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金融大崩壊がおきる

2013年5月20日   田中 宇

 不動産担保債券(MBS)は、住宅やビルの土地建物を担保に発行する債券だ。個人が住宅を買う際や、企業が自社ビルを建てる際、買った土地建物を担保に銀行から融資してもらうが、銀行はその担保権を使ってMBSを発行し、住宅ローン債権を転売する。ローン債権と同時にリスクを他人に譲渡できるので、米銀行界は2000年ごろから、収入が少なく「優良以下(サブプライム)」の低い信用格付けの人々にまで住宅ローンを貸し、MBSの発行が急拡大した。だが、返せない人々に融資していることから信用不安が起こり、07年夏に急にMBSが売れなくなってサブプライム危機が起こり、08年のリーマンショックと世界不況につながった。

 あれから5年。債券は高騰し、株価は絶好調だ。ドル高もしばらく続きそうだ。すでに危機は去ったかに見える。しかし、今年4月に米議会下院の金融サービス委員会がまとめた報告書によれば、MBSをめぐる事態は好転するどころか悪化している。事態が好転したように見える理由は、米連銀がドルを大増刷し、MBSを買い支えているからだ。世界のMBSの大部分は米国で取引されているが、米国のMBS市場の取引のほぼ全量が、米連銀による量的緩和策(QE3)の一環としての債券買い支えで買われている。米議会報告書によると、民間の投資家はMBSをほとんど買っていない。 (Markets Insight: US mortgage market depends on state support

 量的緩和策(QE)は不健全なのでやめるべきとの主張が、連銀理事会でしだいに強まっている。QEによってドルは過剰発行になったし、市場原理を破壊する債券の買い支えは最終的に市場と連銀の両方を破壊する。連銀とドルと米国債の信用を守るためQEをやめるべきとする連銀理事らの主張は正しい。早ければ今夏、連銀はQEを縮小するとの予測が出ている。連銀のバーナンキ議長が来年初めに任期を延長せず辞めるとの見方も出ている。バーナンキが辞めるなら、その前後にQEを縮小するかもしれない。 (Fed member hints at summer slowing of QE3

 しかし、もし連銀がQEを縮小したら、代わりの買い手(別のやり方の市場操作策)が出てこない限りMBSが売れ残る。債券は、売れないと価値が下落し、利回りが上がる。MBSの売れ行きが急に悪化して起きたのが07年のサブプライム危機だった。連銀が自らの健全性を保つため、QEの手をゆるめたとたん、大規模な金融危機が再発し、金融システムの不健全さが劇的に露呈しかねない。連銀は、QEをやめることができない。 (Fed's exit will be gradual and difficult

 連銀が金融市場を操作して危機再発を防いでいるという見方が人々の間に広まると、連銀への信用が失われ、QEが続いていても金融危機が再発する。これを防ぐには、連銀が金融市場を操作しているという見方が人々の間で広まらないようにすれば良い。マスコミは米国でも日本でも、当局が金融市場や経済指標を操作していることを報じず、逆に景気が自然に回復しつつあるかのような歪曲報道を拡大している。マスコミの歪曲報道は、バブル崩壊を防いでいる点で「必要悪」であるともいえるが、歪曲報道を拡大せざるを得ないマスコミは、人々の信用を失って嫌われる傾向を増している。連銀もマスコミも、金融システム延命のため事態を歪曲しているうちに自らの信用が失われ、最後には延命策が効かなくなって金融危機が再発するだろう。 (Markets' dance is misleading bankers) (揺らぐ経済指標の信頼性

 前回金融危機時、危険の拡大を最も示唆していた経済紙はFTだった。FTは英字紙だが発祥が英国だ。米国のウォールストリートジャーナル(WSJ)などが完全隠蔽する事態も、FTは英国系であるせいか、実際に起きていることを行間で示唆する。政治分野でも、米国がイラクに大量破壊兵器の濡れ衣をかけて侵攻しそうなことを事前に報じたのは、テレグラフやインディペンデントといった英国の新聞だった。プロパガンダしか報じなかったNYタイムスなど米国の大手紙は、読者の信用を失った。

(米国で最近、金融通信社のブルームバーグが、米銀行のディーラーが同社の金融情報端末でどんな情報をどう見ているかログを盗み見し、自社の取材の材料に使っていたことを、米金融界が問題にしている。ブルームバーグは、米国のマスコミの中でユニークな視点で報じる傾向があった。画一的なプロパガンダ以外のものを報じるブルームバーグを、金融界が潰そうとしているのかもしれない) (Banks questions access to Bloomberg user data

 金融システム延命策としての情報操作の結果、金融市場のしだいに多くの部分が、相場が操作されて実態から乖離したインチキな存在になりつつある。前出の記事でFT紙は、米国住宅「市場」(America's housing "market")と、市場という文字をかっこに入れている。米国の住宅相場は値上がりの傾向といわれているが、それはローン返済できなくなる人が増えても、金融界はローン債権をMBSとして連銀に買い取ってもらい、担保物件を競売にかけて現金化する必要がない。物件が競売に出なければ買いたたかれず、住宅相場は下がらない。担保物件の空き家は放置されるか、解体して更地にされる。米住宅市場の回復は、操作された「回復」だ。 (Markets Insight: US mortgage market depends on state support

 同様のことは金地金市場でも起きている。金地金市場は現物でなく債券(ETF)の売りによって下げている。「これから250トン分のETFが売り放たれる」と伝えられた翌週から金相場が再び下がっている。その一方で、金相場の下落を金地金の買い時と見る人が多いインドや中国など新興諸国では、売れ行きが良すぎて、現物を買う際のプレミアムが拡大している。 (Precious Metals Hit 3-Week Lows, ETFs "Could Sell Another 250 Tonnes of Gold"

 米国の金市場ではこの、3カ月間で、売りの99%がJPモルガン1社から発注されている。JPモルガンはデリバティブや債券化ビジネスの創設者であり、自分が作った債券金融システムを守るため、債券(紙切れ)の最大のライバルである金地金を「紙爆弾」で攻撃して潰している。 (JPMorgan Accounts For 99.3% Of The COMEX Gold Sales In The Last Three Months) (通貨戦争としての金の暴落

 JPモルガンは経営トップ(Jamie Dimon)が金融スキャンダルの責任をとって辞めさせられそうで、トラブル解決役の彼の側近はすでに辞任している。JPモルガンが機能不全に陥ると、デリバティブや債券を使った金地金や原油、穀物などさまざまな市場を操作する大きな勢力がいなくなり、債券金融システムの延命策が切れて危機が再発しかねない。 (Angry JP Morgan shareholders seek to strip Jamie Dimon of chairmanship) (Dimon Loses Key Lieutenant

 サブプライム危機やリーマンショックの直前まで、民間の金融界がMBSなどの債券を旺盛に買っていた。民間の債券需要が失われて起きたのが前回の金融危機だった。それに比べて今は、すでに民間の債券需要が少ない。現時点で、前回の危機の直前よりずっと悪い状況にある。米政府や金融界の財務体力も大幅に落ちている。今後に危機が再発したら、その悪影響は、リーマンショックより格段に大きくなる。 (サブプライム危機の1カ月前に書いた「アメリカ金利上昇の悪夢」

 債券取引は当局の監督下にない「影の銀行システム」なので不透明だが、もしかするとリーマン危機後、MBSを含む債券市場の全体が、連銀やJPモルガン、ゴールドマンサックス、バンカメ、シティなど米金融界の中心勢力だけの間での、市場が健全に存在しているふりをするための取引が大半で、その他の一般投資家は何年間もほとんど市場に参加していないのが実態かもしれない。

 サブプライム危機と今の状況の類似性から考えて、金融バブルが崩壊する過程には特徴がある。投資家が、リスクを軽視して債券高騰(利回り低下)が激しくなり、当局の内部者やFTなど一部のメディアが繰り返し警告を発するようになった後、どこかの時点で、債券のリスクが実は大きいのだという見方が投資家の間で出てきて債券の売れ行き悪化が起こる。その後1−2週間で誰も債券を買わなくなって市場凍結とバブル崩壊が起きる。 (Hunt for yield brings return of risky lending practices

(統一された市場があり価格が必ず明示される株と違って、債券の多くは統一された市場がないので、売買が成立しないと価格が定まらず、暴落でなく市場の凍結・崩壊・消失が起きる)

 この流れの中で、現時点は、リスク軽視が如実になり、当局内部やFTなどが警告を発し始めた段階だ。ジャンク債の利回りが史上最低を更新していることが、リスク軽視の現状を象徴している。 (US junk debt yield hits historic low

 不動産担保債券(MBS)の9割は、ファニーメイなど米政府系の保証会社を通じて、米政府が信用保証している。金融危機が再発してMBSの価値が暴落、破綻したら、米政府が公金でその損失を埋めねばならず、何兆ドルもの公金が必要だ。民事裁判をすれば債券の所有者が勝ち、米政府が負ける。金融危機が再発し、米政府が財政破綻を免れようとするなら、法律の執行を停止できる非常事態を作らねばならない。今後、金融崩壊前に大きな戦争やテロが起こりそうだとの見方は、このあたりから来ている。 (The dollar is Poised for an Upward Explosion) (全ての不良債権を背負って倒れゆく米政府

【続く】



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