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金融大崩壊がおきる(2)

2013年6月10日   田中 宇

この記事は「金融大崩壊がおきる」の続きです

 米国の金融界で最も重要なのは債券市場で、債券市場の大きな部分を占めるのは不動産担保債券(MBS)だ。MBS市場の崩壊が、08年のリーマンショックを引き起こした。あれから5年、MBS市場の取引が復活しているように見えて、実は米連銀が量的緩和策(QE3)の一環としてMBSを買い支えている以外、民間のMBSを買っている勢力がほとんどいない。連銀がQEを縮小するとMBSが急落し、リーマンショック型の大金融危機が再発する。そのことは、すでに書いた。

 今回書くのは、もう一段根本的なことだ。MBSの多くは、住宅ローンを債券化したものだ。担保となっている住宅の価値が下がると、MBSは担保割れして下落する。米国では、担保物件を債務者が手放して債権者に譲渡すればそれで債権債務関係は終わる(日本では終わらない)ので、住宅相場が下落すると、多くのローン債務者が自宅を放棄してローン返済もやめ、担保割れした債権だけが銀行に残る。リーマンショックの源流である07年のサブプライムローン危機は、その流れで起きた。その後、米国の住宅市況は改善し、その面でのMBSの危機は去ったと言われている。しかし、これも表向きだけであることが判明した。 (Why Would You Want HIGHER House Prices?

 ニューヨークタイムスによると、米国の大手金融機関が、サブプライム危機で住宅価格が急落したまま回復していない全米各地の住宅街の住宅を、何千軒という単位で買い取って地主・家主となることで、米国の住宅相場を押し上げ、MBSが崩壊するのを防いでいる。大手機関投資家ブラックストーンは、全米の9州で合計2万6千軒の住宅を買っている。ロサンゼルスのコロニー・キャピタルは1万軒の住宅を買った。いずれも、リーマンショック後値上がりが起きていない地域の住宅群を買っている。今年4月に全米で売れた担保割れの競売物件のうち、68%は投資家が買ったものだ。 (Behind the Rise in House Prices, Wall Street Buyers

 カリフォルニア州のリバーサイド郡では、最近売れた住宅の90%が、自分で住むために家を買う個人でなく、ブラックストーンの子会社など、投資目的の機関投資家による購買だった。同郡の住宅相場は、1年間で15%値上がりした。大量の住宅を安く買い占めて住宅相場をつり上げ、上がったところで売り抜ける戦略だ。債券市場の再崩壊を何としても防ぎたい米金融界と米政府、連銀は、債券の担保となっている住宅相場の上昇を歓迎しているので、ブラックストーンなどは住宅買い占め用の資金調達をしやすい。 (The REAL Reason Housing Prices Have Skyrocketed

 しかしこの買い占め作戦は、短期で成功しないと危険だ。買い占められた住宅は賃貸に回すが、うまく借り手が見つかるとは限らない。賃貸用住宅は、家主がこまめに金をかけて手入れをしないと借り手がつきにくい。借り手がつく物件の多くは、家主が地元の人で、毎週のように物件に接し、借り手の要望を聞いて修繕などをする。ブラックストーンなど遠方の機関投資家に大量購入された物件は、手入れがおろそかになり、借り手がつきにくい。短期間で住宅相場が上がり続ければ、賃貸に回さず売り抜けられるが、思ったように相場が上がらないと物件の持ち腐れとなり、手入れせず荒れた物件を壊して損失計上せねばならなくなる。これは債券金融危機の再発につながる。

 サブプライム危機の前、米国の住宅市場はバブルが膨張していたが、当時は一般市民が金融機関から金を借りて住宅を買っていた。当時の問題は、金融機関が市民に住宅ローンを貸す際の審査が甘すぎたことで、返済不能になる人が続出してバブル崩壊につながった。そうした前回と比べ、今回のバブルは、金融機関が直接に住宅を買っている。ここ数年、平均的な米国市民の収入状況は悪化が進み、仕事があっても低賃金で生活できない人が増えている。大手スーパーのウォルマート従業員の多くが、生活保護(フードスタンプ)をもらわないと生活できない状況だ。住宅ローンを組める人が減っており、金融機関自身が住宅を買わねばならない状態だ。 ('Walmart workers rely on food stamps'

 金融機関は、金を貸すのが本業だ。ローンを組んで住宅を買う人が少ないからといって、金融機関自身が住宅を大量購入するのは危険だ。米金融界自身のリスクが高まっている。リスクを高めても住宅相場を底上げし、債券市場を守らないと、金融危機が再発してしまう。米金融界はとりあえず延命しているが、危険が強まっている。 (◆日米で金融バブル崩壊のおそれ

 6月第一週、米国ジャンク債市場から史上最大の46億ドルが流出額は、前週の9億ドルから急増している。5月22日、米連銀のバーナンキ議長が、債券を買い支えるQE3を数カ月以内に縮小するかもしれないと米議会で証言した。QE3の縮小は債券価格の下落につながるので、それを先取りするかたちで、債券の中でもリスクが高いジャンク債が忌避され始め、史上最大の資金流出となった。 (High-Yield Funds Post Record $4.8 Billion Outflow, BofA Says) (Junk Bond Funds See Record Outflows

 米連銀の周辺では、QE3の不健全性を指摘し、早く縮小した方が良いと主張する声が強まっている。連銀内で前からQE3に反対していたダラス連銀のフィッシャー総裁や、カンザスシティ連銀のジョージ総裁らは、6月に入り、QE縮小を求めるコメントをあらためて発している。フィッシャーは、債券市場の崩壊予測も発している。連銀は、雇用や景気が回復したらQE3をやめていくと決めているが、グリーンスパン元議長は「景気の完全回復を待たず、今からQE3の縮小を始めた方が良い」と表明した。 (Fed's Fisher sharpens attack on QE) (Greenspan: Taper Now, Even If Economy Isn't Ready

 QE3縮小論が強まるほど、債券や株の下落傾向が強まる。雇用統計や鉱工業生産などの指標で、米国の景気が回復基調にあることを示す数字が発表されるたびに「景気が回復したらQE3は縮小する」という見方から「QE3が縮小したら株も債券も値下がりする」という見方につながって、株や債券が下落する。本来、特に株は、景気が良くなるほど株価が上がるものなのに、今は逆で、景気が良くなる指標が出るとQE3縮小観測から株価が下がる。景気回復よりも、QE3による買い支え効果の方がはるかに大きいことが露呈している。 (Why positive US non-farm payrolls may be taken as negative

【続く】



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