債券金融崩壊の兆候」に書いた。これまでの債券と株式の最大要因だった欧州と日本の中央銀行のQE(造幣による債券買い支え)が終わる傾向となり、社債市場から資金が逃避している。資金逃避が起きているのに、連銀が金融引き締め(利上げと手持ち債券の放出)をやめないので逃避が加速し、24日にかけての株の暴落が起きた。 (債券金融崩壊の兆候) (Leveraged Loan Prices Collapse Amid Record-Breaking Outflows) (Investors flee risky US corporate debt) だがクリスマス後、株価は12月25日から反騰し、その後の4日間に上昇を続けて18年の取引を終えた。25日からの数日は、1日に2-3%の暴落と反騰を繰り返す乱高下の相場が続いた。この相場展開について、金融界やマスコミは「米国の実体経済が好景気だという上昇材料と、好景気だがそれほどでもないという下落材料がないまぜになり乱高下した」と報じている。だが、実体経済が「良く」見えるのは粉飾と金融バブルによる底上げであり、金融バブルの要素をはずすと大恐慌になる。最近の物流や小売りの不振、自動車や住宅などの販売の悪化からみて、米欧日や中国など、実体経済は世界的に悪化している。これまでの実体経済の「良さ」は金融バブルの一部であり、今は実体と金融の両方の経済がバブル崩壊している。実体経済は悪化している。年末の株式相場の急反発の原因は、実体経済でない。ならば何が原因なのか。 (Investors Are Speechless: "It's Like Watching Pulp Fiction") (Here They Come: Biggest Buy Order In History Hits, Sending Stocks Surging) 年末の株価反騰の原因はおそらく「トランプ大統領によるテコ入れ策」である。トランプ政権は12月24日の暴落を受けて、米政府の株価テコ入れや金融安定化策を決める「下落防止チーム」(PPT)を起動させた。PPTは正式名称が「金融市場に関するワーキンググループ」で、1988年にレーガンの大統領令によって設立され、08年のリーマン危機後のバブル崩壊にも対応した。今回、トランプ政権(PPT)は、米国の大手銀行など機関投資家に、株を売るな、株を買えと圧力をかけて回り、下落相場を上昇相場に変えようとした。 (Working Group on Financial Markets - Wikipedia) (Top Trump official calls bankers, will convene "Plunge Protection Team") (Mnuchin Next On Chopping Block After Failing To Preclear Big Bank/Plunge Protection Team Calls With Trump) トランプ政権の圧力(要請)を受け、米国の大手年金基金は年末の数日間に、640億ドルの資金を債券から株式に移し、これにともなう株式の購入で株価が急騰した。またトランプ政権は、大手ヘッジファンドに対し、株価を反騰させて市場を安定させるにはどうしたら良いかを尋ねることもやった。これらの対策の結果、年末にかけて株価が大幅に反騰したのだと考えられる。 (Why Stocks Are Soaring: A Massive, $64 Billion Buy Order) (Trump Administration Asked Top Hedge Fund Investor For Advice How To Halt Market Rout) トランプは大統領就任前から、株価の上昇は市場がトランプを支持していることを示していると言い続け、減税や金融規制の緩和など、長期的にみると害悪(財政破綻やバブル崩壊)の方が大きくなる危険な政策でもあえて押し進め、手段を選ばずに株価の上昇を維持してきた。トランプは、オバマ時代に作られた「ドッドフランク条項」などによる金融規制を壊す金融緩和策や、銀行界が高リスクな債券発行を増やすことへの看過黙認を行ってきた。今回もトランプは銀行界に電話しまくり、愛国心があるなら株を押し目買いしろと言いまくっている。 (Trump Urges Americans To Buy The Dip; Voices Confidence In Mnuchin, Powell) (トランプのバブル膨張策) 18年夏以降、日欧中銀がQEをやめていく傾向が高まるとともに、いよいよ金融バブルが崩壊し、株の暴落や債券金利の急騰が起きるという懸念や予測が、オルタナティブな(=マスコミでない)金融分析者の間で強まった。だが私は、QEが終わっても、代わりにトランプが金融緩和などなりふり構わぬ金融テコ入れ策をやって、バブル相場を持たせるのでないかと考えた。実際にはこれまでのところ、QEによるバブル維持体制から、トランプの策によるバブル維持体制への移行は円滑でなく、10月以降の金融危機(株と債券の急落)が起きている。 (米国の金融バブルはまだ延命しそう) (いよいよバブル崩壊かも) 移行が円滑でないのは、米連銀や金融界など、米国の金融覇権の運営を担当している勢力(連銀筋)が、トランプ式のバブル扇動策に反対しているからかもしれない。トランプは、米連銀が利上げと資産圧縮(債券放出)の金融収縮姿勢を変えないことに何度も不満を表明しており、パウエル連銀議長を繰り返し批判している。トランプ式のバブル扇動策は、クリスマスの株価暴落後に急に発動され始めているが、これは米連銀が利上げしたせいで株価が暴落し、それを機にトランプが金融政策の運営権を、連銀筋から奪い取ってトランプ式を強行し始めたからかもしれない。 (破綻するまでバブル膨張することにした米国) トランプは軍事外交分野で、就任後2年かけて覇権運営勢力である軍産複合体(米諜報界)から政策実行権を奪い、シリア撤兵など自分流のやり方を強行し始めているが、これと同じことが金融分野でも起きている可能性がある。トランプが連銀筋から金融政策の実権を奪い、トランプ流のバブル再膨張をどんどん進めるなら、今後再び株や債券が上昇しようとする動きになる。トランプは、株や債券の金融バブルを2020年の次期大統領選で自分が再選を果たすまで持たせたいと考えている。 (トランプの相場テコ入れ策) (中央銀行がふくらませた巨大バブル) 米朝首脳会談、シリア撤兵など、軍事外交分野の展開をみると、トランプは、覇権運営勢力から実権を奪う力がかなり強いことがわかる。このトランプの強い政治力からみて、金融分野でも、実権剥奪がかなり成功するのでないかと私は考えている。トランプは、最終的に米国が覇権を喪失しても全然かまわない(むしろ覇権喪失が目的)と考えており、既存の政治体制をぶち壊すことを躊躇しないので、破壊的に強い政治力を発揮できる。こうした私の見立てが正しいかどうか、正しいとしてもトランプが軍事外交と同様に金融でも実権強奪に成功するかどうか、まだわからない。1ー3月の相場展開がどうなるかが見ものだ。 (世界から米軍を撤退するトランプ) (軍産の世界支配を壊すトランプ) トランプ式のバブル扇動が成功するかどうかは、日本にも大きな影響を与える。18年秋からの米国の金融崩壊局面では、銀行から企業への融資債権を証券化した「ローン担保債券(CLO)」の下落(金利上昇)が目立っている。もともと高リスク高利回りなCLOは、とても危険な投資先になってしまった。そして、その危険なCLOの約3割を買っているのが、わが日本の銀行などの機関投資家だ。日銀のゼロ金利政策とQE(日本国債の買い占め)が何年も続き、日本の金融界は利ざやを得られる投資先が国内になくなり、米国のCLOのうちの「安全なもの」を買いまくってきた。日本の金融界は、米国のトリプルA格のCLO債券の半分から8割を買っている。 (Fate of $1 trillion in risky U.S. loans may be in Japan’s hands) 今すでにCLOは新たな買い手がいなくなり、とても危険な投資先だ。今年これからトランプのバブル扇動が成功しない場合、CLOは市場ごと取引が消えて崩壊凍結する可能性が大きい。市場が崩壊すると、トリプルAだから安全といえなくなる。高い格付けは、CLOの一部が崩れても残りの部分が生きていれば償還金を受け取れるということであり、CLOが市場ごと凍結になると高い格付けの証券も紙切れになる。リーマン危機の時がそうだった。CLOなど米国の社債市場が崩れると、日本の銀行界は巨額の不良債権を抱え、体力が弱い地方銀行が連鎖破綻していくことになる。 (金融大崩壊がおきる) (日銀QE破綻への道)
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