米国からロシア側に流れゆく中東覇権2018年10月1日 田中 宇シリアで9月17日、領空侵犯してきたイスラエル戦闘機を、シリア軍が迎撃ミサイルで撃ち落とそうとしたところ、イスラエル機は近くにいたロシアの偵察機に急接近して影に隠れ、ロシア偵察機がシリア軍のロシア製迎撃ミサイルに当たって墜落する、という事件が起きた。露軍偵察機は低速なプロペラ機(il20)で、高速で敏捷なイスラエル戦闘機(F16)に回りこまれ、盾にされた。ロシアは、領空侵犯した挙句に露軍機を盾にしたイスラエルに抗議した。シリア軍の迎撃ミサイルは、ロシアから買ったS200だった。ロシアは今春、シリアに配備する迎撃ミサイルを、もっと高性能なS300に替えようとしたが、イスラエルが抗議してきたので見送っていた。ロシアは、イスラエルの不当行為への対応(報復)として、シリアにS300を配備した。イスラエルのレーダーを妨害する電波もシリアから発信し始めた。 (Russia says to give Syria S-300; plane incident to harm Israel ties) S300は米軍のパトリオット並みの性能を持ち、1970年代に開発されたS200より格段に高性能だ。妨害電波の発信と合わせ、ロシア軍の対抗策により、イスラエル空軍のシリアへの領空侵犯が困難になった。ネタニヤフ首相は、今後もシリアを空爆すると強気の表明を発したが、彼が現実にやったことは、撃墜事件の後すぐに空軍のトップ(Amikam Nurkin)をロシアに派遣して釈明させることだった。モスクワで、ロシア軍の関係者が、イスラエル空軍の代表団をまる一日詰問し続け、つるしあげた。イスラエルのマスコミや野党は、なぜイスラエルの空軍トップを訪露させ、ロシアごときにいじめられる状況にしたのかとネタニヤフを批判した。 (Is Israel in Putin’s sights, as its air force chief is cross-examined in Moscow?) (Russia raises stakes with Israel over downed plane) イスラエルの上層部は、米国のロシア敵視に合わせているのか、対露的にいまだに偉そうな姿勢だが、本当は、すでにイスラエルはロシアに頭が上がらない。これまでイスラエルが後ろ盾にしてきた米国は、シリアやイラン、レバノンなどイスラエルの周辺地域に対し、もう影響力を持っていない。米国は、経済制裁だ政権転覆だと言っているが、何年も続けてきた経済制裁をさらに続けても事態を変えられない(制裁の根拠の多くは濡れ衣だし)。政権転覆も非現実的だ。米傀儡勢力である、シリアを転覆しようとしたISアルカイダは露イランに退治され、イランの転覆を狙うMKOは弱い。米軍が直接に露イランと戦争することはない。米国の中東覇権喪失は決定的だ。 米国が失った中東覇権は、露イランのものになっている。イスラエルはイランと敵対関係だが、ロシアとの関係は良い。米国が退潮した今、イスラエルはロシアと良い関係を維持するしか国家存続の道がない。ロシアは忍耐強く、イスラエルをできるだけ大事に扱っている。親切をあだで返しているのは、シリアへの領空侵犯を続けるイスラエルの方だ。 ユダヤ人は歴史的に、地理上の発見(スペイン・ポルトガル帝国)、産業革命(大英帝国)、2度の大戦(米国覇権)など、覇権移動の仕掛け役だ。今回も、イスラエルがロシアを頼ることは、世界の中心がユーラシアの海側(米英欧日)から陸側(露中)に移動していく覇権構造の転換を連想させる。イスラエルの傲慢さは、プーチンにとって大した問題でない。 (覇権の起源:ユダヤ・ネットワーク) (覇権転換とパレスチナ問題) 先日、国連総会の傍らで、ネタニヤフはトランプと会談し、両者はこれまでにない友好関係を築いているかのようにふるまった。ネタニヤフは会談後「トランプがすべての要求を了承してくれた」と述べた。だが実のところ、ネタニヤフはトランプに何も要求していなかった。会談では、ロシアとイスラエルの関係について全く話さなかった。イスラエルにとって、米国との関係は喧伝されるものの、表面上だけになっている。真に重要なことは、あまり報じられないロシアとの関係性で決まる。 (Trump and Netanyahu skipped the Israeli-Russian crisis until after an early PM-Putin encounter) 今夏にシリア内戦がおおむね終わって戦後の再建期に入った後、イスラエルは、シリアに恒久駐留しようとするイラン系民兵団を追い出そうと空爆作戦を強めた。国際法上の侵略行為だったが、ロシアはしばらく黙認していた。だがその後、米国の退潮が本格化するにつれ、ロシアはイスラエルのシリアに対する侵略行為を許さない傾向を強めている。今回のS300の配備は、イスラエルのシリア侵略の終止符になるだろう。イスラエルが侵略をやめないなら、ロシアはさらに高性能なS400をシリアに配備するかもしれない。 ロシアは、イランにもS300を売った。トルコやインドにはS400を売った。サウジもS400を買いたがっている。ロシアの迎撃ミサイルはコスパが良いし、米国のように人権問題などと絡めて売る際の難題をつけてこないので、しだいに多くの国が、米国製を避け、ロシアの迎撃ミサイルを買っている。対照的に、米軍は最近、ヨルダン、クウェート、バーレーンの米軍基地に配備してあったパトリオットミサイルを、次々と撤去している。撤去の理由は、中国やロシアの脅威が高まっているので、中露の脅威に対抗できる場所に移動することにした、というものだ。これは失笑ものだ。米国がパトリオットを撤去した穴を埋めるのは、長期的に、ロシアのS300や400だ。中露の脅威に対抗するなら、まずパトリオットを撤去しないことだ。 (U.S. Pulling Some Missile-Defense Systems Out of Mideast) (S-300s in, Patriots out: US to withdraw missiles from 3 Middle East countries) ロシアは、イスラエルに国際法を守らせるタガをはめつつある一方、イスラエルとイランを和解させようとする仲介もやっている。今月、プーチンの側近(Nikolai Patrushev)がイスラエルとイランを相次いで訪問し「イスラエルがシリアへの空爆をやめる見返りに、イランがシリアとレバノン(ヒズボラ)への兵器搬入をやめる交換条件で、イスラエルとイランが停戦・和解(非公式な冷たい和平)したらどうか」と両国に提案した。ネタニヤフはこの線で了承しそうだとデブカファイルが書いている(デブカは、視点のダイナミズムが面白いが、事実性は半信半疑)。 (Putin’s adviser in Tehran with a deal: Israel to stop Syrian air strikes, Iran to halt arms shipments) (Russian, Israeli top security officials discuss situation in Middle East, Syria) ロシアはこれまで何度かイスラエルとイランを停戦・和解させようとしてきたが、今のところ(少なくとも表向きは)うまくいっていない。米国が退潮しているので、時間が経つほど、イスラエルが劣勢、イランが優勢になっていく。すでに地上軍的な安保面では、イスラエルと国境を接するシリアとレバノンの両方が、イランの傘下にある。イスラエルは、早くイランと和解した方が良い。だが米イスラエルの安保諜報界では、イランを徹底的に敵視し続けようとするタカ派(親イスラエルのふりをした反イスラエル派)が強く、イスラエルはイランと和解できないでいる。 イスラエル国内でもタカ派・入植者勢力が強く、彼らは自国を安定する方向に持っていきたがらない。この何年間か、ネタニヤフが米国から距離を起き、ロシアに接近するほど、ネタニヤフ夫妻をめぐる「森友」風のスキャンダルがいくつも出てきている。タカ派がスキャンダルを掘り起こし、ネタニヤフにぶつけている。最近も、諜報機関モサドの5人の元長官が連名でネタニヤフの腐敗を糾弾する声明を出している。表向きは腐敗糾弾だが、真意はたぶん違う。 (Ex-Mossad chief: Israel ‘dangerously sick’ under Netanyahu’s leadership) (イランも、穏健派のロウハニ大統領は、米イスラエルとの対話に前向きのようで、トランプか対話しようと何度も誘われている。だが、大統領より上位の最高指導者であるハメネイは強硬派で、ロウハニにトランプと対話するなと命じている) (Iran hard-liners warn Rouhani, Zarif to avoid Trump in New York) (トランプはイランとも首脳会談するかも) ▼イスラエルをロシアに押しつける流れは完成段階へ トランプの安保担当補佐官であるボルトンは最近、シリアに駐留する米軍を撤退させるのでなく、イランに侵攻させる案を振り回している。あまりに非現実的なこの案は、イラン敵視派だったマティス国防長官ですら反対し、マティスと衝突したボルトンは、マティスを辞めさせた方が良いとトランプに進言している。ネオコン系のボルトンは、トランプ同様、親イスラエルのふりをした反イスラエル・反軍産の一人だ。今後、イスラエルがうまいこと米国の好戦派から足抜けできるか不明だ。だが、足抜けできたとして、ロシアの仲裁でイスラエルがイランと非公式にでも停戦和解すると、中東はかなり安定する。イスラエルとイランの両方にとって、その方が良い。 (Bolton Puts Mattis in a Tight Spot on Syria) 鋭い分析で知られるハアレツ紙のギデオン・レヴィ(Gideon Levy)は「ロシアは、ここ数年(好戦策しかやれず)統制不能になっていたイスラエルを、うまい具合に抑制させてくれている。好き放題に無法をやってきたイスラエルに他国がタガをはめてくれたのは数十年ぶりだ。近年は米国もイスラエルを統制してくれない。母なるロシアが、イスラエルという荒れた子供を抑えてくれた。ありがとう」と書いている。思わず会心の笑みだ。 (Thank You Mother Russia, for Putting Israel in its Place - Gideon Levy) ロシア敵視なマスコミを軽信する人ほど、ロシアは好戦的だと思い込む傾向がある。現実は、ロシアより米国の方がはるかに好戦的だ。ロシアはカネがないので安上がりな覇権運営を望んでいる。安上がりなのは、戦争など力づくの支配でなく、交渉や和解による安定的な地域運営だ。だからロシアは安定や和平を好む。和平を仲裁し、成功後、その地域のエネルギー開発や、防衛体制の構築を請け負って儲けるのがロシアのやり方だ。 ロシアの金づるは中国だが、中国の国有企業(上海国際港務)は、イスラエル最大の港であるハイファの港湾運営を受注し、まもなく実務を開始する。中国からインド洋、スエズ運河を通って地中海までの航路の周辺は、中国の「一帯一路」の対象地だ。イスラエルの軍産系の安保関係者は、イスラエルで中国のスパイ活動がひどくなると反対している。その懸念は本当だが、米国の退潮下、中露の席巻を止めるのは困難だ。 (China To Take Over Israel's Largest Port, Could Threaten US Naval Operations) イスラエルがロシアに接近し始めたのは最近でない。2014年に米オバマ大統領が、米軍をシリアに派兵して泥沼にはまるのが嫌で、シリア内戦の解決をロシアに丸投げした後、イスラエルのロシア系のリーベルマン外相(現国防相)が頻繁にロシアを訪問し始めた。オバマは、米政界を支配するイスラエルが嫌いだった(米国は黒人とユダヤ人が相互嫌悪の傾向)。オバマは最初から、シリアの世話をロシアに丸投げすることで、イスラエルの世話もロシアに丸投げする意図だったのかもしれない。 (イスラエルがロシアに頼る?) オバマは、軍産イスラエルの影響力を排除して米国の覇権を立て直したかったが、対照的に次の大統領となったトランプは、軍産イスラエルとともに米国の覇権を潰してしまいたい。2人は、目標が正反対だが、イスラエルをロシアに押しつけて米国が中東の世話(=泥沼の戦争)をする体制を解消する部分は共通だ。中東の覇権国を米国からロシアやイランに変え、イスラエルがロシアに頼らざるを得ないようにする策は、トランプ政権下の今年、完成の域に入った。 米国の覇権が低下するとともに、イスラエルが米政界を牛耳ってきたがゆえに、イスラエルへの批判をこれまで控えてきた世界各国が、しだいにイスラエルの数々の無法行為、とくにパレスチナ人への虐待や土地没収、経済封鎖などを、正面から批判するようになっている。たとえば英国では9月30日から、野党の労働党が、イスラエル制裁(武器輸出禁止)とパレスチナ国家承認の案を盛り込んだ党大会を行なっている。英国では、保守党のメイ政権がEU離脱交渉の失敗で政権崩壊しかかっている。保守党内の反乱・分裂がもつれて総選挙になると、労働党が勝ち、いわゆる「極左」のコービン政権が誕生する可能性が高い。 (Defying Israel lobby, Labour votes for arms freeze) (May's government on verge of collapse: Labour Party's deputy leader) (Is The 'Brexit Breakdown' All Theater?) コービンが首相になると、EU離脱を帳消しにする国民投票のやり直し、トランプの米国に対する批判の強化(米民主党左派との結束)、イスラエル制裁とパレスチナ支持などを打ち出しそうだ。すでにイスラエル批判・パレスチナ支持が強い北欧やスペイン、イタリアと組み、英国がEUで、イスラエル製品のボイコットなどを強めることになる。イスラエルが8月末からコービンを針小棒大な「ユダヤ差別」で糾弾していることが、コービンが政権をとる可能性が高まっていると感じさせる。とはいえ、メイは難局を乗り切る技能があり、なかなかしぶとい。まず、メイ首相が辞任に追い込まれるのか、それが英保守党内の動きで終わらず総選挙になるかどうかが注目だ。 (UK's Labour party ponders supporting new Brexit referendum) (Is Israel's hidden hand behind the attacks on Jeremy Corbyn?) ▼トランプがイランを敵視するほど米国の中東覇権が崩れていく トランプによる中東の覇権放棄策が進むにつれ、トランプがこれまで展開してきた過激なイラン敵視策や、サウジアラビアをけしかけてイランと敵対させる策が、崩壊し始めている。おそらくトランプは、最初から米国の中東覇権を最終的に崩壊に至らせるつもりで戦略を組んでいる。最も目立つのは、イラン制裁体制の崩壊だ。トランプは国連総会に出席し、安保理会議を主宰して理事国にイラン制裁を提案したが、米国以外のすべての理事国が不支持を表明した。 (China, Russia take up globalism mantle as US sheds it at UN) (Zarif: US 'obsession' with Iran is backfiring everywhere) イランが核兵器開発していないのにイランを追加制裁しようとするトランプの策は間違っていると考えるのが国際社会の主流になりつつある。トランプは国際社会を「非米化」している。EUと中国とロシアは、イランとドル決済で貿易した国や企業を制裁する策のトランプに対抗し、ユーロや人民元でイランと貿易決済する特別な組織(SPV)を新設した。この新システムは、ドルの基軸通貨としての機能を衰退させる。これはトランプの意図的な策略だ(トランプは多数の覇権放棄策をやっている。それらがすべて意図せぬ錯誤であるとは考えにくい)。 (EU, UK, Russia, & China Join Together To Dodge US Sanctions On Iran) トランプ政権は、イランと同様に産油国のベネズエラに対する制裁も強めている。イランやベネズエラとの石油取引をあきらめた各国が、他の産油国の石油を高値で買うようになり、原油価格が1バレル100ドルに向かって高騰している。原油高騰は、世界経済を悪化させる。中国など世界各国に対するトランプの懲罰関税と相まって、トランプは世界経済に打撃を与えている。来年は世界不況になるという見通しが噴出している。米国(や日本)の株価は、実体経済と無関係なQEなどのバブル資金で吊り上げられているため、実体経済が世界不況になっても米国株がしばらく上昇し続け、その後で巨大なバブル崩壊になる。貿易決済の非ドル化も、いずれ起きる米金融のバブル崩壊も、米国覇権の喪失につながる。 (White House Has A Step-By-Step "Program Of Escalation" For Venezuela) (Brent Crude Creeps Above $80 a Barrel) これまでのトランプの中東戦略で最も目立つことの一つは、サウジアラビアに対する扇動だった。トランプは、若気の至りで独裁するモハメド皇太子(MbS)をけしかけ、イエメン戦争、イラン敵視(カタール制裁、レバノン首相監禁)、イスラエルとの接近などをやらせた。最近、これらの多くが行き詰まり、戦略の失敗や転換に向かっている。 (カタールを制裁する馬鹿なサウジ) 米議会では、サウジが続けているイエメン戦争に米国が軍事支援し続けることをやめさせる決議が、しだいに可決されそうな流れになっている。そもそもイエメン戦争は、イラン系のフーシ派が、サウジ傘下の政権を倒して政権交代が行われそうな時に、米国が突然イエメンから総撤退し、サウジをイエメン侵攻せざるを得ない状態に追いこんだところから始まっている。米国は、サウジをイエメン侵攻に追い込んだ後、サウジに軍事支援して戦争を続行させてきた。米国がサウジのイエメン戦争への軍事支援をやめると、サウジは戦争をやめてフーシ派と和解せざるを得なくなる。その後のイエメンの安定を考えるとサウジは、フーシ派の背後にいるイランとも和解が必要になる。 (House Resolution Directs Trump to End U.S. Support for Yemen War) (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ) MbS皇太子は最近、カタールとの対立の解消を模索するため、仲介役のクウェートを訪問している。カタールの後ろにはイランがいる。サウジとカタールの和解も、サウジとイランの和解につながる。 (Saudi Crown Prince to visit Kuwait for mediation on Qatar spat) トランプは17年夏、サウジのMbSに、イスラエルと組んでイラン敵視の同盟体を作れ、そのためにパレスチナ問題をイスラエルの言いなり(2国式を諦め、エルサレム放棄、ユダヤ入植地容認、難民見捨て)で解決しろとけしかけ、MbSは一時それに乗って動いていた。だがサウジが、同じイスラム教徒のイランを敵視するために、パレスチナ人を捨ててイスラエルと組むことには、アラブとイスラム世界の多くが反対した。 (サウジアラビアの自滅) 米国の中東覇権が低下し、イスラエルがロシアに頼る(潜在的にイラン敵視をやめていく)ようになると、サウジとイスラエルが組む話も雲散霧消した。MbSは、父親のサルマン国王に諭され、サウジはパレスチナ問題の姿勢を、以前の2国式支持、エルサレム分割、入植地拒否、イスラエル批判、難民支援に戻した。サウジは、トランプから距離をおいた。サウジを使ったトランプの中東戦略は失敗している。 (トランプから離れたサウジ) 米国の失敗と対照的に、ロシアは中東に期待どおりの安定をもたらしている。シリアでは地方選挙が行われ、アサドのバース党が与党を維持した。イドリブでのシリア軍とアルカイダの「最後の戦い」は、ロシアとトルコの協議の末に延期されている。白ヘルメットがイドリブでやりそうだった「やらせ化学兵器攻撃」も、まだ大騒ぎになっていない(このまま不発で終わるかもしれない)。シリアとヨルダンが和解して国境を開けたとも報じられている(ヨルダン政府は、金づるのサウジがまだシリア敵視であるためか、報道を否定した)。 (Is Jordan ready to normalize ties with Syria?) (Alleged Video of Idlib Chemical Attack Fabrication Circulated by Syrian Media) (シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃) ロシアは、イスラエルと中東諸国の敵対を解こうと、試行錯誤で仲裁策を続けている。すべてが直線的にうまくいくわけではない。ガザのハマスとイスラエルとの和解交渉も、ロシアが仲裁に絡んでいると考えられるが、西岸のファタハの反対で頓挫している。 (Israel-Hamas Ceasefire Talks Halt Amid PA Threats) (ロシアの中東覇権を好むイスラエル) 中東和平は、いろいろなことが、あと一歩というところで、何年も、何十年も立ち往生している。イスラエルと軍産は、2国式の中東和平が何十年も成就しない状態にすることで、米国が延々と中東で戦争し、イスラエルが米国から支援され続ける事態を作ってきた。立ち往生は意図的な策略の結果だ。米国が2国式を仲裁してもうまく行かない。しかし米国覇権の低下後、ロシアやEUなどが中東和平を仲裁すると、別の結果になりうる。その新状態にいたるまでの試行錯誤が現段階だとも考えられる。UNRWAなど米国が離脱したパレスチナ支援機関も、EUや中国が主導役になって継続する。 (Trump's Middle East policy takes a kicking at UN assembly) トランプは国連でネタニヤフとの会談後の記者会見で、2国式の中東和平を支持すると言い出した。エルサレムに米大使館を移し、ワシントンDCのパレスチナ代表部を追放したのに、今さら何なんだという感じだが、エルサレムの米大使館は2国式の体制下でもそのまま「西エルサレムの駐イスラエル米大使館」になれる。自ら国際信用を落としているトランプが、これから中東和平の主導役をやるとは思えない。ロシアやEUが仲裁に乗り出す予兆かもしれないが、単なるトランプの目くらましかもしれない。この件はどう動くか注目だ。 (Whatever his intentions, Trump’s endorsement of two-state solution changes reality)
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