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いよいよバブル崩壊かも

2018年10月27日   田中 宇

前回、米国主導の世界的な金融バブルが崩壊する懸念について分析記事を書いたのは10月13日の「米国の金融バブルはまだ延命しそう」だった。あの記事で私は、人民元の為替が1ドル=7元を大きく超えて元安ドル高になり、中国など新興市場諸国から米国への資金還流に拍車がかかり、それが当座の米国の金融相場を維持するのでないかと書いた。元の為替は10月26日、1ドル=6・97元という10年ぶりの元安になったが、まだ7元を超える元安になっていない。来週以降が見ものだ。この点の私の見立ては、まだ「外れ」になっていないが、それ以外の部分は怪しくなっている。前回記事から2週間、株価は一時反騰したもののその後下落傾向を続け、米国や日本の株価は結局、10月初めのピークから10%ほど下落した。欧州や中国は年初来の下落傾向に拍車がかかっている。今週、米金融界やマスコミが、相場の先行きについて、ぐんと暗い見通しになった。 (The regime change for global markets is just beginning) (China’s renminbi falls to lowest against US dollar in decade) (米国の金融バブルはまだ延命しそう

株や債券のこれまでの上昇(バブル膨張)の原動力だった米日欧の中央銀行によるQE(造幣による買い支え)が終わり、相場の反騰力が減っている。モルガンスタンレーの幹部も「QEが終わったのだから、もう相場は上がらない」と言っている。実体経済の景気が良いから株が上がるという捏造的な理由でなく、QEがバブルをふくらませて株が上がってきたのが現実だと、米金融界が認め始めている。米国の株価はここからさらに10%下がると、CNBCによく出てくる分析者(Jim Paulsen)が予測している。 (Morgan Stanley: "Buy The Dip" Is Dead) (Morgan Stanley Declares "The Dead Cat Bounce Is Over") (Jim Paulsen, who's been warning of a market drop, sees another 10% decline on S&P 500

最近、金融相場を反騰させる明るい話が全くない。トランプの対中貿易戦争による関税引き上げで、米企業のコストが上がって利幅が減り、10月に入って次々と発表された7-9月期の企業業績が予想を下回り、それがハイテク株を中心とする米国株の急落に拍車をかけている。 (Earnings Wreck Continues: Texas Instruments Crashes After Slashing Guidance) (Global Stocks Drop on Political Tensions, Worries Over Chinese Growth

かつて米国の中産階級の大量消費の象徴だった百貨店のシアーズが、10年間の「死に体」を続けた挙句、10月15日についに本当に倒産した。米国経済の7割は「消費」であり、その大半が中産階級の消費だった。シアーズの倒産は、米国の中産階級の縮小(貧困層への転落)と消費の減少、実体経済の悪化を象徴している。米国や日本の株価が、実体経済の改善によって再上昇する見通しはない。 (Sears Bankruptcy Shows America Is No Longer Middle-Class) (Sears has been liquidating outside of bankruptcy for years — that's making it harder to save itself now

株価は下落傾向だが、米国債の長期金利は下がって(債券相場が上昇して)いる。これは、株の下落を嫌気して、米国債に資金が逃げているからだ。株価の下落がいずれ一段落すると、その後、米国債金利が再び上がる。10年もの米国債の金利は、危険水域の始まりである3%を超えたままだ。これから4・5%まで上がっていくという予測すら出ている。そんなに上がると、連動する社債やジャンク債の金利上昇によって、米国全体の資金調達が困難になり、恐慌になってしまう。ジャンク債の金利はじりじり上がっている。 (U.S. economic growth could push the 10-year yield as high as 4.5 percent, and send stocks crashing, veteran investor says) ("We Are In Uncharted Junk Terrain": Corporate Credit Quality Is Far Weaker Than In 2000 And 2007) (Junk Bond Prices Are Still Too Expensive

米国債の買い手の半分強が、中国や日本を筆頭とする外国勢だが、中国も日本も最近、米国債の購入量を減らしている。債券金利の上昇傾向、つまり米国経済の悪化傾向は今後も続く。米国株の最大の買い手は企業の自社株買いだが、その原資は債券発行だ。金利が上がると、企業が資金調達しにくくなり、自社株買いもできなくなる。金融と実体経済の両面で、株価が反騰するメドがなくなりつつある。 (Foreign Buying of U.S. Treasurys Softens, Unsettling Financial Markets) (Why These Countries Are Dumping U.S. Treasuries and What It Means for the Dollar) (China & Japan Dump Treasuries As Dollar's Reserve Status Slumps To 5 Year Lows

私はこれまで「トランプが金融規制を緩和(=破壊)してバブルを膨張させるので、それが今年、日欧の中銀がQEをやめた後の数年間のバブル膨張の資金源になる。バブルはまだ崩壊しない」という予測を立ててきた。だが、債券金利が上がると、いくら規制緩和しても資金調達のコストが上がり、バブル膨張を維持しにくくなる。 (米国債の金利上昇は制御崩壊?

米国の金融バブルの大きなものとして住宅や商業地の不動産を担保にした債券がある(リーマン危機の元凶となったサブプライムローン債券など)。近年、サブプライムローン債券の再膨張が指摘されてきたが、最近、米国の不動産市況がピークを超えて下落し始め、再膨張したサブプライム債券の再破綻が予測され出している。トランプ就任後の金融規制緩和が一段落し、再膨張したバブルが再破綻する流れになっているのなら、QEの代わりになるバブル膨張要因もなくなってしまう。 (Subprime loans are back) (The 2008 financial crisis never really ended

米連銀(FRB)のイエレン前議長は最近、金融規制緩和によって、リスクを軽視した債券取引や融資が米企業間で急増しており、債券の連鎖破綻が金融システムの危機に発展(リーマン危機が再来)しうるので危険だと警告を発した。イエレンのような著名で公的な人物がこんな警告を発することは、トランプの規制緩和によるバブル膨張が、これから実現していくのでなく、すでに実現され巨額で危険な水準まで達していることを意味しうる。「トランプの金融規制緩和によってバブルはまだ膨張する」という予測は、私の中で揺らいでいる。 (Janet Yellen sounds alarm over plunging loan standards

米連銀は、利上げと資産圧縮という、QE(ゼロ金利、債券買い支えによる資産膨張)からの離脱過程を今後も続けていく姿勢を、理事会の議事録などで見せている。米連銀幹部(クリーブランド連銀総裁、Loretta Mester)は米株価が急落した10月25日の演説で「株価の下落や債券金利の上昇傾向が続いているが、現状ではまだ、それらが米国経済の消費や景況感に害を及ぼすほどのものではまったくない」と述べた。この発言の意味は「今後さらに株安や米国債金利高が続いても、連銀は利上げと資産圧縮をやめません」という宣言だ。 (Fed's Mester Says Stocks "Far From" Level That Could Hurt US Economy) (Fed vice-chairman signals only gradual rate rises

私は従来、株や債券の相場が下落傾向を続けると、米連銀が利上げや資産圧縮を棚上げし、それでも下落が止まらなければQEを再開し、相場を反騰させるだろうと考えてきた。この考え方に沿って、まだ利上げや資産圧縮をやめる必要がないという米連銀幹部の演説を分析すると、まだまだ株が下がり続けそうなので、伝家の宝刀を抜くのはまだ先にする、という意味にとれる。しかし、伝家の宝刀を抜いて利上げと資産圧縮を中止しても、一時的な効果しかあがらず、再び株が下がり続けた場合、それは株を反騰させるバブル膨張策の「弾切れ」を意味し、株など金融の崩壊に逆に拍車がかかる。伝家の宝刀を抜くタイミングの見極めは、かなり難しい。

以前は、実体経済と株式市場は別物で、株が暴落しても実体経済に与える影響が少なかったが、今は米国中心の金融システムが実体経済よりはるかに規模が大きく、米国では株価が10%下落すると実体経済の成長が悪化する。 (A 10% Drop In Stocks Would Send GDP Sharply Lower In 2019, Goldman Finds

野村の分析者(Charlie McElligott)は、来週(10月29日-11月2日)が、株価にとって天下分け目の1週間だと言っている。来週、株価の大幅下落が続くと、その次の週(11月6日)は米議会の中間選挙であり、トランプや共和党は暴落状態で選挙に望むことになって不利だ。トランプ政権は、全力で株価維持の対策をやりそうな感じもする(先週ぐらいまで民主党有利と言われていたのが、ここに来て急に共和党が意外と優勢だという話になってきた。16年の米大統領選挙や英国のEU離脱投票の時のパターンだ。これについては次回に書く)。 (Nomura: "Next Week Is Make Or Break For Stocks"

冒頭に少し書いたように、来週再来週には、人民元など新興市場通貨に対する下落攻撃が再燃するかもしれない。これが米国株を押し上げる要因になるかどうか。人民元の下落に関して言うと、ここ数ヶ月続いてきた人民元と金地金価格のペッグ状態が、先週から外れていると指摘されている。元建ての金相場は今春以降、1オンス8300元前後で比較的安定していたのが、米国で株や債券の下落が始まった10月第2週以降、8500元を超えて上昇する傾向にある。金地金は、米債券金融システム(ドルや債券)の究極のライバルであり、米金融システムが崩壊すると金地金が上がる。今年から金地金相場の管理役が米英から中国に移転した観があり、これまで中国は米英同様、金地金相場の上昇を抑止していた。だが、米中が貿易戦争で仲たがいし、中国は米国好みの金相場操作を行う必要もなくなっている。今回でないかもしれないが、金相場はいずれ再上昇する。 (Nomura: "Something Is Going On With The Chinese Yuan") (金相場の引き下げ役を代行する中国

全体として、米国が金融バブルを保持できる可能性は、この2週間でかなり減った感じがする。暴落にならぬよう下落の度合いを抑止することはできても、下落を上昇に反転させることは難しくなっている。IMFは最近「大恐慌が再来するかもしれない。QEで余力を使い果たした当局は、次の金融危機を防ぐ力がないので危険だ」と警告している。ロンポールも「米経済は破綻する」と言っている。 (IMF Issues Dire Warning – ‘Great Depression’ Ahead?) (Former congressman Ron Paul predicts ‘big bust’ for US economy

いずれ起きる次の金融危機は、新たな危機でなく、リーマン危機の後半部分であるともいえる。リーマン危機と、その後のQE依存、そして今のQE終了に伴う危機再発は、一連の流れである。 (Blain: "We Are Finally Approaching The End Phase Of The 2008 Global Financial Crisis"

次の金融危機は、米国の覇権喪失と、覇権の多極化につながる。中国より米国のバブルの方がはるかに大きい。日本は対米従属できなくなる。だから安倍が訪中し、中国との和解を進めている。官僚機構による対米従属プロパガンダとして近年日本を席巻している「ハロウィーン」のパーティーなんかやって浮かれている場合ではない。



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